愛「『攻略してほしい女がいる』……?」璃奈『無理なら絶対に返信しないように』#8 璃奈編
侑「璃奈ちゃん、今日も練習来なかったね……」
かすみ「LINEもずっと未読無視です……」
果林「これでもう3日連続……。夏休みで学校も無いから、全く状況がわからないわ」
しずく「愛さんが毎日家まで行っているようですが……」
愛「全く反応なし。声も聞かせてくれないよ……」
せつ菜「そうなんですか……」
エマ「ライブの時みたいに、皆で行ってみるのはどうかな?」
彼方「うん。折角ここまで一緒に頑張ってきたんだもん、ほっとけないよ」
愛「……いや」
「「「?」」」
愛「みんな、ここは愛さんに任せてくれないかな?」
愛「どうしても、愛さんが連れ戻したいんだ」
歩夢「愛ちゃん……」
果林「……策があるのね?」
侑「……わかった。みんな、愛ちゃんを信じよう? きっと、愛ちゃんならやってくれるよ」
エマ「そうだね。何だか、愛ちゃんになら任せられる気がする」
しずく「不思議です。愛さんだったら何とかしてくれる。何故かその確信があるんです」
かすみ「……ここは、愛先輩に手柄を譲ってあげますっ」
彼方「頼んだよ愛ちゃん」
愛「うん! 任せて!」
璃奈(……)
璃奈(私、本当に馬鹿だ)
璃奈(今でもまだ、あの時愛さんを送り出したのを後悔してる)
璃奈(もっと早く記憶を操作していれば。そんなことをまだ思ってる)
璃奈(そんなことしたって、愛さんは私のものになんかならないのに)
ピンポーン
璃奈(……)
愛「りなりー! お願い、顔だけでも見せて!」
ドンドン
璃奈(愛さん、今日も来てくれたんだ)
璃奈(こんな私のために……いや)
璃奈(愛さんは、誰にでもこうだった)
璃奈(かすみちゃんの時も、せつ菜さんの時も……誰がどんな悩みを持っていたって、絶対に解決しちゃう)
璃奈(……自分さえ攻略しちゃったんだから、もう無敵だよね)
愛「りなりー! りなりーってば!」
璃奈(……)
璃奈(いっそ、私のこと、嫌いになってほしい)
ガチャ
愛「……!」
愛「りなりー……? 入るよ……?」
愛「お邪魔します……」
愛(……りなりーの部屋。攻略中何度も来て、報告したり、アドバイスをもらったりした)
愛(何だろう、今日はすっごく重たく見える)
璃奈「……部屋には入ってこないで」
愛「! りな」
璃奈「今から、本当のことを全部話す。私がどんなに汚い人間なのか、どんなに残酷で、卑怯で、最低な人間なのか」
愛「……りなりー」
璃奈「ちゃんと話すから。私がどんな気持ちだったのか。だから、最後まで黙って聞いていてほしい」
――――
――
【かすみ編】
璃奈「……すごい。愛さん、中須さんと一瞬で打ち解けちゃった」
璃奈「仕方がないとはいえ、すぐに可愛いなんて言っちゃって……」ムスッ
ガチャ
愛「おーっすりなりー!」
璃奈「愛さん」
愛「取り敢えず、かすかすとは接触できたよ! 多分友達にもなれると思う!」
璃奈(……友達になるのは目的じゃないんだけど……)
愛「あ、そうそう。心の隙間を埋めるって、具体的には何すればいーの?」
璃奈(心の隙間センサーは、単純に脳波や心拍数で相手の感情の高低を計るだけのもの……)
璃奈(実は心の隙間なんて存在しない。いや、本当に落ち込んでる子はいるんだろうけど)
璃奈(もちろん、その中に悪いものもいない。こんな設定を簡単に信じちゃうなんて、やっぱり愛さんはお人好しすぎる)
璃奈(でも、具体的なゴールは確かに設定してなかった。確か、あの漫画では……)
愛「!?」
璃奈「人間の心の隙間を埋めるのに1番てっとり早いのは、愛情で頭がいっぱいになった瞬間に、心と身体に大きな衝撃を与えること。だから、キスが最適」
愛「そ、そうなんだ」
璃奈(……辛いけど、キスならギリギリ私が我慢できる範囲かも)
璃奈(愛さん、中須さんと二人でアイドルやるの……)
璃奈(必要以上に仲良くなられたら、後で記憶を操作するのが面倒になる)
璃奈(何より、後から辛いのは愛さんだよ……)
璃奈「流石に最初から心の隙間を埋めるような機械はまだ作れてなかったけど……」
愛「す、すごいねりなりー! ……でも、それって悲しいことだよね」
璃奈(……! それを、愛さんが言うんだ)
愛「おっけ! 任しといて!」タッタッタッ
璃奈「……愛さんの、馬鹿」
※※※
璃奈「ライブの日程が決まった?」
愛「うん! だから、りなりーにも音響として協力してほしいんだ!」
璃奈「それは良いけど……。攻略の手順は?」
愛「実はまだ見えてない……でも、少しずつ心を開いてくれてると思う!」
璃奈「……そう」
愛「あ、まずい! かすみんとの練習の時間だ!」
タッタッタッ
璃奈「いってらっしゃい」ヒラヒラ
かすみライブ当日
愛「折角お客さんが来てくれてるんだよ? 皆に見せてあげて、私の最高のスクールアイドル、世界一可愛いかすみんを! りなりー!」
璃奈「おーけー」
~♪(Poppin’Up!)
璃奈(……中須さん、すごい)
※※※
璃奈(……やっぱり、愛さんが他の子とキスしてるの見るのは辛い……)
璃奈「お疲れ様」ムスッ
愛「かすみんは私のこと、忘れちゃうんだよね……」
璃奈(……そうだよ。忘れられるのは、とても辛いんだから)
璃奈「……。でも」
璃奈「きっとかすみちゃんの埋められた心の中には、愛さんがいる……。と思う」
璃奈(……これは私の願望。そうであって欲しいという、ただの妄想なんだ)
愛「……そっか!」
璃奈(だから、そんなに嬉しそうにしないで。期待させないで)
【せつ菜編】
璃奈「次は、生徒会長」
愛「急に難易度上がってない!? いや、かすみんがチョロかったってわけじゃないんだけど」
璃奈(流石の愛さんでも、あの真面目な生徒会長を攻略するのは困難なはず。次こそは……)
璃奈「私のシュミレーションだと、ほぼ全員チョロいはずだから大丈夫。一人とんでもないのがいるけど」
璃奈「爆発した時1番危ないのは間違いない。死人が出るかも」
璃奈(全部でまかせ。こう言った方が、愛さんは一生懸命やってくれる)
璃奈「いきなり顔近づけちゃ駄目。生徒会長、怖がってたと思う」
愛「ま、普通に考えたらそっか。んー、でもあの感じは……」
璃奈「?」
璃奈(もう何か掴んだの?)
※※※
モニター(盗撮は犯罪です)
愛『かいちょーはさ! ……スクールアイドル、好き?』
菜々『……! 私は――』
菜々『そんなもの、興味ありません』
璃奈(……会長、無理してる顔だ)
璃奈(スクールアイドルって言葉に、やけに反応してるように見える)
璃奈(……! そういえば)
璃奈(この間、買い物中に拾ったチラシ……!)カサッ
璃奈(……なるほど。生徒会長と優木せつ菜は……)
愛「……ねえ、りなりー」
璃奈「何?」
愛「既に攻略した子と接触するのって、アリ?」
璃奈「ナシ」
璃奈(つい反射で言ってしまったけど、これって会わせた方が私の目的に近づくかも……)
璃奈(まあ、今更撤回しても不自然か。今度それも試してみよう)
愛「そーだよねー。かすみんに聞いたら、同好会がどうなってるのかわかりそうなんだけど」
璃奈「じゃあ、私が聞いてみる。同じ学年だし、話せないわけじゃない。記憶もすぐ消せるし」
璃奈(……それに、記憶操作の効き具合も確認しておきたい)
かすみ「かすみんって呼んでよ!」
璃奈「……。かすみさん」
かすみ「か、す、み、ん!」
璃奈「……。かすみちゃん」
璃奈(私、今どんな顔してるんだろう。かすみちゃん、気持ち悪がってないかな?)
かすみ「う~ん。まあ、いっか。あなた誰?」
璃奈「情報処理学科1年の、天王寺璃奈」
かすみ「ふーん、顔は可愛い……。いやいや、かすみんほどじゃないけど~。何の用? りな子」
璃奈「り、りな子?」
かすみ「かすみんは~、呼ばれ方もだけど、呼び方も可愛くしたいの」
璃奈「そうなんだ」ソワソワ
璃奈(あだ名つけてくれたの、二人目。嬉しい)
璃奈(……そう、二人目)
かすみ「かすみんはアイドルとして、ファンの表情の全てを読み取れるんだから!」
璃奈「かすみちゃん、良い子だった」
愛「うんうん! もう一回攻略したいくらい!」
璃奈(愛さん……)
璃奈「……」ムスッ
愛「りなりー?」
璃奈(愛さんだって、前はもっと私の気持ち分かってくれてたのに)
※※※
愛『優木……、せつ菜?』
璃奈(やっぱり、生徒会長と優木せつ菜は同一人物だった)
せつ菜『ひぃんっ!』
愛『次は~』
璃奈(……)グシャッ
璃奈(愛さん、攻略楽しんでるよね……)
チュッ
せつ菜『私の大好きも、ぶつけておきますね///』
璃奈(愛さん、何やってるの……)
【エマ編】
璃奈(この調子じゃ、目的は達成されない)
璃奈(あの漫画も主人公は最後まで上手くやれてたけど、あれはあくまで漫画の世界。愛さんはやっぱり異常)
璃奈(……ここは、展開を変えたほうが良いかも)
璃奈「スクールアイドル同好会に入ろう」
愛「ん!?」
璃奈(過去の攻略対象者と繋がる。そうすれば、自分が忘れられていることで、愛さんもある程度はショックを受けるかもしれない)
璃奈(予想通りかすみちゃんも参加してるし、操作で愛さんに置換したしずくちゃんも戻ってきた)
璃奈(嬉しい誤算だったのが、侑さんの加入。せつ菜さんの復活ライブ後、彼女に強い関心を抱いていた人物……)
璃奈(人間関係に敏感な愛さんなら、この方法できっと……)
璃奈「大丈夫。愛さんとのイベントは、他の記憶と齟齬がないように、別の誰かとの思い出として、分割して置換されてる。せつ菜さんの『ある方』は愛さんじゃない」ボソボソッ
愛「……そう、なんだ……」ボソッ
璃奈(……!)
~
エマ「璃奈ちゃん、同好会はどう?」
璃奈「楽しい」
エマ「ん?」
璃奈(普段あんまり運動しないから不安だったけど、確かに同好会は楽しい)
璃奈(愛さんも早速みんなと仲良くなったみたいだし、このまま関係を深くしてもらって……)
璃奈(――壊す)
~♪📳
璃奈「……今日入れてもらった、同好会のLINEグループだ」
かすみちゃん『明日のランニング、朝9時にレインボー公園に集合ですよー!』
璃奈「……」
璃奈「こういう時って、早く返事した方が良いのかな?」
璃奈「……まともに人とLINEなんかしたことないから、どうすれば良いのか……」
璃奈「最初だし、明るめにいった方が良いよね……?」
自分『ラジャーv(・・)』
自分『😺😸😼YEAAAA!!』
自分『😸OK』
璃奈「……」
璃奈「……変な子だって思われてないかな?」
彼方さん『おっけー』
璃奈「……!」
璃奈「こ、こんな軽い感じで良かったんだ……」
璃奈「うぅっ……」
~♪📳
璃奈「……愛さんからだ」
愛『今日少し朝早く出たら、エマっちと仲良くなれたよ!』
璃奈「……じゃあ、次の攻略対象はエマさんにしよう」
※※※
愛「頼られないと納得いかないのがエマっちの悩み?」
璃奈「ううん。多分、エマさんは人一倍責任感が強いんだと思う」
璃奈「自分の身近で何か悪いことが起きた時、例え自分に落ち度が無くても、責任を感じてしまう……」
璃奈「そんな感じじゃないかな」
璃奈(そんなこと知るわけない。エマさんも強い人だから、きっと悩みなんて無いよ)
璃奈(愛さん、エマさんを順調に攻略してる……)
璃奈(このセンサーは所詮その時の感情の起伏を読み取るだけのもの。悩みがあるかどうかすら分からない人の悩みを見つけ出して、それを解決しちゃうなんて……)
璃奈(……それにしても愛さん、エマさんと仲良くなりすぎ)ムスッ
璃奈(今後の作戦を考えると良いことなんだけど、流石に釘をさしておかないと、私の腹の虫がおさまらない)
璃奈『タ ー ゲ ッ ト と 必 要 以 上 に 仲 良 く な ら な い よ う に』
璃奈「……何やってるんだろ。ブレちゃ駄目だよ、私」
※※※
璃奈「攻略、出来てない」
愛「……?」
璃奈(ここで終わりにしても良いんだけど、これだと忘れられた後、愛さんが受けるダメージが少ない)
璃奈(もっと思い出を作らせなきゃ)
※※※
『~♪(サイコーハート)』
璃奈(愛さんのライブ……生で見たかったな)
璃奈(エマさんの中の愛さんは、エマさんがよく食堂で一緒にいる朝香果林さんという人にしてみた)
璃奈(まさか同好会に入部してくるなんて。いや、練習には時々来てたし、想定内かな)
――――
――――――
(回想終わり)
愛「りなりー……?」
璃奈「全然話が読めない? そうだよね。愛さんには絶対に分からないよ」
璃奈「今から、もっと分からない話をするから」
(回想開始)
――――――
――――
――
今日子「今日ゲーセン寄ってかない? 欲しいぬいぐるみがあるんだよぉ~」
璃奈「……」
璃奈「あ、あのっ」
璃奈(……しゃべらなきゃ)
璃奈「……」
璃奈「……ぁ……」
璃奈(……やっぱり、私には無理だ)
クルッ
璃奈「……何でもない」
璃奈(思いを伝えることって、難しい)
璃奈(私の場合は特にそう)
璃奈(『友達になりたい』。そんな一言を言うのにも、ハードルがある)
璃奈(……)ゲーセンクーポンカサッ
「どーしたの?」
璃奈「!?」
璃奈(……赤いリボン……上級生?)
璃奈(……怖い)
「怖くないよー? なんかキミ、元気なさそうだったからさー!」
璃奈「?」
「お、ジョイポリの割引券じゃん! ここって楽しいよね!」
璃奈「……」クーポンサシアゲ
璃奈「お友達と行ってください」
「うーん……」
「じゃ、一緒に行こっか!」ニコッ
璃奈「え?」
「さあ! レッツゴー!」ニギッ
璃奈(はじめて、人と繋がることが出来た)
璃奈(その時私の手を引っ張ってくれたのが、愛さんだった)
愛「天王寺璃奈だから、りなりー!」
璃奈「りなりー?」
愛「そう! 可愛いニックネームでしょ?」
璃奈「……」ソワソワ
愛「あはっ、そんなに嬉しいの?」
璃奈「……!」
璃奈(私の気持ちがわかるの……?)
愛「気に入ってくれたなら良かった! よろしくね、りなりー!」
璃奈「友達ができたの初めて、嬉しい。あだ名も初めて付けてもらえた……」
璃奈「……よろしく。愛さん」モジモジ
愛「!」
愛「かっわいいなぁもう!」ナデナデ
璃奈「……///」
璃奈(私が愛さんのことを好きになるのに、時間はかからなかった)
天王寺家
璃奈「……ただいま」
璃奈(何度目かわからない、誰もいない空間への挨拶。不気味なほど綺麗な玄関には、今日も私の靴しか無い)
璃奈(……でも)
璃奈(初めて友達と遊んだ。初めてプリクラを撮った。初めて連絡先を交換した。初めて、あんなに楽しい時間を過ごした)
璃奈「……嬉しい」
璃奈(……折角連絡先を交換したんだし、何か送っても良いのかな?)
璃奈「『よろしく』……」
璃奈「……」プルプル
璃奈「……駄目だ。また今度挑戦しよう」
愛「記憶を操作するスイッチ!?」
璃奈「うん」
愛「そんなの作ったの!? すごいよりなりー!」
璃奈「でも、理論上消したり操作したり出来るってだけ。実際に試したわけじゃないから、本当に出来るとは限らない」
愛「それでもすごいよ! 具体的にはどういうことが出来るの?」
璃奈「短期間の記憶を消すことと、誰かとの思い出を他の誰かとの思い出として置換できる」
璃奈「置換する対象は、記憶に大きく齟齬が出ない程度の身近な人間なら可能。同じ学校や職場なら大丈夫だけど、顔や名前すら知らない人は無理。相手に知られている必要はない」
璃奈「でも、使う相手が大きく感情を乱した時にしか使えないし、経験してない記憶は植え付けられないから、まだ改善が必要」
愛「いやいや十分オーバーテクノロジーだって!」
愛「でも、何のために作ったの?」
璃奈「……特に、意味はない」
璃奈(この記憶操作装置は、私が私自身に、経験したことがない記憶を追加するために作り始めた。それは)
璃奈(ーー両親との思い出)
璃奈(私の両親は、二人ともかなり忙しい。最後に顔を見てから、もう既に何週間も経っている)
璃奈(たとえ実際に会えなくてもいい。昔動物園に連れて行ってもらったとか、家族で今日の出来事を話題にしながら食卓を囲んだとか、そういう思い出が欲しかった)
璃奈(愛さんと私は、ほとんど毎日一緒に過ごした。愛さんは時々運動部の助っ人に行っちゃうけど、一日一回は、必ず私に会いに来てくれた)
璃奈「バスケ部の試合?」
愛「そう! ただの練習試合ではあるんだけどね、ほら、うちって部員数多いじゃん? だから1軍2軍3軍をそれぞれ違う学校主催の練習試合に参加させるらしいんだ」
璃奈「すごい……流石虹ヶ咲」
愛「うんうん。それでね、3軍が怪我人続出で人数足りないかもしれないらしくて、愛さんが助っ人で参加することになったの」
璃奈「そうなんだ」
愛「だからね、りなりーも今度応援に来てよ!」
璃奈「……いいの?」
愛「いいに決まってるでしょ! 友達なんだから」ニコッ
璃奈「……うん」カァ
バスケ練習試合会場
璃奈(すごい、愛さんは人数合わせの助っ人って言ってたのに、ほとんど愛さんが得点してる……)
璃奈(……カッコいい)ギュッ
~
璃奈(試合が終わった。愛さんは練習試合だから勝敗は関係ないって言ってたけど……すごい大差で勝ってる)
璃奈(差し入れで作ったはちみつレモン、食べてくれるかな……?)
ドンッ
グシャッ
璃奈「!」
モブ「どこ見て歩いてんのよ?」
璃奈「ご、ごめんなさい……あぁ……」
璃奈(はちみつレモンが……)
璃奈「……うん」
璃奈(この子、同級生だ。でも、多分違うクラス……)
モブ「何でこんな暗い子がここにいるわけ?」
璃奈「えっと……愛さんを、応援しにきた……」
モブ「愛先輩を? ああ、あんた最近愛先輩に付きまとってるっていう」
璃奈「……ちがっ」
モブ「何が違うの? 愛先輩、絶対迷惑してるよ?」
璃奈「……」
璃奈(否定出来なかった。確かに愛さんと私じゃ住む世界が違いすぎる)
璃奈(愛さんの気持ちだって、私には分からない。本当はこの子の言うとおり、迷惑してるのかも)
モブ「ほら、さっさとそれ片付けて帰りなよ。ここはあんたの来る場所じゃない」
璃奈「……うん。ごめんなさい」
璃奈(何を浮かれてたんだろう私。こんな私が友達なんて作って良いわけが無かったんだ)モクモク
愛「あれ? どうしたん?」
モブ「あ、愛先輩!」
愛「ああこの間話しかけてくれた一年の」
モブ「覚えててくれたんですかぁ? 嬉しい~!」
愛「もちろん! 今日は応援に来てくれたんだ!」
モブ「はい! 私、愛先輩の大ファンですから!」
愛「そっかそっか!」ニコニコ
愛「……あれ、りなりー?」チラッ
璃奈「……」タッタッタッ
タッタッタッ
璃奈(愛さんはやっぱり誰にでも優しい。現場を見ていたわけじゃないから仕方がないけど、あんな子にもキラキラした笑顔を向けちゃう)
璃奈(私には愛さんしかいないけど、愛さんはそうじゃない。そんなことにさえ、今まで気が付かなかった)
璃奈(毎日私に会いに来て、本当は無理してたんじゃないのかな? 他の友達との約束を断ったり、お店の手伝いが出来なかったり……)
璃奈(……苦しい。愛さんのことが大好きだから、私が愛さんの足を引っ張ってるんじゃないかって、すごく不安になる)
璃奈(いっそ愛さんのことなんて忘れられたら……)
カコッ
璃奈「……!」
璃奈(記憶操作装置……バッグに入れたままだったんだ)
璃奈(これを使えば、愛さんのことを忘れられる……)
璃奈(折角試合に呼んでくれたのに、私は何も言わずに帰ってきた。きっと愛さんも怒ってる)
璃奈(幼)『お母さん見て! これ幼稚園で作ったの!』
璃奈ママ『ごめんね璃奈、お母さん疲れてるの』
璃奈(幼)『……』
璃奈(小)『どうして? 今週は動物園に行くって……!』
璃奈パパ『急に連絡が入ったんだ。仕方がないだろう』
璃奈(小)『……うん』
璃奈(中)『……ただいま』
シーン
『食費です。 母』🖊
璃奈(中)『……』
璃奈(中)『……笑えない。怒れない。泣けない』
璃奈(中)『私がそんな表情を向ける相手は……いない』
璃奈(……元に戻るだけ。独りには慣れてる)
「りなりー!」タッタッタッ
璃奈「!? 愛さん?」
璃奈(追ってきたの? どうして?)
愛「それ……記憶操作装置?」
璃奈「うん」
愛「それで、何をする気?」
璃奈「……私の中の、愛さんに関する記憶を消す」
愛「!? どうしてそんなこと!」
璃奈「私、愛さんのこと信じられない。どうしていきなり私なんかに声かけたんだろうって。どうして私なんかに優しくしてくれるんだろうって」
璃奈「今まで、誰もそんな人はいなかった。親さえも」
愛「りなりー……」
璃奈「いつか裏切られるんじゃないか、どうせ期待だけさせて最後は離れていくんだろうな、そんなことをずっと考えちゃう」
璃奈「……だから私は、愛さんのことが怖くてたまらない。忘れたいの。もう、顔も見たくない」
ソウチパシッ
璃奈「!? 返して」
愛「返さないよ。この装置は、愛さんが使う」
璃奈「!? そ、それはまだ実験もしてな」
愛「あれ? りなりー心配してくれるんだ?」
璃奈「……!」
愛「そんなに愛さんと離れたいなら、はじめからアタシに向かって使えば良かったじゃん。愛さんの中からりなりーを消せば、それで解決するでしょ?」
璃奈「そ、それは……」
愛「りなりーは優しい子だね。さっきの子が言ったこと、気にしてるんでしょ?」
璃奈「!」
モブ『りなりー? 愛先輩、あの子と知り合いなんですか?』
愛『友達だけど?』
モブ『……!』
モブ『あ、あんな子と仲良くしてたら、愛先輩まで暗くなっちゃいますよ! 無理に付き合う必要なんて無いですって!』
愛『……うるさいよ』
モブ『!?』
モブ『愛、先輩?』
愛『りなりーは、私の大事な友達! 無理なんてしてない! アタシはアタシが一緒にいたいから、あの子と友達になったんだ!』
モブ『……ご、ごめんなさい、私……』
愛『……』クルッ
タッタッタッ
モブ『あ、愛先輩!』
璃奈「愛さん……?」
愛「一目惚れ……ってわけじゃないんだけどさ、愛さんね、はんぺんの世話をしてるりなりーを、ずっと教室の窓から眺めてた」
璃奈「!」
愛「気付いてなかったでしょ? そしたらあの日ね、一人でボーッと立ってるりなりーを見つけて。初めて近くで見て、『ああ、やっぱり可愛いな』って」
愛「思い切って話しかけてみて、りなりーが持ってた割引券にかこつけて、強引に遊びに連れてって」
愛「緊張したなあ。結果的にちゃんと仲良くなれたんだけどね」
璃奈「愛さん……」
愛「愛さんね、りなりーのこと好きだよ。友達としてじゃなく、一人の女の子として」
璃奈「……!」
愛「だからね、りなりーがアタシのこと信用できないなら、この気持ちが本物だって証明してみせる」
璃奈「愛さん、何言って」
璃奈「待って!」
パチパチッ
璃奈「! 愛さん……! 愛さん!」
璃奈「……どうして……」
璃奈「私は、今の言葉だけで十分だったのに……!」
愛「――どしたの?」
璃奈「!」
璃奈「愛さん!」
璃奈(ああやっぱり、あの装置は失敗作だったんだ。そう、思ったのに)
愛「あれ? 愛さん、キミとどこかで会ったことあるっけ?」
璃奈「……!」
璃奈(装置は、残念ながら、ムカつくほどに成功作だった)
璃奈「……私は、情報処理学科一年、天王寺璃奈。あなたと」
璃奈「――友達になりたい」
あのモブはアニガサキの住民じゃなくて、スクスタ出身のモブだな
璃奈(その後、愛さんと私は以前と同じとはいかないまでも、順調に仲良くなった)
璃奈(しかし、お互いの記憶の齟齬は所々に現れ、その度に暗い感情が私を支配する)
璃奈(愛さんは私を大切にしてくれたけど、恋愛的な意味での好意を持ってくれるようになる兆しはない)
璃奈(そんな時、私は一冊の漫画に出会った)
璃奈「神のみぞ……知るセカイ?」
璃奈(その漫画は、恋愛ゲームの天才である主人公が、様々な問題を抱えた現実の女の子たちを攻略していくという内容だった)
璃奈「これは……使えるかも」
璃奈「……」スマホトリダシ
璃奈(開いたのは、愛さんとのLINEのトーク画面。毎日一緒にいたから、実はまだLINEでやり取りをしたことは無い)
璃奈(もう随分と前に送ろうとして諦めた『よろしく』という文字が、送信前の状態で表示されていた)
璃奈『よろしく』
璃奈『よろし』
璃奈『よろ』
璃奈『よ』
璃奈『』
璃奈『攻略してほしい女がいる』
璃奈『無理なら絶対に返信しないように』
愛「面白いじゃん、愛さんに落とせない女の子なんていないよ!」ポチッ
――
――――
―――――
璃奈「こんな感じ?」ボードソウチャク
侑「良いね! 重量はどう? 付けたまま歌えそう?」
璃奈「大丈夫」
侑「ライブ本番楽しみだね!」
璃奈「うん」
璃奈(同好会に入って、色んな人と繋がれた。愛さん以外とも普通に話せるようになってきた)
璃奈(この同好会は本当に素敵。だからこそ)
璃奈(愛さんは大事にしたいよね?)
璃奈(愛さんがもう一回私を好きになってくれる保証は無い。……もう待つのは辞める)
璃奈(――愛さんが落ち込んでいるところを、私が攻略する)
――
――――
――――――
(回想終わり)
愛「……」
璃奈「……」
愛「りなりー……ごめんね」
璃奈「謝らないで。私が悪かったんだから。私が愛さんを信じられないなんて言ったから」
愛「忘れられる辛さは愛さんにもよく分かった。りなりーは、それをアタシに教えたかったんだよね?」
璃奈「……違う」
愛「?」
璃奈「私の目的は、愛さんに告白してもらった時から、ずっと変わってないよ」
【ハルカカナタ編】
遥「私、お姉ちゃんが忙しすぎて、倒れちゃうんじゃないかって心配で……」
遥「それで、今日見学に来たんだ」
彼方「そうだったの……?」
愛「……りなりー?」ボソッ
璃奈「うん。今回の攻略対象は、彼方さんの妹さんみたい」ボソボソ
愛「これまた変化球だね……」ボソッ
璃奈「他校の生徒……難しそう?」ボソッ
愛「いや、やってみる!」ボソッ
璃奈(初対面の後輩、生徒会長、感性の違うスイスの女の子……。これまで愛さんは、何度も高いハードルを乗り越えてきた)
璃奈(きっと他校の生徒くらいじゃ簡単に攻略しちゃう)
璃奈「……!」ポチポチ
璃奈(彼方さんもかなり動揺してるみたい。これなら)
璃奈『今回は、近江姉妹二人を、同時に攻略する必要がある』
愛「……!?」
璃奈(戸惑ってる。流石の愛さんでも、今回で挫折するかな)
もんじゃ宮下店内を映し出すスマホ(盗撮は犯罪です)
璃奈(遥さんをもんじゃ宮下でバイトさせる。考えたね愛さん)
璃奈(一方では、侑さんとせつ菜中心に彼方さんのサプライズライブが計画されてる)
遥『すみません……。はい……すみません……』
モブ美『もういい、あんたじゃ話にならないわ!』
璃奈(……横暴な客。常連が客層の中心であるもんじゃ宮下では、あまり起きないタイプのトラブルだね)
愛『お客様』サッ
モブ美『!?』
モブ美『……何よ?』
璃奈(愛さん言い返すんだ。今はSNSにあることないこと書かれて店側が不利になるのに)
璃奈(そういう所も好きだけど、ここは私も動いた方が良いかな)
璃奈(久しぶりに良いことをした。とても気分が良い)
璃奈(愛さんたちはどうなったかな)スマホチラッ
愛『そっか。それじゃあ次は、それをこうやって』グイグイ
璃奈(……横に立って口頭で教えればいいのに。どうして抱きついて胸を押し当てる必要があるの)ムスッ
璃奈(愛さん、遥ちゃんみたいな子のほうがタイプなのかな……?)
璃奈(……)
璃奈(これは、ただの気分転換だから)ツインテムスビムスビ
※※※
璃奈(愛さんが彼方さんのサプライズに対抗して、遥さんもサプライズをやると言い出した)
璃奈(私が遥さんの真似をして髪型を変えたことに、愛さんは気付いていない。心の璃奈ちゃんボード『しめしめ』)
璃奈(それにしても、サプライズ思いついてその日にやるってどうなの)
璃奈(取り敢えず、ノッてくれそうなあの3人を呼び出して……)
かすみ「……それで、かすみんたちに協力してほしいと」
せつ菜「確かに、ライブをするだけでは解決しないような気がしてきました……」
エマ「そうだよね。遥ちゃんを納得させることばかり考えてたけど、彼方ちゃんも変わらないといけないんだよね」
璃奈「うん。これまでは、他人の事情に踏み込みすぎるのはよくないと考えてたけど、3人ならわかると思う」
「「「???」」」
璃奈「本当に困ってる時、伸ばされた手は、とても輝いて見える」
璃奈(まあ、皆愛さんのことは覚えてないんだけど)
かすみ「確かに……」
せつ菜「ガンガン踏み込みましょう!!」
エマ「私も、もう頼られるのは待たないよ!」
璃奈(……仮に愛さんのことは覚えてなくても、記憶を操作されてなお、立ち直れた心はそのままなんだ)
璃奈(……また、対象置換の精度が証明された)
璃奈(……愛さん)
璃奈(やっぱり愛さんは、すごいよ)
璃奈(これで、次の作戦に移行できる)
璃奈(エマさんとかすみちゃんを近江家に、せつ菜さんをもんじゃ宮下に向かわせた)
璃奈(せつ菜さんは侑さんとかなり上手くいってる。これできっと歩夢さんは問題を起こす)
璃奈(その原因がせつ菜さんを攻略した自分にあると気づいた時、きっと愛さんにも何らかのダメージは入るはず)
彼方『じゃあ、愛ちゃんの所でなら……バイトしても、いいよ?』
遥『!』
せつ菜『彼方さん……!』
愛『……』ジッ
璃奈(愛さん……?)
璃奈(何故かさっきから、せつ菜さんばかり見てるような……)
※※※
璃奈(結局、愛さんは同時攻略までこなしてしまった)
璃奈(でも大丈夫。まだいくらでも手はある……)
璃奈(気になるのは、遥さんが今後ももんじゃ宮下でバイトをすることになったということ。流石にここを記憶操作すると、後々矛盾が大きくなる。それに)
璃奈(彼方さんが無理をし続けることになって、確実にまた同じ問題が起こる……)
璃奈(……!)
璃奈(どうして私、愛さんと自分以外の人の幸せなんか考えて……?)
璃奈(……最初は目的を果たすためだったけど、やっぱり私も同好会のことが好きになってるんだな……)
【しずく編】
璃奈「しずくちゃんの様子がおかしい?」
かすみ「うん……なんかね、いつものしず子より、『しゅ~ん』って感じで」
璃奈「うーん。そうだったような……そうじゃなかったような……」
色葉「そういえば、主役降ろされちゃったって聞いたけど」
かすみ「ええ! なにそれ!?」
浅希「演劇部の子が言ってたの……それで、もう一回オーディションがあるって……」
かすみ・璃奈「……」
~
かすみ「ねえりな子!」
璃奈「!? どうしたの、かすみちゃん」
かすみ「一緒にしず子を励まそう!」
璃奈「え」
璃奈(下手にしずくちゃんが立ち直る前に愛さんを向かわせたいんだけど……)
かすみ「ね! しず子も大切な友達でしょ!?」
璃奈(友達……)
璃奈「……うん」
愛「じゃあ、今回の攻略対象はしずくなんだね?」
璃奈「うん」
璃奈(正直、しずくちゃんはこれまでの攻略対象の中でもかなり難易度が低い。悩みの原因が明確だし、ある程度攻略の道筋もはっきりしてる)
璃奈(ただ、同好会には心の隙間のある子が集まってると言ってしまっている以上、今後しずくちゃんが明確な悩みを表す保証が無いなら、愛さんに解決させた方が怪しまれない)
璃奈(それにしてもしずくちゃん、あんなに自分を否定して……)
璃奈「……ねえ、愛さん」
愛「どしたん?」
璃奈「愛さんは、自分のこと好き?」
愛「んー……アタシは、出来る限り自分を好きになろうって思ってるよ」
璃奈「どうして?」
愛「そりゃあ、アタシが自分のこと好きじゃなかったら、愛さんのこと好きになってくれた子たちに失礼じゃない?」
璃奈(ああ……)
愛「それに、他人を愛するには、まずは自分を愛せってね! 愛だけに!」
璃奈(やっぱり愛さんは、すごいな)
璃奈(でも……)
璃奈(愛さんは、誰を愛したいのかな……?)
璃奈(かすみちゃんと話して、かすみちゃんの中では攻略時の愛さんがしずくちゃんに置き換わってることがしっかり確認できた)
璃奈(正直しずくちゃんは消化試合だと思っていたけど、これは使えるかもしれない)
璃奈(それにしても……)
璃奈(自分を愛していない人が他人も愛せないとすると、私は今、本当に愛さんを愛せてるのかな?)
※※※
かすみ「かすみん、ちょっと校舎内の可愛いを探してきますっ!」
果林「普通にトイレって言いなさいよ」
かすみ「かすみんはおトイレなんか行きません!」
果林「ふふっ、はいはい」
かすみ「ではっ!」ガラガラッ
璃奈「……私も行ってくる」
璃奈(無事かすみちゃんの足止めをすることが出来た)
璃奈(演劇部の部室にしずくちゃんがいないことに気が付いたら、すぐに教室へ向かうはず)
璃奈(それまで恐らく10分間。既に愛さんはしずくちゃんと話してる頃だろうから、丁度いいタイミングになる)
タッタッタッ
璃奈(……! 来た)
かすみ「……そんな……!」
璃奈(……)ズキッ
璃奈(……大丈夫。今見たものは、すぐに忘れさせてあげるから)
かすみ「……!」パタン
愛「……りなりー?」
璃奈「危なかった。また隙間ができると、これが効かなくなる」
璃奈(もちろん嘘。愛さんには攻略して精神が安定したら使えると信じさせるけど、実際は感情が乱れていれば、それは良い方向でも、悪い方向でも構わない)
愛「それって、前に言ってた記憶をいじる装置?」
璃奈「うん。かすみちゃんには悪いけど、これでもう大丈夫」
璃奈(これの効果が絶大だっていうのは、愛さんが一番知ってるはずだよ……いや、忘れちゃってるんだったか)
愛「攻略時の私との思い出は、分割して他の人との思い出として置換されるって言ってたよね?」
璃奈「うん」
愛「それって、誰に置換するかりなりーが調整できるの?」
璃奈「出来ない。この装置じゃ、一部の記憶を消すか、ランダムに思い出の相手を変更するくらいしか」
璃奈(……!)
璃奈(まずい、この間と微妙に説明が違う。これ以上追求されたら)
愛「そうなんだ。まあいいや」
璃奈(……? 誤魔化せた?)
【果林編】
璃奈(藤黄学園の綾小路姫乃さんという人から、ダイバーフェス出演の誘いが来た)
璃奈(でも、出演できるのは一人だけ。そう言い出した果林さんは、途中で練習を抜けて帰ってしまった)
※※※
璃奈(もんじゃ宮下に綾小路さんが来た。スクールアイドルのグッズを見に行くために、ゲーマーズへ行くらしい)
璃奈(そういえば、部活中に歩夢さん、侑さん、せつ菜さんもゲーマーズに行くって話てたような……)
璃奈(……本当は使いたくなかったけど、愛さんのバッグに仕込んでおいたアレを……)
【盗聴は犯罪です】
姫乃『もちろん嬉しいですよ? でも、この程度ではまだまだ私の尊敬する方には敵いませんから』
愛『お? 姫乃、恋してる顔だね?』
姫乃『……わかりますか?』
璃奈(ふーん、そうなんだ)
璃奈(綾小路さんの好きな人って、誰なんだろう?)
果林『あら? あなたたちも来てたの?』
璃奈(!)
璃奈(どうやら、歩夢さんたちと合流したらしい。何故か果林さんもいる)
姫乃『あ、あの……えっと』モジモジ
璃奈(……?)
せつ菜『お待たせしましたー』
璃奈(せつ菜さんだ)
果林『ねえ、あなたのグッズはないの?』
せつ菜『え?』
せつ菜『……無いですよ……ちょっと、悔しいですけどね』ニガワライ
璃奈(せつ菜さん……)
~
歩夢『今決めるの?』
せつ菜『はい! 果林さんの本気は、全員に届いているはずですから!』
せつ菜『私たち同好会が次のステップに進むために、必要なことだと思うんです!』
せつ菜『……どうでしょう?』
姫乃『お待ち下さい』
璃奈(姫乃さんが止めた。どうしたんだろう)
侑『完成度で言ったら、せつ菜ちゃんかかすみちゃんが有力かな……?』
歩夢『この話が来るキッカケになったしずくちゃんもあり得るし……』
愛『既に大勢の前でライブを経験したりなりーやカナちゃんも任せられそうだよね』
果林『フェスの客層を考えると、愛が一番盛り上げてくれそうだけど』
せつ菜『しかし、歩夢さんやエマさんも、最近ぐんぐん成長してきてますよね』
姫乃『……』
姫乃『やはり、意見が割れるようですね』
侑『う、うん……』
姫乃『お言葉ですが、このまま大した時間も確保できていない状態で決めるのはいかがなものでしょうか?』
璃奈(……確かに。でも)
姫乃『もう少し、じっくり考えても良いのではないでしょうか?』
璃奈(みんなが候補を挙げた時、誰も果林さんの名前を出さなかった。綾小路さんは、それに反応したように聞こえた)
璃奈(もしかして、綾小路さんの好きな人って……)
愛『折角女の子が二人きりなんだし、恋バナでもしよっか?』
璃奈(突然始まった愛さんとエマさんの恋バナ。興味しかない)
エマ『愛ちゃんは、好きな子いるの?』
璃奈(……これで私だったら、もうこんなことしなくて良いのに)
愛『せっつー……かな?』
璃奈(……そっか)
※※※
璃奈(その後、エマさんが果林さんに好意を持っていることが分かった。攻略時の愛さんとの思い出は果林さんに置換したから、当然なんだけど)
璃奈(でも、この状況は使える。前回かすみちゃんの件で、愛さんはそこそこ心を乱していた)
璃奈(もし愛さんが本当にせつ菜さんを好きになったら、私に勝ち目はない)
璃奈(……普通なら)
璃奈(これが最後の作戦。元攻略対象同士でカップルを複数作り、愛さんが感情を大きく乱した所をこの装置で――)
璃奈(愛さんの中のせつ菜さんを、私に置き換える)
璃奈(想定外の事態。果林さんと姫乃さんが付き合い出した)
璃奈(難易度が上がるのは良いんだけど、愛さんが攻略してくれないと、ターゲット同士のカップルを作った時のショックが小さくなってしまう)
璃奈(……どうしよう。幸い愛さんには、まだ果林さんがターゲットだとは伝えてない。一旦歩夢さんか侑さんを優先する……?)
璃奈(……いや、ここは逆に……)
※※※
天王寺家
璃奈(果林さんがダイバーフェスのステージに立つことになった。そちらの方が都合が良いので、私も果林さんに票を投じた)
璃奈「ここ数日で、急に心の隙間が大きくなったメンバーがいる」
愛「え?」
愛「だ、誰?」
璃奈「――果林さん」
璃奈(既に恋人のいる相手。それに、エマさんの存在もある。愛さんなら攻略自体は何とかなるかもしれないけど、後味はかなり悪いはず)
璃奈「お疲れ様」
相手「……うん」
璃奈「大丈夫?」
愛「う、うん……! 今回の件で、やっぱりアタシがやらなきゃいけないんだなって思い知った、かな?」
璃奈「……」
璃奈(都合は良いんだけど、これでもまだ折れないんだ。せつ菜さんへの好意もまだはっきりしてないみたいだし、まだ早いかな)
愛「ただアタシは、誰かが落ち込んでるのをほっとけないだけ……」
璃奈(……)
愛「……!」
愛「姫乃はどうなったの!?」
璃奈(……綾小路さんの心配までするんだ)
璃奈(ダイバーフェス終了後、綾小路さんから心の乱れは検知されなかった。失恋直後だし、仮に攻略対象となってもあまり期待は出来なかっただろう)
璃奈「今のところ、心に隙間が出来た様子はない。会いに行ってみたら?」
愛「うん!」ダッ
璃奈(果林さんは無事にエマさんとくっついた。いよいよ次が最後の攻略になる)
璃奈(歩夢さんと侑さんとせつ菜さんの三角関係。これで愛さんのせつ菜さんに対する好意がはっきりすれば……)
璃奈(あとは、私がそこにおさまるだけ)
璃奈(ねえ愛さん。それだけ皆のことを考えられるのに……)
璃奈「どうして、あの時私を一人にしたの?」
【愛編】
璃奈(以前から企画されていた、同好会夏合宿が終了した)
璃奈(帰る前に愛さんとせつ菜さんが何か話していたようだけど、皆の前で盗聴器の音声を聞くわけには行かず、会話の内容は分からない)
璃奈「愛さん、今回の攻略対象は歩夢さんだよ」
璃奈(合宿の時、せつ菜さんと侑さんには何か進展があったらしく、歩夢さんの様子がおかしかった。侑さんとどちらにするかは迷ったけど、今回の攻略対象は歩夢さんにした)
愛「……そう」
璃奈(愛さん、明らかに元気がない)
璃奈(……ひょっとして)
璃奈「……!」ピコピコ
璃奈「……やっと……」
璃奈(愛さんの感情が、大きく乱れている。今なら記憶操作装置の効果が確実に現れると思う)
璃奈(あとは、せつ菜さんへの気持ちを確認できれば……)
愛「な、なになにいきなり!? りなりーも遂に恋バナしたいお年頃なの!?」
璃奈「ううん。特に意味はないんだけどね」
愛「好きな人……ちょっと前までは自覚無かったんだけどね」
愛「アタシ、せっつーのこと好きなのかなって思い始めた」
璃奈「……そう」
璃奈(計画通りに事は運んでいる。だけど、やっぱり実際に口にされると辛い)
愛「りなりーは、好きな子いないの?」
璃奈「私は……」
璃奈(愛さんが好き。こんな卑怯な真似をしてでも、愛さんがくれた思い出は、変わらず私の中にあるから)
璃奈(言いたい。でも、我慢するんだ私。もうすぐで、やっと計画が完遂するんだから)
璃奈「――皆が好き、かな」
璃奈(またも想定外の自体が発生した)
璃奈(侑さんが、せつ菜さんではなく歩夢さんを恋愛的な意味で好きだった)
璃奈(これでは、せつ菜さんがフリーになってしまう。愛さんがせつ菜さんと付き合って心が満たされてしまうと、記憶操作装置が効くか分からなない)
璃奈(侑さんの中の歩夢さんをせつ菜さんに置き換えることは出来ない。侑さんと歩夢さんは幼馴染。たとえ短い範囲であっても、お互いに関する記憶をいじれば、必ず齟齬が生じる)
璃奈「急がなきゃ」
璃奈(今のうちに、入れ替わった後の私と愛さんの記憶に齟齬がないよう、せつ菜さんから愛さんとの思い出を聞き出しておかないと)
愛歩夢デート中
歩夢『それでね……』
愛『あっはっは!』
璃奈(流石愛さん。歩夢さんを楽しませられてる)
璃奈(でも、駄菓子屋にゲームセンターに、今話してる公園……)
璃奈(記憶が無くなる前に、私とよく行った場所ばかりだね)
~
愛『こういう時につけ込むような卑怯な真似、どんなに自分を騙そうとしても、愛さんにはやっぱり出来ないよ』
璃奈(……! 何してるの愛さん)
愛『歩夢、これ見て』スマホトリダシー
歩夢『……『攻略してほしい女がいる……?』』
璃奈(愛さん……?)
愛『……ね? ゆうゆ?』
璃奈(……イレギュラーな展開の連続。折角ここまで来たっていうのに……)
璃奈(……すぐに実行に移さなきゃ)
璃奈(侑さんによる歩夢さん攻略は、元々両思いだったこともあってすんなり成功した)
璃奈(記憶に齟齬が生まれるのを防ぐために、愛さんの目的の部分だけ記憶を消させてもらったけど……)
璃奈「……ねえ、愛さん」
愛「ん?」
璃奈「本当にお疲れ様」
カチッ
璃奈(チャンスは今しかない。今ここで、愛さんの記憶を操作する……!)
璃奈「何かやり残したことはない?」
愛「……何言ってるの?」
璃奈(……)
璃奈(本当に、これで良いの?)
璃奈(愛さんがせつ菜さんに告白したところで、成功する可能性はかなり低い)
璃奈(せつ菜さんはすごく真面目な人。侑さんが歩夢さんと付き合い始めたとはいえ、侑さんへの気持ちが無くならない限り、誰かと付き合うとは思えない)
璃奈(……あと、少しだけ待っても)
璃奈「……何でもない」
侑「ねえねえ愛ちゃん」
愛「ん? どしたん?」
侑「せつ菜ちゃんには、もう告白したの?」
愛「え、いや……。やっぱり出来ないよ……」
璃奈(……)
かすみ「え!? 愛先輩、せつ菜先輩のこと好きだったんですか!?」
しずく「まあ」
エマ「素敵~!」
果林「ふふっ、愛も隅に置けないわね?」
彼方「すやぴ」
遥「お姉ちゃん起きて! 大ニュースだよ!」ペシペシ
彼方「んにゃ?」
璃奈「……」
璃奈(過去の攻略対象者からこのこんな言葉が出るなんて、とっても残酷)
璃奈(愛さんの心の沈み方もこれまでで一番大きい。これなら、いつでも記憶を操作できる)
歩夢「何言ってるの?」
愛「?」
侑「そうだよ! このままだと絶対後悔する!」
果林「弱いところは武器にしていかなくちゃ。それもあなたの魅力の一つなのよ?」
しずく「もしも勇気が出ないのなら、理想の自分を演じれば良いんです! 愛さんが一番好きになれる自分で勝負してみましょうよ!」
遥「頑固になってたら、前には進めませんからね」ニコッ
彼方「ある程度、自分を許してあげなきゃね」
エマ「たまには甘えてみるのも大事だよ~!」
かすみ「かすみんも皆も、ずっと世界一楽しそうに笑う愛先輩を見てました! 愛先輩なら大丈夫です! 自信を持ってください!」
璃奈(……!)
愛「……!」
愛「みんな……!」
璃奈(愛さんの精神状態が、急に安定した!?)
璃奈(それぞれくっつけた相手に対して確実に好意を維持するよう、攻略直前の記憶を残していたのが裏目に出た……!)
璃奈(たとえ愛さんの言葉だとは覚えていなくても、その言葉が与えてくれた勇気は、思い出は、皆の心にしっかりと刻み込まれてる……!)
璃奈(……私が間違ってた)
璃奈『……どうして……』
璃奈『私は、今の言葉だけで十分だったのに……!』
璃奈(はじめから、私も自分の言葉で、正直に、真っ直ぐに気持ちを伝えておけば良かったんだ……)
璃奈(こんな私に、人を愛する資格はない)
璃奈(みんなと一緒に夢を追いかける資格なんて……ない)
――――
――――――
(回想終わり)
愛「……」
璃奈「だからね。私、もうみんなに合わせる顔がないの」
愛「……りなりー」
璃奈「……なに」
愛「りなりーは、まだ愛さんのこと好きでいてくれてるの?」
璃奈「……うん」
愛「……そうなんだ」
愛「アタシ、りなりーの話してたこと、全く覚えてないけど……」
愛「りなりーが愛さんのために頑張ってくれたこと、それだけはしっかりと伝わったよ」
璃奈「ちがっ……」
璃奈「私は……。自分のことだけ考えて……」
愛「違わないよ」
璃奈「……そんなんじゃ」
愛「そうなんだよ。愛さんがりなりーを好きだったことは、間違いなく事実で」
愛「きっと、これから」
璃奈「嘘! 愛さんは、こんな卑怯で最低な私のことなんか!」
愛「りなりー!」
璃奈「!」ビクッ
愛「アタシの心を勝手に決めないで!」
璃奈「……!」
愛「せっつーに振られたばっかりで虫が良すぎるかもしれないけど、愛さんはりなりーのことが好き!」
愛「今はまだ友達としてかもしれないけど、愛さんはりなりーがいないと悲しいよ? りなりーのこと、とっても大事に思ってるよ? だから!」
愛「……愛さんはずっと側にいるよ。ずっと一緒にいたいんだ」
璃奈「……愛さん」
璃奈「私も……愛さんとずっと一緒にいたい」
愛「!」
ガチャ
愛「りなりー……!」
ダキッ
璃奈「……私、みんなに酷いこと」
愛「大丈夫」
璃奈「愛さんだって傷付けて」
愛「大丈夫」ナデナデ
璃奈「……」
愛「たとえりなりーがどんなことをしても、愛さんは離れていったりしないよ」
愛「ねえ、りなりー? りなりーの最初の友達は、愛さんなんだよね?」
璃奈「……うん」
愛「じゃあ、次は恋人になりたいな」
璃奈「……」
璃奈「最初の恋人に?」
愛「ちょっと違うかな」
璃奈「?」
愛「そんな言い方だと、まるでいつか他の恋人が出来るみたいじゃん」
愛「言ったでしょ? りなりーとずっと一緒にいるって」
愛「――愛さんはね」
愛「りなりーの、最初で最後の恋人になりたいんだ!」
璃奈「……嬉しい」ニコッ
完
ハッピーエンドになって良かった
なんか感無量
ハッピーエンドのはずなのになんかつらいな…
途中のりなりー辛いな
題材の落とし神の如く順調に攻略してく愛さんが見てて楽しかった。りなりーも救われて良かったね
神知る懐かしかったなぁ…
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