【SS】彼方「ドッキドキ♡ポッキーゲーム!」果林「いえーい」【ラブライブ!虹ヶ咲】
ぽかぽかと11月らしくない陽気。
部室でひとりお茶を飲んでいると睡魔が襲ってくる。
お昼寝なんてどこかの誰かさんみたいだけれど、少しだけ寝てしまおうか。
ガラッ
「彼方ちゃんいっちば~~ん…‥じゃないのか~」
噂をすれば何とやら。
ソファに横になろうとした時、どこかの誰かさん
——近江彼方が珍しく元気にやってきた。
「ん゛っんっ…かあ~りんちゃ~ん♡」
ああ、この声色は面倒くさい彼方だ。
少し心が痛むけれど、こういうときは放置するに限る。
「ちょっとちょっと~彼方ちゃんを無視しないで~」
「ねえってばぁ………果林ちゃん?」
先ほどの元気はどこへ行ったのか。
しょんぼりという文字が浮かびそうなほど落ち込んだ声。
まったくもう。
「あのねあのね、これっ!」
彼方が見せてきたのは棒状のクッキーをチョコレートでコーティングした定番のお菓子。
そう、ポッキー。
あぁそういうことか、今日は確か。
「ポッキーの日ってことかしら?」
「ピンポーン!だいせいか~い……わわっ!待って!手に持ったクッションを下ろして!」
「…なによ、ポッキーゲームなら遥ちゃんとでもしたらいいじゃない」
「いやほら遥ちゃんって今日がお誕生日でしょ?だから毎年その…死ぬほど貰ってくるんだよね」
たしか去年はバトンドールのギフトセットをあげたっけ。
どうしよう、今年はなにも用意できていない。
「ごめんなさい、すっかり忘れてたわ…近いうちになにかプレゼントするわね」
「そんな気にしなくていいよ~だって去年までは私達」
「いいえ、私が気にするのよ」
「う~ん…じゃあこういうのは?今から2人でポッキーゲームをやって、その仲良しツーショを贈るの!」
「は、はぁ!?」
出た、彼方の必殺上目遣い。
どうも私はこの攻撃にめっぽう弱い。
私とこの子の身長差は9センチ。
そのたった9センチにいつも勝てずにいる。
「…写真を撮るだけよ、そして私は持ち手側しか食べない、条件はこれでいい?」
「う、うんっ!ありがとっ!」
彼方の嬉しそうな顔に私までつられて笑顔になる。
いけないいけない、クールにならねば。
「はぁ~い……よっこいしょ~」
「………ねえ、どうして私の膝に座るのかしら」
「そこにお膝があるから?………いだっ」
「これ以上おでこが赤くならないうちに降りなさい」
「なにさ、可愛い彼方ちゃんの可愛い冗談じゃないか」
「彼方が可愛いのはずっと前から知ってるわよ、ほらさっさとポッキーを咥えなさい」
「う、うむぅ……果林ちゃんもやりおるな………はむ」
彼方のこういうところは本当よくない。
せっかく塗り直したばかりの”クールな朝香果林”のメイクを意図も容易く落としてしまう。
本当に、よくないわよ。
「あらごめんなさい、それじゃあいくわね……んっ」
…ポッキーなんて久しぶりに食べた気がする。
島にいた時は束にして頬張ってたりもしたっけ。
あの頃は本当に自由だったわね。
「んむむ………」
「……はぁに?」
「ん~ん」
キラキラとしたアメジストのような彼方の瞳。
そして、その瞳に囚われる私の姿。
じっと見つめていると私の心まで囚われてしまう。
いけない、今からするのは遥ちゃんのために写真を撮って、すぐにポッキー噛んで折る。
ただそれだけなんだから。
パシャリ
突如響くカメラのシャッター音。
彼方がいつのまにかスマホを向けていたみたい。
どうやら良い写真が撮れたようで私に画面を見せてくる。
ごちゃごちゃ余計なことを考えている私の顔が、奇跡的なことに物憂げな表情に見えている。
よし、あとは歯に力を入れるだけ。
スマホを見ていた彼方がこちらを再度見据える。
軽薄な空気をまといニヤニヤと挑発的に揺れる瞳。
そうあの顔は、あれれ~?果林ちゃん逃げるの~?
なんて舐めたことを考えている顔だ。
でもそれがどうした、今までの私ならいざ知らず今の朝香果林にそんな挑発は無意味だ。
さっさと終わらせて優雅にお昼寝でも…
……ちょっと待って、今なにをしたの。
え、こいつ私のことを鼻で笑った?
自分からやっすい挑発をしておきながら、大人な対応をするこの私を?小馬鹿にした……?
ちょっと可愛いからって調子に乗って、自分がどれだけ愚かなことをしたかわからせてやる。
別に挑発に乗せられるわけじゃないわ、でもね。
泣いても知らないわよ、近江彼方。
唇の端を舐め、目を閉じる。
私は逃げない、さっさとかかってこいと合図をする。
明日は雑誌の撮影、出来るだけチョコは食べたくない。
だから彼方の方から食べ進めてもらう。
その代わり絶対に自分からは引かない。そういう覚悟。
サクッサクッ
私の意図を汲み取ったのか規則的な咀嚼音。
ちらっと見ても良いけれど、あえて目を閉じたまま。
ふふ、さっさと照れて負けを認めなさいな。
!?待ってどうして?
サクサクサクサクサクサクッ
突如として加速するテンポ。
リスにでもなっての?あなたは羊でしょ!?
このペースだともう顔の目前、キスまでは秒読み。
さすがの私もたまらず目を開ける。
目を開けて感じる違和感、残りはまだ半分。
もしかして、わざと小さく噛んで惑わせたの?
勝ち誇ったような彼方の表情に酷く腹が立つ。
昔はすぐに真っ赤になって震えていたくせに、いつの間にこんな賢しい真似を。
いいわ、奇策勝負を受けて立とうじゃない。
「……ん……ふ」
「ひゃ、ひゃりぃんひゃ…!?」
もし彼方が直進して来ればより深い角度でのキスになる。
ほおら、昔のように大慌てで折りなさいな。
「む………はむっ」
サッッッッックッ
さっきよりも長いストロークでの咀嚼。
彼方は一気に勝負をつけにきた、でもいいのかしら。
その判断のせいでもう2人の唇は触れ合う寸前。
おそらく身じろぎするだけでキスしてしまう。
「ふぐぅ……んむむ」
「はふ……ふ………」
キスをするわけにもいかない、かといって自らポッキーを折ればそれ即ち敗北となる。
彼方も私とは同じくらい負けず嫌いなことは知っている。
だからこれは我慢比べだ。
「……ふむ……んんん」
「はっ……ん…すぅ………」
目に涙を溜め、冷や汗を流す彼方を見つめる。
…あれ、彼方ってこんなにまつ毛が長かったっけ。
こんなにお肌に艶があったっけ。
こんなに、こんなに、こんなに可愛かったっけ。
まつ毛が長いのは1年生の頃にケアを教えたからだ。
肌に艶があるのは質の良い睡眠のおかげだろう。
可愛いのは、彼方が可愛いのはずっと前からだ。
「ぁう……むっ……」
「すふぅ……むむ……」
彼方に鼻息が当たるのを気にして、少しだけ大きめに息を吸い込む。
その瞬間、チョコレートの人工的な甘さと、彼方の優しくてあたたかくて心地いい甘さが肺に満ちる。
ある時期まで毎日嗅いでいた香り。
そんな昔ではないけれど、ノスタルジーを感じる。
いや違う、揺らいでいるのは私の視界も同じだ。
過去に置いてきた感情が、今この瞬間、追いついてきた。
「っ…………ん…」
もう良いのかもしれない。
少しだけ過去を振り返っても良いのかも。
彼方と視線を交わす。2人の思考が直列に繋がる。
どうでもいい。
勝ち負けなんて、意地なんて、もうどうでも。
ただ目の前の唇に触れたい。それだけで。
「「…!?」」
「やった!かすみんの勝ち!!つまり!しず子とりな子としお子の負けでぇ~~~す」
「はぁ…はぁ…かすみさん足速すぎ…」
「無駄にこういう時は速いんですから」
「いつか……勝つ……」
「はぁい~負っけ惜しみぃ~~」
「て、あれ?彼方先輩と果林先輩?」
「な…なにかなぁ?」
「大人な2人のポッキーゲーム、すごい」
「わぁ、お2人がそんな関係だったなんて…」
「かすみさん達、そんな揶揄ってはいけませんよ」
「……かすみちゃん?舐めてると潰すわよ」
「ひぃっ」
「…ちょっと顔を洗ってくるわ、彼方も来る?」
「う、うん~彼方ちゃんも行く~」
「ひょえ~果林先輩こわいよぉ…」
「かすみさんが調子に乗るからです」
「そうね…あの子達のことは…うん、一番元気なかすみちゃんを脅して口止めをしましょうか」
「うわ~果林ちゃんこわ~い」
「うるさいわね」
「はぁ…リップも塗り直しじゃないの」
「でもさ、美味しかったよね」
「甘いだけよ」
ほんと、チョコレートって甘すぎるのよ。
なぜか書き込むごとにIDが変わったため少し見にくいですが、上手いことして読んでもらえると助かります。
ポッキーゲームえ●ちすぎる
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