【SS】花丸「爪が剥がれた夕暮れ時」【ラブライブ!サンシャイン!!】

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【SS】花丸「爪が剥がれた夕暮れ時」【ラブライブ!サンシャイン!!】

1:(家) 2019/06/19(水) 19:15:50.42 ID:gp0WXv3c

ある夕暮れ時――オラ、国木田花丸は図書室の真ん中で床にうずくまっていた。

花丸「ぐうっ……うぅ……」

こうすると落ち着くとか、疲れたから横になっているとか……ではなくて。
命の危機に瀕して……もいない。ただ単に、指先に走る激痛のせいで動けないだけ。
……激痛、という言葉でも足りないくらいに痛いけど……
この耐え難い痛みを上手く表現できる言葉は、長く本を読んで過ごしてきたマルでも全く思いつかなかった……痛すぎて考える余裕もないし。

花丸「うぅ……う……」

どうして図書室の中心でうずくまるに至ったのか。
さっき、マルは図書室にある本を整理していたんだ。下校時間までにはまだ時間があるし、図書委員としてのお仕事をって。
どうせ、今日も誰も来ないし……夕方の今まで誰も来ていないし。ずーっと本を読んで静かに過ごせるから、マルはいいんだけどね。
それで、本棚を眺めて、散らばってる何冊かの本を元の場所に戻して……そのあと
両手で抱えても重いくらいの分厚い辞書があったんだけど……それを頑張って持って、元の本棚に戻そうって思った時……

「わっ、とと……」

つまづいたと同時に……持ち方が悪かったのか、小指の爪に本の表紙が引っ掛かって

「あっ……ぎいぃいいぃいやぁ~~!!」

なんて悲鳴を上げながら、激痛とともにぱったりと倒れこんだ。

転んだから痛い……のもそうだけど、それよりはるかに痛いのが……辞書に食い込んだせいで爪が剥がれた小指。
ついさっき変な悲鳴を上げた恥ずかしさなんて、一瞬でどこかに消えてしまった。本当に、ただただ痛い……
ちょうど目の前に剥がれた爪が落っこちていて、それは真っ赤に染まっていて……グロい、の一言に尽きるずら。
目を背けたいのはやまやまだけど、もはや顔を動かすことすらできないほど……痛い。

 

2:(家) 2019/06/19(水) 19:16:38.46 ID:gp0WXv3c

花丸「あ、あうぅ……」

そういえば、指と爪の間に針を刺す拷問をどこかで見たかも……なんてことを考えられる程度には、少し落ち着いてきたみたい。
でも、それでも……落ち着いてきた思考に反するように、痛みは激しいままで――体を動かそうとしても、やっぱり力が入らない。
このままうずくまっていれば、痛みも徐々に引いてくるとは思うけど……下校時間に間に合うかどうか心配だよ……

花丸「ぐう、うぅ……!」

激痛を必死にこらえ、根性で体を動かす。そう、マルはこんなところで倒れているわけにはいかないずら――!
ルビィちゃんにダイヤさん、マルの三人でお洋服屋さんに行く約束もしてるし……
善子ちゃんと曜ちゃんと、梨子ちゃんと……げーむ?っていうので遊ぶ約束もしてる……!
鞠莉ちゃん、千歌ちゃんとは、ばってぃんぐせんたー?で棒を振って……なんだっけ……そんな約束もしてるし
え~っと、あと……って、そんなことより起き上がらないと……

花丸「はあっ……! ぐ、ぐうっ……!」

左手を床について……激痛が走る右手も、気合で床につい……

花丸「い、痛っ!? わ、わっ!?」

あれ、やっぱり力が入らない……!? せっかく左腕で何とか上体を起こして、右手もついて立ち上がろうと思ったけど――
マルの根性もむなしく、力が入らない右手はずるっと床の上を滑り……中途半端に上体を起こしたオラは、その支えを失って――

花丸「ぎ、ぎいぃいいぃいやぁ~~!?」

さっきと似たような悲鳴を上げながら床に頭から倒れこみ……がつん、と思いきり頭をぶつけた。

 

3:(家) 2019/06/19(水) 19:19:15.57 ID:gp0WXv3c

花丸「……ぐ……ぅ……」

頭に手に……満身創痍のマル。
もう、ダメかもしれない。マルの人生はこれでおしまい。でも、最期の場所が図書室なら、これはこれでいいのかな……
全てを受け入れようと、まぶたを閉じようとしたその時――図書室の入り口辺りでがらがらと大きな音がした。

「なんかすごい悲鳴が聞こえたけど……って、花丸ちゃん!? 大丈夫!?」

音に驚いて見開いた目を、そのまま入り口に向けると……そこに見えるのは、すらりと長くて綺麗な脚。
それと、透き通った声に……少しだけ乱暴な扉の開け方。それが誰かは、満身創痍のマルでもすぐわかった――果南ちゃんだ。

花丸「かな……ちゃ……ごめん、オラ……もう……」

果南「ちょ、しっかりして花丸ちゃん!?」

『もうしばらく動けそうにないから、担いで保健室に連れて行って』……って言おうとしたんだけど、痛みに邪魔されちゃった。
変なところで途切れた言葉を受けて心配そうな顔をしながら、たたたっ、と駆け寄ってくる果南ちゃん。目の前で屈みこんで、マルの体の下に手を回すと――

花丸「え、果南ちゃ……きゃっ!?」

――マルの体を起こして、抱きかかえた。

果南「ほら、大丈夫?」

心配そうな表情のまま、オラの顔を覗き込む果南ちゃん。突然抱きかかえられて、顔が近くに――
なんだろう……いつも一緒に居て、一緒に練習をしてきて……あんまり意識したこと、なかったけど。
――果南ちゃんの顔って、本当に綺麗で、かっこいい。それに、いい匂いもするような……

花丸「えっ……だ、大丈夫! 爪が剥がれただけずら!」

果南「そっか、爪が剥がれただけか~……爪が剥がれたの!?」

そんなことを考えてるうちに、頭の痛みも、指の痛みも、全部吹き飛んじゃった。心臓が高鳴って、どきどきってして――こっちは、少しだけ痛いけど
束の間忘れていた、爪のことを伝えたら――果南ちゃんは、鳩が豆鉄砲を食ったかのような顔をしてる。
無理もないずら。爪が剥がれた、なんて突然言われたら……マルも剥がれてびっくりしたし。
でも、いつもクールな果南ちゃんがそんな表情をしてるのは、少し新鮮で……怪我の功名って、こういうことなのかな――なんて

 

4:(家) 2019/06/19(水) 19:20:55.23 ID:gp0WXv3c

果南「えーっと、消毒液……あったあった。痛いと思うけど、ちょっと我慢してね?」

マルを抱きかかえたまま、手際よくバッグから消毒液と包帯を取り出す果南ちゃん。
歌やダンスの練習では、なるべく怪我をしない様にってAqoursのみんなが気を付けているけど……それでもやっぱり、怪我はしちゃったり。
そういう時、怪我した子の手当をしてくれているのは果南ちゃんなんだけど……それを思い出したのは、たった今ずら……

花丸「い、いたたっ……」

果南「我慢我慢、これで包帯を巻いたらおしまいだから」

綿にしみこませた消毒液が、マルの小指に。やっぱり、ちょっと痛い……けど、爪が剥がれてうずくまってた時に比べれば、痛みはとっても軽くなっていて。
図書室で一人倒れていたところに、人が来てくれたからかな? それか、消毒液の効果がすぐ出てきた……とか。
それとも――来てくれたのが、果南ちゃんだったから……?

果南「……花丸ちゃん?」

花丸「……ひゃっ!?」

果南「さっきから、ずーっと私の顔を見てるけど……もしかして、顔に何かついてる?」

花丸「……~~ッ!? な、なんでもないっ! なんでもないずらっ!」

恥ずかしくて、とっさに果南ちゃんから目を背けるマル。い、いつの間に顔を見つめてたんだろ……
――もしかして、見とれてた、とか……? ……な、ないない! Aqoursのみんなで集まる時、果南ちゃんの顔はいっつも見てるし……
胸はさっきよりどきどきしてて、なんだかほっぺも熱いけど……気のせい、だよね……?

果南「爪を被せて、その上から包帯で……はい、応急手当はおしまいっ。一人で立てるよね?」

ぐるぐると色々なことを考えているうちに、小指にはしっかり包帯が巻かれていた。爪って、元の位置に被せるんだ……
果南ちゃんに支えられながら、ゆっくりと立ち上がる。最初は苦痛のせいで時間が長く感じられたけど――果南ちゃんが来てからは、あっという間だったような。
ふっと、包帯に覆われた指を見つめる。夕焼けの光が差し込んでるせいかな――小指は、あったかくて柔らかい赤色に見えた。

 

5:(家) 2019/06/19(水) 19:23:05.75 ID:gp0WXv3c

果南「じゃ、私はそろそろ帰ろうかな。もう少ししたら下校時間だし」

満足げな表情の果南ちゃん。どことなく安心しているようにも見えるのは、オラが動けるようになったから……だと思う。
そっか、もうすぐ下校時間だよね。バッグを用意して、忘れ物がないかも見て……マルも、早く帰らないと……って、それはわかっているんだけど――

花丸「……か、果南ちゃんっ」

果南「ん? どうしたの?」

花丸「そ、その、一緒に帰りたいな……って」

気付いたら、勝手に言葉が出てきていた。うぅ、ちょっと唐突過ぎたかも……
引き留めるのは悪いかな、とも思ったけど……でも、このまま別れちゃったら――なんだか、また小指が痛みだしそうで。
面と向かってこんな言葉をかけたのが気恥ずかしくて、やっぱりほっぺが熱い……赤くなってても、夕焼けの光に紛れてわからないかな?

果南「うん、いいよ。せっかくだし、手をつないで帰ろっか」

花丸「……て、手をつないで……!? わっ!? か、果南ちゃんっ!?」

果南「さ、れっつごー!」

涼しい顔でオラの右手を握る果南ちゃん。たった今手当されて、小指に包帯がぐるぐる巻きなんだけど……そんなことは気にも留めてないみたい……
驚いたり、恥ずかしがったり、どきどきしたり――心が落ち着かないマルとは正反対で、果南ちゃんは飄々としていて。
「こっちの気も知らないで」なんて、理不尽すぎる愚痴を言いたくなったりもしたけど……果南ちゃんのそういうところが好きなのかな、とも思っちゃうし
でも、何か言ってやらないともやもやするから――

花丸「……ありがと」

――って、愚痴のかわりに小さく呟いた。横を歩く果南ちゃんは、やっぱり全然気づいてない……もういいずら……

夕焼けの光が差し込む廊下を、並んで歩いていくマル達。
今度、果南ちゃんにオススメの本を探しておこうかな、なんて考えながら――果南ちゃんの左手を、ぎゅっと握りなおした。

 

6:(家) 2019/06/19(水) 19:24:40.70 ID:gp0WXv3c

以上です
読んでくれた方がいれば感謝を、ありがとうございました

 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1560939350/

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