【閲覧注意】曜「いてっ…」千歌「こらっ、しいたけ咬んじゃダメでしょ！よーちゃん大丈夫？」【短編SS】

果南「馬鹿なこと言ってないで、そいつをしまいなよ！」

曜「だめだよ。私がこれで、悪魔を祓うの」

果南（……要領を得ない。普通じゃない……。とにかく、曜を落ち着かせなきゃ。相手に、合わせるんだ）

果南「祓って、どうするの？」

曜「千歌ちゃんと、梨子ちゃんを助ける」

果南「誰が、この2人を悪魔だって言ってるのかな？」

曜「あ”あ”もう！うるっさい！！！千歌ちゃんが言ってるんだよ！！！」ﾀﾞﾝﾀﾞﾝ!

果南「っ……！」

曜「……果南ちゃんも、そいつらの味方をするんだね」ｼﾞｬｷｷ…ｼﾞｬｷｷ

果南（武器は……何かない？少しでも曜を怯ませられれば……。でも荷物は部室、屋上には、みんなのタオルぐらいしか……）ｼﾞﾘｯｼﾞﾘｯ

曜「酷いよ、果南ちゃん。私たち、幼馴染なのに……果南ちゃんだけは、私と一緒に千歌ちゃんを助けてくれるって、信じてた……。でも、そいつらのせいで、汚れちゃったんだ」

曜「あっでも、千歌ちゃん言ってたんだよ！海で死ねば、綺麗になって、生まれ変われるんだって！すごいよね！だから……果南ちゃんも」

曜「ーー助けてあげる」

曜「あはは、階段はこっち、そっちは行き止まりだよ。まさかここから飛び降りーー」

果南（これしか！ない！）ﾌﾞﾝｯ

曜「？！きゃっ！」

ｶﾞｼｬｰﾝ‼︎

曜「痛っ……なに……？」

<ｶ……ﾉﾅ……ｺﾞｼﾃ……ﾝﾀﾞ
<ｲﾏ……ｯﾀ ﾋ……ｬﾅｲ

曜「これ、は」

<ｶｹ……ﾉﾅｲ……ﾂﾐｶｻﾈﾃ
<ｲﾏｻﾗﾜｶｯﾀ ﾋﾄﾘｼﾞｬﾅｲ

曜「私たちの、曲……」

千歌「あっ、梨子ちゃんだめ！動かないで！！」

梨子「よ……ちゃ……」ｶﾋｭｰﾋｭｰ

曜「…」

千歌「ねえだめだよ！！喋っちゃだめ！」

梨子「よ……ちゃ、わた……も」ｶﾋｭ

梨子「よ……ちゃん、だ………………すき……」ﾆｺ

千歌「梨子ちゃん！喋っちゃダメだって！！」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

曜「梨子ちゃん……？あれ、ど、どうして……？」

曜（赤黒い水溜りの上に倒れた梨子ちゃんに、千歌ちゃんが覆い被さっていた）

曜（私が2人に伸ばした手。その手はーー、ナニかで、真っ赤に染まっていた）

千歌（蝉、うるさいなぁ……)

「えーここは……で、あるからして……」

千歌（あつ……）

むつ「ね、千歌。あれ……」ﾋｿﾋｿ

千歌「え？あっーー！」

千歌「おーい！梨子ちゃーん！！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ!

ーーーーー

＜浦の星分校　校舎裏＞

千歌「びっくりした～！今日だったんだね、初通学！」

梨子「ふふっ、ちょっと驚かせようと思って」

千歌「もうすっごい驚いた！でも良かったよ～。梨子ちゃん、すっかり元気だね！」

梨子「うん！ただ傷は、まだなかなか綺麗にならなくて」

千歌「あ……」

千歌（梨子ちゃんの白くて細い首に、まるでミミズが張っているように膨らんだ赤い筋が、その存在感を際立たせていた）

千歌（思わず、その傷から目を背けてしまった）

梨子「もう！梨子ちゃんビーーム！！ﾋﾞﾋﾞﾋﾞﾋﾞ」

千歌「えぇ？！」

梨子「しょげないの！そんなつもりで言ったんじゃないんだから」

千歌「でも……ごめんね……」

千歌（あの事件の捜査が進む中で、私の証言をきっかけに、判明したことがあった）

千歌（しいたけは……狂犬病の予防注射を受けたことがなかったのだ）

千歌（しいたけは、母親が知人から貰い受けた犬だった。子犬の頃にしつけられたのか、無闇に吠えることもない。だから、高海家の人間は皆、そんなものは済んでいるものだと、思い込んでいた）

千歌（おそらく、曜ちゃんは……キャリアのしいたけに咬まれたことで、狂犬病を発症したのではないか。覚醒剤や麻薬といったものが見つかっていない以上、それが目下の、警察の推論だった）

梨子「でも、私もちょっとびっくりしちゃった！」

千歌「なにが？」

梨子「この校舎！その……なんだか、趣きがあると、思ってね？」

千歌「うん！最初は、授業できないじゃん！なんて思ったよ～！」

千歌（あの事件は、こんな所にまで影を落としている。人気スクールアイドルグループの女子生徒がカッターナイフで同級生を殺しかけた……。全国ニュースにまでなった事件、統合先の静真高校が校舎統合に待ったをかけたのも、仕方のないことだった）

千歌（3年生は卒業し、梨子ちゃんも曜ちゃんもいなかった。学校は狭く、練習場所のアテもない。私と、1年生の皆だけでは、活動は全く立ち行かなかった）

千歌（そして何より、全てをぶち壊してしまった責任の一端は千歌にあったから、そこまで恥知らずでも居られなかった）

千歌（ーーしいたけに狂犬病の予防注射を打たせていたら。曜ちゃんに狂犬病のワクチンを打ってもらっていたら。こんなことは起こらなかっただろう）

千歌（そうしたら今も私の隣には、1年生のみんなと、梨子ちゃんと、そして曜ちゃんがいてーー。私たちはスクールアイドルを続けていたのだろう）

千歌「……曜ちゃん……ごめんね」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

千歌（曜ちゃんは今も行方不明のまま、捕まっていない）

千歌「……ぇ？」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

梨子「スクールアイドルは、どうするのかなって」

千歌「……どうするって、何が？」

梨子「私は、続けたい」

千歌「……」

梨子「入院してる間、沢山曲を考えたの！お母さんに電子ピアノ、病院まで持ってきてもらってね。それに、1年生のーーもう２年生か、皆もね、練習してるって、善子ちゃんから聞いた。だから、今度こそ」

千歌「……もう、いいんじゃないかな」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「それに、無理だよ。私たち、色んなことを言われてる。すっごいんだよ？インターネットの書き込み。もう、スクールアイドルなんて……」

梨子「……悔しくないの？」

千歌「……」

梨子「私たち、地区予選を突破して……ラブライブの優勝まで、あと少しのところだったんだよ？」

千歌「……分かってる」

千歌「分かってるよ！悔しいに決まってるじゃんっ！でも、怖いんだよ……。色んな人から、色んなこと言われる……もう、無理なのっ！」ﾀﾞｯ

梨子「あっ……待って！！」

梨子（ーー千歌ちゃんは、走って去っていった）

梨子（幼馴染を……親友を自らの過ちで不幸に陥れてしまった苦しみは、きっとこれからも、千歌ちゃんの胸を重しとなって押さえつけるんだろう）

梨子（そして、私は……）

ﾜﾝﾜﾝ!ﾜﾝﾜﾝ!

おばさん「こら！吠えないの！」

梨子「ひっ！」

梨子（ーーそれまで平気だったはずの犬が、怖くなってしまった）

曜「ﾊｧﾊｧ……」

曜「まだ、追いかけてくる……」

ﾋﾞｭｭｳｳー

曜「っ！痛っ……。浜風が、痛い……？」

曜「なに……これ……」

曜「あっ…！」ｽﾞﾙｯ

曜「あれ？あれ？おかしいな……足に力が入んないや……」

曜「それに、酷く、寒い……」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

曜「あ、あそこに小屋が……」

曜「……あ、ここ、いつも練習で来た所だ……。階段から来なかったから、気付かなかった……」

曜（皆んなで階段を駆け上って、私はいつも1番で……千歌ちゃんが来るまでの私だけの静寂が、好きだった……）

曜「……ごめんね、神様。ちょっとだけ、お邪魔します」ｷﾞｨ…ﾊﾞﾀﾝ

曜「ﾊｧﾊｧ……」ｺﾞﾛﾝｯ

曜（顔が、熱い。手足にも、もう力が入らない）

曜「……ねぇ、千歌ちゃん」

ｼｰﾝ

曜「もう、聞こえないや」

曜「梨子ちゃん……あれは、梨子ちゃんと、千歌ちゃんだった……」

曜「私が、この手で……」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

曜「どうして、あんなこと、しちゃったんだろう」

曜「……2人のこと、大好きだったのに」

曜「……寒い。……千歌ちゃん。梨子ちゃん……」

曜「……今度会えたら、ごめんって言う。それから、また皆んなで、一緒に歌って、踊って、笑って……」

曜「それから……それから……」

曜「それから……」

曜（………ね、神様。もう、二度と……）

曜「……」

……

「ーー次のニュースです。今日午後、公園を散歩していた犬が突然逃げ出し、歩いていた通行人を噛みました。犬は、大型の四国犬で、警察の調べによりますと狂犬病の予防注射を受けていなかったということです。警察は、飼い主から事情をーー」

千歌「ねえ、お母さん。しいたけも、狂犬病の注射してるの？」

千歌ママ「さぁ、どうだったかしら」

美渡「やってんじゃないの？しいたけ、貰ってきたんでしょ？」

千歌「ちょっとちょっと！狂犬病の注射は、毎年打たないといけないんだよ！覚えてないってことは、それ打ってないってことじゃん！」

千歌ママ「あらそうなの？」

千歌「そうだよ～！それに狂犬病はね、もし人間が犬に噛まれて発症すると数日で100%死んじゃうんだよ？幻覚とか発熱とか……ほんとーに、大変なんだから！」

志満「ふふ、千歌ちゃん、詳しいのね」

千歌「え？これくらい……、あれ？なんか誰かから聞いたよーな、聞かなかったよーな……」

志満「千歌ちゃん？」

千歌「あれ……なんでだろ？あれ……？」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

志満「どうしたの？お腹、痛い？」

千歌「ううん。分かんない、分かんないけど……」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

千歌「っぐ…」ｺﾞｼｺﾞｼ

千歌「……っ、とにかく！すぐに調べて、もし打ってなかったら、しいたけに注射、打ってもらおう！」

おわり

あの四国犬に噛まれたプードルかわいそうに……