彼方「万引き少女を捕まえちゃったぜ」【SS】
「……」コソコソ
彼方(あの子……商品をポケットに入れて、そのままお店を出て行こうとしてる……?)
彼方「あの~、ちょ~っといいかな~? 今、ポケットに……」
「……! っ!」ダッ
彼方「っ! 待てぇっ!」ダッ
「っ、速──」
彼方「とりゃぁっ!」ダッ、ギュッ
「うきゃぁっ!」ドサー
彼方「ポケットの中身、ちょ~っと見せて貰おっか」ゴソゴソ
「や、やめっ……」
彼方「あちゃ~……お客さん、コレレジ通してないよね~……?」
「うっ、うぅ……」グスッ
彼方「ちょ~っとこっち来ようかぁ。逃げないでね~」テクテク
彼方「失礼しま~す」ガラッ
店長「あ、近江さん? どしたの、その子」
彼方「店長。ちょっとこの子、レジに商品通さないで持って帰ろうとしちゃってて」
店長「え。マジ? どうしよ、私今休憩終わりで、これから出なきゃなのに……はー……」
彼方「……じゃあ、私が代わりにお話しします。見たところ学生ですし、私の方が話しやすいと思いますから」ニコッ
店長「いいの? 近江さん学生だから、そろそろ上がらないとマズいよね」
彼方「大丈夫です。もうそろそろ卒業ですし、ちょっとやそっとくらいバレないですから~」
店長「そっかぁ、助かるよ近江さん。でも、ほどほどの時間でこっちに連絡寄越して交代してね、こういうのって時間かかったりもするから」
彼方「は~い」
「……」
「……はい」
彼方「えーと、それじゃあ……まず、お名前は?」
「…………」
彼方「……その制服、確か芝浦の〇〇高校の制服だよねぇ。そこの生徒さんかな?」
「…………」
彼方「う~ん……それじゃあ、ちょっと生徒手帳見せて貰えるかな~」
「…………」
彼方「……見せてくれないなら、勝手に見るよ?」スッ
「っ、だめっ……」グッ、グググ
彼方「じゃあ、お巡りさん呼んじゃおっか。私も早く帰らなきゃ行けないから、何も喋らないならお巡りさんに引き渡すしかないね~」
「や、やだ……警察はやだ……!」
彼方(う~ん……学校は閉まってるだろうから電話しても無駄だろうし……それじゃあ──)
彼方「じゃあ、どうしようかな~……『初犯だから見逃してあげるね、二度とこんなことしないでね』って私の一存じゃ出来ないもんなぁ~……」チラッチラッ
「う、うぅ……」
彼方「だから、このままだとお巡りさん呼んじゃうけど……どうする? 大人しく話す? それとも逮捕されちゃって、学校やめる?」
「っ……」
彼方「あのね。君が何年生なのか知らないけれど、学校をやめるってすっごく辛いことだと思うんだぁ。だから……話してくれるかな」ニコッ
「は、はなし、ます……」
彼方「よく言いました。それじゃあ、お名前は?」
「っ……引田 万結(ひきた まゆ) って言います……」
彼方(なんでそれっぽい名前なのサ……)
彼方「なら、年齢を教えてくれるかな?」
万結「16歳です……」
彼方「16歳かぁ……学年は?」
万結「い、1年生です……」
彼方「そっかぁ……」
彼方(うーん……正直も地味な子だし、こっちを舐めてるような態度でもないし……もしかしたら──)
万結「ど、どうぞ……」
彼方「さっきポケットの中から出て来たお菓子とは別に……5本のジュースと、いくつかのお菓子かぁ。随分な量だね」
万結「……5人分、ですし」
彼方「5人分、ね。お友達と飲もうと思ったのかな? これを入れた鞄があったから、重くて走るのが遅くなったんだねぇ」
万結「……そう、です」
彼方「お友達の数は、何人かな?」
万結「5人……です」
彼方「そっかぁ……うん。じゃあ、ちょっといいかな」グッ、メクリッ
万結「きゃっ!? な、なにを……ま、まさか──」
彼方「ほうほう……見事に痣のついたお腹だねぇ。こりゃあ酷い怪我だぁ、さっきは押し倒してごめんねぇ」
万結「え……」
彼方「それと……こっちもちょっと失礼」ヌガシーッ
万結「い、いやっ、やめっ……」
彼方「うひゃぁ、背中や腰も青いね~……コレはどうしたのかなぁ、さっき私が押し倒した時についた怪我ってワケじゃなさそうだよねぇ」
万結「こ、こないだ道で転んで……」
彼方「どんな風に?」
万結「っ……そ、れは……」
彼方「そうだよねぇ。お腹や背中を強打するような転び方をしたなら、腕や顔に擦り傷が出来てるはずだよねぇ……それに、転んで痣になるなんて余程のことがないと無理だよねぇ」
万結「あ……そ、の……」
彼方「誰かに、万引きして来いって言われたのかな?」
万結「っ、う、うぅっ……! は、はい……!」グスッ
彼方「そっかそっか……大変だねぇ」
万結「……その、私……学校で、不良グループの女の子たちにいじめられてて……」
彼方「どうしてかな? 君、結構いい子そうだけど」
万結「胸が、ちょっぴり大きかったのと……アイドルオタクだから、って馬鹿にされてて……」
彼方(そういえば虹ヶ咲にいて感覚が麻痺してたけど、改めて見るとこの子の胸結構大きいな……歩夢ちゃんよりちょっと小さいくらいかなぁ)
万結「一回だけ、その不良グループに言い返したことがあって……その時から本格的にいじめられだして……気に食わないことがあると殴られたり、蹴られたりして……いつも、何か命令されてっ……」グスッ
彼方「そうなんだぁ……頼れる人はいなかったの?」
万結「親はお仕事で忙しくて……友達もいなくて、でも、中学生の妹にこんなこと相談するのも出来ないし……だから、ずっと言いなりに、なるしかなくてっ……」グスッ
彼方「……本当に、本当に……大変だったんだね」ギュッ
万結「嫌なのに、やめてって言ってるのに……無理矢理、ホテルに連れていかれたりもしてっ……」グスッ
彼方「え」
万結「ひどい目に、遭わされ続けて……今日はこんなことまで、やらされてっ……ううっ、うわあああああっ……」グスグス
彼方「……」
彼方(想像以上に、大事になって来た気がするなぁ……)
彼方「泣き止んだね。もう、お話しても大丈夫かな?」
万結「……はい」
彼方「今回、確かに君は被害者ではあるけれど、同時に加害者でもある……だから、このまま『はい、気を付けて帰ってね』とも言えない」
万結「……っ、じゃあ、私は──」
彼方「だから。今回の件は明日に持ち越そうと思うんだぁ。明日、正式に君の学校にお電話する。そして、全部の真実を明らかにする」
万結「えっ……」
彼方「でも、それは君の学校が終わってから。だから……君は自分められている証拠を用意して貰えるかな」
万結「ど、どうやって……」
彼方「そこは、君次第かなぁ。何とか、頑張ってって感じに……」
万結「え、えぇ……?」
彼方「自分で頑張らなきゃ変えられないこともある。だから、ここが頑張りどころだよ」ギュッ
万結「うぅ……わ、わかりました……」
彼方「良し。それじゃあ、この紙に家と自分の電話番号を書いてくれるかな。それと、学校のも」
万結「は、はいっ……」カキカキ
彼方「それじゃあ、最後にコレ」スッ
万結「えっ、と……1300円……?」
彼方「今回のコレは彼方ちゃんが立て替えて進ぜよう……だから、解決したら払ってね。それで君は無罪放免だよ」ニコッ
万結「わ、わかりました……! 私、頑張ります!」
彼方「気を付けて帰ってね~」
彼方「……よし、取り敢えず今回は店長に報告しよう。ちょっと怒られるかもしれないけど……まぁいいか。さてと、今は何時──」
ポーン『22:45』
彼方「……オゥ」
彼方(さぁて……万結ちゃんはちゃんと来てくれるかなぁ……)
「あ、あの……」
彼方「あ、は……は!?」
万結「この、えさん……私、です……」
彼方「ど、どうしたの、その怪我……!」
万結「……ちょっと、やられすぎちゃって……でも、証拠が、取れたんです……」
彼方「と、とにかくこっちに来て!」グイッ
万結「うぅっ」ズルズル
彼方「ふぅ……事務所に救急箱が置いてあって良かったよ……」チョンチョン、ペタペタ
万結「ありがとう、ございます……でも、私……やりました。やれたんです……」ゴトッ
彼方「スマホ……コレで、証拠が取れたんだね」
万結「はい、写真も、頑張って……撮ったんです……必要以上に、ボコボコにされちゃいましたけど……私、頑張ったんです……」
彼方「……偉い、偉いよ。万結ちゃん」ナデナデ
彼方「……今から、学校に電話するね。いいかな」
万結「はい、お願いします……」
prrrrrrr…………
彼方「あっ、もしもし。〇〇高校のお電話ですか? 私──」
彼方「どうぞ」ガチャッ
「失礼します。私、〇〇高校の教師の教誓 道世(きょうせい みちよ)と申します。引田さんのクラスの担任の教師をさせていただいております」ペコォーッ
彼方「あぁどうも、電話させていただいた近江です」ペコッ
万結「っ……先生……」
道世「この度は、うちの引田さんがご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございません!」ドゲザーッ
彼方「あぁっ、別に先生が謝るのはそこじゃないですよぉ。顔上げてください」
道世「は、はい……」スッ
彼方「……今まで、どうしてこの子のいじめを知らなかったのかについて教えてくれますか?」
道世「それは……生徒たちが巧妙な手口でいじめを隠蔽していた、としか──」
彼方「要は、先生がキチンとこの子を見てなかったってことですよね?」ニコニコ
道世「っ……は、はい。返す言葉もございません……」
彼方「それじゃあ。先生、コレ見てください」スッ
道世「っ……ひ、酷い……」
彼方「今まで万結ちゃんがつけられた傷と……今回、万結ちゃん自身が傷つきながらも頑張って撮って来たいじめの証拠です」
道世「……」
彼方「少なくとも、今日時点で店長と話し合った結果、警察を呼んだりするような事態にするつもりはないと決めましたし、決定権は私の裁量に委ねるとも言葉をいただきました。けれど、彼女がこうして暴行を受けている以上は」
彼方「犯罪の教唆で、万結ちゃんを傷つけた生徒たちを訴えます。元を辿れば、彼女をイジメてる子たちが原因で、このスーパーも被害を受けたので」
道世「そ、それだけは……!」
彼方「それじゃあ、先生。どうしますか? まさか、加害者の未来なんて言葉を持ち出したりしないですよね」ギロッ
道世「っ……引田さん。イジメて来た生徒たちを、教えていただけますか? 今すぐ、ここに呼び出して──」
彼方「呼び出して?」
道世「あっ、謝らせます。勿論、私自身も今ここで謝罪します。引田さんのいじめを黙認してしまい、あなたの高校生活に──」
万結「……いらない」
近江さんじゃなかったら、私、警察に連れていかれて……学校だってやめなくちゃいけなかったかもしれないのに!
先生からごめんなさい、だけで済まされたって……そんなのっ、絶対に許したりなんか出来ない!」
彼方「……じゃあ、万結ちゃんはどうしたい?」
万結「ふーっ、ふーっ……今すぐ、あの子たちも、先生もまとめて、消えて欲しい……! もう、私の視界に現れないで欲しい……!」
彼方「だ、そうです」ニコ
道世「……」
彼方「私はただ、この万引きの一件に関わっただけに過ぎないけれど……万引きって言うのは立派な犯罪なんです。
働く人たちを苦しめて、苦しめて……それがいつか、お店を崩壊させて、そのお店を利用していた人たちの生活にまで影響を与える。
それが、簡単な言葉で片づけられて、簡単な処置で済まされるほどのことじゃないんです」
道世「……本当に、申し訳ございません」
彼方「先生が私や万結ちゃんに謝ったところで、何も意味はないんです。
先生は大人なんですよね? なら、大人らしく自分の責任を果たしてください」
道世「……はい」
彼方「……万結ちゃん。ここからは、君自身が頑張る時間だよ。彼方ちゃんが協力出来るのは、この先はちょっとくらいになっちゃうかも」
万結「っ……はい……私、頑張ります! 頑張って……もう、あんな子たちの言いなりにならない人生をつかみ取ります……!」
彼方「……頑張れ。万結ちゃん」ニコ
彼方(……あれから、数日くらいはこっちにも証言やあれこれあったけど……どうなったかなぁ、万結ちゃん……)
先輩店員「どうしたの近江さん、恋人かなんかのことでも考えてる?」
彼方「あはは、いない人のことは考えられませんよ~」
先輩店員「そっかー、じゃあ私立候補しちゃおっかな~」
彼方「スクールアイドルだから恋愛はNGで~す」
先輩店員「あちゃーっ、じゃあ卒業まで待たないとな~、たはは」
「あのっ」
彼方「っ──万結ちゃん?」
万結「近江さん、お久しぶりです」ペコッ
彼方「っ、あの、せんぱ」
先輩店員「あーっ、そう言えば近江さん休憩の時間じゃん。丁度いいや、ほら、話しといで」ウィンクッ
彼方「……それじゃあ、休憩入りまーす」タタッ
万結「……はい。これっ」スッ
彼方「1300円……あーっ、あの約束。覚えててくれたんだねぇ……ってことは」
万結「はい、証拠とか、証言とか……それと、偶然会った他校の人にも協力して貰ったおかげで、無事に解決しました!」
彼方「ホント? どうなったの、どうなったの~?」
万結「流石に全員退学にまではさせられなかったんですけど、かなり重めの処分……それと、裁判沙汰のことを示談で済ませて貰いました」
彼方「そっかぁ……良かった。じゃあ、これからは万結ちゃんも平穏な生活が出来るかもねぇ」
万結「はい。この一件から新しい友達も出来て……ゆっくりとだけど、高校の青春って言うのを送れるかも、って」
彼方「良かったぁ……彼方ちゃん、万結ちゃんのこと凄い気がかりだったんだぁ……」ホロリ
万結「そんなに心配してくれたなんて……嬉しいです」
彼方「うんうん。なら良かった……本当に良かったよ」ギュッ
万結「わうっ……あ、そうだ……もっと、大事なことを伝えたかったんです」
彼方「んん~? 何かな?」
万結「今度の休日、予定空いてますか?」
彼方「今度って言うと……今週の土曜日か、日曜日?」
万結「はい。どちらでも空いていれば……」
彼方「えぇと……日曜日ならシフト空いてるし、特に予定もないよ~。どうしたのかな?」
万結「その……お礼をさせてください。私、近江さんのおかげで救われて……人生も変わったんです」
彼方「大袈裟だよぉ。万結ちゃんが自分で頑張ったから、変えられたんだと思うよ?」
万結「……でも、キッカケをくれたのは近江さんなんです。だから、お願いします……私の気持ち、受け取ってください」ペコッ
彼方「……そ、っか。なら……うん、遠慮なく受け取らせて貰うね」ニコッ
万結「ありがとうございます、近江さん!」
彼方「お待たせ~。待ったかな?」
万結「い、いえ。ほんの一時間前に来たばかりです!」
彼方「だいぶ待ってるねぇ」
万結「あ、ま、待つのすきなので……ははっ」
彼方「そうなんだ~……面白い趣味だねぇ」
万結「あ、あはは……そっ、それじゃあ行きましょっか」テクテク
彼方「は~い」テクテク
万結「こ、ここです。私のお気に入りのお店で、個人的には原宿ナンバーワンのお店なんです」
彼方「おぉ~。なんだか外観からいい感じの喫茶店だねぇ……そんなに通ってるの?」
万結「はい。そりゃあ、なんども……」カランコロン
店員「いらっしゃいませ~! 2名様ですか?」
彼方「はーい」
店員「それではこちらのテーブル席どうぞ~」
万結「どうも……」ペコッ
店員「あっ、また来てくれたんですね」
彼方「おや? 知り合うくらい通ってたの?」
万結「あ、はい……ここが本当に大好きだから、何度も何度も……」
店員「あははっ、それはありがとう! 私もあなたに何度も来て貰えるのが嬉しかったよ!」
万結「~~っ」キュンッ
彼方(随分お熱が入ってるんだねぇ……ん、ここにはフクロウもいるんだぁ。すやすや寝てて可愛いなぁ)
万結「はい。私もここが好きで……辛いことや、悲しいことがあっても、ここに来ると立ち直れるんです」
彼方「交通費とか、随分かかりそうだけど……」
万結「はは……お小遣い結構使っちゃってますけど……それでも、本当にここが大好きなんです。特に、店員さんのことが(小声)」
彼方「大好きのためなら、苦労は厭わないものだよねぇ……わかるわかる」
万結「はい。それに、今日の私にはとっても余裕がありますから。お世話になった近江さんに奢りますよ!」
彼方「おぉ~……それじゃあ、お言葉に甘えて……これと、これと、後はコレも注文しちゃおうかなぁ。万結ちゃんは?」
万結「じゃあ、私はコレとこれを……すみませ~ん!」
店員「は~い」タタ
彼方「いい場所だったねぇ」マンゾクッ
万結「はい。近江さんも気に入ってくれたみたいで良かったです!」
彼方「それで~? 次は彼方ちゃんをどこに連れて行ってくれるのかな~?」
万結「あ、なら次は……あったあった、ここです!」
彼方「たこ焼き屋かぁ~。ここも万結ちゃんオススメ?」
万結「はい。ここのたこ焼き、店員さんがすっごい職人肌な感じで最高なんです!」
彼方「おぉ~……それは楽しみ」
万結「すみませーん、たこ焼き2つくださ~い」
店員「は~い、たこ焼き2つだね~」
万結「見ててください、凄い技なんですよ……」
彼方「ほー……」
店員「よっ」サササッ、ジュワワ~ッ、ササッ、シュバッ、クルルルンッ
彼方「わぁ凄い、あんなに早いのは彼方ちゃんでも出来ないぜ~……」
店員「むんっ、っと……コレは……うん。ベストなマル。さ、どうぞ。マルを味わいながら食べてね~」スッ
彼方「いただきまーす……ほふほふ」
万結「おいしー……安価で味わえる幸せ……」ホフホフ
彼方「うまいうまい……確かに、コレは職人の味だねぇ……カリカリふわふわ、凄い技だよぉ」
店員「ふふっ、マルの声を聞くことがこの味の秘訣なんですよ~」
万結「マルの声……」
彼方(丸……歩夢ちゃんのアレとかの声のことかなぁ……『ネェ、アソボ?』……いやいや、流石に違うよねぇ)
彼方「お~」
万結「それで、今度は──」
彼方「おっほぉ~……」
────
彼方「はぁ~……楽しかったぁ」ストッ
万結「楽しんでいただけたなら良かったです。私の大好きな場所……ここの公園も、お気に入りです」
彼方「凄いねぇ……あちこち知り尽くしてて」
万結「はい。実は私、中学時代まではここに住んでたので……お父さんのお仕事の都合がなかったら、ここに新設された学校に通う予定だったんです」
彼方「そうなんだぁ……つまりここは、万結ちゃんの故郷なんだねぇ」
万結「はい……だから、ホントなら……生で見れてたかもしれないんです。私の大好きなスクールアイドル」
彼方「万結ちゃん、アイドルオタクだって言ってたけど……まさかスクールアイドル好きだったんだねぇ」
万結「あはは……まだまだちょっとしか知らないですけど、ここにある学校から生まれたスクールアイドルグループ、大好きなんです」
彼方「そっかぁ……やっぱり、グループが好きなの?」
万結「はい。グループで歌って踊って……統一感がある彼女たちを見ると、とっても輝いてるなぁって思って……。
人間、一人じゃやれることに限り……それはステージの上に立つアイドルも同じで、その子たちも複数人だからこそ放つ輝きもあって……凄いなって思ったんです。
私と大して年も変わらない子たちが、そういうことが出来るのが、とっても……」
彼方「一人じゃやれることに限りがある……かぁ。確かにそうだなぁ、彼方ちゃんも数か月前にはそう実感したよ。けどね」
万結「近江さん?」
彼方「一人だからこそ、見せられるものもあるんだよ」シュルッ、ヌギッ
万結「え、えっと……? あの?」
彼方「えーと……音源あった、よし……と」
万結「ど、どうしたんですか? 急に……」
彼方「まぁまぁ、せっかくだからこれも思い出だよ。彼方ちゃんから、万結ちゃんへ今日のお礼とサービス」
彼方「それじゃあ、聴いてください。『Butterfly』」
万結「……すごい……」
彼方「ぜぇっ、はぁっ、ふぅっ……いやぁ……お腹いっぱい食べた後にやるもんじゃないね……流石に声乱れるところだったよ」スクッ
万結「近江さんって……スクールアイドルだったんですね……」
彼方「うん。ソロで活動してるよぉ、虹ヶ咲学園ってところで」
万結「虹ヶ咲……あっ、私のいじめを止めるのに助力してくれた人の学校!」
彼方「おや? 虹ヶ咲の子に助けて貰ったのかい? どんな子?」
万結「あの、こう……金髪の、ポニーテールの人に!」
彼方「あぁ、愛ちゃんかぁ。あの子もスクールアイドルだよ」
万結「ええええええっ!? わ、私……こんなにも凄いスクールアイドルに人生を救って貰ったんですか……きゅぅ」プシュー
彼方「ふふふっ。数奇な巡りあわせって奴だねぇ」
万結「う、嬉しいです……近江さん、私……決めました! 近江さんのこと、これからでも応援させてください!」ギュッ
彼方「えへへ、嬉しいなぁ……新しいファンゲット~……」ムギュー
万結「わぷっ……え、えへへ……幸せ……」ドロー
彼方「うわぁ溶けた」
彼方「ようこそ夢の国へ~」
遥「お姉ちゃーーーんっ!」ブンブンッ
万結「近江さーんっ!」ブンブンッ
遥「んっ?」クルッ
万結「んん?」クルッ
遥(この人……どこかお姉ちゃんの匂いがする……)
万結(今、お姉ちゃんって……この人、なんだか近江さんと似てる……!)
彼方(万結ちゃん、遥ちゃんと一緒に最前列応援かぁ……推し活始めてもうこんなに……人って、凄いんだなぁ)
彼方「──おやすみ」パチンッ
遥「指パッチン……? 今までなかったパフォーマンスだ……凄い、サプライズ……!」キュンッ
万結「近江さん……」キュン
彼方(万引き少女を捕まえたと思ったら、立派なTOに育っちゃった……うん。彼方ちゃんの全力で出した答えは、間違ってなかったみたいだね。良かった良かった……)
──そんなこんなだから、彼方ちゃんはいつも全力でいることをやめないのです。
自分の全力が誰かに届いて……それがトキメキになったら、嬉しいなって思うから。
この彼方ちゃんの考えが、また誰かに届いて……ときめいて、夜にぐっすりと眠れるような安心を与えられたらいいな。
おやすみ。
おしまい
めちゃくちゃ良かった
いつも全力彼方ちゃんいいよね
引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1690361292/
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