四季「カブトムシ観察日記」【ホラーSS】
でも、1つの生命の営みをじっくりと観察するのは新鮮な驚きに満ちた有意義な体験である、と私は考える。
決して何も思い浮かばなかった訳ではない(←上から二重線が引かれている)
というわけで今日は1日目。
虫かごの中のカブトムシは元気そう。
1日目終わり。
反省。
2日目は真面目に『観察』を試みてみる。
その上に大きめの木片が一つ。
たったそれだけの小さな箱庭の中でカブトムシは生きている。
カブトムシが動く。
カブトムシが止まる。
カブトムシが動く。
カブトムシが止まる。
カブトムシはゼリーを食べる。
私がゼリーをあげなければカブトムシは生きてはいけないだろう。
虫かごの中で朽ち果てる。
そう思うと私はなんだか自分が神様になったように感じる。
カブトムシは降ってくるゼリーに何を思うのか?
2日目終わり。
(クワガタムシと思われる絵。その隣に黄色の図形のような物が描かれている)
土の下に何かいる?
カブトムシは気づいていないようだ。
危ないと思ったので虫かごに手を入れて、カブトムシをそこから遠ざけた。
やっぱり私は神様。GOD。
カブトムシの幼虫だ。
成虫とは似ても似つかない、白っぽい芋虫のようなカブトムシの幼虫。
これがあのカブトムシに変わるなんて、とても信じられない。
そのまま幼虫の上にかざす。
重力に従って私の血が幼虫にふりそそぎ、白い体表を赤く染める。
私の血を分け与えたカブトムシの幼虫は、いったいどんなカブトムシに変わるのか。
自分の期待に一度フタをするように、幼虫に土を被せた。
3日目終わり。
今日は絵は描かないでいいかな。
昨日と同じだ、と思ったけど、昨日よりもずっと動きが激しい。
カブトムシが危ない、とまた私は思ったので、かごに手を入れてカブトムシを遠ざけた。
Oh my god。
「ぷはっ」
そう聞こえた。
顔を出したのはカブトムシ。
ではなく—メイだった。
カブトムシの体をしたメイだった。
カブトムシのメイは深呼吸をしている。
土の中でも一応呼吸はできたらしい。
「? 誰だあんた」
メイが私の方を疑わしそうに見た。
こういう目で見られるのは久しぶりだ。
中学の頃の出会い、過ごした時間の長さ、一緒にスクールアイドルをやっていたこと…思い出せるだけの全てを。
「ホントかよ? スクールアイドルって…私がぁ?」
カブトムシのメイはますます怪訝そうな顔を浮かべる。
私はメイに言い聞かせた。
「分かった分かった。とりあえずあんたを信じてみるよ」
半信半疑といった表情のメイ。
髪の色は私の血と同じ色。
体はカブトムシ。
4日目終わり。
(昆虫の胴体と脚の絵。頭部の部分のみ米女メイと思われる顔の絵が描かれている)
昆虫ゼリーを食べながらメイがこっちを見る。
メイは何も覚えていないようだ。
昨日話した内容ももう一度話さないと理解してくれない。
脳もカブトムシ並みになってしまっているのだろうか。
私もそう思う。
興味はあったけど、メイがいなければ私はスクールアイドルにはなってなかったと思う。
メイには感謝してもしきれない。
thank you forever
メイは同情するように私を見た。
私は苦笑するしかなかった。
カブトムシのメイにそんなことを言われるとは思わなかったからだ。
5日目終わり。
もう土の中から出たよね、と私は返した。
そうではなくて虫かごの外に出たいのだとメイは言う。
土と木とカブトムシしかいない空間にずっといるのは退屈だというのだ。
自分もカブトムシなのに。
外に出せ、外に出せと虫かごの中で暴れ回っている。
このままでは元々いたカブトムシがかわいそうだ。
私は神の手でメイを捕まえる。
手の下でメイの脚がうねうねと蠢いている。
ごめんね、メイ。
もう片方の手を使ってその脚をつまんで力を込めると、脚が外れた。
6回分繰り返すとメイは大人しくなった。
ごめんね、メイ。
でも、外は危ないから。虫かごの中なら安全だから。
日付が変われば外に出たがっていたことも忘れてくれるだろう、そう願う。
6日目終わり。
(米女メイと思われる顔の絵、下部に昆虫の胴体らしき絵、実際に引きちぎったのであろうクワガタムシの脚が6本、胴体の周囲にセロハンテープで固定されている)
結論、ダメだった。
メイは昨日と同じようにじたばたじたばた、外に出たがっている。
外に出たいという欲求は記憶ではなく本能によるものらしい。
どういうわけか取り外したはずの脚も6本全て元通りになっている。
部屋から出るのは難しい。
でも、部屋の中で虫かごから出すだけならいいのかもしれない。
一度外に出ればメイも満足するだろうし。
私は虫かごのフタを開けてあげることにした。
メイは嬉しそうに部屋の中を飛び回っている。
私は脚を取ったりせず、素直に虫かごから出してあげれば良かったなと後悔した。
虫かごの中にいるもう1匹のカブトムシが目に入る。
脚が6本なくなっていた。
きっとメイに渡してあげたんだろう。
ありがとうカブトムシ。
7日目終わり、1週間達成。
引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1677436525/
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