私とせつ菜ちゃんと花火大会と【SS】
あの日、あのステージで、あのパフォーマンスに魅了されたあの時から、その念が心から消えることは一瞬たりともなかった。
歯を磨くときも、宿題をするときも寝るときも、私のまぶたの裏にはいつも彼女……、つまりはせつ菜ちゃんの姿があった。
そのくらい、スクールアイドル優木せつ菜は私にとっての目標であり、憧憬の的だった。
だからもちろん、スクールアイドルとして彼女の事を尊敬しているし、敬愛している。
でも、私の気持ちはそれ以上でもそれ以下でもないと思っている。
私という普通のスクールアイドルが目標にしている魅力的なスクールアイドル。それが彼女。
だって、これ以上深く考えたら……
――自分の気持ちとしっかり向き合ったら、もう戻れなくなる気がするから。
同好会の帰り道、背後から突然声をかけられ驚き振り向いたその先には、世界でいちばん笑顔がまぶしい女の子が立っていた。
心の底から嬉しかった。
ひとりで行くほどでもないし、自分で誰かを誘う気にもなれなかった。みんなそれぞれ一緒に行きたい人がいるだろうし。
そんな時、せつ菜ちゃんが誘ってくれたのだから嬉しくて仕方がない。
そう、一緒に行く人がいなかったからこんなに嬉しく感じるんだ。
そう、きっと痛いほど心臓が高鳴っているのも、そのせいだ。
浴衣姿のせつ菜ちゃんは息をのむほど可愛く、そして美しかった。
こんな女の子の隣に自分なんかがいていいのだろうか。
周りの人から不釣り合いだと笑われないだろうか。
でもそんな私の気苦労とは裏腹に、せつ菜ちゃんは道の奥まで延々と連なる屋台に大興奮していた。
「金魚すくいやりましょう!!」
「あっちに焼きそば屋がありますよ!!一緒に食べませんか?!」
「わたし射的がやりたいです!!ゲームで鍛えているから自信ありますよ?!」
せつ菜ちゃんの屈託のない笑顔を、私の大好きなその顔を真正面に向けられ、思わず頬を赤らめる。
ステージの上で見る少し背伸びをしたかっこいいあなたも魅力的だけど、
今となりにいる、ファンの皆には見せない等身大のあなたも私を惑わせる。
やめて。これ以上私にあなたの事を考えさせないで。
考えれば考えるほど、あなたの事を好きになってしまうから。
せつ菜ちゃんが私の手を引っぱる。その小さな手に見合わない、強い力で。しっかりと、確実に。
せつ菜ちゃんは花火を見たいだけだよね。
でも、ついつい考えてちゃう。
せつ菜ちゃんがこれほど強く私を求めてくれたなら、どれだけ幸せだろう、と。
そんな私の妄想を打ち壊すかのように、一発目の花火が大きく大きく打ちあがった。
「あ~、始まっちゃいましたね!」
せつ菜ちゃんは少し残念そう。
「はやくはやく~!こっちですよ!!」
土手の上で大きく手を振るせつ菜ちゃん。
その瞬間、せつ菜ちゃんの背後で一際大きな花火がひらいた。
その姿が光景があまりにも美しく、あぁ私がいま目にしているこの思い出は一生忘れることはないのだろうと、理由もなく確信してしまった。
そして、もしせつ菜ちゃんがこのまま遠くに行ってしまったら、その思い出がある種の呪いとして私を後悔と自責で苦しめ続けるに違いない。
私は、優木せつ菜が大好きなんだ。
そうでもしないと、今日という日の思い出を一生反芻することになる。
「ちょっと~!いつまでそんなところにいるんですか~?!」
そうだよね。いつまでも”こんなところ”にいたらだめだよね。
私は勇気を出してこう言った。今いくよ、と。
まずは勇気を出して一歩を踏み出してみようと思う。
今はまだ小さな蕾だけど、いつか大きな花を咲かすから。
だからこの小さな蕾を、あなたは受け取ってくれますか?
おわり
とてもよかった
乙
せつ菜に恋する乙女っていうのもありだよね👍
引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1659960910/
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