ダイヤ「夜のお供にさばッチー丼」【SS】
午前0時。柱時計の鐘が鳴ったと同時にペンを置き、椅子から立ち上がる。
それからぐっと伸びをして身体を反らせ深呼吸。
受験を控えたこの時期はとにかく時間が惜しいが、スクールアイドルに生徒会にお稽古とやることは山積み。
こうして一日のボーダーラインを後ろへとずらすのはもはや習慣になってしまった。
だが夜の静寂に身を浸すことで勉強が捗るのだから、これはしょうがないことなんだと言い聞かせる。
そもそも、ただ勉強をするためだけに起きているわけではない。
それなら朝早く起きたほうがよほど健康にいい。
……わざわざ夜更かしをしたくなる理由ができてしまったのだ。
ふらふらと台所に向かい、冷蔵庫の大きな扉を開ける。
スライスチーズにバター。素晴らしい。
大葉、ネギ。完璧だ。
食器棚の下にはサバの缶詰と刻み海苔。
「あとはご飯があれば……」
炊飯器のスイッチは当然切れているが、夕食に向けて炊いたばかりだったはず。
きっと余った分は……あった。
予想通り小分けにして冷凍されていた。
……すべてが計画通りですわ!
誰が聞いているわけでもない郷土自慢はゆるやかに夜へと吸い込まれていった。
そもそもこの周りに住んでいるのは沼津が地元の人間ばかりなのだから、高らかにアピールしたとてしょうがないのだが。
ようやく始まる、私の夜。
「それでは、さばッチー丼を作りますわ!」
まずは冷凍されたご飯を電子レンジへ。
解凍している間にスライスチーズを短冊状にカット。
お米がふっくらと温まるよう願いを込めつつ、しばらくストレッチしながら待つ。
チーン
「いい塩梅ですわね」
深めの器にほかほかの白米を入れ、鯖缶の中身を出してほぐす。
そこに先ほど切ったスライスチーズを載せ、ネギ・刻み海苔・大葉を適度に散らす。
最後にバターをひとかけら、丼の頂点にそっと置く。
「これで至高の丼が完成しましたわ!」
「それでは早速いただきましょう」
スッと箸を伸ばし一口。温かいお米の香りが口内を満たす。
サバとチーズをまとめて一口。塩気と甘さのマリアージュ。
大葉を巻いてさらに一口。苦味が丼の味わいを豊かなものにする。
比喩などではなく本当に箸が止まらないのだ。
シンプルな食材ですぐに作れるとは思えない深みのある味。
そして愛すべき地元を感じられる味。
「つくづくとんでもない代物ですわ」
親友と屋上でお昼を食べたときにレシピを教えてもらって以来、実はかれこれ1週間も続けて食べてしまっているのだ。
あくまで素晴らしいレシピに対する敬意を込めた研究の一環ではあるが。
……そう、あくまで研究の一環なのです。
というわけでここからは黒澤流。
半分ほど余った丼に白だしとお茶漬けの素をかける。
丼に熱湯を注いで、さばッチー丼お茶漬けエディションの完成。
「こうすることで温かさをブースト。体中がぽっかぽか。完璧ですわね!」
掬って大きく一口。サバの塩気がお茶漬けにぴったり。
きっと冬はショウガをすりおろして入れてもおいしいのかもしれない。
案外わさびもいけるかもしれない。
いずれにせよ、研究の余地はまだまだありそうだ。
「少ししょっぱくなってしまうのでお湯は多めに注ぐのがコツですわ」
「おいしかったですわ。ごちそうさまでした」
明日を生きるエネルギーを充填できたことに感謝し、手を合わせる。
使った食器を洗い終えたら一仕事終えた気分になり、一気に眠気が襲ってきた。
眠い目を擦りながら歯を磨き、またふらふらと自分の部屋へ戻る。
ベッドに横たわり、すうっと深呼吸。
こうして一日はまた巡っていく。
「明日からもまた頑張りましょう」
そう呟いて目を閉じた。
以下の続編でした
乙
レシピを真似して食べたくなりました。
引用元:https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11177/1711203284/
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