【SS】千歌「お手手のしわとしわ」曜「合わせてしあわせ」ナームー【ラブライブ!サンシャイン!!】
~千歌の部屋~
千歌「んー!よく寝たー!」
曜「毎日よく寝るねぇ」
千歌「曜ちゃんは眠たくならないの?」
曜「んー、特には」
千歌「いつも授業中に教科書に隠れて夢の中へヨーソローしてたのに」
曜「だってあの頃は水泳の朝練とかで疲れてたし……」
千歌「泳いだら疲れるもんね」
曜「そういえば小さいころは海で泳いだあと千歌ちゃんの家で昼寝してたっけ……」
千歌「今は疲れないの?」
曜「んー疲れるような気にはなる」
千歌「なんか微妙な表現だね……」
曜「でもわかるでしょ?」
千歌「うん、まぁ」
曜「逆に聞きたいんだけど、千歌ちゃんは眠たくなってるの?」
千歌「正直にいうと全然」
曜「……じゃ、なんであんなに寝てるの」
千歌「んー……眠たくはないけど眠たいような気にはなる」
曜「そっか……」
千歌「育ち盛りだったころの習慣というか……もう意味ないけどさ」
曜「成長ストップしちゃったからねぇ」
千歌「あーあ……もっと大人っぽくなると思ってたんだけどなぁー……」
曜「……え……と……千歌ちゃんは十分大人っぽいと思うよ?////」
千歌「えっほんと?どのへんが?どの辺が大人?」
曜「……ぅ////」
千歌「ねーねー、曜ちゃんは千歌のどこに大人を感じるのー?」
曜「……なんでもないよっ////」
千歌「!なんにもないの!?」ガーン
曜「ちょ、違」
千歌「もういいよ……知ってるもん……どーせ私は子供ですよーだ」
曜「いや、あの、そうじゃなくてさ」アセアセ
千歌「お姉ちゃんたちからも毎日言われてるもん」
曜「!」
千歌「『まだ子供なのに』とか『子供のまま』とか……お姉ちゃんたちだけならともかくお母さんまで!」
曜「……」
千歌「一番言っちゃダメな人だよ色々な意味で!」
曜「あはは……」
千歌「さすがにお母さんよりは大人っぽい自信あるもんね!」プンプン
曜「……」
千歌「……」
曜「……きっとさ、そういう意味じゃないと思うよ」
千歌「うん……わかってる」
ミトー、 アサゴハンデキタワヨー>
イマイクー! >
ようちか「「!」」
曜「千歌ちゃん、そろそろ」
千歌「うん、私たちも行こっか」
曜「お腹はペコ?」
千歌「ペコ!」
曜「ほんとに?」
千歌「……な気がする!」
曜「だよね!」
・
・
・
・
・
・
曜「ん~やっぱ高海家の朝の食卓はいい匂いー!」
志満「今日は鰆の塩焼きとウィンナーと卵焼き、そして赤だしの味噌汁よ」
美渡「今日『は』というか今日『も』だけどな」
千歌「お客さんに出すものの余りだもんね」
曜「でもいいなぁ、和食朝ごはん」
千歌「曜ちゃん家はいつもトーストだったよね」
曜「うちは両親とも朝早いからね。でも――」
千歌「パンよりご飯の方がお腹がもつ気がする?」
曜「うん、匂いからしてエネルギー貯蓄率良さそうじゃん?」
千歌「嗅いでるだけで美味しいもんね」
志満「はい、千歌にもご飯。と、ミカン。さっき採りたてのをもらったの」コトッ
千歌「わーいミカンだー!いただきまーす!」
曜「採りたてなの?千歌ちゃんいいなぁー」
志満「ちゃんと曜ちゃんの分もあるから二人で分けて食べてね」
曜「えっ、やったぁ!ありがとうございます!」
ニュースノジカンデス、 サクヤノゴゴ、トウカイドウノボリデ クルマドウシノ セッショクジコ ガ…>
曜「うわー……車がぺしゃんこ……」
千歌「運転してた人大丈夫だったのかな……」
美渡「……」
ナオ、コノ ジコ デナクナッタノハ カイシャイン……サン47サイ ト ソノムスメ……サン18サイ、ソシテ…(プツン)>
志満「……」
千歌「えっなんでテレビ切っちゃうの?このあと今日の運勢コーナーなのに!」
曜「まぁまぁ、朝ごはん食べよ?ね?」
千歌「ぶー……」モグモグ
志満「……」
志満「……千歌、曜ちゃん」
ようちか「「?」」ムグモグ
志満「二人とも……ちゃんと仲良くしてる?」
千歌「?むぐむぐ……どうしたの急に?」
美渡「……仲良くやってるでしょ。いつも一緒にいたんだから」
志満「うん……だけど、いつも一緒だったからこそ喧嘩とかしてないか心配になって」
曜「喧嘩なんてもう何年もしてないよね」
千歌「ってかしたことあったっけ?」
曜「んー……」
美渡「二人が喧嘩してるところなんて見たことないし、杞憂だって」
志満「だといいんだけど……」
・
・
・
ゴチソウサマー
サマデシター
千歌「喧嘩かぁ……」
曜「……」
曜(……私が一人で拗ねてたことならあったけど)
千歌「私が一人で拗ねてたことならあったけど……」
曜「えっ」
千歌「ほら、飛び込みの大会とかで曜ちゃんいろんな子たちに囲まれてキャーキャー言われてたでしょ?」
曜「あ、ああ、でもキャーキャーっていうか単に選手同士仲良くしてただけで……」
千歌「みんな目がハートだったもん。選手だからじゃなくて単純に曜ちゃんのファンだったんだよ」
曜「!?」
千歌「んで、点数が出るとすぐに駆け寄ってこられて、抱きつかれておめでとうを言われたりしてさー」
曜「え、ええとそれはスポーツではよくあることで」
千歌「ほんとは千歌がやりたかったのに……」
曜「!」
千歌「でも観戦席は飛び降りるには高すぎたし、なにより部外者だったから」
曜「千歌ちゃん……」
千歌「なんていうか隣にいられないのが悔しくて、何もない普通の自分が情けなくて……何年も心の中でいじけてたんだ」
曜「ごめんね……全然気付けなかった……」
千歌「ううん、絶対に気付かれないようにしてたもん」
曜「え……どうして」
千歌「きっと言ったら曜ちゃんは私に合わせてくれたでしょ?」
曜「……えっと」
千歌「でもそれじゃダメなんだよ。ただでさえ曜ちゃんに助けられてばかりなのに、それ以上は重荷になっちゃう」
曜「重荷なんてそんな!」
千歌「助けられるのは嬉しいし一緒に歩いてくれるのも嬉しい。でもそれで曜ちゃんに歩幅を加減させるのだけは嫌だった」
千歌「一緒に歩きたければ私自身が変わらなきゃ……私自身の歩幅を広げなきゃダメだと思ったんだ」
曜「……」
千歌「助けられてばかりの子供じゃなく、曜ちゃんを助けられるような頼れる大人になりたい、って」
曜「……だからあんなに大人になりたいって言ってたんだ」
千歌「でもすぐに大人になるなんて無理でしょ?だからせめてその時までは情けない心を隠しておこうって思ったの」
曜「じゃあ……どうして今は教えてくれるの……?」
千歌「えっと今はさ、ほら、いろいろあって割り切らざるを得なかったというか」
曜「……もう私のことですねてくれないの……?」
千歌「そうじゃなくて……つまり 「バウッ!!ワウワウッ!!」 ぅひあっ!!」
しいたけ「ハッハッハッハッ、ワフッ!ワフッ!」
曜「……びっくりしたぁ」
千歌「もー、しいたけ~?驚かさないでよ!」
曜「しいたけが吠えるって珍しいね」
千歌「そういえば昔から湿っぽい雰囲気になると、いつもこうやって間に割って入ってきてたような……」
曜「私たちのこと分かるのかな、動物の勘ってやつで」
千歌「うん、たぶんね……しいたけおすわり!」
しいたけ「ワフッ!」ペタン
曜「おお……やっぱり」
千歌「すごいでしょー?」フフン
曜「なんで千歌ちゃんがドヤ顔するのさ」
スミマセーン、タカミサーン >
千歌「あっ、梨子ちゃんのお母さんだ」
曜「そういえば夏休みに入ってから梨子ちゃんを見かけないけど、どこか遊びに行ってるのかな」
千歌「東京の親戚の家に行ってるらしいよ。音大受験の準備とかなんとかで」
曜「準備?」
千歌「私もよく知らないんだけど、ピアノの他にそるふぇーじゅ?とか色々やらなきゃいけないんだって」
曜「なにそれ?」
千歌「メロディやハーモニーを何回か聴いて制限時間内に五線譜に書いたり、30秒くらい新曲の譜読みして歌ったり」
曜「なにそれ大変そう」
千歌「あとガクテンとか」
曜「ガクテン?学生転生?」
千歌「じゃなくて……音楽理論のことそう呼ぶらしいよ」
曜「へぇー」
千歌「あとは専門実技試験でピアノを演奏するらしいんだけど……」
曜「けど?」
千歌「課題曲の他に自由曲ってのがあるらしいんだけど、それを何にするかで先生と意見がぶつかってるらしくて」
曜「あー、飛び込みでもあるよ。私はアレが飛びたいのにコーチの分からず屋ー!って」
千歌「曜ちゃんよく愚痴ってたもんね。結局最後はコーチさんの言う通りにしてたけど」
曜「まぁ競技ってこと考えると、コーチの言い分の方が理にかなってたりするからねぇ」
千歌「でも梨子ちゃんのお母さんが言うには、今回は絶対にやりたい曲があるらしくって引かないんだって」
曜「なんて曲なの?」
千歌「うーん……たしか食パンの……」
曜「食パン?」
千歌「シチューと作品ジョナサン?がどうとか……」
曜「……わけがわからないよ」
千歌「……」
曜「……」
曜「千歌ちゃんさー……」
千歌「なーに?」
曜「これから何したい?」
千歌「今日はとりあえず果南ちゃん家いく」
曜「そうじゃなくて、この先だよ」
千歌「将来の夢の話?」
曜「んー……まぁそうかな」
千歌「どうしようかなぁ……まだ何も考えてないや」
曜「……そっか」
千歌「考えても叶うかどうかわからないしねぇ」
曜「そうだね……」
千歌「よーちゃんはー?」
曜「ん、私も同じかなー」
千歌「だよねぇ……」
曜「……」
千歌「……」
◆
◆
◆
◆
◆
◆
~淡島~
千歌「果南ちゃーん!こんちかー!」
曜「おはヨーソロー!」
千歌「……」
曜「……」
千歌「……あり?」
曜「いないっぽい……?」
千歌「っていうかよく見たら船もないよ!」
曜「でも今日って休業日だよね。どこ行ったんだろ」
千歌「急にお仕事の予約が入ったのかなぁ」
曜「ああ……夏はかき入れ時だもんね……」
千歌「うーわざわざここまで来たのにー……」
曜「あはは、連絡してないんだもん仕方ないよ」
千歌「そーだけどさぁ……」
曜「果南ちゃんだってまさか私たちが来るなんて思ってないだろーし」
千歌「ううむ……じゃ、これからどうする?」
曜「ん……とりあえず学校とか行ってみる?誰かいるかもしれないし」
千歌「えー、でも夏休みだよ?いるかなぁ」
曜「善子ちゃんたちが練習してるんじゃないかな」
千歌「あ、そっか、三人ともまだ二年生だもんね」
曜「ええっ、そこからなの?」
千歌「だって内浦だと1歳くらいの差なら有って無いようなものだし」タハハ…
曜「……まぁたしかに果南ちゃんが先に小学校に入った時はびっくりしたけど」
千歌「んじゃとりあえず向こう岸に戻ろっか」
曜「うん。にしても……」
千歌「ん?」
曜「前までは定期船を待たなきゃダメだったのに、ほんと便利になったよね」
千歌「あー、そういえば小さい頃は『いつか果南ちゃんの家まで橋をかけるんだ』とか言ってたなぁ」シミジミ
曜「言ってたねぇ……」シミジミ
千歌「こうして歩いて渡れる日がくるなんて思わなかったよ」
曜「私は船での行き来も好きだったけど」
千歌「お父さんが船乗りさんだもんね」
曜「ヨーソロー!」
千歌「そういや曜ちゃん最近お家帰ってないんじゃない?」
曜「……」
千歌「毎日千歌の部屋に泊まってるような気が」
曜「……迷惑だったかな」
千歌「あ、いや迷惑とか全然思わないよ!むしろ嬉しいくらいだし」
曜「ほんと?」
千歌「ほんとほんと。よーちゃんが一緒にいてくれると安心するもん」
曜「そっか……よかった……」ホッ
千歌「ただ、ほらおじさんやおばさんのことは大丈夫なのかなーって思って」
曜「……」
千歌「ほら、曜ちゃんって二人のこと大好きだから、心配なんじゃないかなと」
曜「そりゃ心配だけど……」
千歌「……もしかしてお家に居づらいとか?」
曜「……」コクン
千歌「……そっか」
曜「私が心配しても今は何もできないから……パパとママ自身が落ち着くまでは、ね。それに……」
千歌「……」
曜「……それに私も千歌ちゃんと一緒の方が安心するから」ボソ
千歌「曜ちゃん……」
曜「……さ!そろそろ行こっか!」
千歌「え、あ、うん……えっと……」
曜「ほらほら、早く行かないと練習終わっちゃうかもしれないよ!」スタスタ
千歌「!ま、まってよー!」
◆
◆
◆
◆
◆
◆
~浦の星女学院~
曜「とうちゃーく!」
千歌「……」ハァハァハァ
曜「んー、やっぱ浦の星から見る駿河湾はきれいだなぁ……ねっ!ちーかちゃん♪」クルッ
千歌「……っも……だめ……」ガク
曜「ぅええっ千歌ちゃん!?」
千歌「よ……うちゃん……よくあんな坂をダッシュできる……ね……っふ……」ゼェゼェ
曜「ちょ、しっかりして千歌ちゃん!」
千歌「千歌はもうダメ……あとのことはまかせ……た……」パタン
曜「千歌ちゃぁぁああああああん!!!!!」
千歌「……」
曜「……」
千歌「……」
曜「はい、気が済んだら起きて起きてー」
千歌「ちえー」
曜「昔ならともかく今更バテたりしないでしょ?」
千歌「ぶっちゃけ全然バテてない」
曜「じゃなんであんな小芝居するの」
千歌「バテるような気にはなるじゃん」
曜「ああ、はいはいそうだね」スタスタ
千歌「なんかおざなりになってない!?ってちょっと待ってよー」スタスタ
・
・
・
15分で戻ります
・
・
・
ククク…ワガシモベタチヨ、ナンジラニ ワガカリソメノスガタヲ……
マタハジマッタズラ……
ソンナ フリツケ イレテナイヨー!
曜「お、やってるやってる」
千歌「三人とも変わらないねー。おーい……ってあれは」
果南「おーい、みんな久しぶりだね!」
ようちか「「果南ちゃん!?」」
鞠莉「チャーオ♪みんな元気ー?」
花丸「あっ鞠莉ちゃんずら!」
ルビィ「えっ、どうしたの二人とも」
善子「働いてる果南はともかく、マリーは東京に行ったんじゃ……」
鞠莉「今はサマーバケーションだもの、帰省くらいするわ♡」
果南「うちも今日は休業日だからね」
千歌「ええっ、でもさっき果南ちゃんのお店行ったら果南ちゃんの船がなかったよ?」
ルビィ「そういえばうちの家の前に知らない船が泊まってたような……」
果南「ああ、ちょっとダイヤに頼んで置かせてもらったんだ。今夜はちょっと遅くまで用事があるからね」
曜「なるほどそれで……」
千歌「ってダイヤさんも帰ってきてるの!?」
果南「あれ?もしかしてまだダイヤに聞いてない?」
ルビィ「ええと……私はなにも……」
花丸「あっ、そういえば善子ちゃんが昨日電話で話してるの見かけたずら」
善子「ヨハネよ!単にμ’sのDVDを借りようと思って電話しただけだから、私も何も聞いてないわ」
曜「DVD?」
果南「μ’sの?」
ルビィ「ふふっ、今度のふりつけは初めて善子ちゃんが担当するからね」
曜「ああ、つまり参考資料ってことだね」
千歌「へぇー、それなら私の家に行けばたくさんあるのに」
花丸「というか、それなら『ようちゅうぶ』でみればいいずら」
善子「あそこにアップされてないものだってあるのよ!それに沢山ありすぎてどれを見ればいいかわからないもの!」
ルビィ「だから相談してたんだよね」
花丸「めちゃくちゃ長電話だったからおらてっきり……」
善子「てっきり何よ」
花丸「黒歴史をなかったことにする方法でも聞いてるのかと……」
善子「違うわよ!そんな方法あるわけない……でしょ……うあああああやめて!忘れろ、あのことは忘れるのよヨハネ!」
ルビィ「ど、どうしたの?」
鞠莉「不意に昔やっちゃったイタい失敗を思い出して身悶えしてるのね……私もよくあるからわかるわ……」
曜「私もたまにあるなぁ……」
千歌「え?よーちゃんもあるの?どんな失敗?」
曜「いやー……失敗というか妄想というか……////」チラッ
千歌「へ?」
曜「……ナンデモナイデス////」
千歌「……?ええと、それでさっき果南ちゃんは何を言おうとしてたの?」
ルビィ「あの、まだお姉ちゃんから聞いてないって、何をですか?」
果南「ん、ほら、もう8月も半ばでしょ?だからみんなで集まろうかと思って」
善子「集まるって?」
果南「そのままの意味だよ。ああ、店も予約済みだから」
善子「……えらく急な話ね」
果南「ごめんごめん。でも今しかないだろうと思ってさ」
鞠莉「みんなが帰ってこれるのはこの時くらいだろうし、ね」
ようちか「「え?」」
善子「……あ」
果南「……」
花丸「……」
ルビィ「……」
善子「……あ、でもリリーが今集中レッスンで東京にいて……」
果南「へ?……あちゃー……参ったな」
花丸「問題ないずら!そんな時のための……よいしょっ……これずら!」ズイッ
善子「?そのラップトップがどうかしたの?」
花丸「ラップ?何言ってるずら?善子ちゃんはノートパソコンで食べ物を保存するずら?(呆れ)」
善子「なっ?!……ククク、これだからオールドタイプは……いい?こういうタイプのPCは膝の上で使用するからラッ
花丸「ほら、このSのマークを矢印でカチカチするとテレビ電話が使えるずら」
善子「聞きなさいよぉ!」ガーッ
鞠莉「スカイペ!たしかにこれなら遠くからでも集まりに参加できるわね」
果南「へー、こんなのあるんだ」
善子「でもリリーがスカイペできる環境かどうかわからないわよ」
ルビィ「それなら大丈夫だよ!前に新曲の手直しをこれでやってもらったから!」
曜「あ、そういえば今はルビィちゃんが作曲してるんだっけ」
千歌「えっそうなの!?すごーい!」
果南「なるほど、引き継ぎは順調みたいだね。んじゃ作詞の方は……」
曜「花丸ちゃんだよね」
花丸「マルがやってるずら。千歌ちゃんがのこしていったノートのボツネタ集も重宝してるずら♪」スッ
千歌「!?!?うぇぇええっ!?!?な、ななななっ……!!!?////」
鞠莉「ワーオ、これはなかなかのなかなかね……ぷくくっ、ここ面白いわよ果南」ペラッ
果南「へーどれどれ」
千歌「だめぇええええ見ないでぇぇえええっっ!!////」
曜「まぁまぁ落ち着いて千歌ちゃん」アハハ…
千歌「よーちゃん離して!あれだけは!あれだけは見られるわけにはぁあああ!!////」ジタバタ
曜「もう見られてるし、今さら隠すことなんてできないんだし、ね?」ガッチリ
果南「これ、千歌にもらったの?」
花丸「ん……千歌ちゃんのお姉さんがくれたずら」
千歌「美渡ねぇぇえええええ!!!」
曜(こういうことするのは志満ねぇな気がするなぁ)
果南「そっか……」
花丸「これがあるといつも側で千歌ちゃんが支えてくれてるような、そんな気がして……」
千歌「!」
花丸「おらもあんな可愛くて素敵な歌詞を書けますように……って、一種のお守りみたいなものずら」
千歌「花丸ちゃん……」
花丸「って、まだまだお経みたいで硬くって可愛さには程遠いけどね」アハハ
千歌「そんなこと……」
善子「安心しなさいずら丸。アンタ語彙力はあるし、今度の新曲も悪魔的でなかなか悪くないわよ」
花丸「……それ褒めてるずら?」
善子「むしろ私がデザインした漆黒の堕天コスチュームに下界の可愛さなど不要よ!」ククク
ルビィ「善子ちゃんのデザイン通りに仕立てるのすごく大変なんだけどなぁ……」
善子「ヨ・ハ・ネ・よ!だから私も型紙や参考資料を用意してるでしょ!」
ルビィ「うん、それはすごく助かってるよ。寸法記録なんかもきっちりまとめられてて」
鞠莉「もしかして曜から託されたの?」
曜「へ?」
善子「……曜はたまに私がコスプ……真の姿に戻る時の装束を見るため家に来てたから、そのときにちょっとね」
千歌(今コスプレって言いかけてた気がする)
曜「あー、コスプレ衣装見せてもらいにいったときに渡したあれかぁ」
千歌「あ、やっぱコスプレだったんだ」
曜「いやー機会があれば、みんなで制服アイドル!とかやってみたいなーって思ってさ」テヘヘ
千歌「そんなこと企んでたんだね……」ジトー
曜「あ、ちなみに千歌ちゃんには褐色のシャツの上に黒いネクタイと全身真っ黒な肩章付きスーツ、その上に銀色のバックルがついた腰ベルト、斜めベルト、黒い乗馬用ブーツ、黒い軍帽、そして忘れちゃいけないのが鉄十字と赤い腕しょ」ペラペラ
千歌「ストップストーーップ!!!なんとなくそれ以上は危険な気がするから!」
曜「ええーかっこいいのにー」ブー
千歌「もう……どうして昔から私に軍服を着せたがるかなぁ……」ハァ…
曜「かっこかわいいじゃん!」
千歌「はいはい……」
果南「それで曜がまとめたノートこれ?」スッ
曜「!?!!??!」
善子「ノートっていうかスケッチブックね」
曜「ふぁっ!?あっちょ、それちょっと待っ」
千歌「……!まぁまぁ、よーちゃん落ち着いて」ニヤニヤ
曜「くっ……こうなったら千歌ちゃんだけでも目隠しヨーソロー!」シュッ
千歌「わわっなんで私だけー!?」
鞠莉「Oh……これはすごいわね……メモの細かさもだけど完成予想のデッサンが……」
果南「曜は絵が上手かったからね」
鞠莉「うん、そこもだけど……ね?」
果南「あー……うん」
花丸(描かれてる子がどれも千歌ちゃんにそっくりずら)
千歌「え?何?何があるの?ちょっと曜ちゃん手離し、てっ」
曜「同好のよしみで貸してあげただけなのに、善子ちゃんのバカー!」
善子(正直にいうと曜と私じゃコンセプトが違うのよね……)
鞠莉(ワーオ……こんな工 チックなものまで……)
千歌「私にも見せてよー!」ジタバタ
曜「だめったらだめー!!!」
・
・
・
・
・
・
果南「さて……みんなそろそろ行こっか」
花丸「えっ、でも」
ルビィ「まだ3時だしお店開いてないんじゃ……」
果南「うん、お店の前にちょっと寄りたいところがあってね」
善子「寄りたいところ?」
鞠莉「明るいうちに行かなきゃダメなところよ」
善子「……ぁ」
ルビィ「もしかして……」チラッ
花丸「……」コクン
千歌「うーん、みかん畑とか?」
曜「いやいや、閉館時間のこととか考えるとみとしーかも」
千歌「あっ、なるほど曜ちゃん頭いい!」
曜「えへへ////」テレテレ
果南「それじゃ車取ってくるから校門の前で待っててね」
ようちかまりよしまるルビィ「「「「「「はーい!」」」」」」
◆
◆
◆
◆
◆
◆
カッチッカッチッカッチッ [→]
果南「……」
鞠莉「……」
果南「……」フワァ…
<30mサキ ミギホウコウ、ソノサキ、ミチナリニ2kmデス
<マモナク ミギホウコウ デス
果南「……ょぃしょ…っと」グイー
<2km、ミチナリ デス
果南「ふぅ……」
鞠莉「……はい、眠気覚ましのガム」スッ
果南「ん、ありがと」アーン パクッ
ルビィ「……」ウト…ウト…
善子「ずら丸、あんた車の中でパソコン見てたら酔うわよ」
花丸「わいふぁいの接続がおかしいずら……目的地に着く前になんとかしないと梨子ちゃんが……」
善子「仕方ないわね……ほら、まずそこの環境設定ってところをクリックして……」
千歌「……」
曜「……」
千歌「せまい……」ヒソヒソ
曜「仕方ないよ……」ヒソヒソ
千歌「というかこの車って5人までしか乗れないんじゃ……ここってトランクの場所だよね?」
曜「そこはまぁ大丈夫でしょ、私たちだし」
千歌「……まぁ」
曜「いざとなれば車の後ろにしがみつくって手もあるけど」
千歌「それおまわりさんに見つかったら一発アウトだね」
曜「今だって見つかったらアウトだよ。見つかるわけないけど」
千歌「うう……持ち前のじゅんぽー精神のせいで罪悪感が……」
曜「勢いでラブライブのルール破っちゃうくらいロックなのに?」
千歌「……それよりさ」
曜「おおっとここでちかちー選手の熱い話題そらし!」
千歌「みとしー通り過ぎたよ」
曜「……ところでさ」
千歌「よーちゃん艦長の回避運動には負けると思うなぁ」
曜「とーりかーじいっぱい!右、後進全速、左、前進全速!いそげー!」
千歌「……」
曜「なんちゃって」エヘヘ
千歌「うーん、ほんとどこに向かってるのかなぁ」
曜(スルー!?)ガーン
千歌「沼津方面ってことはわかるんだけど……」
曜「明るいうちに行かなきゃいけないところ……んー……」
千歌「市場……図書館……市役所……びゅうお……は暗くなってからもいけるし……」
曜「……………あ」
千歌「え?なにかわかったの?」
曜「たぶんあそこかも」
千歌「あそこ?」
曜「ほら、私たちがさ」
千歌「……ああ、みんなそれで」
曜「……」
千歌「……」
・
・
・
カナカナカナカナ
カナカナカナカナカナ
ツクツクホーシ
ツクツクホーシ ホーシツクツク
カナカナカナカナカナカナカナ
千歌「あーやっぱりここだったんだ……」
曜「だねぇ……」
ダイヤ「ちょっと、遅いですわよあなたたち」
果南「いやーごめんごめん、ちょっと道が混んでて……」
ダイヤ「そりゃそうですわ。今はお盆ですもの」
鞠莉「ダイヤ久しぶりね♡」
ダイヤ「あなたとは毎日会ってるでしょう!」
ルビィ「お姉ちゃんと鞠莉さんのアパートって近いんだっけ」
花丸「えっ同棲ずら!?」
善子「いやいや、近いって言ってるんだから同棲じゃないでしょ」
果南「まぁ……似たようなものじゃないかな……」
善子「えっ?」
果南「ほら……鞠莉は料理が、ね?」
善子「あっ(察し)」
ダイヤ「まったく、どうしてわたくしがあんな家政婦のようなことを」ハァ…
鞠莉「……?……Oh!もしかしてみんな私の得意料理を食べ
ダイヤ「たいなんて言ってませんわ。それより……」
ザァァ
ダイヤ「行きますわよ」
かなまりよしまるビィ「「「「「……」」」」」コクン
ようちか「「……」」
・
・
・
.
ザァァ
ダイヤ「さて……お久しぶりですわね千歌さん、曜さん」
千歌「あ、ども」
曜「お久しぶりであります会長殿!」ビシッ
千歌「元だよ曜ちゃん」
曜「元会長殿!」
ダイヤ「……」
ザァァア
ダイヤ「……今日は夕凪が強いですわね」
果南「もうすぐ秋がくるんだよ」
鞠莉「夏が……――ちかっち達の季節が終わっちゃうのね」
千歌「へ?」
ルビィ「千歌ちゃんと曜ちゃんはほんと夏!って感じだもんね」
曜「そうなの?まぁたしかに夏は好きだけど」
善子「曜さんは広くて青い海で、千歌さんは――」
花丸「――温かくて明るい太陽ずら」
千歌「ぅええっ!い、いきなりどうしたのみんな////」
曜「千歌ちゃんがお日様ってのはわかるけど、私が海って……////」
千歌「えへへ、なんか照れちゃ
花丸「やたっ、つながったずら!」
千歌「え?」
花丸「もしもし?もしもし聞こえるずら?」
『……し、もしもし?花丸ちゃん?』
千歌「えっ……その声は……」
曜「梨子ちゃん!?」
善子「もしもし?リリー聞こえる?」
梨子『あれ?もしかしてよっちゃん?』
果南「私もいるよ」
ルビィ「私も!」
鞠莉「私もいるわよ梨子♡」
梨子『ええと、みんないるの?』
ダイヤ「果南も鞠莉も善子さんも花丸さんもルビィもわたくしも、みんないますわ」
ダイヤ「もちろん――」
ダイヤ「――千歌さんと曜さんも」
梨子『……!』
千歌「もしもし聞こえるー?ちかっちだよー!」
曜「おは曜ーソロー!」
千歌「もう夕方だけどね!」
梨子『……久しぶり千歌ちゃん……曜ちゃん……二人とも相変わらず漫才師みたいだね』
千歌「!?えっまさか聞こえるの!?」
曜「いやいやいや」
梨子『……なーんて……本当にそこにいるのかな……返事とかしてくれてるのかな……もしそうなら嬉しいんだけど……』
千歌「あ……やっぱ聞こえてないんだ……」
曜「だろうね……」
千歌「電話越しなら通じるかと思ったんだけどなー」
曜「そんなオカルトありえないって。だって私たち」
曜「幽霊なんだもん」
千歌「だよねぇ」
.
.
ザァァ…
ザァァアァ…
梨子『ねぇ千歌ちゃん』
千歌「なーに?」
梨子『曜ちゃん』
曜「どしたの?」
梨子『……二人ともどうして死んじゃったの』グス
千歌「……」
曜「……」
梨子『アイドル部は二人が始めたものなのに……急にいなくなって……どうしてなの……』グスグス
千歌「……ごめん」
ルビィ「ほんとだよ……CYaRonは私一人になっちゃったんだよ……」ポロ
曜「……ごめんね」
花丸「千歌ちゃんが遺したノートを見るたびに泣いてしまう方の身にもなってほしいずらっ……!」ポロポロ
千歌「それについては千歌も泣きたいですハイ」
善子「リトルデーモンがヨハネの契約を勝手に破棄するなんて許されると思ってるの!?……一人のバスがどんなに退屈か……」ジワ
曜「え、リトルデーモンってもしかして私のこと?」ヒソ
千歌「たぶんそうだよ、謝っときなよ」ヒソヒソ
曜「えと……すいませんでした」ペコリ
鞠莉「曜、あなたもうちかっちに伝えたのかしら?」
曜「へ……?」
鞠莉「“私!渡辺曜は千歌ちゃんのことが〈曜「わああああああああっっ!!!!」〉です!” って」
千歌「ちょ、曜ちゃん?!どうしたのいきなり叫んで」
曜「な、なんでもない。なんでもないよー」
鞠莉「いい?伝えたいことがあるなら声に出さなきゃ伝わらないのよ……?」ジワ
鞠莉「つ……伝えられなく、なってから………っ……じゃ、遅い、んだからね”っ……!」ポロポロポロ
曜「っ!……鞠莉ちゃん……」ズキ
ダイヤ「……千歌さん」
千歌「は、はい!」
ダイヤ「あんなにあっさり亡くなるなんて……しつこく生徒会室に押しかけてきた頃の粘りはどこに行ったんですの」
千歌「あ、いやー……一応千歌なりに頑張ったんですけど気がつくと死んじゃってまして……運が悪かったっていうか」
ダイヤ「言い訳はブッブーですわ!!」ズイ
千歌「ひぇっ!!も、もしかして聞こえて……っていうか見えてます?あの近いんですけど……」
ダイヤ「……なんて、何もないところに詰め寄っても仕方のないことですわね」
千歌(あっ、なんだ)
ダイヤ「いいこと?わたくしもいずれあなた方のところへ行きます」
千歌「っ、そんな!だめです!ダイヤさんは長生きを 「もっとも」
ダイヤ「……もっとも、いつになるか分かりませんが……その時までに納得のいく言い訳を考えておくことですわ」
千歌「……!」
ダイヤ「わたくし本気で……ぐす……っふ……ほんっきで、怒ってるんですからね……」グスッ
千歌「……ダイヤさん……ごめんなさい」
曜「言い訳より土下座の練習しておいたほうが良さそうだね……」
千歌「うん……」
果南「……さて」
ようちか「「!!」」
果南「そろそろ行こうか」
ようちか「「……」」
ようちか「「……え?」」
梨子『……えっと……果南さんは二人になにも言わなくていいんですか?』
鞠莉「果南……」
果南「ああ、うん……言いたいことが多すぎてね……」
果南「正直、二言三言じゃ収まりそうにないんだ」
曜「果南ちゃん……」
ダイヤ「あなたが一番お二人と付き合いが長かったですものね……」
果南「ん、まぁ……お盆中にまた一人できて気がすむまで話そうと思うよ」
千歌「……うん。待ってるよ」
曜「お盆が終わるまでは、しばらく果南ちゃんと一緒に行動しなきゃね……」
果南「それに」チラッ
ようちか「「!?」」ビクッ
梨子『……?』
花丸「え……なんずら?」クルッ
ルビィ「そっちになにかあるの?」
果南「たまに視線を感じるっていうかさ」ジー
千歌「……」ドキドキ
曜「……」ドキドキ
善子「視線って……まさか……」
果南「いるような気がするんだよね、たまに」アハハ
ダイヤ「……それって千歌さんと」
鞠莉「曜が、ってこと……?」
千歌「……」
曜「……」
果南「お盆の時だけじゃなくて、いつも昔と変わらずここに住んでるのかもって……」
梨子『……昔のまま……二人が……』
果南「ま、可能性の話だけどさ」
千歌「……」
曜「……」
果南「だからもしも……私たちには分からないだけで、いつでも会いに来てるのなら……」
千歌「……」
曜「……」
果南「私も昔と変わらず二人と一緒にすごしたいって思うんだ」アハハ…
◆
◆
◆
◆
◆
◆
~夜の浜辺~
千歌「……」
曜「……」
千歌「……参ったなぁ」
曜「……果南ちゃんのこと?」
千歌「うん……さすがというか、なんというか……」
曜「人間離れしてるよね、色々と……」
千歌「動物的っていうか……ううん、それは言いすぎかな……」
曜「そういえばしいたけも私たちのこと見えてるっぽいよね」
千歌「……うん、やっぱ動物だよ果南ちゃん」
千歌「曜ちゃん曜ちゃん」
曜「なになに千歌ちゃん」
千歌「果南ちゃんは昼間の起きてる時でもなんとなく私たちに気付けてるわけじゃん?」
曜「ふむふむ?」
千歌「だから寝てるとき枕元に立ったら会話できるんじゃない?」
曜「んと……つまり幽霊らしく化けてでようってことだよね?」
千歌「そうそう」
曜「でも枕元に立ったくらいで気付くかなぁ……」
千歌「そこはほら、夢の中に入って」
曜「できるの?」
千歌「だって私たちって海の上を歩いたり狭いところに入り込んだりできるし!」
曜「でも夢の中だよ?果南ちゃんの車のトランクに入るのとはわけが違うよ?」
千歌「うーんそれじゃ……二人で寝てる果南ちゃんにハグしてみるとか!」
曜「ほうほう、それで?」
千歌「二人で力一杯ハグすれば気がつくんじゃないかなぁ」
曜「……金縛りになりそうだね」
千歌「果南だけに金ん縛り!なんちゃって!」
曜「……」
千歌「あっ、今のはね?果南ちゃんと金縛りをかけていて」エヘヘ
曜「説明不ヨーソロー!」ビシッ
千歌「あうっ」
曜「それで、もし果南ちゃんと会話できたら何話すの?」
千歌「んー……そりゃやっぱり……」
千歌「……まずはごめんなさい、かな」
曜「だよね……」
千歌「あと、私たちは元気だよって、心配してくれてありがとうって伝えたい」
曜「誰もいないところで、ふとした瞬間に泣き出す果南ちゃんはもう見たくないもんね」
千歌「あれはショックだったよ……だってあの果南ちゃんが、だよ?いつも凛々しくて頼もしい果南ちゃんが……」
曜「パパが泣いてるのを見たときくらいショックだったね」
千歌「しかもその原因が私たちっていうね……」
曜「名前を呼ばれて泣かれるのは正直きついであります……」
千歌「置いていかれる側はつらいってよく言うけどさ」
曜「うん」
千歌「置いていった人たちを見せられるのもつらいよね」
曜「うん、わかるよ。すごく勝手な言い分だけど」
千歌「あ、それとさ!これ!これだけは絶っ対に言いたい!」
曜「なになに?なんか重要ごと?」
千歌「『ご飯以外の料理も仏壇に供えてほしい』」
曜「……」
千歌「ってお姉ちゃんに伝えてほしい!あ、もちろん三食ね!」
曜「……わかる!めっちゃわかるよ!!」
千歌「そりゃ食べなくても大丈夫な体だけどさ!匂いだけでも割と満たされる不思議な身体だけどさ!」
曜「うんうん!」
曜「っていうか、仏壇の前に置かないと食べられないシステムはどうにかしてほしいよね!」
千歌「毎日毎日、白いご飯、ご飯、ご飯……たまにミカンとお菓子……おかずは匂いだけ……」
曜「数秒置いてくれれば不思議パワーでコピーできるから!お願いだからおかずも置いてください!」
千歌「千歌たちは育ち盛りなんだよ!」
曜「私たちもう育たないけどね!」
千歌「え、えーと、ほら、身体の成長はとまったけど頭は良くなるかもだし」
曜「おばけにゃ学校も試験もないんだよ?」
千歌「……そういえば梨子ちゃんが受験で弾く曲って」
曜「ああ、さっきスカイペで言ってたね」
千歌「そうそう食パンの」
曜「ショパンだよ千歌ちゃん」
千歌「そうそうシチューと作品ジョナサン」
曜「エチュード作品10の3ね」
千歌「そう、それそれ、結局やめて他の曲にするって言ってたね」
曜「なんだっけ、ラヴェル?」
千歌「鏡の3曲目とか言ってた気がする……どんな曲なんだろ」
曜「さぁ……。まぁこっちに帰ってきたときに聴けるんじゃない?」
千歌「ん、そうだね」
曜「それよりどうしてショパンを弾くのやめたんだろ」
千歌「うーん……心境の変化?」
曜「どんな?」
千歌「……失恋して落ち込んでたけど新しい恋が見つかった的な」
曜「へー、梨子ちゃん恋してたの?誰に?」
千歌「ごめん適当言った」
曜「知ってる」
千歌「そもそも前の曲もどんな曲なのか聴いたことないからなぁ……」
曜「……」
曜(心境の変化、か……もしそうならきっと私たちが死んじゃったことに関係が……)
千歌「?よーちゃん?」
曜「ううん、なんでもない」
ザザァ…ン
パシャッ…
ザザァ……
曜「あ、もうすぐ0時だよ」
千歌「え?もうそんな時間?てっきりまだ22時くらいかと」
曜「お盆は交通量が多いから、時間の感覚が狂うよね」
千歌「そういえばお盆のわりにあまり幽霊見かけないね」
曜「あー……」
千歌「都会とかに出て行ったらだんだん帰省しなくなるって聞いたことあるけど、死んだ人も同じなのかな」
曜「んー、どうだろ……」
千歌「というか、みんなどうして“向こう側”に行っちゃうのかな。今までどおりここに居たっていいのに」
曜「……私、ちょっと分かる気がするよ」
千歌「え?」
曜「例えばさ、人はたいてい生まれてくる時は一人じゃない?」
千歌「双子でもなけりゃ、うん、そうだね」
曜「んでもって、死んじゃう時も一人で死んでいく、と」
千歌「まぁ……うん」
曜「ってことは死んだ後ここに居てもずっと一人ぼっちなわけじゃん」
千歌「あ……」
曜「誰にも自分の姿が見えない、誰からも話しかけられない、誰にも自分の声が届かない」
千歌「そっか……たしかにそれならいっそのこと向こう側へ行きたくなるかも……」
曜「……」
千歌「でも千歌は内浦が好きだから、向こうに行きたいとか考えたことないなぁ……」
曜「………」
曜「……あのさ、千歌ちゃん」
千歌「なに?」
曜「私今から最低なこと言うけど、嫌わないでね」
千歌「え、なになに?そうやって予防線張られると怖いんですけど……」タラ
曜「死んじゃった時、ああ私の人生終わっちゃったんだ……って気付いた時……」
曜「……やっぱり悲しかったし辛かった」
千歌「……」
曜「そりゃそうだよ。まだまだやりたいことは沢山あったし、船長さんになりたいって夢だってあったから」
千歌「……うん」
曜「でも……傍に千歌ちゃんがいて、千歌ちゃんが同じ状況になってるって知って……」
曜「……」
曜「……もちろん悲しかったよ。どうしてここに千歌ちゃんがいるの、千歌ちゃんは助かったんじゃなかったの、って」
曜「けれど……」
千歌「……」
曜「心のどこかで……安心、しちゃったんだ」
千歌「……!」
曜「ううん、それどころか下手すると喜んじゃってたかもしれない」
曜「嬉しい……千歌ちゃんと一緒だ……私は一人じゃない……一人ぼっちじゃないんだ、って……」
千歌「曜ちゃん……」
曜「もっと生きたかったのは千歌ちゃんも同じなのに……ごめんね」
千歌「ううん、私もそうだよ……曜ちゃんも死んじゃったってことがわかったときは悔しかったけれど」
千歌「一緒なんだって気付いたら少しホッとしちゃったもん……」
曜「千歌ちゃんも……?」
千歌「だってほら、ひとりきりは寂しいもんね」
曜「……そうだね」
千歌「だからおあいこ。ね?」
曜「うん……」
曜「……」
曜「……今朝さ、わたし眠くならないって言ったよね」
千歌「ああそういえば言ってたね」
曜「正確には眠くないんじゃなくて、寝たくないんだよ」
千歌「ん?どして?」
曜「……だって眠ってる間に千歌ちゃんがいなくなってたら嫌だもん」
千歌「!」
曜「実際、私たちこれからどうなるか分からないでしょ?」
曜「いつまでこうしてここに居られるのかもわからない」
曜「千歌ちゃんだっていつ “向こう側” に呼ばれるか」
千歌「わたしは行かないよ」
曜「……わからないよ」
千歌「行かない。少なくとも曜ちゃんを置いていったりしない」
曜「でも……」
千歌「そんなに心配ならさ」ギュッ
曜「っ!千歌ちゃん……?」
千歌「眠る時も、こうして手をつないでようよ」
曜「……」
千歌「こちら側で曜ちゃんが感じることのできる人肌は私だけ……だから、手の中に感触がある限り私はここにいるよ」
曜「……」ジワ
千歌「曜ちゃんが握りしめてくるなら私は握り返すよ。だから私が握りしめたら曜ちゃんも握り返して、ね?」ギュウ
曜「……う、ん……」ポロ
千歌「曜ちゃんが求めるかぎり、私はいつでもここにいるよ」
曜「千歌ちゃん……ちかちゃん……」ポロポロ
千歌「もし曜ちゃんが向こうに行きたくなったら手を離してくれてもい 「離さない!」
千歌「……よーちゃん?」
曜「……」グシグシ
曜「……絶対に離さないよ!もし向こうに行く時は千歌ちゃんも連れて行くから……!」
千歌「……」
曜「だから、ずっと側にいてほしい。ずっと一緒に私と……!」
千歌「……うん……ありがとう……!」
曜「えへへ……」
千歌「……さぁ、それじゃ行こっか!」
曜「え?行くってどこに?」
千歌「もー、忘れたのー?果南ちゃんのとこだよ!」
曜「あ……ほんとにやるんだ金縛り作戦」タラ
千歌「もちろん!果南ちゃんと会話できるかもしれないからね!」
曜「ただのいやがらせにならなきゃいいけど……」
千歌「ほら早く早く、行こっ?」キュッ
曜「もう、しかたないなー」ギュッ
曜(この先どうなるかなんてわからない)
曜(理屈も何もわからない不条理な力が当たり前で)
曜(この世界の仕組みも、私たちの在り方も……まだよく知らない)
曜(今に比べれば、生きていた頃はある程度先のことがわかってたんじゃないか、って思っちゃうくらい)
曜(正直まだまだ不安だけれど……千歌ちゃんと一緒なら――)
曜「よーし!出港準備ー!淡島に向かって全速前進ヨーソロー!」
千歌「ヨーソロー!」
曜(――なんとかなるような、そんな気がするんだ!)
み完!
おまけ
梨子「はい……はい……この曲でいきます……」
梨子「……」
梨子「……いえ……それでは明後日までに譜読みしていきますので……はい……」
梨子「よろしくお願いします……失礼します……」ピッ
梨子「……」フゥ
梨子「二人は昔と変わらずにそこにいる、か……」
梨子「……」チラッ
【楽譜】(ショパン:エチュード作品10-3)
梨子「もしそれが本当なら……“お別れ”じゃないってことだよね?」
梨子「いつも通りってことだもん」
梨子「初めて二人と出会ったあの頃と……」スッ
【楽譜】(ラヴェル:「鏡」より)
梨子「第三曲……Une Barque sur l’Ocean……」
梨子「……そう、きっとあの時のように」
梨子「二人はいつもあの海にいるはずだから」
おわり
乙、普通に読んでたから意表をつかれた
幽霊なのにそんなに湿っぽくなくていい…
ピアノの曲ググってきたけどなるほどな…
乙
夜中なのに最後読んじゃったよ
ストーリーもすごくいいんだけどようちかのやりとりが理想的ですごく良い
ありがとう
船のくだりも海の上を歩いたってことか
すげぇな
乙
読み返すと全部納得できる
すごい
ショパンのエチュード作品10の3は通称「別れの曲」で英語の通称は「悲しみ」
ラヴェルの「鏡」第三曲の題名日本語訳は「海原の小舟」
つまり梨子は別れを悲しむことをやめて、船で海に出てシュノーケリングしたときのように
二人を側に感じる曲を選んだってことかな
乙乙
すごいよかった、流石み完の人
これが叙述トリックってやつですかね
すごい
乙乙
泣いた
引用元: undefined
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