「音楽室の亡霊」【SS】
私が幼稚園生くらいまでは地元のお姉さん達が通っている姿をよく見かけた。
子供だった私にはお姉さん達が素敵な大人の女性に見えて憧れたし、母も祖母もその学校に通っていた事もあって、私や妹も当然そこに通うと思っていた。
時の流れは残酷であんなに憧れた制服も今じゃ思い出せないくらい私の中ではモノクロの思い出へと変わっていった。
「あの学校って昔は音楽で有名だったんだって。今でも音楽室にはピアノが置いてあって、夜な夜な女学生の霊が弾いてるんだって。で、その曲を聴いた人は・・・」
「呪われるんでしょう?」
「どこにでもある話です。まさか中学生にもなってそんな話を信じてるんですか?」
別に私も心の底では幽霊を信じている訳ではない。けれど、超常現象やオカルトを娯楽として楽しみたいタイプで、私からすれば彼女の物言いは野暮なのだ。少し腹が立った私は彼女に挑発する様に言葉を投げかけた。
彼女はクールで冷静に見えてかなりの負けず嫌いなので、挑発にはだいたい乗っかってくる。
「怖がってる?私が?」
今回も当然、私の挑発に簡単に乗っかって来た。
「それはあなたが余りにもくだらないからでしょう」
「じゃあ、怖くないんだね?」
「怖くないです」
こうなってしまえば彼女は後に引けない。
私がそう提案すると彼女は少し間を置いて、深く息を吸った。
「夜に出歩いたら親に怒られます」
確かに彼女の言う通り夜に子供だけで出歩いていたら親に怒られる可能性はある。けれど、別に非行に走る訳でもないし他の子達だって結構夜に遊び歩いてたりする。彼女は少し真面目すぎるきらいがあった。
「でも、嘘を吐くなんて・・・」
「やっぱり怖いんだ?」
「怖くありません!!!」
やはり彼女は簡単に挑発に乗った。
「廃墟には全然見えませんね」
老朽化が問題となっていた割には全然綺麗な見た目をしているし、廃墟と呼ぶには雰囲気がない。よっぽど私の家の方がボロい。
「当然と言えば当然ですね。諦めて帰りますか?」
「ここまで来て帰るのはイヤ」
私達は裏庭に周り窓を一つずつ確認していった。
一ヶ所だけ窓の鍵が開いていたのだった。
「ラッキーですね」
「普段の行いが良いからだね」
「普段の行いが良い人はこんな事しませんが」
「あ、あれ~怖いのかな?」
「ま、まさか。全然怖くないです」
そう言いながらも私の手を強く握りしめる。
「ですね」
「そう言えば・・・来週の遠足楽しみだよね!!!」
「そうですね」
「そう言えば。ほむまんの新作が出来たんだよ」
「そうなんですね。母が喜びます」
私達はワザとらしく明るい話題を繰り広げる。
ポロン。ポロン。私の問いに答える様にどこからか微かにピアノの音色が聴こえた気がした。
「ねえ。聴こえた?」
「な、なんの事ですか?」
ポロン、ポロン。確かに聴こえる。上の階から聴こえて来る。
「どうするって・・・・・行くでしょ」
私達は音色を頼りに行くと、3階まで辿り着いた。
「ここ・・・だよね?」
「そうですね。ここから聴こえて来ます」
目の前には音楽室と明示された教室が。確かに中からピアノの音が聴こえる。お互いに確認し合ってもどちらも扉を開けようとしなかった。
「わ、分かりました」
こう言うのはだいたい言い出しっぺが負ける。グーを出して負けた私は扉越しに教室の中を確認した。確かにピアノが置いてあるのは確認出来る。
私は覚悟を決めて扉を開ける事にした。扉に指をかけ勢いよく扉を開けた。
「きゃぁぁぁぁああああ」
扉を開けたと同時に音楽室の中からピアノを音と少女の悲鳴が響き渡った。つられて私達も悲鳴をあげ私は驚いて尻もちをついた。
そこまでがだいたい15秒。悲鳴をあげきって放心状態のまま部屋の中を見回すとピアノの横に同い年くらいの少女が立っていた。
少女は私達に向かって呟く。
「そっちこそ。こんな所で・・・何してるの?まさか・・・幽霊?」
私が訪ねると彼女は暫く黙った後、急に笑い出した。
「え、え、なんで笑ってるのかな?この人?」
「さ、さあ?」
「うふふ。ごめんなさい。でも、ビックリした。まさか、この時間にここに人が来るなんて」
「幽霊じゃないんだよね?」
私の問いに彼女はまたクスクス笑った。
「幽霊に見える?」
「見えない」
私は大袈裟に首を横に振ってみせた。
「ここは私の秘密の場所なの。落ち込んだ時とか気分が晴れない日にここにピアノを弾きに来るの。あなた達こそどうして?」
私達はここに来た経緯を説明すると彼女はまた大きく笑った。
「なるほど。じゃあ、私が幽霊の正体なんだ」
そう言う事になるのだろう。結局、幽霊の正体なんてフタを開けてみればこんなもんだ。
「昔ね。まだ、ここが廃校になる前にママに連れてきて貰った事があって。本当に小さい頃で記憶も微かなんだけど、ここでピアノを弾きながら皆んなで歌を歌ったの」
遠い目をして思い出を語る彼女を私達はただ見つめていた。
「これも何かの縁だし一曲くらい聴いていかない?」
「いいの?」
「うん。それじゃあ、とっておきのを」
部屋中にピアノの軽やかな音色が響き渡る。
「愛してるばんざーい。ここで良かった」
それまで、ピアノの演奏に徹していた彼女が急に歌い出した。思い出した。やっぱり、私はこの歌を知ってる。幼い頃、皆んなで歌った曲だ。
「大好きだばんざーい 頑張れるから 明日に手を振ってほら 前向いて」
「知ってたのね。この曲」
私は、いや、私達は小さい頃にここで出会っている。
「実は私もあの曲を聴いた記憶があったんです」
「やっぱり?私達、小さい頃にあの子に会ってるんだよ」
本当に小さい頃。まだ、妹が生まれる前だったと思う。私は母に連れられてあの学校を訪れた事があった。今まで忘れていたけど、あの歌を聴いて思い出した。
「こんな偶然あるんですね」
「そうだね。そう言えば、あの子の名前聴くの忘れてたね」
名前も年齢も学校も何も聴いていなかった。私達が知ってるのは落ち込んだ時にたまにあそこでピアノを弾いてる事だけ。
「また聞きに行けば良いじゃないですか」
「そうだね」
「お邪魔します」
家に着くと玄関には見覚えのない靴が置いてあった。
「誰か来てるみたい」
「その様ですね」
靴を脱いで居間の方に顔を出すと見知った顔がコタツでくつろいでいた。
「あら。お帰りなさい。お邪魔してます」
「絵里おばちゃん!来てたんだ!」
「こんばんわ」
「お姉さんね。二人とも大きくなったわね」
来客は母の友人の絢瀬絵里さん。近くまで来たついでに饅頭を買いに顔をだしたら母に捕まったらしい。
「ちゃんと挨拶しなさい」
母が台所からお茶を持って歩いて来た。
「なに?」
「小さい頃にさ、私って音ノ木坂学院に行った事ある?お母さんと一緒に」
私の問いに母は少し考えて思い出した様に話し始めた。
「あったあった。この子達が幼稚園くらいの時にμ’sのメンバーで学校に集まったよね?」
「そうね。真姫と花陽の所も子供を連れて来てたわよね。懐かしいわね」
「急にどうしたの?」
「ううん。ちょっと思い出しただけ」
未来ずらだったか
こういう雰囲気の作品好きよ
とても良かったです
引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1680529045/
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