【SS】栞子「彼方さんは、遥さんの部屋にセミを解き放たないんですか?」彼方「は?」【ラブライブ!虹ヶ咲】

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【SS】栞子「彼方さんは、遥さんの部屋にセミを解き放たないんですか?」彼方「は?」【ラブライブ!虹ヶ咲】

1:(あら) 2023/03/04(土) 18:26:29.20 ID:hQXhojFi

彼方「……え? は?」

栞子「ああ、すみません。聞こえづらかったですか?」

栞子「生徒会長としてだけでなく、こういうところもせつ菜さんを見習わないといけませんね」

栞子「ん、んんっ……。彼方さんは! 遥さんの部屋に! セミを! 解き放た――」

彼方「ちょっと、ちょっと待って! 声が小さくて聞こえなかったってわけじゃないからさ!」

彼方「彼方ちゃんが分かんないのは、栞子ちゃんが言ってることの内容だから」

栞子「もしかして、彼方さんはセミを知らないんですか?」エ?

彼方「いや、それは普通に知ってるかな」

栞子「え? ということは、まさか遥さんを知らない?」

彼方「どうして、彼方ちゃんが妹の遥ちゃんを知らないなんていう発想が出てくるの?」

 

4:(あら) 2023/03/04(土) 18:30:20.91 ID:hQXhojFi

栞子「どうしたんですか? 今日の彼方さんは普段より察しが悪いですね」

彼方「あれ~、まさかの彼方ちゃんが責められる流れかあ~」

栞子「普段は『彼方ちゃんにはすべてお見通しだぜ~』みたいな感じですのに」フフッ

彼方「ん? もしかして、栞子ちゃんって彼方ちゃんを浅いところで舐めてる?」

栞子「まさか、そんなわけがないでしょう。私は誰よりも彼方さんを敬愛していますよ」

彼方「だったら、その中途半端に似てるモノマネはやめてくれるかな~?」

栞子「すみません。不愉快な思いをさせてしまったのなら謝罪します」

栞子「先ほどの件も、私の説明が分かりにくかったのかもしれませんね」

栞子「できるだけ詳しく説明しますから、よければ聞いていただけますか?」

彼方「説明の仕方でどうにかなるとは思えないけど、まあ聞くだけなら聞くよ」

栞子「ありがとうございます」

 

7:(あら) 2023/03/04(土) 18:34:05.74 ID:hQXhojFi

栞子「まず、彼方さんは遥さんの姉ですよね?」

彼方「そうだね~。それについては何の異論もないよ」

栞子「そして、姉という存在は妹の部屋にセミを解き放つものですよね?」

彼方「待って」

栞子「つまり、彼方さんは遥さんの部屋にセミを解き放つわけです。理解していただけましたか?」

彼方「だから、待って欲しいって言ってるでしょ! 彼方ちゃんの話を聞いて!」バンッ!

彼方「え!? っていうか、できるだけ詳しく説明した結果がそれなの?」

栞子「そうですが?」

彼方「そうですが!?」ガーン!

栞子「彼方さん、どうしたんですか?」キョトン

彼方「なんでそんな不思議そうな顔ができるのかなあ~? 彼方ちゃんには分かんないなあ~」

 

8:(あら) 2023/03/04(土) 18:37:41.93 ID:hQXhojFi

栞子「彼方さんは三段論法というものをご存じですか?」

彼方「まあ、それは知ってるけど……」

栞子「大前提と小前提から結論を導き出す三段論法は、アリストテレスが確立した演繹法であり――」

彼方「それは知ってるから! 説明してくれなくて大丈夫だから!」

彼方「ねえ、栞子ちゃん。三段論法は、前提が間違ってると結論も正しくなくなっちゃうんだよ」

栞子「前提が間違っているだなんて、そんなことを言うのはやめてください」

彼方「いや、でもさ……」

栞子「そんな悲しいこと、冗談でも聞きたくありません」

彼方「え? 悲しいこと?」

栞子「だって彼方さんと遥さんはとても仲がいいのに、姉妹であることが間違いだなんて――」

彼方「そっちじゃない! そっちじゃないんだよなあ!」

彼方「誰よりも可愛い遥ちゃんが、彼方ちゃんの妹じゃないわけないでしょ!」バンッ!

 

9:(あら) 2023/03/04(土) 18:41:10.78 ID:hQXhojFi

彼方「間違ってるのはそっちの前提じゃなくて、もうひとつの方だよ」

彼方「栞子ちゃん、姉っていう存在は妹の部屋にセミを解き放ったりはしないんだよ」

栞子「そんな、まさか……」

彼方「どうして栞子ちゃんがそんな勘違いをしたのかは知らないけど、それは間違ってるから――」

栞子「つまり姉さんは、いえ、あの三船薫子を名乗っている女は、私の姉ではないということですね!」バンッ!

彼方「あっ、そういうことか~。薫子先生が勘違いの原因かあ~」アー

栞子「やっぱりそういうことだったんですね! 前から変だと思っていたんです!」

栞子「彼方さん、私の姉を騙っているあのクソ女は何者なんで――」

彼方「栞子ちゃん、待って。もう遅い気もするけど、それ以上は言わない方がいいと思うな~」

栞子「ですが、あの偽者を排除して、一刻も早く本当の姉を探さないといけません!」

栞子「あっ、もしかして歩夢さんが私の本当の姉ってことはないですか? そうですよ! これはありです!」

彼方「うん、それはないから落ち着いてね」

 

10:(あら) 2023/03/04(土) 18:45:01.43 ID:hQXhojFi

彼方「ごめんね、栞子ちゃん。彼方ちゃんの言い方が正確じゃなかったよ~」

彼方「正確に言うと、姉には妹の部屋にセミを解き放つタイプと解き放たないタイプがいるんだよ」

栞子「どちらのタイプの姉も存在するということですか?」

彼方「そうだよ。薫子先生は前者のタイプで、彼方ちゃんは後者のタイプだね~」

栞子「なるほど、そういうことだったんですね」

彼方「うんうん、分かってくれてよかったよ~」

栞子「でも、どうしてですか?」

彼方「え? どっちのタイプもいるのがそんなに不思議?」

彼方「まあ、彼方ちゃんも前者のタイプの姉が存在することは理解に苦しむけど……」

栞子「いえ、そうではありません。私が分からないのは、彼方さんが後者のタイプに甘んじている理由です」

栞子「彼方さん、どうして遥さんの部屋にセミを解き放つタイプの姉にならないんですか?」

彼方「人生でそんな質問をされる日が来るとは思わなかったなあ~」

 

12:(あら) 2023/03/04(土) 18:48:45.97 ID:hQXhojFi

彼方「えっと、セミなんか解き放たないタイプの姉の方がいいと思うよ?」ネ?

彼方「部屋にセミがいるなんて、遥ちゃんが怖がっちゃうもん。遥ちゃん、あんまり虫は得意じゃないしさ」

彼方「それに、あの部屋は彼方ちゃんの部屋でもあるし、彼方ちゃんもイヤだなあ。セミってうるさいしね」

栞子「うるさいのがイヤだなんて、せつ菜さんの悪口ですか? いくら先輩とはいえ失礼ですよ」

彼方「うん、栞子ちゃんの方がはるかに失礼だと思うな」

栞子「あっ、今の『はるかに』は遥さんの名前とかけているんですね! ちゃんと気づきましたよ」フフーン

栞子「ですが、そういうダジャレを言うのはやめた方がいいと思います。普通につまらないですし」

栞子「あれは人気者の愛さんだから辛うじて許されているわけで、他の方が言うのはさすがに――」

彼方「うん、ちょっと黙ろうね。それ、愛ちゃんがいるところで言っちゃダメだよ」

彼方「うーん、今日の栞子ちゃんは全方位に敵を作りすぎなんじゃないかなあ~」

栞子「『愛さん、あなたにはダジャレを言う適性はありません』」

彼方「だから、黙れって言ってるよね?」

栞子「えー」

 

15:(あら) 2023/03/04(土) 18:52:31.17 ID:hQXhojFi

彼方「薫子先生の悪口みたいになっちゃうのはあれだけど、妹の部屋にセミを解き放つ姉はおかしいよ」

彼方「そんなことする理由なんて何もないもん。遥ちゃんにイヤな思いさせちゃうだけだしさ」

栞子「果てして本当にそうでしょうか?」

彼方「え?」

栞子「妹を甘やかすばかりが姉の仕事ではありません。妹の成長を願って向かい風となることも大切なんです」

栞子「たとえ嫌われたとしても、妹の部屋にセミを解き放つ勇気も必要だとは思いませんか?」

彼方「成長うんぬんは分からなくもないけど、別に向かい風はセミじゃなくてもいいんじゃないかなあ~」

栞子「ですが、さすがにゴキブリを解き放つのはどうかと思いますし……」

彼方「ひとまず部屋に虫を解き放つ路線から離れよう?」

 

16:(あら) 2023/03/04(土) 18:56:03.04 ID:hQXhojFi

栞子「あの経験のおかげで、私は虫が平気なタイプの女子になれたんです。これは成長と呼べるでしょう?」

栞子「先週に同好会の1年生だけで部室にいたときにゴキブリが現れたのですが、私が退治したんです」

栞子「他の3人は虫がダメなタイプの女子らしく、非常に感謝されました。少し誇らしかったですね」

彼方「あ~、確かにそういうメリットはあるかもだけど……」

栞子「3人の中でも、しずくさんが最も大騒ぎしていました」

栞子「腰を抜かして半泣きになっていましたし、ゴキブリという言葉を口にするのすらイヤなようでして」

彼方「しずくちゃんは普段は落ち着いてるけど、たまに出る子供っぽいとこが可愛いよね~」フフッ

栞子「私としては、かすみさんがゴキブリを苦手としていることが意外でしたね」

彼方「そう? 璃奈ちゃんならまだ分かるけど、かすみちゃんは見るからにダメそうじゃない?」

栞子「かすみさんはコッペパンをよく作っているでしょう?」

栞子「頻繁に台所に立つ人は、ゴキブリに慣れているイメージがあるんですよね」

彼方「ああ、まあそう言われればそうかも」

 

18:(あら) 2023/03/04(土) 18:59:31.51 ID:hQXhojFi

彼方「彼方ちゃんも平気な方だしね。どれだけ綺麗にしても、台所には出てきちゃうからさ~」

栞子「以前に歩夢さんが平気だとおっしゃっているのを聞いたのですが、そのときの私は意外に思ったんです」

栞子「それで理由を伺ったら、彼方さんと同じことを説明してくださいました」

彼方「へー、まあ歩夢ちゃんもよく料理をしてるみたいだしね~」

栞子「愛さんは家が飲食店をやっているので、もうまったく気にならないと言っていました」

栞子「ああ、とは言っても愛さんの店のもんじゃ焼きにゴキブリが混入しているわけではありませんよ」

彼方「それは分かってるから言わなくていいよ」

栞子「それから、せつ菜さんが台所に立つと周囲の虫がすべて逃げていくらしいんですよね」

栞子「覇気で虫を追い払うだなんて、さすが私が目指す方なだけはあります」

彼方「……へー」

栞子「ランジュはゴキブリとカブトムシの区別がつかないようですし、2年生は虫に強い学年ですね」フフッ

彼方「その特長を生かす機会があるといいね~」

 

20:(あら) 2023/03/04(土) 19:03:40.50 ID:hQXhojFi

栞子「ですが、そんな歩夢さんでもゴキブリを怖いと感じた出来事が先月にあったらしいんです」

栞子「どんなシチュエーションだったか分かりますか?」

彼方「え? そうだなあ~? 料理に集中してたおかげで、すぐ近くに来るまで気づけなかったとか?」

彼方「前に彼方ちゃんも、気づいたら脚を登ってきてたときがあってさ。思わず悲鳴を上げちゃったもん」

栞子「それも確かに恐ろしいですが、歩夢さんがおっしゃっていた正解は違います」

栞子「壁から飛んだゴキブリが、真っ直ぐに顔に向かってきたそうなんです」

彼方「ああ、それは怖いね。ゴキブリって、飛ぶと急に怖さが増すよね~」

栞子「飛ぶという行為は人にはできないため異質な感じがしますし、単純に動きが予測しづらいですからね」

栞子「そこで、部屋に解き放たれたセミに慣れることで恐怖に打ち勝つ必要があるのです!」ババーン!

彼方「あ、そう繋がってくるのか~」

 

21:(あら) 2023/03/04(土) 19:07:09.78 ID:hQXhojFi

彼方「まあ、栞子ちゃんの言いたいことは分かったよ」

彼方「遥ちゃんに虫嫌いを克服してもらうために、セミを解き放つという試練を与えろってことだよね」

栞子「はい、その通りです。未熟な過去に打ち勝つことこそが人の成長ですから」

彼方「でも、そのやり方はメリットに比べてデメリットが大きすぎると思うなあ~」

彼方「虫嫌いをなんとかしたいとしても、もうちょっと他に方法があるでしょ」

栞子「他の方法ですか?」

彼方「そうだね~。常識的に考えて、やっぱり妹の部屋にセミを解き放つなんてダメだよ~」

栞子「ダメ? ダメだなんて誰が決めたんですか?」

彼方「え?」

栞子「どこかの誰かが決めた常識ではなく、人は自分のやりたいように生きていいんです」

栞子「それを貫く力が、強さだと私は思います」

彼方「……ちょっと一瞬だけ納得しかけたけど、よさげな台詞を言って力ずくで押し切ろうとしてない?」

彼方「っていうか、その強さで貫くことがセミを解き放つことでいいの?」

 

23:(あら) 2023/03/04(土) 19:11:01.04 ID:hQXhojFi

栞子「……一瞬だけとはいえ納得してくださったようですし、計画を次の段階に移しますね」

栞子「今から、遥さんの部屋にセミを解き放つことにします」

彼方「いや、しないで欲しいんだけど……」

彼方「栞子ちゃんがそんなことしようとしても全力で阻止するし、そもそも家に来させないよ?」

栞子「違いますよ。セミを解き放つのは姉の仕事ですから、私では役者不足です」

彼方「姉の仕事? そんなこと彼方ちゃんがするわけないでしょ。説得しようとしても無駄だよ」

栞子「できれば彼方さんにして欲しかったのですが、意志が固いようですし仕方ありません」

栞子「今回は他の姉に頼むことにします」

彼方「他の姉?」

栞子「はい、そうです。それに、今からというのは本当に今すぐという意味ですよ」

彼方「……は?」

栞子「彼方さん、こちらのタブレットをご覧ください。すでにリモートで繋がっていますから」つ📱ハイ

彼方「は? おい、遥ちゃんに変なことしてないだろうな!?」

彼方「彼方ちゃんの家と繋がってるってこと? 他の姉って誰? エマちゃん?」

彼方「純粋なエマちゃんを口車に乗せたのかもしれないけど、エマちゃんなら話せばやめてくれるはず――」

 

24:(あら) 2023/03/04(土) 19:14:42.11 ID:hQXhojFi

薫子『ウェーイ! お姉さん、見てるー? 今からキミの大事な妹さんの部屋にー』👍イエーイ!

薫子『セミを解き放とうと思いまーす!』ギャハハハッ!

彼方「……おい、ちょっと待てよ」

遥『お、お姉ちゃん? 見てくれてるの?』

彼方「遥ちゃん? 遥ちゃん!?」

遥『あっ、お姉ちゃん! ホントに見てくれてるんだ』

薫子『ねー、アタシの言ったとおりだったでしょ?』グイッ

遥『はい、疑ってごめんなさい』

彼方「遥ちゃんの肩を抱くな! 馴れ馴れしくするな! それ以上は何もするな! 〇すぞ!」バンッ!

栞子「彼方さん、あれを〇すのでしたら私も手伝いますよ」

彼方「栞子ちゃんは本当にちょっと黙って!」

 

25:(あら) 2023/03/04(土) 19:18:19.29 ID:hQXhojFi

彼方「遥ちゃん! お姉ちゃんが助けてあげるから、今はそこから逃げてっ!」

遥『お姉ちゃん、大丈夫だよ。私が望んだことだから』

彼方「遥ちゃん!?」ガーン!

遥『ねえ、お姉ちゃん。家にゴキブリとかが出たとき、いっつもお姉ちゃんが退治してくれるよね』

彼方「別にそれでいいでしょ? 彼方ちゃんは虫は平気なんだからさ」

彼方「遥ちゃんが気にすることなんて何もないの。彼方ちゃんが大切な遥ちゃんを守りたいだけなんだから!」

遥『ありがとう、お姉ちゃん。やっぱり、お姉ちゃんは優しいよね。大好きだよ』

彼方「遥ちゃん!」

遥『でも、守られてるだけじゃイヤなんだ。私だって、お姉ちゃんのことが大切なんだから』

遥『お姉ちゃんに守られるだけの私じゃなくて、お姉ちゃんを守る私になりたいの』

彼方「遥ちゃん……」

栞子「嬉しさが隠しきれていませんよ、彼方さん」

彼方「確かに嬉しいけどお、でもお、でもお……」

 

26:(あら) 2023/03/04(土) 19:21:48.93 ID:hQXhojFi

薫子『そういうわけで、アタシがこの可愛い妹ちゃんに初めてのセミを教え込むからね!』

彼方「薫子先生、待ってください! お願いだから、ちょっと待って!」

薫子『別にお礼は明日とかでいいよ。アタシも教育者の端くれとして、キミの妹ちゃんの役に立ちたいからさ』

彼方「何がお礼だ! 生徒を虫に襲わせたって他の先生に報告して、クビにしてもらうぞ!」

薫子『残念でしたー! アタシは理事長とズブズブだからクビにはなりませーん!』キャハハハッ!

彼方「そうだった! こいつも理事長先生と昔から知り合いだった!」グヌヌ

栞子「まあ姉さんは私ほど理事長先生から気に入られていませんし、クビもあり得ますけどね」

薫子『し、栞子……?w』

薫子『ま、まあ仮にクビになったとしても、三船の人間であるアタシは平気だけどね』

薫子『別に働く必要なんてどこにもないし、高等遊民にでもなろっかなー』ウェーイ!

彼方「ああー! 金持ちは滅びろっ!」バンッ!

栞子「そんなことになったら三船の次期当主として、私が姉さんを放逐しますけどね」

薫子『栞子っ!?』ガーン!

彼方「ざまあw」

 

27:(あら) 2023/03/04(土) 19:25:16.78 ID:hQXhojFi

遥『お姉ちゃん、そんな失礼なこと言っちゃダメだよ。薫子先生は、お姉ちゃんの学校の先生なんでしょ?』

彼方「いや、それはそうだけど……」

遥『お姉ちゃんの学校の先生が急に家に来たのはびっくりしたけど、私の虫嫌いを直してくれるって話で……』

遥『お姉ちゃんにも話はしてあるっていうのを疑っちゃったけど、本当だったみたいだし』

彼方「いや、彼方ちゃんはそんな話は何も――」

栞子「さっき私から伝えましたよね?」

彼方「直前すぎるんだよ! 明らかにあっちの話の方が先に動いてたでしょ!」バンッ!

栞子「事後承諾も承諾のうちです。今回はギリギリ間に合ったので、事後承諾ですらないですしね」

彼方「さっきの一瞬の納得を承諾って呼ぶのやめてくれる!?」

 

28:(あら) 2023/03/04(土) 19:29:48.38 ID:hQXhojFi

遥『あの、あなたが薫子先生の妹さんですか?』

栞子「はい、そうですよ。初めまして、三船栞子と申します」

遥『私も初めまして。お姉ちゃんの妹の近江遥です!』

遥『さっき薫子先生からあなたの話を聞いたんです。優秀で真面目な可愛い妹がいるって』

遥『私と同じ1年生なのに生徒会長だって聞いて、すごいなあって思ったんです!』

栞子「ありがとうございます」ペコッ

栞子「ですが、私が生徒会長を務められているのは、みなさんの協力のおかげですから」

栞子「遥さんの姉である彼方さんにも、いつも色々と助けていただいています」

栞子「優しいお姉さんがいて羨ましい限りですね」

遥『はい! お姉ちゃんは本当に優しいんです!』

彼方「遥ちゃん! ……栞子ちゃんも、ありがとう」

栞子「いえ、心の底から羨ましいのは本当のことですから。まともな姉がいるだなんて実に羨ましいです」

薫子『し、栞子? ……もしかしてだけど、アタシのこと嫌い?』

栞子「もし知りたいのであれば正直に答えますけど、姉さんは本当にそれでいいんですか?」

薫子『…………やっぱり言わなくていいかな』

 

29:(あら) 2023/03/04(土) 19:33:13.18 ID:hQXhojFi

薫子『……じゃあ気を取り直して、そろそろセミを解き放とうか!』イエーイ!

彼方「ねえ、栞子ちゃん。遥ちゃんとも仲良くなれたみたいだし、やめてあげられないかな?」

栞子「仲がいいからこそやるんですよ。私は遥さんの友人として、彼女の成長の手助けがしたいんです」

彼方「いや、でも……」

栞子「それに、私と同じように部屋にセミを解き放たれた仲間に遥さんがなれば、より分かり合えそうですし」

栞子「道連れは多い方がいいですよね。1人ぼっちは、さみしいですから」

彼方「おまえっ、それが本音かっ!」

栞子「姉さん、では始めてください。景気よくお願いしますね」

薫子『OK!』ウェーイ!

栞子「姉さんが高等遊民をすることを許すかは、これからの働きを見て決めることにします」

薫子『はい、頑張ります』

 

30:(あら) 2023/03/04(土) 19:36:48.24 ID:hQXhojFi

薫子『ほら、遥ちゃん。これを見てくれる?』

遥『わっ、これがあれですか? 思ったより大きいんですね。それに、色も意外と黒っぽい感じで……』

薫子『見るのも初めてだったりするの?』

遥『はい、ちゃんと近くで見るのは初めてです』

薫子『ふふっ、初心なところも可愛いね。もっと近くで見てごらん』

遥『えっと、でも、ちょっと怖いかも……』

薫子『大丈夫だよ。別に襲ってきたりしないから。ほら、おいで』

遥『は、はい……。きゃっ! 今、動きましたよ!?』

薫子『そりゃあ動くよ。だって生きてるんだもん』

遥『そっか、生きてるんですもんね』

彼方「おい、会話がおかしいだろ! 今のがセミを見せてる会話か!?」

栞子「姉さん、いいですね。今のはポイントが高いですよ」

彼方「栞子ちゃん、部屋にセミを解き放つだけじゃなかったの!? 純真無垢な遥ちゃんに何を言わせて――」

セミ『ミーン、ミンミン! ミーン、ミンミンミンミン!!!』

彼方「ああー! うるっさいんだよっ!!!」

 

31:(あら) 2023/03/04(土) 19:40:33.87 ID:hQXhojFi

薫子『ほら、お姉さんとは大違いでしょ?』ネ?

彼方「当たり前だろ! 彼方ちゃんとセミが似ててたまるかっ!」

遥『ホントだ……。お姉ちゃんとはまったく違う……。思ってたよりずっとすごいです』

彼方「遥ちゃんっ!? そのセミに何かすごいとこあった!?」ガーン!

栞子「セミは飛べますからね。彼方さんにはできないことです」

彼方「飛べる人間なんて誰もいないだろ! いい加減にしろっ!」

薫子『じゃあ、始めよっか! お姉さん、見てるー? 妹ちゃんの初めて、ゴチになりまーす!』ギャハハハッ!

彼方「おい、やめろ。あぁ、やめて」

遥『お姉ちゃん、ちゃんと見ててね』

彼方「遥ちゃん!」

薫子『さあ、行け!』パカッ

解き放たれしセミたち『ミーン、ミンミン! ミーン、ミンミンミンミン!!!』

彼方「ああああああああぁぁぁぁっっ!!!」

 

33:(あら) 2023/03/04(土) 19:44:17.07 ID:hQXhojFi

遥『きゃああああああああぁっ!』

彼方「遥ちゃん! ああっ、遥ちゃんっ!」

薫子『うっわ、すっごい集られてる』

栞子「私のときは縦横無尽に部屋を飛び回ったセミたちが、みんな遥さんに纏わりついています」

栞子「遥さんにはセミに好かれる適性がありますね」

彼方「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 遥ちゃんのトラウマにでもなったらどうするの!?」

薫子『えい!』ペシッ

セミ『ミ゛ッ!』

彼方「おい、彼方ちゃんのベッドにセミを叩き落とすな!」

薫子『えい! えい!』ペシッ ペシッ

セミ『ミ゛ッ! ミ゛ッ!』

彼方「だからやめろ! 誰が掃除すると思ってるんだ!」

栞子「あれでも姉さんなりに、遥さんを助けようとしてるんだと思いますよ」

彼方「そうだとしても、やり方ってもんがあるだろ! 遊んでるようにしか見えないんだよっ!」

 

34:(あら) 2023/03/04(土) 19:47:51.92 ID:hQXhojFi

薫子『妹のピンチに、部屋の掃除の心配してるの? 同じ姉として、それはどうかと思うなあ』

彼方「どの口が言ってるんだ!」

薫子『遥ちゃん、もう大丈夫だよ。セミはいなくなったから安心してね』ナデナデ

遥『あ、ありがとうございます。すごく怖かったです』ギュッ

彼方「は、遥ちゃん? セミを解き放ったのはそいつだよ? マッチポンプもいいところだよ?」

彼方「それに周りはセミだらけだからね? いなくなってなんかいないよ?」

薫子『そんなに怖いんだったら、このままアタシに抱きついてればいいよ』ギュッ

薫子『それで目を閉じてればセミを見なくて済むし、怖くなんてないでしょ?』ナデナデ

遥『はい、ありがとうございます。薫子先生に抱きしめられてると、すっごく安心できます』ギューッ

彼方「遥ちゃん、背中にセミが止まってるよ? お気づきでない?」

彼方「そんなとこで安心してないで、早く部屋から逃げた方がいいとお姉ちゃんは思うなあ~」

 

35:(あら) 2023/03/04(土) 19:52:17.33 ID:hQXhojFi

薫子『ねえ、薫子先生って呼ぶのやめてくれるかな。アタシはキミの学校の先生ってわけじゃないからさ』

遥『えっ? ご、ごめんなさい……。でも、だったらなんて呼んだら……』

薫子『薫子って呼んでよ』

遥『ええっ!? えっと、その、薫子、さん……』

薫子『ふふっ、照れちゃって。可愛いね、遥』ギュッ

遥『そ、そんなこと……』テレテレ

彼方「おい! 彼方ちゃんは何を見せられてるんだ!?」バンッ!

栞子「姉さん、昔から年下の女の子に異常にモテるんですよねえ」

薫子『ほら、こっちにおいで』

彼方「彼方ちゃんのベッドに、遥ちゃんを連れ込むな! 彼方ちゃんの大切な妹なんだぞ!」

彼方「それに、そこには何匹もセミを叩き落としてたろ! 遥ちゃんが怖がっちゃうだろ!」

遥『薫子さん、あの、えと、ちょっと待ってください……』

彼方「ほら見ろ! 彼方ちゃんが大事に育てた遥ちゃんが、そんな簡単に――」

遥『お姉ちゃんに見られると恥ずかしいから、タブレットは……』

彼方「遥ちゃん!?」ガーン!

 

36:(あら) 2023/03/04(土) 19:55:46.31 ID:hQXhojFi

薫子『じゃあ、リモートは切っちゃおうか』

薫子『ねえ、栞子。ちゃんとセミは解き放ったし、もういいでしょ?』

栞子「ええ、構いませんよ。姉さん、いい働きでした」

彼方「待って! この流れで切らないで!」

薫子『お義姉さん、妹さんのことはアタシに任せてください』

彼方「任せられないから怒ってるんだろ! なんで任せてもらえると思ったんだ!?」

彼方「……待って。なんで敬語? お姉さんって言い方も、何か変じゃなかった?」

遥『お姉ちゃん』

彼方「遥ちゃん!」

遥『何がどうなっても、お姉ちゃんのことは大好きだよ』

彼方「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、この流れで言われても不安しかないの!」

薫子『じゃあ、お義姉さん。可愛い妹ちゃん、ゴチになりまーす』ブチッ

彼方「ああああああああぁぁぁぁっっ!!!」

 

37:(あら) 2023/03/04(土) 19:59:23.48 ID:hQXhojFi

栞子「リモートが切れましたね」

彼方「ああぁ、遥ちゃんが、遥ちゃんがぁ……」

栞子「きっと今から、姉さんに美味しく頂かれるんでしょうね」

彼方「言わなくていいんだよ! そういうことはっ!」バンッ!

栞子「それも、彼方さんのベッドで」

彼方「だから、そういうこと言うのやめてくれるっ!?」バンッ! バンッ!

栞子「しかも、セミも一緒にいるベッドで」

彼方「いや、それは比較的どうでもいいかな」

栞子「でも、今回の話の主役はセミだったでしょう?」

彼方「ん~、そうだったかなあ~?」

 

38:(あら) 2023/03/04(土) 20:02:50.01 ID:hQXhojFi

栞子「まあ、セミがどうこうはともかくとして、今はもっと重要なことがありますか」

栞子「ねえ、彼方さん。大切な妹を奪った姉さんに、復讐したいとは思いませんか?」ネエ?

彼方「そりゃあ薫子先生に思うところはありまくりだけど、いきなり復讐とか言われても……」

栞子「おや、意外ですね。諸手を挙げて賛成してくださるものとばかり思っていましたが」

栞子「彼方さんの遥さんへの想いの強さを、私が過大評価していたということですか?」アラアラ

彼方「……ねえ、さすがに私も怒るよ? 今、ちょっと余裕ないしさ」

彼方「それに、薫子先生だけじゃなくて、栞子ちゃんも復讐の対象なんだけどな」

栞子「へえ、そうなんですか?」

彼方「うん、そうなんだよ」

栞子「……」

彼方「……」

 

40:(あら) 2023/03/04(土) 20:06:41.12 ID:hQXhojFi

栞子「それはいいですね。ちょうどよかったです」ニコッ

彼方「え?」

栞子「彼方さんはハンムラビ法典というものをご存知ですか?」

彼方「まあ、それは知ってるけど……」

栞子「古代バビロニアを統治したハンムラビ王が発布したハンムラビ法典は、現在の罪刑法定主義や――」

彼方「それは知ってるから! 説明してくれなくて大丈夫だから!」

彼方「『目には目を、歯には歯を』って文言が有名なやつでしょ? それが、いったいどうした――」ハッ!

栞子「私が言いたいことに気づいたようですね。さすが、彼方さんは察しがいい」

彼方「まさか、栞子ちゃん……」

栞子「ええ、そうです。妹を奪われた心の痛みは、相手の妹を奪わない限りは返せない」

栞子「ほら、彼方さん。あなたの大切な妹さんを奪った憎い女の妹が、あなたの目の前にいますよ?」

 

41:(あら) 2023/03/04(土) 20:10:04.13 ID:hQXhojFi

彼方「いや、でも、栞子ちゃんに、そんな……」

栞子「姉さんだけでなく、私も復讐の対象だと言っていませんでしたか?」

彼方「それは、確かに言ったけど……」

栞子「今日は、私たち以外は誰も同好会に来ないんですよね?」

彼方「うん、みんな予定があるみたいで……」

栞子「おや、こんなところにベッドがありますね。実におあつらえ向きです」

彼方「そのベッドは、彼方ちゃんの仮眠用のやつだから……」

栞子「ちょっと寝転んでみましょうか」ゴロン

栞子「あまり鍛えていない私では、この状態でマウントを取られでもしたら抵抗できないでしょうね」フフッ

 

42:(あら) 2023/03/04(土) 20:13:40.79 ID:hQXhojFi

彼方「ねえ、栞子ちゃん。彼方ちゃんも頭が冷えたから、やっぱりそういうのは――」

栞子「彼方さん、今夜はこのベッドで眠るんですか?」

彼方「え? ……いや、違うけど? そのベッドは仮眠用だって言ったでしょ。普通に家に帰るよ」

栞子「ふふっ、そうなんですか? すみません、ちょっと笑っちゃいますね」フフッ

彼方「……何かおかしいとこあった?」

栞子「だって、家に帰るってことは、あのベッドで眠るんでしょう?」

栞子「遥さんが姉さんに抱かれてすべてを捧げた、あのベッドで」クスクス

彼方「――あ」

栞子「彼方さんがどんな気持ちで眠るんだろうって考えたら、おかしくって」クスクス

彼方「こっ、こいつ!」ガバッ

栞子「きゃ!」ドサッ

彼方「栞子ちゃんが、栞子ちゃんが悪いんだからねっ!」ビリビリ

栞子(こうも上手くいくとは。……姉さん、本当にいい働きでした)

 

43:(あら) 2023/03/04(土) 20:14:22.45 ID:hQXhojFi

終わりです

 

47:(しうまい) 2023/03/04(土) 20:53:34.64 ID:Xcr5E3zk

かなしおだったとは

 

引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1677921989/

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