【SS】栞子「ぐちゃぐちゃ」【ラブライブ!虹ヶ咲】

ラブライブ

【SS】栞子「ぐちゃぐちゃ」【ラブライブ!虹ヶ咲】

2:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:22:20.41 ID:SwGwtOqh

それは、同好会の皆で反省文を提出した日のことだった。
 ロンドンでスクールアイドル活動を始めた彼女を見たところで、私はどこか嬉しく、どこか寂しい気持ちを覚えていた。
 何故、寂しい気持ちを覚えたのかはわからない。
 けれど理由が見つからずとも、寂しいものは寂しい。
 練習にも少しばかり身が入らなくなっていた。
 先日ミアさんに指摘したミスを自分がしてしたり、何もないところで転んでしまったり、水分を補給しようとしたらうっかりランジュのものを飲んでしまったり、練習着を脱いだら制服を着ることを忘れて部室を出てしまいそうになったり、生徒会室で眠りこけてしまったり……。
 おかげで、皆さんには大変なまでに迷惑をかけっぱなしで……なんと言えば良いかもわからない一日を過ごしていた。

 

3:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:23:40.20 ID:SwGwtOqh

「……どうして、こんな気持ちのままなんでしょう。
あの時、キチンと笑顔で見送れて……スクールアイドル活動をし始めたのを、嬉しく思ったはずなのに……っ」

 気付けば涙が頬を伝っていて、私は感情がぐちゃぐちゃになりそうだった。
 寂しさが転じた悲しさ、そんなものを引きずってあちこちに迷惑をかけた怒り、今日は何かする度に誰かへ助けて貰えた喜び……それらが渦巻いていて、私の頭はどうにかなりそうだった。

「……収まって」

 荒れ狂う波のような感情の渦に、私はそう願って布団の中に入る。
 もうこれ以上は、大好きな同好会にも、生徒会にも、迷惑をかけたくないから。

 

4:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:24:43.08 ID:SwGwtOqh

「ん、あ……あ゛、ん゛ん゛っ……」

 朝、目を覚ますと私は喉がガラガラだった。
 何故こんな声なのか……何故布団から起き上がれないのか、何故ぼーっとしてしまっているのか。

「この季節らしい、風邪ですか……げほっ」

 健康管理はきち としていたはずなのに、引いてしまった。
 念のために体温計を使って体温を測ってみると……38,7度、立派な高熱だ。
 けれど、何故か受け入れていて……風邪を引けたことをありがたく思ってしまっている。
 私は自分にそんな悪い子らしい所があることに驚きつつも、枕元にあるスマホを何とか動かして姉に学校を休むことを伝える。

 

7:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:25:17.59 ID:SwGwtOqh

「栞子ー、学校の方に連絡はしたけど、大丈夫?」

「……大丈夫です。病原菌を経由させるといけないので、入ってこないでください」

「おいおい、お姉ちゃんだぞ私」

「ですが教師でしょう、私の風邪が姉さんを通して学園中に伝播するのは嫌です」

「そーですかそーですか……じゃ、アタシはもう出るから、アンタもゆっくり休みなよ」

「……はい」

 私は布団を被り、風邪の息苦しさと昨日から続く空虚な気持ちを紛らわせようと目を瞑る。
 眠っている間だけは、悲しいのも辛いのもない……だから、早く意識を閉ざしたい。
 ……今は、睡眠を好む彼方さんの気持ちをよく理解できる気がしてきた。

 

8:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:25:55.87 ID:SwGwtOqh

「……」

 眠り続けて、どれほど経ったのか。
 布団をかぶっていたせいで、今何時なのかすらわからずにいる。
 息苦しさと熱気は変わらずに寝間着はびしょびしょだ。
 倦怠感に支配されている体を布団ごと起こしながら、立ち上がろうとしたら。

「あっ、栞子……」

「……え」

 

9:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:27:48.70 ID:SwGwtOqh

何故か、目の前には私の見知った幼馴染の顔があった。制服に身を包んでいて、どこか心配そうな顔。
 恐る恐る窓の方を向いてみると、まだ日は高く……時計の方を見ると、時間はお昼時だ。
 なんでいるのですか──そう問いかける前に、私は咳を出した。

「なっ、げほっ、ごほっ……えふっ、ごほっ……!」

「だ、大丈夫!?」

「大丈夫です。ランジュ……近寄ってはいけません……移してしまいます……!」

「でも、栞子……苦しそうじゃない……」

「大丈夫です、大丈夫ですから……それより、ランジュ。学校はどうしたのですか……?」

「薫子からメッセージが来て、あなたが風邪を引いたって聞いたのよ。だから、休んできたわ」

 

10:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:28:34.02 ID:SwGwtOqh

「ですが、授業は……同好会の練習は……!」

「授業なんて、2~3日どころか1週間休んだって平気なくらいよ。
それと、ミアに音楽関係の仕事が前々から来てたのは知ってるでしょ? その打ち合わせの方に行っちゃうから、今日はアタシだけなのよ。だから、一日くらい休んだってバチは当たらないわ」

 ランジュはそう淡々と説明しながら、学生鞄からあれやこれやと取り出して床に広げ始めた。
 スポーツドリンク、解熱剤、ひんやりとするシート、栄養剤、のど飴……わざわざ、薬局にでも行って買い込んだのでしょうか。
 そう言えば、昔からランジュはこうして誰かへ何かを与えることが得意でしたね。

「栞子、食欲はあるかしら? アタシが最高に美味しいおかゆを作ってあげるわ!」

「えっ」

 

13:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:30:42.00 ID:SwGwtOqh

 途端に、私の顔から血の気が引いた気がする。
 ランジュの料理は、お世辞にも……いや、どれだけランジュのことが好きでも美味しいと言えない味だ。
 そう、あれはランジュが寮に来て初めて料理を作り出した時……ミアさんが一口食べてえずいて、エマさんが泣き出し、果林さんも顔が青くなり……私は意識を失った程の激物でした。
 風邪を引いた身体にそんなものを入れられたら、もう二度と目が覚めなくなる気がしてきた……!

「らっ、ランジュ。別にそんなことをしなくても──」

「何言ってるのよ、アタシと栞子の中でしょ? 大丈夫よ、アタシは全てをパーフェクトにこなす女よ、これくらいサクッと作ってあげるわ。台所借りるわね」

「ま、待って……!」

 

14:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:32:22.61 ID:SwGwtOqh

ランジュは鞄とは別に持っていたもう一つの袋を片手に、鼻歌交じりに部屋から出て行ってしまいました。
 動けない私は置き去りにされ、布団の上でただ倒れているだけの姿勢になっていました。
 ……汗でびっしょりになった寝間着や布団のことよりも、ランジュの料理の方が気になりすぎて、私は別の汗が止まらなくなってきた。

「神様、仏様……せめて、致命傷だけで済ませてください……! 親友に、人の命を奪わせるような真似なんかしたくありません……!」

 私は手をぎゅっと握り、天に祈った。
 どうか、せめて口に入れて咀嚼できるものでありますように……!

 

15:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:32:59.22 ID:SwGwtOqh

「出来たわー!」

 祈ってからどれほどしたか、ランジュの大きな大きな声が聞こえてきました。
 私は生唾を飲み、覚悟を決めました。
 これは今まで幼馴染みと向き合ってこなかった、私自身への試練!
 乗り越えてみせます……絶対に!

「失礼するわね、栞子」

 やや下品にも、足で襖を開けたランジュが土鍋と器を載せたお盆を持ってやってきました。
 私は震えながらも起き上がって、ランジュと相対する。

 

17:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:35:18.12 ID:SwGwtOqh

「さ、上手く出来たのよ。ほら!」

 ランジュが土鍋の蓋を取ると。
 そこには艶々と輝く、黄色いおかゆがあった。
 ……私は目を疑って、1度目を擦ってからそれを再確認する。
 
「おかゆですね……」

「おかゆよ? 作る、って言ったじゃない」

「あ、はい……」

 少なくとも、見た目はとてもきれいなおかゆ。
 そんなものをランジュが作った、というのを半ば信じられずに眺める。

 

19:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:38:20.23 ID:SwGwtOqh

「さ、どうぞ。召し上がれ」

 ランジュはおかゆを器によそって私に差し出してくる。
 暖かなソレを木杓子と共に受け取り、私はそのおかゆを一口目を、恐る恐る口にいれる。

「ん……っ!」

「どうかしら? 美味しい……?」

 上目遣いで聞いてくる幼馴染みをよそに、私ははしたないのを承知でおかゆを掻っ込んだ。

 

23:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:41:41.54 ID:SwGwtOqh

「し、栞子? そんなに慌てて食べたら詰まらせちゃうわよ!」

「……大丈夫です、ランジュ」

 器の中のおかゆを全て口の中に入れ、咀嚼して、飲み込んで──。
 私は笑った。スクールアイドル活動をしている時よりも、大きく大きく笑った。
 にっこりと笑みを浮かべて、涙が出て来るのを堪えた。
 その涙を流したら、赤子の様にランジュに抱き着いてしまいそうだから。

 

24:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:42:41.81 ID:SwGwtOqh

「味の方は……どう、だった?」

「とっても美味しかったです。そうでなければ、こんなにも食べられませんから」

「そう……良かった。彼方にお願いした甲斐があったわ」

「? 彼方さんに、ですか」

「そうよ。アタシは料理が出来るって思いあがっていたけれど、皆の反応を見て自分がどれだけダメな子か気付かされたのよ。
だから、料理上手な彼方にお願いして、1から10まで料理のことを叩きこんで貰ったの。
もう、栞子に不味いものを食べさせたくなかったから」

 あぁ、やっぱりダメだった。
 私はしずくさんのように演技が出来るワケでもないし、せつ菜さんのように自分を切り離すことが出来ない。
 だから……この親友の温かい言葉を聞いて、涙を流すしかなかった。

 

25:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:43:38.16 ID:SwGwtOqh

「し、栞子? えっ、アタシ何か変なこと言ったかしら!?」

「違います……今、ちょっと……自分が、何を思ってるのかもわからなくなってきて……ちょっぴり、ぐちゃぐちゃなんです……」

 ランジュが自分の料理下手を自覚しないような人間だと思っていた自分を責める気持ち。
 ランジュが人に頭を下げて、たくさん努力して、成長したことを喜ぶ気持ち。
 ランジュが私のことを強く想っていてくれて、私のために頑張ってくれたことへの感動。
 ”彼女”が祖国へ戻って、スクールアイドル活動を始めたことに対して思っていたぐちゃぐちゃな感情と、そっくりだった。
 だから、私は耐えきれずに涙を流してしまった。

「ランジュ……っ」

 

26:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:48:58.26 ID:SwGwtOqh

「し、栞子? どうしたの? さ、寂しいの?」

「っ、寂しい、です……大切な友達が離れていくのが、寂しくって……悲しくって……それでも、その友達が前に進めたことも、嬉しくて……もう、どうすればいいかわからなくって……!」

「……ごめんなさい、栞子。アタシに言われたって、アタシはその栞子の悩みを解決してあげられないわ。
アタシは人の心とか、そんなの全然わからないもの……今だって、まだ前の時から完全に変われてなんかない」

 気付けばランジュは私を抱きしめていて、背中と頭を優しく撫でていた。
 私がその優しさに甘えていると、彼女は私の耳元に顔を近づけて、ささやいた。

「それでも、アタシはもうあなたから離れたりしない。それだけは絶対よ」

「っ、ラン──」

「だって、アタシは三船栞子の一番の親友で、三船栞子のことを世界で誰よりも尊敬して、愛しているんだもの」

 ランジュは優しく、人を堕落させてしまいそうな甘い声で私にそう告げてくれると。
 風邪がうつるだとか、そんなことを全く気にしない様子で私を抱き寄せて、私の顔を胸に埋めさせた。
 眠って、栄養を取ったおかげで少しはマシになったとは言えども、元々強くもない私の体ではランジュの力に流されるままだ。
 けれど──優しく抱き寄せてくれた彼女に対して、抵抗できる人なんてこの世にいるものか。少なくとも、私はに抵抗の意思すらない。
 制服越しにもわかる彼女の大きな胸の温かさを感じながら、私は心を落ち着かせていく。

 

27:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:53:46.26 ID:SwGwtOqh

それから、どれくらい経ったか──ロクな音もなく、時間がわからない状況。
 私にとっては一時間程に感じたけれど……実際は、十分も経っていないのかもしれない。

「……もう大丈夫、かしら?」

「はい……あの、ランジュ。すみません、制服を汚してしまって……」

「いいのよ、コレくらいなんてことないわ」

 さっきの母性を感じさせるような声色から一転して、ランジュはいつものように子供らしく笑った。
 年相応ながらも、幼子のような可愛らしさを含んだ声と笑顔……さっきのランジュが、まるで幻のようです。

「さてと……よいしょ、っと」

「へっ──あうっ」

 座って話していたと思ったら、突然ランジュが私の両肩を掴んで、布団へと寝かせて来た──いや、押し倒されたというのが正解か。
 だって、ただ私を寝かせるだけならば、ランジュが私に覆いかぶさるような体制を取る必要がない。
 そもそも、ランジュ自身が動かずともただ「寝なさい」と言えばいいのだから。
 だから……ランジュは、私が今どんな状態かをわかった上で押し倒したのだ。

 

28:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 18:57:34.72 ID:SwGwtOqh

「ね、栞子」

「なんですか、ランジュ……」

「あなたの風邪、アタシが食べてあげるわね」

「え──」

 そう言うと、ランジュは右手を私の後頭部に回した。
 声を発する間もなく頭を引き寄せられて。

「んっ」

「んっ……!? ん、んんっ……」

 私の唇とランジュの唇は隙間なくくっついた。
 人生で、初めての接吻。
 そんなものを突然経験した私の頭には、一気に血が上っていって。
 何も考えられなくなりそうで……ランジュの唇の感触以外、感じられなくなっていた。

 

29:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 19:05:02.57 ID:SwGwtOqh

「ん……ぷはっ。栞子、日本では古来より『風邪は人に移して治す』って言うんでしょ? だから、あなたの抱える悩みと一緒にランジュに移しちゃいなさい」

「っ、え、で、ですが──」

 だからってどういう移し方を──だとか、そんなふざけた治療法が──なんて言う間もなく、ランジュは笑った。
 太陽のように美しく、月のような妖艶さを纏いながら。
 白い歯を見せながら、優しく私に微笑みかけてくれた。

「無問題ラ。アタシはパーフェクトなスクールアイドルだもの、風邪も悩みも、全部吹き飛ばしてあげるわ」

「ラン、ジュ……」

「だから、栞子。あなたの風邪、もっと移させて」

 

30:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 19:07:09.10 ID:SwGwtOqh

「……はい」

 誰に影響されたのか……誰のせいで、こんな風になってしまったのか。
 昼間から部活動の仲間たちと一緒に学校を無断で早退し、勝手に一人の留学生のために歌って、踊ったりして。
 風邪を理由に休んだのだとは言えども、それを喜んだり、他の生徒たちが勉学に勤しみ、家族が仕事へと精を出している最中、親友とこんな淫らな行為に及ぶ。

 

31:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 19:07:26.28 ID:SwGwtOqh

そんな”悪い子”に、どうしてなってしまったのか。
 ”悪い子”になることで、前へと進むことが出来るようになったのか。
 制服を脱ぎ捨てて、私の寝間着を脱がしてくる幼馴染を前に、そう思案していて。
 下着が脱がされた時には、答えが出ていた。

「あなたのせいですよ、ランジュ……」

 反省してください。
 そう想いを込めて、私はとびきりの笑顔を彼女に向けた。

 

32:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 19:09:39.23 ID:SwGwtOqh

ᶘイ^⇁^ナ川 おしまいです

ʃcʃ|.ò ᴗ ó)ʅ この後のランジュたちがどうなったかはご想像にお任せするわ!

 

34:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 19:13:04.79 ID:SwGwtOqh

本当におしまいです。
こういう地の文フルなタイプもこっちで書いてみようかなと思って、ちょっぴり気合を入れて書いてみました。

過去作です。

璃奈「出来た。押した人が食害になるボタン」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1689750925/l50

四季「Done.押した物の何かが反転するボタン」かのん「わぁ」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1690727510/

璃奈「出来た。デザイアグランプリ」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1689637505/l50

彼方「万引き少女を捕まえちゃったぜ」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1690361292/l50

 

35:(しまむら) 2023/08/10(木) 19:24:57.47 ID:SBjDQSYn

泣いた
ランしお尊い

 

37:(もも) 2023/08/10(木) 19:26:55.37 ID:tmryc789

最高……
過去作もめちゃくちゃ好きです

 

42:(もんじゃ) 2023/08/10(木) 21:19:46.39 ID:7jBDuF3H

尊すぎるだろ

 

引用元: https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1691659085/

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