【SS】千砂都「可愛くて可哀いい可可ちゃん」【ラブライブ!スーパースター!!】

ラブライブ

【SS】千砂都「可愛くて可哀いい可可ちゃん」【ラブライブ!スーパースター!!】

37:(八つ橋) 2023/05/02(火) 22:09:46.33 ID:rU6EmHKg

>>2 注意
キャラからキャラへの残虐な描写があります。
キャラ崩壊やセリフの言い回しに一部本編とは違う点があります。

苦手な方はここでブラウザバックをお願いします。

 

3:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:51:25.47 ID:rU6EmHKg

最近、よく思う。

可可「千砂都っ、これも食べていいデスかっ?」

千砂都「うんっ、いっぱい食べて!」

可可「やったデス〜っ!」パアァッ

千砂都「……………………」

千砂都「(可可ちゃん、可愛いな)」

 

4:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:51:50.78 ID:rU6EmHKg

可可「千砂都と二人で遊べるなんて嬉しいデス!こーんなに沢山のお菓子に囲まれて幸せデス!」

千砂都「ふふ、喜んで貰えて私も嬉しいよ」

可可「あっ!」ドンッ

 可可が菓子を沢山並べていた机にぶつかると、その上に置いてあったマグカップがひとつ落ちた。
 それと同時に千砂都のお気に入りのマグカップ。音を立てて床に砕け散り、破片が可可と千砂都の足元に積もる。

可可「……ぁ……」

 

5:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:52:09.84 ID:rU6EmHKg

可可「ご、……ごめんなさい……可可、千砂都のお気に入りのマグカップ……割ってしまいマシた……」

可可「ごめんなさい、ごめんなさい……っ」

 魔が差した、とでもいうのだろうか。
 涙目で破片を拾い集める可可を、ただ見つめていると、

千砂都「(──あ。)」

千砂都「(泣いてる可可ちゃん、とっても可愛い)」

 そう思った。

 

6:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:52:52.31 ID:rU6EmHKg

---

可可「…………」

千砂都「元気出して?私は気にしてないよ。可可ちゃん、新しいマグカップくれたし!」

可可「…………でも……」

 あの日から可可は落ち込んだままで、授業中も練習中も、ずっと気に病んでいるようだった。
 可可が千砂都にお詫びとして新しいマグカップを買ったが、可可はそれでも気にしているようだった。

 

7:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:53:15.59 ID:rU6EmHKg

可可「……可可の所為で、千砂都のマグカップ……」

千砂都「大丈夫っ、本当に気にしてないし怒ってもないよ。ねっ?」

可可「……はい……」

 漸く千砂都の言葉に納得したのか、弱々しく微笑む可可。そんな可可に笑顔を浮かべる千砂都だったが、

千砂都「(……はぁ、可愛いなぁ可可ちゃん)」

千砂都「(もっと落ち込んで欲しい。もっと泣いて欲しい。もっと、もっと見たい)」

千砂都「(──あ、そうだ)」

 嫌な考えが頭の中を過った。

 

8:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:53:43.21 ID:rU6EmHKg

---

 その日の帰り道、可可が人通りの少ない道を通るまで千砂都は可可の後をつけていた。
 千砂都だと気付かないように深く帽子を被り、制服が見えないようパーカーを羽織って、そのポケットの中で護身用のスタンガンを握り締め──、

千砂都「………………」

可可「…………」

千砂都「…………っ!」

 可可の首元へ当てがうと、そのまま電気を流す。小さく呻き声を上げると可可はその場に倒れ込んだ。念の為、息があることを確認しつつ、千砂都は可可の肩を担いで、とある部屋へと連れ込んだ。

 

9:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:54:01.82 ID:rU6EmHKg

--

可可「ん、んん……」

 可可が目覚めたのは気絶してから数時間後。目を開けているはずなのに、視界は真っ暗だった。

可可「んっ!?んん、ん〜っ!」

 何故か声が出ない。音も聞こえない。身動きが、出来ない。今の状況を把握すると可可は助けを求めるように、身を揺らす。

 

10:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:54:27.37 ID:rU6EmHKg

千砂都「あっ、可可ちゃん。起きたんだぁ」

千砂都「起きたら声が出なくて、音も聞こえなくて、身動きも出来なかったらビックリしちゃうよね」

千砂都「でも大丈夫だよ、病気とかじゃなくて、私がやっただけだから」

 千砂都が大好きなマルを眺めるような恍惚とした表情を浮かべると、その視線を、四肢をベッドに固定され、太い枝を噛ませ布で固定し、ヘッドフォンで耳を塞ぎ、布で目元を覆われた可可へと向けた。

 

13:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:55:15.36 ID:rU6EmHKg

千砂都「うん、可愛い。今日の為に色々用意して良かった」

千砂都「……さぁて、何からしようかな」

千砂都「……まあ……最初は軽く、軽くね……」

可可「んっ!?んん!んんんっ!!」

 そう呟くと千砂都は可可の右腕、それも前腕部の下に大きめの石を置いた。拘束されている腕は石の影響でピンと張る形になった。

 

14:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:55:38.71 ID:rU6EmHKg

千砂都「……うん。これなら綺麗に出来そう」

可可「ひっ……」

 可可の頬を優しく撫でると、それに反して可可は表情を強ばらせる。そんな可可の表情も、千砂都にとってはただの興奮材料でしかなかった。

千砂都「出来るだけ、綺麗に折れるようにするから」

 

16:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:56:14.84 ID:rU6EmHKg

千砂都「せーっの!」

 千砂都が可可の腕に思い切り体重を掛けると、ゴキャッと可可の腕の内側から鈍い音が響いた。正真正銘、骨が折れる音だった。
 視界も周りの音でさえも遮られてしまっている可可は突然の鋭い痛みに耐えられず、全身で抵抗する様に暴れ始める。

可可「んんんんんんんぅっ!!!?!」

千砂都「……あは……可愛い、かわいいよ可可ちゃん……」

 

17:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:56:40.23 ID:rU6EmHKg

可可「ぅあああぁっ!ぅん…ぅ、ぐ……はぁっ……!」

千砂都「はぁ……こんなに呻いちゃって……可愛いなぁ、可可ちゃん……」

可可「は、ひゅ……ぅあ……っ、」

千砂都「…………お顔、見たいけど、目隠し取ったら私がやったことバレちゃうしな……」

千砂都「…………まあ、今日はもう、いっか」

 

18:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:57:03.17 ID:rU6EmHKg

 千砂都は身に付けていた手袋を取り、パーカーも脱いで自身の鞄へと押し込んだ。

 そして、何事も無かったかのように、可可の目隠しや、ヘッドフォン、咥えさせられていた枝、それから四肢を固定していた器具を取ると、千砂都は思い切り可可を抱き締めた。

 強く、大事に。骨が、折れそうになるくらい。そんな千砂都を、可可は助けに来てくれた救世主にしか見えなかった。

可可「ち、さと……っ……」

 

19:(八つ橋) 2023/05/02(火) 20:57:19.01 ID:rU6EmHKg

千砂都「可可ちゃんの叫び声、聞こえたから急いで来たんだ。……大丈夫、私が居るよ」

可可「っ……千砂都、千砂都……」

 可可は震えた手で千砂都を抱き返す。自分を助けに来てくれた救世主に、縋るように。

 ──口角に弧を描く千砂都には気が付かないまま。

 

20:(八つ橋) 2023/05/02(火) 21:18:13.77 ID:rU6EmHKg

---
--

可可「しばらくご迷惑をお掛けしマス……」

すみれ「あんた、それ……」

 翌日、右腕にギブスが巻かれたあまりにも痛々しい見た目の可可を見て、すみれは言葉が出なかった。

かのん「腕……それどうしたの?転んじゃったとか……?」

可可「…………いえ、実は──、」

 可可の口から告げられたのは、何者かに襲われた、ということだった。腕が折れるほどの怪我をした可可が、冷静にその出来事を説明出来るはずも無く、時折声を震わせ、身体を震わせ、涙が溢れた。

 

21:(八つ橋) 2023/05/02(火) 21:18:34.14 ID:rU6EmHKg

恋「そんな、ことが……」

可可「…………すみません……」

かのん「可可ちゃんが謝ることじゃないよ、悪いのは可可ちゃんを襲った人なんだ!……ねぇ、警察には相談した?」

可可「はい、一応。可可が病院に行っている間に千砂都が警察の方へ相談してくれたみたいデス」

 

22:(八つ橋) 2023/05/02(火) 21:18:56.97 ID:rU6EmHKg

千砂都「……うんっ、私が通りかかった時には可可ちゃん、ボロボロになってて……直ぐ病院に行かせて、私は一人で警察に行ったよ」

すみれ「……ふぅん……」

 両手で頬杖を付きながら淡々と話す千砂都に、すみれは不審感を抱いた。仲間を疑いたくは、なかったはずなのに。何故か千砂都の言動が引っ掛かった。

 

45:(八つ橋) 2023/05/02(火) 22:45:41.98 ID:rU6EmHKg

すみれ「可可」

可可「はい?」

すみれ「その腕、誰かに襲われたって言ってたわよね。今日は一人で居ない方が良いんじゃないの?」

すみれ「うち、泊まっていきなさいよ」

可可「……すみれ……」

 

46:(八つ橋) 2023/05/02(火) 22:45:55.56 ID:rU6EmHKg

可可「く、クゥクゥは……大丈夫、デスので……」

すみれ「……だめ。泊まりに来て」

可可「…………分かりマシた」

千砂都「………………」

 

47:(八つ橋) 2023/05/02(火) 22:46:15.55 ID:rU6EmHKg

 弱々しくもすみれに手を引かれて家に戻る可可を、千砂都は後ろからじっと見ていた。

千砂都「(……可可ちゃんの可愛いお顔、見るのは私だけで十分なのに……)」

かのん「ちぃちゃんっ、どうかした?」

千砂都「あ、ううん。可可ちゃん、心配だな〜って」

恋「そうですね……ですが今日はすみれさんが居るので、一安心ではないでしょうか」

千砂都「…………そうだね」

 

48:(八つ橋) 2023/05/02(火) 22:46:34.67 ID:rU6EmHKg

 不満げに呟く千砂都を、かのんと恋は特に気にしないまま帰路へと足を運ぶ。

千砂都「………………」

 一瞬、千砂都からの視線を感じたすみれだったが、強く、可可を手を握ると、そのまま真っ直ぐ胸を張りながら自身の家へと歩き始めた。

 

51:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:04:45.58 ID:rU6EmHKg

---
--

???「かーごめ かーごーめ」

???「かーごのなーかのとーりーは」

???「いーつ いーつ でーやーる」

???「よあけのばんに つーるとかーめがすーべった」

 声が聞こえる。聞き馴染みのある声。普段なら優しくて柔らかい声なはずなのに、今はどうしてか、恐怖で冷や汗を掻き、震えが止まらなくなる。

 

52:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:05:17.27 ID:rU6EmHKg

???「…………すみれちゃん」

千砂都「うしろの正面だぁれだ?」

 声の主をハッキリと瞳が捉えると同時に、血の、匂いがする。血液の匂いに混じり合うように、馴染みのある香りがした。砂糖菓子のように甘くて、ぬいぐるみのように柔らかい、そんな香り。

すみれ「……い、嫌……嫌……ま、さか……っ」

 

53:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:05:45.70 ID:rU6EmHKg

 震えた声で呟く。絶対に後ろを振り向いてはいけない。本能的にそう身体に訴え掛けているのに、千砂都はすみれの顔を両手で包み込むようにすれば、強制的に後ろを振り向かせた。

すみれ「ぁ……ああぁ……」

 何かと、目が合った。認めなくない。認めては、いけない。そう思っているのに、”それ”がこちらを向くから。現実を受け入れるしかなかった。

千砂都「すみれちゃん、これ、だぁれだ?」

 全身が真っ赤に染まり虚ろな目をした──可可であった。

 

55:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:16:54.05 ID:rU6EmHKg

すみれ「〜っ!!くぅくぅ!!」

可可「……んぁ……すみれ……どうしたんデスか……?」

すみれ「え、ぁ……ゆ、夢……」

 気が付くと、自室のベッドで可可とふたり。目の前の可可は気持ち良く寝ていたところを起こされて、少しだけ機嫌が悪そうだった。
 一方、すみれは嫌になるほど脂汗を掻いていて、顔色も悪かった。動悸も、息遣いも荒い。

 

56:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:17:12.50 ID:rU6EmHKg

可可「だ、大丈夫デスか…?顔色、悪いデスよ……怖い夢見たんデスか?」

すみれ「…………さい、あく……」

 先程の出来事が夢だと理解すると、安堵で力が抜け、ベッドに倒れ込む。友人を犯人だと疑うなんて、最低だ。そして、誰よりも大切な人の死を生々しい夢で見てしまったことが、何よりも最悪だった。

可可「……手、握りマスか……?」

すみれ「…………うん……」

 

57:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:17:32.27 ID:rU6EmHKg

 握った可可の手は、暖かかった。瞳にも光が点っていて、身体も真っ赤に染まっていることは無い。ただ、いつも通りの可可がそこには居た。

可可「……どんな夢を、見たんデスか?」

すみれ「…………あんたが、死んじゃう夢……」

可可「何デスかそれ……勝手に可可を〇さないでくだサイ……」

すみれ「ごめん……」

 

58:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:17:47.99 ID:rU6EmHKg

 すみれの手が異常なほど震えていることに気が付いた可可は、子供をあやす様に言葉を続ける。ただ優しく、優しく。右手ですみれの頭を撫でてあげられたらいいな、と思ってみたが、ギブスが巻かれていて思うように動かせないのが悔しかった。

可可「可可は、ここに居マスから」

すみれ「……うん」

 お互い、眠気で意識が遠のいていく。すみれの寝息が聞こえた頃に、可可は何かを思い出したが、考える余裕も無くそのまま眠りに落ちた。

 

61:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:58:18.28 ID:rU6EmHKg

---
--

可可「………………」

千砂都「ワン、ツー、スリー、フォー!」

 ぼんやりと、空と練習に熱中しているメンバーを交互に見る。右手を骨折してしまった可可は、練習に参加することはおろか、衣装デザインまでが思うようにノートに書き出せずにいた。
 心配してくれたかのんや恋が、先に帰ってていいよ、と言ってくれたが、すみれが一人で帰らせるのは危険だということで練習を見学することになった。あの日から、可可はすみれの家でお世話になっている。

 

62:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:58:41.97 ID:rU6EmHKg

可可「……すみれが居るからか……襲ってきまセンね、犯人は……」

 再び拉致され襲われる可能性が高い、そう思っていた可可だったが、犯人が再び襲って来ないことで、可可一人ではないと襲って来ない、いや、襲って来れないのだと理解した。

千砂都「ねぇ、可可ちゃんっ」

可可「ぁ、千砂都っ、どうしマシたか?」

すみれ「っ…………」

可可「?……あ、すみれ……?」

すみれ「……私、ちょっと飲み物買ってくる」

 

63:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:59:03.52 ID:rU6EmHKg

 何故かあの日から、すみれと千砂都の距離は遠ざかった気がした。可可には、すみれが一方的に避けているように見えた。

可可「(あの夢見てから、すみれの様子がおかしいデス……)」

千砂都「そういえば、可可ちゃんってまだすみれちゃん家に?」

可可「あ、はい。すみれが一人で居たら危険だからって泊めてくれているんデス」

千砂都「そっかぁ……」

 

64:(八つ橋) 2023/05/02(火) 23:59:18.38 ID:rU6EmHKg

千砂都「……ねぇ、すみれちゃん。最近おかしいよね。何かあったのか知ってる?」

可可「すみれデスか?……そうデスね……可可も最近気になっていマシた。千砂都のことを避けているような……」

千砂都「そうだよねぇ……」

 一瞬、千砂都が笑ったような気がしたが、瞬きをした時には、しょんぼりと捨てられた子犬のような表情をしていた。千砂都の表情から感情を読み取るのは、難しい。

 

65:(八つ橋) 2023/05/03(水) 00:45:06.90 ID:rn4DJLqG

千砂都「……すみれちゃん、怪しいよね」

可可「……えっ?」

 突然声音が変わったことに、可可は動揺を隠せなかった。思わず可可は千砂都の顔を見上げる。にっこりと笑顔を見せるその瞳には、ハッキリと怒りが揺らいでいた。

 

66:(八つ橋) 2023/05/03(水) 00:45:26.87 ID:rn4DJLqG

千砂都「だって、最近可可ちゃんにベッタリだし、誰かを寄せ付けないように人から避けて、人を警戒して……」

千砂都「これってさぁ、その場の勢いで可可ちゃんを拉致して傷付けて、自分が犯人だってバレないように人を避けて……可可ちゃんには罪悪感で優しくしてるだけ、そう見えない?」

可可「ぁ、え……」

千砂都「……っふふ、冗談だよ。理由も無く避けられちゃってるから、意地悪したくなっちゃって」

 千砂都は怯える可可の頭を酷く優しく撫でる。可可は、そんな千砂都が怖くて仕方無かった。

 

67:(八つ橋) 2023/05/03(水) 13:28:41.86 ID:rn4DJLqG

---

すみれ「可可、帰るわよ」

可可「はいデスっ」

かのん「可可ちゃんもあれから何も無いし、安心だね」

恋「はい、すみれさんが見守ってくれているお陰で可可さんにも何ともなさそうで良かったです」

かのん「それにしてもちぃちゃん……バイトあったからって先帰っちゃったけど、大丈夫かな?」

かのん「襲われるのが可可ちゃんだけとは限らないよね」

恋「……そうですね……心配です……」

 

68:(八つ橋) 2023/05/03(水) 14:25:38.09 ID:rn4DJLqG

 すみれと可可は離れない為にも手を繋いで帰路を歩いていた。

可可「……すみれは、どうして千砂都を避けるのデスか」

すみれ「……別に、避けてないわよ」

 無論、この言葉は嘘であった。あの夢を見てから、千砂都が可可を襲った犯人ではないのかと疑ってしまう。距離を、置いてしまう。

 

69:(八つ橋) 2023/05/03(水) 14:25:59.53 ID:rn4DJLqG

可可「嘘デス。千砂都が心配して──」

 先程の千砂都の様子を思い出し、顔が引き攣る。唇が震えて、すみれと繋いでいた手まで震えてきてしまった。

可可「…………ぁ、」

すみれ「……どうしたの?」

可可「い、いえ。何でも……」

すみれ「……ふぅん……」

 すみれは指先で異常なほど震える可可の手を撫でた。何を聞かないまま。何も、聞いてはいけないような気がしたから。

 

70:(八つ橋) 2023/05/03(水) 14:26:23.88 ID:rn4DJLqG

 その時、可可の横を小柄な誰かが横切った。

可可「──え?」

 何かが、可可の腹部に突き刺さり、抜かれた。

可可「っは……ぁ、え……な、なんで……」

 腹部から鋭い痛みが走る。それと同時に、大量に熱い何かが流れ落ちた。意識が遠ざかる。寒気が身体中を走って、可可は嫌になるほど死を身近に感じて、ぐらりと視界が揺らいだ。

すみれ「く、可可!?ちょっと大丈夫!?」

 繋いでいた手が、離れていく。道端で浅く呼吸を繰り返しながら倒れ込む可可に、すみれは慌てて駆け寄る。

 

71:(八つ橋) 2023/05/03(水) 14:26:38.05 ID:rn4DJLqG

すみれ「え……なに、これ……」

 倒れ込んだ可可の周りには真っ赤に染まった池が出来ていた。可可を抱き抱えた手が、真っ赤に染まる。何もかもが、真っ赤に。

可可「は、ひゅ……っ、は……」

すみれ「く、くぅくぅ……可可!」

 この日のすみれの記憶は、そこで途切れた。

 

73:(八つ橋) 2023/05/03(水) 16:37:39.12 ID:rn4DJLqG

---
--

千砂都「かーごめ かーごーめ」

千砂都「かーごのなーかのとーりーは」

千砂都「いーつ いーつ でーやーる」

千砂都「よあけのばんに つーるとかーめがすーべった」

 同じ夢を見た。
 今度は、最初から声の主がハッキリと視界に入る。お前が守れなかったから、可可はまた傷つけられたんだと、責め立てるように千砂都がすみれを睨み付ける。

 

74:(八つ橋) 2023/05/03(水) 16:37:55.26 ID:rn4DJLqG

千砂都「残念だったね。すみれちゃん」

千砂都「また、可可ちゃんを守れなかったね」

すみれ「……ぁ、嫌……違う、違う違う!私は、私は……っ!」

「──ちゃん!──お姉ちゃん!」

 

75:(八つ橋) 2023/05/03(水) 16:38:17.45 ID:rn4DJLqG

すみれ妹「お姉ちゃん!」

すみれ「……っ、ぁ……」

 目が、覚めた。肌着がベッタリと背中にくっついている。浅く呼吸を繰り返しているすみれの姿は、真っ赤に染まった可可に似ていた。

すみれ妹「お姉ちゃん、大丈夫?……凄い魘されてたよ……?」

すみれ「わ、たし……」

すみれ妹「……可可ちゃん、大丈夫なの……?」

 

76:(八つ橋) 2023/05/03(水) 16:38:34.15 ID:rn4DJLqG

 通りすがった人が救急車を呼び、救急車によって病院に運ばれた可可は集中治療を行う為に面会する余裕は無かった。聞いた話によると命に別状は無いようだったが、明らかになったことがひとつだけある。

すみれ「……可可を、襲ったのは同じ人……」

すみれ妹「えっ……?」

 

77:(八つ橋) 2023/05/03(水) 16:38:56.87 ID:rn4DJLqG

---
--

かのん「……話があるって、それ……?」

すみれ「………………」

 翌日、かのんを自身の部屋に呼び出したすみれはあの日から毎日のように見ている夢の話や、すれ違った犯人が千砂都と同じような背丈だったこと、千砂都の様子がおかしい事を話した。

 突然親友を疑われて、腹を立てるのは当然の事だった。

 

78:(八つ橋) 2023/05/03(水) 16:39:13.77 ID:rn4DJLqG

かのん「何それ……ちぃちゃんを疑ってるの?夢に出てきたからって?」

かのん「……ふざけないでよ。ちぃちゃんが、可可ちゃんを襲う?そんな訳ないでしょ、いい加減にしてよ!」

すみれ「……っ、かのんはおかしいと思わないの!?」

かのん「えっ……ぁ……」

すみれ「最近の千砂都……明らかに可笑しいわよね。私でも気が付くんだから、かのんはもっと気が付いているんじゃないの?」

かのん「……っ……」

 

79:(八つ橋) 2023/05/03(水) 16:39:37.92 ID:rn4DJLqG

 正直、かのんも違和感があった。最近の千砂都は、可笑しい。可可を見つめる千砂都の顔を見ると、幼馴染のかのんでさえ底知れない恐怖を感じた。

かのん「違和感は、あったよ……」

かのん「……でも……ちぃちゃんが、なんて……有り得なくて。考えたく、なくて……」

 身体を震わせる。周りの視線を気にするように辺りを見渡しながら、怯えたように肩を上げて。

 

80:(八つ橋) 2023/05/03(水) 16:39:52.72 ID:rn4DJLqG

かのん「……っ、」

 かのんは、何かを思い出したように目を見開いた。

すみれ「……何、どうしたの……?」

かのん「……ちぃちゃん……可可ちゃんのお見舞いって、出掛けて行った……」

すみれ「……っ!?」

 すみれとかのんは、一目散に走り出した。
 このままでは、可可が危ない。

 

82:(八つ橋) 2023/05/03(水) 20:55:40.54 ID:rn4DJLqG

---

可可「………………」

 気が付くと腹部に、包帯が巻かれていた。
 身動きは出来るのが唯一の救いだった。また、自分は襲われてしまったのだと、腹部からの痛みで実感する。

可可「……一体、誰が……」

 頭痛がする。何故犯人はここまで自分に執着するのか、訳が分からなかった。

 

83:(八つ橋) 2023/05/03(水) 20:55:56.58 ID:rn4DJLqG

可可「……あれ、……すみれ……?」

可可「すみれ……っ、すみれ!」

 幾ら呼んでも、その人物は現れない。それを理解すると、可可の全身は震え始めた。可可は無意識に、すみれに依存していたから。

可可「ぁ、……す、みれ……」

 ふらつきながらも、病室から抜け出す。
 一刻も早く、すみれに会いたい。それしか考えられない頭の中は、他のことを考える余裕は無かった。

 

84:(八つ橋) 2023/05/03(水) 20:56:11.82 ID:rn4DJLqG

 階段に足を掛けたその時、誰かから、背中を押された。

可可「──えっ」

 ぐらりと視界が暗転した。階段から転落したら、今度は大怪我では済まないかもしれない。咄嗟に手すりを掴もうとするが、手すりが右側にあることに気が付く。可可の右手は、ギブスが巻かれていて、動かせない。

 

85:(八つ橋) 2023/05/03(水) 20:56:30.62 ID:rn4DJLqG

可可「──ぁ、」

可可「ち、さと……?」

 階段の上で見下ろしていたのは、気味の悪いほどにっこりと笑っていた千砂都だった。

千砂都「可愛いね、そのお顔」

 意識を失う前に聞いた言葉は、そんな言葉だった。

 

86:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:19:37.72 ID:rn4DJLqG

---
--

可可「……ん……」

 目が覚めると、カレンダーの日付は一週間先を指していた。また、助かった。そう安堵したのも束の間、ここが病院では無いことに気が付く。

可可「……え……、ぁ……」

 同時に、視界が闇に染まる。誰かが可可の目元を布で覆った。ヘッドフォンを付けられて、聴力すら失ってしまった。

 

87:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:19:55.89 ID:rn4DJLqG

可可「た、すけて……っ、誰か!!」

 ここから逃げようと身体を動かそうと試みるも、椅子に腕と足を固定されていて、全く身動きが出来なかった。

可可「すみれ……すみれっ!!」

 無意識にその人の名前を呼ぶ。すると、後ろから、抱き着かれる感覚があった。これはすみれでは無い。そう察したのは、”匂い”が違うからだった。

 

88:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:20:11.62 ID:rn4DJLqG

可可「ぁ……ああぁ……」

千砂都「予定よりも早く目覚めてくれて良かったよ。可可ちゃん」

千砂都「大丈夫、すぐすみれちゃんに会えるからね」

 千砂都は強く護身用のスタンガンを握り締めると、可可を取り残して部屋を後にした。

 

89:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:20:33.33 ID:rn4DJLqG

---

千砂都「ここを特定するなんて凄いね。一体どうしたの?」

 恨みで溢れた瞳を向けるすみれに、千砂都はいつもと変わらず笑顔を向けた。千砂都がダンスレッスンを行っていた防音室。人通りが少なく、治安が良くない此処は、千砂都にとっては好都合な場所だった。

すみれ「…………っ、可可は何処?」

千砂都「私の質問に答えて貰わないと、私も質問に答えないよ」

 千砂都は酷く冷たく言葉を返した。真っ赤な瞳ですみれを捕らえては、決して逃がさない。

 

90:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:20:49.81 ID:rn4DJLqG

すみれ「……かのんに心当たりが無いか聞いたの。最近の千砂都の言動に違和感を持っていたらしくて、協力してもらったわ」

千砂都「かのんちゃん……」

 思い返してみると、中学生の時にこの防音室に一回呼んだことがあった気がした。二人で歌を歌ったり、ダンスをしたり、日が暮れるまで遊んだ思い出の場所。

千砂都「ああ、なるほどね。かのんちゃんも良く覚えてたよ、凄いなぁ」

 

91:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:21:06.58 ID:rn4DJLqG

すみれ「今度は……私の質問に答えなさい……っ、」

 敵意を剥き出しにして、まるで狂犬のように威嚇してくるすみれに、千砂都は目を向ける。今にでも殴りかかって来そうなくらい、強く握り拳を作って、全身を震わせ、怒りを表していた。

すみれ「千砂都……っ、あんたが、あんたが可可を……っ!」

千砂都「そうだよ」

 

92:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:21:29.34 ID:rn4DJLqG

千砂都「全部私がやったの。可可ちゃんの腕を折ったのも私、可可ちゃんのお腹を刺したのも私、可可ちゃんを階段から突き落としたのも私」

すみれ「どうしてそんなこと……っ!!」

千砂都「可愛いからだよ」

すみれ「……は?」

千砂都「泣いてる可可ちゃんが、苦しんでる可可ちゃんが何よりも可愛いから」

千砂都「可哀想な可可ちゃんが、世界で一番可愛いの」

千砂都「すみれちゃんはそう思わない?」

 

93:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:21:54.10 ID:rn4DJLqG

 あまりにも真っ直ぐな視線と吹っ切れた様に言葉を続ける千砂都に、すみれは絶句した。嘘はついてない。嘘をついていないからこそ、すみれに対して、今の千砂都はただただ恐怖の対象でしかなかった。

千砂都「大丈夫」

千砂都「すみれちゃんも、すぐ分かるよ」

すみれ「何、言って────っ!?」

 可可を気絶させた護身用のスタンプを、すみれに近付け、電気を放出させた。鈍い音を立ててすみれが床に倒れ込む。千砂都は気絶したすみれを暫く眺めながら、一言呟いた。

千砂都「……すみれちゃんにも、見せてあげるね。可可ちゃんの可愛いお顔」

 

97:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:33:38.41 ID:rn4DJLqG

>>93 誤字ってました

 あまりにも真っ直ぐな視線と吹っ切れた様に言葉を続ける千砂都に、すみれは絶句した。嘘はついてない。嘘をついていないからこそ、すみれに対して、今の千砂都はただただ恐怖の対象でしかなかった。

千砂都「大丈夫」

千砂都「すみれちゃんも、すぐ分かるよ」

すみれ「何、言って────っ!?」

 可可を気絶させた護身用のスタンガンを、すみれに近付け、電気を放出させた。鈍い音を立ててすみれが床に倒れ込む。千砂都は気絶したすみれを暫く眺めながら、一言呟いた。

千砂都「……すみれちゃんにも、見せてあげるね。可可ちゃんの可愛いお顔」

 

100:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:38:40.45 ID:rn4DJLqG

---

すみれ「……ん、んん……」

千砂都「ああ、すみれちゃん。起きたんだね」

すみれ「ちょ、ちょっと……何の冗談よこれ!」

 気が付くと、目の前にはぐったりと項垂れた可可が居た。すみれも、可可と同じように椅子に手足を固定されていた。可可と違うのは、目隠しやヘッドフォンをされておらず、ただ身動きが取れないだけ。

 

101:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:39:09.65 ID:rn4DJLqG

千砂都「すみれちゃんにも分かってもらいたいの。可可ちゃんはすっごい可愛いんだよってこと」

すみれ「何、言って……っ!?そ、それは何!?」

 すみれは千砂都が手にしていた物に目を向ける。アルバイト先のたこ焼き屋から持って来たであろう、たこ焼きピックであった。

千砂都「……ああ、これ」

千砂都「……ね、すみれちゃん。可可ちゃんのおめめって、凄い鮮やかで良い色してるなって思わない?」

すみれ「ま、さか……」

 

102:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:39:37.65 ID:rn4DJLqG

 何も答えず千砂都はすみれに微笑んだ。その笑顔が何よりも眩しくて、無邪気で、──そして何よりも、狂気を感じた。

千砂都「さっ、可可ちゃん。大好きなすみれちゃんとご対面ですよ〜」

 笑顔を貼り付けたまま千砂都は可可の目隠しを外した。

可可「……っ、千砂都!!!助けて!助けて!!」

 可可が最初に助けを求めたのはすみれではなく、千砂都だった。一番最初に助けてくれたのは千砂都。千砂都は、可可にとって救世主。混乱で記憶が錯乱しているのか、階段から突き落とされた時に千砂都の顔を見たことは忘れてしまったようだった。

 

103:(八つ橋) 2023/05/03(水) 23:39:58.80 ID:rn4DJLqG

千砂都「だーめ」

千砂都「可可ちゃんは、これからもっと可愛くなるんだから」

 千砂都は愉しそうにそう呟くと、可可の瞼を指先で押さえ付けた。決して、目を閉じないように。可可の視界に入るのは、酷く尖った鋭利な道具。

可可「……え……?」

千砂都「可愛い声、聞かせてね」

 千砂都は容赦無く可可の瞳へ、ピックを差し込んだ。たこ焼きの中のたこを探すように、深く深く、奥まで。

 

105:(八つ橋) 2023/05/04(木) 00:00:08.21 ID:3oMOciRh

可可「あ”あ”あ”あ”ああああああああああああああぁっ!!!!」

 鼓膜が破れそうなくらい大きな声で可可が叫ぶ。じたばたと暴れながら痛みに耐えられず失禁する姿は、とても見ていられるものではなかった。
 先程から心臓が出てきそうなくらい鳴り止まない動悸は、恐怖、興奮、一体どちらなのだろうか。

千砂都「……あは……可愛い、可愛いよ可可ちゃん……凄くいい顔してくれる……良いよ、良いよ可可ちゃん……」

 

106:(八つ橋) 2023/05/04(木) 00:00:27.80 ID:3oMOciRh

すみれ「やだ……もうやめてええええええぇっ!!」

 すみれも喉が掠れるまで叫んだ。それでも可可の絶叫には負けてしまい、あっという間に掻き消されてしまう。

すみれ「……もう、もうやめてっ……」

 痛みから逃れるように暴れる可可を、見ていられるほどすみれのメンタルは強くなかった。最初から、私が見守っていれば。私が目を離さなければ。私が最初から、千砂都を、止められていたら。そんなことばかり考えてしまう。涙が、止まらなくなる。

 

107:(八つ橋) 2023/05/04(木) 00:00:44.89 ID:3oMOciRh

千砂都「……すみれちゃん」

千砂都「すみれちゃんが、これを抜いてよ」

 千砂都が笑う。

すみれ「……え……」

 可可の瞳に、深く突き刺さっているピックを抜け。と、千砂都はそう言った。

すみれ「で、きるわけ……」

千砂都「出来ないの?」

 千砂都が獲物を捕らえるようにすみれを見つめる。すみれは強制的に、その言葉に従うしか無くなった。今も尚、可可は叫び続けている。ピックが深く刺さった左目からは、真っ赤な涙が零れ落ちる。

 

108:(八つ橋) 2023/05/04(木) 00:01:04.80 ID:3oMOciRh

すみれ「……ぁ……」

千砂都「分かった。じゃあこうしよう。すみれちゃんが可可ちゃんのおめめからアレを抜いたら、これで終わりにするよ」

千砂都「もう可可ちゃんを傷付けないし、何もしない。ここから解放する。……これでどう?」

すみれ「……わ、かった……」

 震えた声ですみれが頷く。これで、可可は開放される。疑うことなく、そう思った。

 

109:(八つ橋) 2023/05/04(木) 00:01:23.82 ID:3oMOciRh

可可「す、……っみれ!!たすけて!たすけてええぇっ!!」

 可可と目が合うと、可可は一目散にすみれに助けを求めた。もう、もう千砂都は自分の味方では無いから。すみれは震えた手でしっかりと可可の瞳に刺さっているピックを掴んで、少しずつ引いていく。

可可「ぅあ”あ”あ”あ”あああああああああああっっ!!!!!」

 その度に可可が絶叫するから、すみれは過呼吸を起こしつつ、謝罪を零して、手を止めた。

 

110:(八つ橋) 2023/05/04(木) 00:01:39.58 ID:3oMOciRh

すみれ「ご、めんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい…………」

 そんなすみれを千砂都が放っておくはずが無く、千砂都はすみれの背後へ立ち回ると、肩を叩いて耳元へ囁く。

千砂都「すみれちゃん。一気にいかないと可可ちゃん、痛いでしょ?」

すみれ「は、っ……はっ……く、ぅくぅ……今、助ける、から……っ」

千砂都「良い子だね、すみれちゃん」

 再びピックを握ったすみれに、千砂都は満足気に微笑みながら、すみれの頭を撫でた。子供を優しく見守るような、そんな表情で。

 

111:(八つ橋) 2023/05/04(木) 00:01:54.70 ID:3oMOciRh

すみれ「っ!!!」

可可「〜っっ!?!?あ”あ”あ”ああああああああああああっ!!!!い”っ、だい”ぃっ!!!!たすけてっ、誰かああぁっ!!!」

 すみれは一気に可可の瞳からピックを引き抜くと、可可の瞳が血液で真っ赤に染まった。とめどなく溢れてくる血液に、可可は再び絶叫し始めた。

 自分では無い”誰か”に助けを求め始めた可可に、すみれは絶望した。可可を、可可を解放したのは私なのに。

 

112:(八つ橋) 2023/05/04(木) 00:02:09.37 ID:3oMOciRh

すみれ「はっ……はぁっ……っ、な、なんで……」

千砂都「はぁ……かわいい、可可ちゃん。とっても可愛いよ」

千砂都「良いものを見せてくれて本当にありがとう、すみれちゃん。……大丈夫、もう何もしないから」

 千砂都は可可の手足の拘束を解くと、何処かへ歩いて行ってしまった。すみれは唸りながら床に蹲る可可を、見ていることしか出来なくて、気が付いたら、すみれと可可は救急隊員に囲まれていた。千砂都が、救急車を呼んだんだ。
 その頃には散々絶叫していた可可の声が、全く聞こえなかった。

 

119:(八つ橋) 2023/05/04(木) 11:31:19.11 ID:3oMOciRh


--
---

かのん「……すみれちゃん……」

すみれ「………………」

 千砂都に呼ばれたかのんが病院に駆け付けた時には、手術中と明かりが灯った扉の前でぐったりと項垂れ、心身共にボロボロになったすみれが立ち尽くしていた。

かのん「……一体、何が……っ!」

 かのんがすみれに近寄ると、すみれの制服に血液が飛び散っているのが見えた。可可の血液であろう赤いシミは、服に染み込み、赤黒く変色している。

 

120:(八つ橋) 2023/05/04(木) 11:31:38.85 ID:3oMOciRh

かのん「それ……可可ちゃんの……」

すみれ「ご、めんなさいっ……わたしが、私が……守れなかった、から……っ」

 すみれは震えた声で呟くと、弱々しくその場へしゃがみ込んだ。全身が震えて、今にでもどうにかなってしまいそうなすみれをかのんは責めたり、問い詰めたり出来なかった。
 
かのん「……私こそ、すみれちゃんの力になれなくてごめんなさい……」

 

121:(八つ橋) 2023/05/04(木) 11:32:04.60 ID:3oMOciRh

すみれ「…………千砂都」

かのん「……えっ?」

すみれ「千砂都は……どこ……?」

かのん「……ごめん、分からないの」

 千砂都から送られてきたメッセージは病院の名前だけで、かのんは病院に駆けつけるまで今の状況がさっぱり分からなかった。

 

122:(八つ橋) 2023/05/04(木) 11:32:29.74 ID:3oMOciRh

恋「かのんさん、……すみれさん……これは一体……」

 恋が到着した。恋も携帯を握り締めていて、千砂都からのメッセージがあったのだと察した。

かのん「……ちぃちゃんだったの」

恋「……えっ……?」

かのん「ちぃちゃんが、……可可ちゃんを傷付けてたの」

恋「そ、んな……まさか……」

すみれ「………………」

 衝撃の事実を知らされた恋は、両手で口元を覆いつつ、目を見開く。現実を、受け入れたくないのだろう。すみれはただ唇を噛み締めては、何も言わずに膝に額を付けて地面へ零れ落ちていく涙を見つめていた。

 

127:(八つ橋) 2023/05/04(木) 20:54:28.51 ID:3oMOciRh

---
--

 退院したら中国に帰る。可可から告げられた現実に、すみれは何も言えなかった。
 大切な仲間に拉致され、腕を折られて、階段から突き落とされ、挙句の果てには左目を失明させられた。当然の結果だった。

かのん「……可笑しいよ、どうして可可ちゃんが夢を諦めないといけないの」

恋「かのんさん……気持ちは分かりますが……」

かのん「恋ちゃんは何にも分かってない!」

 可可の病室の前でかのんが声を荒らげて叫ぶ。両手には握り拳が作られていて、目尻には大粒の涙が溜まっていた。

 

128:(八つ橋) 2023/05/04(木) 20:54:43.80 ID:3oMOciRh

かのん「可笑しい……おかしいもん……っ、ちぃちゃんが、可可ちゃんにこんなことするなんて……、思いたくないんだもん……」

かのん「ごめんなさい、……ごめんなさい……」

 かのんの涙が落ちたのと同時に、かのんの心は決壊した。仲間同士のいざこざを知ってしまっ恋も既に崩壊寸前で、すみれに至ってはもう瞳に光は灯っていなかった。
 失踪した千砂都はまだ、見つからない。

 

129:(八つ橋) 2023/05/05(金) 00:53:23.88 ID:J5yaA8Zk

---
--

 可可が退院した。右手のギブスもやっと外れた頃だった。左目には眼帯を付けていて、可可の表情は暗いままだった。
 そんな可可の帰国準備をする為、可可の家へとエスコートしたのはすみれだった。

すみれ「…………ねぇ」

可可「……はい」

すみれ「怒らないの……?」

 震えた声ですみれが問掛ける。すみれには、何故自分が可可に指名されて、今こうして可可をエスコートしているのか、訳が分からなかった。

 

130:(八つ橋) 2023/05/05(金) 00:53:44.52 ID:J5yaA8Zk

可可「……何がデスか」

すみれ「…………覚えてるでしょ。あんたの目、から……抜いたの……私なのに……」

 可可が足を止める。すみれは背後からの視線が耐えられなくなり、くるりと後ろを振り向いて可可と目を合わせる。
 目が合った可可は、今にでも泣き出してしまいそうな顔をしていた。

 

131:(八つ橋) 2023/05/05(金) 00:54:01.88 ID:J5yaA8Zk

可可「……貴女こそ、自分があの時どんな顔してたと思ってるんデスか」

可可「貴女のあの顔を見て、可可はどう思ったと思っているんデスか」

可可「…………もう、離れないでくだサイ……救世主は、千砂都じゃなくて……貴女だったんデスから……」

 可可が両手ですみれの手を握る。すみれが可可の顔を見上げると、唯一覗く可可の右目からは、最後の希望が託されていた。可可も、すみれも、もう壊れてしまって、正常な判断が出来ていない。

すみれ「くぅくぅ……」

 すみれも可可の手を強く握り返す。
 今度こそ、離れないように。

 

132:(八つ橋) 2023/05/05(金) 00:54:18.86 ID:J5yaA8Zk

 二人で歩き始めてすぐ、可可の家に着いた。
 可可がすみれと繋いでいた手を離し、玄関の扉を開ける。

可可「ぁ、え……な、んで……」

 すると、可可の足が止まった。

すみれ「ちょ、っと……なにこれ……」

 可可の家は誰かに荒らされているように、あちこちに物が散らばっていた。すみれが辺りを見渡すと、ある事に気がついた。

 

133:(八つ橋) 2023/05/05(金) 00:54:33.94 ID:J5yaA8Zk

すみれ「こ、これ……可可のパスポート……?」

 マグカップの中に、紙屑が入っている。何度も何度も、何かで切り付けたように無惨な姿になったそれは、正真正銘可可のパスポートであった。

可可「ぁ、ああぁ……こ、のっ……マグカップ……」

すみれ「マグカップ?……あ、そういえば……」

 同時に、少し前のことを思い出す。
 千砂都の家へ遊びに行った可可は、千砂都のお気に入りマグカップを割ってしまった、と。そう聞いた気がする。全ては、その日から始まった。

 

134:(八つ橋) 2023/05/05(金) 00:54:51.29 ID:J5yaA8Zk

「かーごめ かーごめ」

 それは、聞き覚えのある声だった。
 可可とすみれは、身体中震え上がり、息が、出来なくなる。毎日見てきた夢と、同じ光景だった。

すみれ「……な、んでよっ……なんで、どうして……っ!」

可可「嫌だ……やだ……もう、もうやだぁっ……」

可可「こ、ないで……っ、もう……くぅくぅ……痛いのは……っ」

すみれ「く、くぅく──」

 可可が床に座り込み、頭を腕で覆いながら怯え始める。駆け寄ろうとしたすみれだったが、その人物がすみれの瞳を両手で覆い隠した。

 

135:(八つ橋) 2023/05/05(金) 00:55:11.15 ID:J5yaA8Zk

「かーごのなーかのとーりーは」

「いーつ いーつ でーやーる」

「よあけのばんに つーるとかーめがすーべった」

千砂都「……ねぇ、すみれちゃん」

千砂都「うしろの正面、だぁれだ」

 

136:(八つ橋) 2023/05/05(金) 00:55:31.35 ID:J5yaA8Zk

 千砂都がすみれから手を離すと、目が合った。過呼吸気味になりつつ、怯える可可と。それがすみれの鼓動を激しくさせて、息を荒くさせて。
 魔が差した、とでもいうのだろうか。
 そんな弱々しい可可をただ見つめると、

すみれ「──あ」

すみれ「(──怯えてる可可、可愛い)」

 そう思った。

 

139:(もんじゃ) 2023/05/05(金) 03:18:02.40 ID:BuV/mAuz

良い

 

146:(SB-iPhone) 2023/05/05(金) 12:52:19.31 ID:1elh5gQu

幼馴染の管理不行き届きだよかのんちゃん!

 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1683027968/

コメント

タイトルとURLをコピーしました