栞子「夏といえば」ᶘイ^⇁^ナ川「ホラーです!」【SS】
ᶘイ^⇁^ナ川「これから私が語ります怪談は、身の毛もよだつような、とても恐ろしい話でございます……」
ᶘイº⇁ºナ川「今でもあの時のことを思い出すと、身体の芯がぶるぶると震えますが……ぴさんに脅されているので仕方なく語ります」
ᶘイ^⇁^ナ川「あれは、つい先月のこと……」
ᶘイ^⇁^ナ川「お友達である栞子さんに会うため、虹ヶ咲学園にお邪魔した時の話です──」
ᶘイ^⇁^ナ川「栞子さーん! おーい!」オテテブンブン
栞子「おや、この声は……イナ川さん」
ᶘイ^⇁^ナ川「お久しぶりです!」
栞子「はい。村の一件以来で……」
ᶘイ^⇁^ナ川「栞子さん? どうかしましたか?」
栞子「……あの」
ᶘイ^⇁^ナ川「はい?」
栞子「…………」
栞子「……そちらの好好爺はどなたでしょうか?」
ᶘイ^⇁^ナ川「この方は稲川良彦さん──芸名は稲川淳二さんです!」
淳二「どうも、栞子ちゃん」
栞子「はあ……。初めまして」
栞子(著名な方なのでしょうか?)
ᶘイ^⇁^ナ川「はい?」
栞子「あなたではありません。お髭がたくましいほうの稲川さん」
淳二「はい、なんでしょうか?」
栞子「察するに……歩くのに疲れたイナ川さんが、稲川さんをタクシー代わりに利用しているようにお見受けしましたが……」
ᶘイ^⇁^ナ川「すごいです、栞子さん! 大正解です!」
栞子「す、すみません! この子が迷惑を……!」
淳二「いえいえ、いいんですよ。私もイナ川ちゃんとお話できて楽しかったですから」ヘッヘ
栞子「そうですか……。イナ川さん、送っていただいたお礼はしましたか?」
ᶘイ^⇁^ナ川「はっ! 私としたことが、ありがとうを言い忘れていました!」
ᶘイ^⇁^ナ川「淳二さん! ありがとうございました!」
淳二「ははは。こちらこそ、ありがとね」
淳二「お礼……ですか」
淳二「……嗚呼、それならばちょうど頼みがあります」
栞子「どうぞ聞かせてください」
『それというのも、淳二さんが出した要望が、ニジガク校内の見学だったからなのです』
ᶘイ^⇁^ナ川「へっ……へっ……」テコテコ
栞子「イナ川さん。よければ肩に乗ってください」
ᶘイ^⇁^ナ川「いいんですか!? わーい! その言葉を待ってましたー!」
栞子「……さてはわざと疲れたふりをしていましたね? やれやれ、仕方のない人ですね」
ᶘイ^⇁^ナ川「いぇーい!」チョコン
淳二「かわいいねぇ」
栞子「ええ。かわいさ余って、つい甘やかしてしまいます」
淳二「え? ああ、いえ。そうではなくて……」
栞子「……?」
淳二「この校舎はいい造りだ……」
栞子「……そうですね。私もそう思います」
怪談同好会生徒「きゃー! 稲川淳二よー!」
俳句同好会生徒「夏の季語が歩いてるわー!」
淳二「いやはや、どうもどうも」
ᶘイ^⇁^ナ川「…………」
ᶘイº⇁ºナ川「──!」
『ええ。そこは曰く付きだとか、霊が出るだなんて噂はこれっぽっちもない場所でした』
『ですが、その時の私は……妙な胸騒ぎを覚えていたんです』
『嗚呼、なんか変だなぁ……怖いなぁ……』
『今すぐにここから離れたい──ですが栞子さんは何も感じていないようで、どんどん先へと進んでいきました』
淳二「おお、ここが噂の……」
ᶘイº⇁ºナ川「!!」
『ここまで来てようやく、私は胸騒ぎの原因をはっきりと理解しました』
『嗚呼、なるほど。そういうことだったのか……と』
かすみ「あー! 怪談の人ですー!」
愛「いなっちじゃーん!」
エマ「有名な人?」
果林「ええ、夏の風物詩よ」
栞子「やはり名の知れた方だったのですね」
侑「稲川さん、サインください!」
淳二「はいはい。今書きますよ」
侑「……えっ」
『歩夢さんは、稲川さんが伸ばした腕をしっかり握っていました』
『恐らくは折るつもりで握っていたのでしょう。ミシミシと音を立てていました』
淳二「いたた……いだだだだっ!!」
歩夢「今、あなた……侑ちゃんの胸を触ろうとしてましたよね?」
淳二「さ、サインを……! サインを書こうと……」
歩夢「あ?」
侑「歩夢、やめて! 稲川さん痛がってるじゃん!」
歩夢「侑ちゃん……」
『侑さんの制止で、歩夢さんは力を弱めてしまい……』
淳二「馬鹿めっ! わしの目的は最初からお前じゃ!」
ᶘイ^⇁^ナ川「逃げて! 栞子さん!」
栞子「!?」
『解き放たれた性の権化は、一目散に栞子さんへと飛び掛かりました』
淳二「ぐへっ」バタッ
栞子「ランジュ……!」
ランジュ「栞子、怪我はない?」
栞子「はい、ありませんが……」
ランジュ「よかったわ……。大切な栞子に何かあったらどうしようかと……」
栞子「あの、ランジュ……」
ランジュ「何かしら? お礼なら結構よ」
栞子「……やりすぎです」
淳二「あがっ、あがが……」ピクピク
ランジュ「ラァ……」
『その後、淳二さんは警察に連行されていきました』
『淳二さんはどうやら最初から、栞子さんの身体が目的だったみたいです』
ᶘイ^⇁^ナ川「……」
栞子「あなたに話しかけています」
ᶘイ^⇁^ナ川「あ、私でしたか!」
栞子「先程の、稲川淳二さん……有名な方らしいので調べてみたんですが……」
栞子「……おかしなことに、2時間ほど前から茨城で公演を開いているようなんです」
ᶘイ^⇁^ナ川「むむ? でも淳二さんは私たちとずっと一緒にいましたよ?」
栞子「そうですよね……?」
ᶘイ^⇁^ナ川「本物の淳二さんは茨城に……? では……」
しおいな「……さっきの人、誰!?」
―――――
――
ᶘイ^⇁^ナ川「それ故に、似た感じの口髭の好好爺がいれば、稲川淳二と見分けがつかなくなってしまう……」
ᶘイ^⇁^ナ川「思い込みとは怖いものですねぇ……」
ᶘイ^⇁^ナ川「おっとすみません。話が脱線してしまいました」
ᶘイ^⇁^ナ川「……え? 今のが本編じゃないのかって?」
ᶘイ^⇁^ナ川「いえいえ、私が恐ろしいと感じたのは、これとは別の話でございます」
ᶘイ^⇁^ナ川「話は戻り、栞子さんと偽淳二さんと共に同好会部室に訪った時のこと──」
ᶘイ^⇁^ナ川「栞子さんの肩から降りた私は、踏まれないように安全な場所を求めてヨタヨタ歩いておりました」
ᶘイ^⇁^ナ川「もちろん、上を見ながら」
ᶘイ^⇁^ナ川「へっへ。私はサイズ的に、視線を上にするだけでスカートの中が覗き放題なのでございます」
ᶘイº⇁ºナ川「そんな私に激震が走りました」
ᶘイ^⇁^ナ川「栞子さんのくまさんパンティーや歩夢さんの真っ赤な勝負下着も気になりましたが……」
ᶘイº⇁º;ナ川「まさか、同好会のあの人が…………ノーパンとは……」
ᶘイº⇁ºナ川「…………」
ᶘイ^⇁^ナ川「嗚呼、エロいなぁ……エロいなぁ……」
第一話 おわり
ᶘイ^⇁^ナ川「え、私ですか? 私が好きなのは……」
ᶘイ^⇁^ナ川「もちろん、ぴさんが作ってくれるカップヌードル!」
ᶘイ^⇁^ナ川「カップヌードルは調理が難しく、手間暇かかりまくる世界一大変な料理だそうで」
ᶘイ^⇁^ナ川「『そんな料理を毎日作ってあげてるんだから感謝しろ』と、ぴさんはよく言います」
ᶘイº⇁ºナ川「しかし私は知っています。お湯を注いで3分で完成することを……」
ᶘイ^⇁^ナ川「今回私が語りますのは、そんなカップヌードルよりも長いお話です」
ᶘイº⇁ºナ川「長く、長く、とても長いお話──」
栞子「……すごい行列ですね。まさに長蛇と言ったところでしょうか」
ᶘイ^⇁^ナ川「栞子さん! 早く並びましょう!」
栞子「はいはい。わかってますよ」
ᶘイ^⇁^ナ川「あ、見てください! 翠い看板です! きれいな色ですねぇ~」
栞子「イナ川さん。余所見していると危ないですよ」
ᶘイ^⇁^ナ川「はーい!」
ᶘイ^⇁^ナ川「!」
ᶘイ^⇁^ナ川「私は2回目なので、先輩ですね!」
栞子「そういうものでしょうか……?」
ᶘイ^⇁^ナ川「わからないことがあったら、この先輩になんでも訊いてください!」エッヘン
栞子「ふふっ。……ええ、頼りにしてますよ」
栞子「あなたは私の手に座ってるだけじゃないですか。文句言わないでください」
ᶘイ^⇁^ナ川「へっへ」
ᶘイ^⇁^ナ川「あ、栞子さん! しりとりしましょう!」
栞子「そうですね。時間潰しにもなりますし」
ᶘイ^⇁^ナ川「では私から! しりとりの『り』!」
ᶘイ^⇁^ナ川「り……り……」
ᶘイ^⇁^ナ川「…………」
ᶘイº⇁ºナ川「負けました」
栞子「なぜ始めようと思ったんですか……」
ᶘイ^⇁^ナ川「しりとり、栞子さんから始めてください!」
栞子「では……『倫理』」
ᶘイ・᷄⇁・᷅ナ川「続ける気あるんですか?」
ᶘイ^⇁^ナ川「あ、見てください! 少し先のところで列が途絶えています!」
栞子「あそこがお店なのでしょうか」
ᶘイ^⇁^ナ川「きっとそうです!」
栞子「……曲がり角で先が見えなかっただけでしたね。まだまだ続いています」
ᶘイº⇁ºナ川「既に30分近く並んでるんですけどね……」
ᶘイº⇁ºナ川「お腹空きました……」グー
栞子「どうしますか? 店に着くまで先は長そうですし、別のお店に……」
ᶘイ^⇁^ナ川「いえ! ここまで並んだ労力がもったいないので、このまま並び続けましょう」
栞子「コンコルド効果ですね……。まあいいでしょう、イナ川さんも一緒にいてくれますし」
ᶘイ^⇁^ナ川「はい!」
待機客b「かれこれ3時間は並んでるぞ……」
栞子「後ろに並んでいる方も苛立っているようですね」
ᶘイ^⇁^ナ川「私たちもかれこれ1時間近く並んでますしね……」
栞子「……!」
ᶘイ^⇁^ナ川「列が道路で分断されてます……!」
栞子「次、信号が青になったら走りますよ」
ᶘイ^⇁^ナ川「はい!」
栞子「落ちないよう、しっかり捕まっていてくださいね」
ᶘイ^⇁^ナ川「ぎゅー」
栞子「……行きます!」
『私たちはなんとか赤色に変わる前に渡り切り、前の人に追いつきました』
ᶘイ^⇁^ナ川「栞子さん!」
栞子「……ついに、ですね」
ᶘイ^⇁^ナ川「ここのホテルの中にお店があるんですね!」
栞子「あまり想像がつきませんが……」
ᶘイ^⇁^ナ川「楽しみです! 栞子さんは?」
栞子「ええ、とても楽しみですよ」
ᶘイ^⇁^ナ川「前の人達はもれなく、エレベーターに乗ってますね……」
栞子「……7階で止まりました」
栞子「エレベーター、降りてきます……」
ᶘイ^⇁^ナ川「……私たちも乗りましょう」
栞子「……ここ、客室前の廊下ですよね? まだまだ列は続いています」
栞子「いくらなんでも、このようなところに列ができるとは思えないのですが……」
ᶘイ^⇁^ナ川「ですね……」
栞子「イナ川さんは先輩ですから、この不思議な状況について何かわかりませんか?」
ᶘイ ˘ ⇁ ˘ ナ川「…………」
ᶘイ^⇁^ナ川「わかりません!」
栞子「そうですか。それは困りましたね」
『それから列はスタッフ用の通路に入り、階段で下へ降りて、そのままホテルの裏口から外へと出ました』
栞子「ホテルを通り抜けしただけ……? 一体なんだったのでしょうか?」
ᶘイ^⇁^ナ川「列、まだ終わりませんね」
栞子「ですね」
『そうしてしばらく歩いていると……栞子さんがふと気付きました』
栞子「……あの翠い看板、3時間程前にも見ましたよね?」
ᶘイ^⇁^ナ川「!」
栞子「この周辺の景色にも見覚えがあります……」
ᶘイ^⇁^ナ川「……つまり、どういうことですか?」
栞子「恐らくは……」
栞子「この長蛇の列は、ずっと同じところをぐるぐると回り続けている……のではないでしょうか」
栞子「どこにも行き着くことはなく、永遠に……」
ᶘイ^⇁^ナ川「……なるほど」
栞子「まさに、ウロボロス……」
『私たちは知らぬ間に、蛇に飲まれていたのかもしれません……』
ᶘイº⇁ºナ川「お腹空きました……。もう一歩も動けません……」
栞子「あなたは歩いてないでしょうに」
ᶘイ^⇁^ナ川「へっへ。そうでした!」
栞子「……ラーメン屋、どんな味だったんでしょうか?」
ᶘイ^⇁^ナ川「わかりません。そもそもお店がないなら食べることすら……」
『そう言いながら、先程まで自分達が並んでいた列を振り返ってみました』
『……すると』
栞子「…………」
ᶘイ^⇁^ナ川「…………」
栞子「ラーメン屋……です」
ᶘイ^⇁^ナ川「……はい」
栞子「……いい外観、ですね」
ᶘイ^⇁^ナ川「…………はい」
―――――
――
ᶘイ^⇁^ナ川「……そう考えると、すごくもったいないことをした気分になってしまいます」
ᶘイ^⇁^ナ川「でも、まあ……」
ᶘイ^⇁^ナ川「カップヌードルの素晴らしさを再認識できたので、よしとしましょう!」
ᶘイ^⇁^ナ川「……あ。そろそろお湯を入れて3分が経ちます」
ᶘイ^⇁^ナ川「それではこの辺で失礼いたします……」
第二話 おわり
ᶘイ^⇁^ナ川「今でも思い返すたびに、背筋がゾクッとします……」
ᶘイ^⇁^ナ川「日常にありふれた、よくあるお話……」
ᶘイ^⇁^ナ川「それなのに、どうして私はこんなにも恐怖を感じるのでしょうか……?」
ᶘイ^⇁^ナ川「その理由は、皆さん自身で確かめてみてください──」
栞子「しーっ。イナ川さん、生徒会室では静かにしていてください」
ᶘイ^⇁^ナ川「……はい」シュン
副会長「会長。この件なのですが……」
栞子「はい、どれどれ……」
ᶘイ^⇁^ナ川「暇です~」
ᶘイ^⇁^ナ川「……おや?」
ᶘイ^⇁^ナ川「この窓から部室棟が見下ろせますね」
ᶘイ^⇁^ナ川「どれどれ、同好会の皆さんは練習に励んでいるでしょうか~」
ᶘイ^⇁^ナ川「…………」
『マネージャーの侑さんを始め』
『歩夢さん』
『かすみさん』
『しずくさん』
『果林さん』
『愛さん』
『彼方さん』
『せつ菜さん』
『エマさん』
『璃奈さん』
『ミアさん』
『ランジュさん』
『栞子さん』
ᶘイº⇁º;ナ川「……」
栞子「ええ。ですから予備案をいくつか用意しておいて……」
『そして、もう一度屋上を確認』
『そこには、間違いなく三船栞子の姿があります』
『今、生徒会室にいるはずの栞子さんが、何故か部室棟で同好会メンバーと混じり、練習している……』
『つまり、同じ人間が同時に二人、別々の場所に存在していることになります』
ᶘイº⇁º;ナ川「……栞子さん」
栞子「はい。どうかしましたか?」
ᶘイº⇁º;ナ川「……いえ、なんでもないです」
『私の目の前にいるこの栞子さんは本物だと、根拠はないけど確信していました』
『だとすると……』
ᶘイº⇁º;ナ川(向こうにいる栞子さんは、一体何者……!?)
栞子「さて、イナ川さん。同好会へ行きますよ」
ᶘイº⇁ºナ川「!?」
栞子「……どうかしましたか?」
ᶘイº⇁ºナ川「あ、いや……」
『二人の栞子さんを会わせてはいけないという直感が働き、私は同好会へ向かうのを阻止しようと試みました』
『しかし、私がなんと言って止めればいいものか思案している間に、栞子さんはズンズン近づいていきます』
ᶘイº⇁º;ナ川「し、栞子さん! 今日はいいお天気ですね!」
栞子「そうですね。絶好の練習日和です」
ᶘイº⇁º;ナ川「日和ではありません!」
栞子「イナ川さん……?」
『そうこうしている内に……』
『着替えを済ました栞子さんは、屋上に到着してしまいました』
『そこに、もう一人の栞子の姿はありませんでした』
ランジュ「栞子。おかえりなさい」
栞子「……? ただいま帰りました?」
ᶘイº⇁ºナ川(見間違い……だったのでしょうか?)
ᶘイ^⇁^ナ川(やっぱり気のせいでしたね!)
ᶘイ^⇁^ナ川(栞子さんが二人もいるはずありません!)
栞子「イナ川さん。一緒に帰りましょうか」
ᶘイ^⇁^ナ川「はい!」
ᶘイº⇁º;ナ川「──!」
『突き刺すような視線を背中に感じていましたが……』
『私は気付かぬふりをして、栞子さんと共に家路に着きました』
―――――
――
ᶘイ^⇁^ナ川「私自身、栞子さんに関して思うところがあったため、あのようなドッペルゲンガーを見たのかもしれませんし……」
ᶘイ^⇁^ナ川「……いえ、余り深く話すべきではないですね」
ᶘイ^⇁^ナ川「それではいつものやつで、この話は締めましょうか」
ᶘイ^⇁^ナ川「嗚呼、怖いなぁ……怖いなぁ……」
第三話 おわり
引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1660306819/
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