かすみ(変装したしずく)「大好きだよしず子…♡」
だれかこれで一本頼む
っていうかかすみ役部長じゃなくて自分で自分を好きだと言って嬉しいのかしずくは
部長「しずくが言えって言ったんでしょ!?」
しずく「くそっくそっ…」パンパン
なるほどな
しずく「はい、いいですよ。テーマは何にします?」
部長「私がしずく役でしずくがえっとほら、しずくがよく一緒にいる……」
しずく「かすみさん、ですか?」
部長「そうそう。ほら、今度の『荒野の雨』、私が主人公の影の役をやるじゃん。だからしずくとのシンクロを練習しておきたくて。」
しずく「なるほど、私らしさに近づけたいんですね。」
※エチュード:シチュエーションと時間だけ与えられてつくる即興劇。演劇部の練習でよくやる。
部長「ダメ。」グイッ
しずく「ぶ、部長!?」
部長「しずくらしさを見極めるのは、しずくだけで十分。」
部長「しずくの本心から私の演技を見て欲しいんだ。」
しずく「っ!!」
しずく「わかりました。じゃあ、人は特に呼ばないことにしましょう。場所はどこか広いとこに移動しますか?」
部長「ここ(部室)でいいよ。いや、ここ”が”いいかな。」
演劇部の部室は他の部活と比べると広い方なのだけど、大道具や工具、衣装やら人形やらで足の踏み場もないほどに狭っ苦しい。
雨の上がらない放課後、私は部長と2人きりのエチュードを始めた。
部長「しずくが落ち込んでいるシーン。」
しずく「え?」
部長「部室でしずくが孤独に1人うずくまっているところに、かすみちゃんが現れる。そして2人きりの秘密の関係を深める場面。」
しずく「待ってください部長、私かすみさんとそんなとこ……」
部長「現実には無いものを作るのが演劇だよ、しずく。」
しずく「はい。」ドキドキ
演劇部入りたてのころ、公演前の設営で先輩たちが未知の言葉で喋りだしてぽかんとしたなぁ
部長「うん、”とりあえず”、5分でいいよ。」
しずく「分かりました。それじゃ部長はそこで泣いててください。私が部室に入って来るところからスタートで。」スタスタ
部長「あ、しずく、待って。これ。」
ノ jミイ リ
しずく「あ!もう完成したんですね、私の妹。」
部長「うん、髪色の再現がなかなか難しかった。これを被って。ほら。」
しずく「わぁ!本当に私みたいですね。あ、リボン使います?」
ノ∑
部長「ありがとう。あ、あー↑あー↓『部長』『部長』?『部長』、『こんな感じですかね?』」
しずく「ふふっ声もバッチリですね。」
部長「あ、あとしずくは待ってね。」ガサゴソ
ノ 从cι I
部長「この前部室で見つけたんだよ、これ」
しずく「うわぁ!かすみさんの髪型そっくり!これを被ればいいんですね。」ゴソッ
しずく「あ、あー↑あ゛ーー『しず子ぉ〜』『しず子!』『しーず子』♡『せんぱい、どぉですか?』」
部長「ふふっかすみさんそっくり♡なかなかいいですね♡」
しずく「じゃあはじめよっか!じゃ、またね、しず子〜」ガラッ
(しずくは演劇部部室の廊下に出る)
しずく「……フゥ。」
しずく(そうよ、今の私は中須かすみよ、ぷりてぃーできゅーとな中須かすみなんだから!)
しずく「さーて自主練も終わったしそろそろ帰ろうかな〜。えへへ、かすみん今日は最後まで残っちゃいました☆」
部長「グスン……グスン……」
しずく「あれ?しず子?」
部長「か……かすみさん……?なんでいるの?」
しずく「なんでって聞きたいのはこっちだよ!もう8時だよ?かすみん今部室鍵開けて入ったのに」
部長「そっか、鍵、閉められてたんだね。」
しずく「もう、かすみんが気づかなかったらまた閉じ込めてたじゃん!」
部長「かすみさんはこんな時間まで練習してて、偉いな。」
しずく「はぁ?」
部長「私、かすみさんって、とてもすごいと思う」
しずく「し、しず子?しず子がかすみんのこと褒めるなんてどういう風の吹き回し?」
部長「かすみさん、そんな言葉まで使えて偉いね。」
しずく「あ!いやこれは……たまたまテストに出てきたからで。」
部長「私、かすみさんになりたい。」
神スレの予感
しずく(ダメダメ、今は集中。私にこう言われたらかすみさんはどう言うか……)
しずく「そ、そりゃなんたって、かすみんは……一番かわいいですから。」
部長「本当。かすみさんは1番かわいい♡」
しずく「……っ!かすみんがかわいいのは知ってるけど、しず子も十分かわいいから!」
部長「かわいくなんかない!……私、見栄っ張りだし、臆病者だし、意地っ張りだし、いい子ぶってるし……。かすみさんが思ってるような、いい子じゃないの……。」グスン
しずく「しず子……」ギュッ
しずく「いい子じゃなくていいよ。」
部長「かすみさん?」
しずく「そりゃかすみんだってしず子と出会ってまだ数ヶ月だし、しず子の全部は知らないよ。」
しずく「でも、しず子が別にいい子じゃないことくらいわかってるよ。同好会がなくなったらすぐ演劇部行っちゃうし。」
部長「かすみさん、私が部長に呼ばれた時のあれ、根に持ってたんだ。」
しずく「そりゃー根に持つよ。信頼してたのに。」
部長「ごめんなさい。私、こんな風に昔から逃げてばっかりで」
しずく「ほら、こんな風に見せてるでしょ、かすみんに。しず子の汚いところ。」
しずく「だからかすみんの前ではいい子じゃなくていいの!」
部長「フフッ……そうだね。いい子でいようなんて、今更だったね。ゴメンね、いい子ぶれてたなんて思い上がっちゃって。じゃ、私はこれで……」
しずく「大好きだよ、しず子…♡」
しずく(あ、そろそろ5分だ)
部長「フフッよかった」ポロ💧
しずく「しず子、泣いてる?」
部長「私ね、かすみさんが誰かに取られちゃうんじゃないかと思ってずっと不安だったの。」
部長「小さい頃から演劇のことばっかり考えてて、友達はいなくて」
部長「かすみさんに出会って毎日が楽しくて!」
部長「ずっと一緒にいたい。」
しずく「ふふっ素直になったしず子もかわいい。大好き。」チュッ
部長「かすみさん、あったかいね。」
しずく「しず子もあったかい。」
部長(演技とはいえ合法的に好きな人と抱きしめあってキスできるなんて……ダメダメ、これは演技。私はしずく。)
しずく(私ったらかすみさんに対してなんて妄想を……。でも流石部長、こんなに真剣に演じて私に合わせてくれるなんてすごいな。私のかすみさんへの気持ちそっくりだもん。)
しずく(ごめんなさい部長、これが私の理想のかすみさんです。)
しずく・部長(このままずっとこうしていたい……)
雨はますます強くなっていく。部室の窓の外はもう真っ暗である。
しずく「しず子、ナデナデ。」
しずく「いつもしず子に撫でられてばっかりだから、お返し。」
部長「フフッ。。。カスミサンの手、冷たい。」ポロ
しずく「あれ?しず子、なんで泣いてるんですかぁ?」
部長「嘘。カスミサン、気持ちいいよ。」
しずく「ほんと〜?しず子も甘えん坊さんですねぇ〜じゃあもっと仲良くなっちゃいましょうか〜!」プチ
部長「しずく、ダメ……」
私の中のサディスティックな面、いや、マゾヒスティックな面が止まらない。
かすみさんなら、この時こうする
かすみさんなら、この時こうするはずだ。
かすみさんなら、この時こうして欲しい……
桜坂しずくは中須かすみが好きで、中須かすみは桜坂しずくが好きなはずだ。
かすみさんのブラウスのボタンを全部外した時、部長の泣き顔を見て私はハッとした。
部長「……」
しずく「5分、とっくに過ぎちゃいましたね。」
部長「しずく、いい演技だったよ。」プチ プチ(ボタンを閉める)
しずく「そんな、部長の演技がわたしそっくり過ぎて、私の方が引き込まれましたから!」
部長「そうかな、私のしずく役はどうだった?」
しずく「完璧です。正直恥ずかしくなる程です。まぁ、実際ある訳ないんですけどね(笑)」
部長「そうだね、実際ある訳ないんだけどね。」
〜〜〜
演劇部員A「しずくちゃんの演技、変わったね。前もっと演技がかってた感じだったのに」
演劇部員B「うん、普段喋ってるしずくちゃんにちかくなった」
しずく「エヘへ、そうかな?」
あの日は部長のためのエチュードだったけど、それを見てた私は、中須かすみとして桜坂しずくを見た私は前よりも自分がわかるようになった気がする。
汚いところも私の魅力。私の中のかすみさんが言ってくれたから、前よりも自信を持って言える。
そして本公演。
黒しずく「『怖いの。本当の私をさらけ出すことなんて。』」
黒しずく「『本当の自分を伝えたところで、わかってなんてもらえる?』」
黒しずく「『いいじゃない。私の歌は用無しだったのよ!私以外の誰かが求められているなら、私が歌う必要なんてないじゃない!』」
私も精一杯頑張ったけれど、ヒロインの影を演じる部長の演技は、前にも増して暗さに磨きがかかっていた。そしてそれは最後の白と黒が混ざるハッピーエンドを存分に引き立てた。
かつて私は部長に言われた。「全部さらけ出す感じで」と。
部長も上手くなりましたね、「全部抱え込む感じ」の役。
Fin
この部長には幸せになってほしい
あっ君かぁ!
背徳感ある展開ですっげぇ良かったゾ~
過去作も読んできたけどどっちも面白かった
特にしずかりの方は新たな可能性を感じられて凄く良かった…!
1話から演劇部モブが出てきてジャージで稽古してたり、あ!わかってる!って感動でした。
部長がしずくをモノにしようとしてる感じはどこまでディレクションされてたのか気になる
やっぱみんな部長さん好きなんすね~
文章も引き込まれたよ乙
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