「令安かすみん物語」cι˘σ ᴗ σ˘* ~14/エピローグ~
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~1~
少なくとも現代は、おおざっぱに衰退した人類ですけども、まだ滅亡はしてないみたいです。
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~2~
今日という日はとても良い日でした。
明日もきっと良い日でしょう。
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~3~
でもやっぱり、泣いちゃってたかもしれません。彼方先輩には秘密ですけど。
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~4~
もしかしたら、これはかすみの罪なのかもしれません。
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~5~
やっぱり百合ゲーじゃないですか!
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~6~
中須かすみは炎に包まれて死にました。
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~7~
かすみ「――いってきます」
『細菌と同じように、思想の種子もつねに大気中に充満している』
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~9~
せつ菜先輩の話をしましょう。
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~10~
かすみ「なにか、大切なことを忘れているような――――?」
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~11~
いわば『人外たちのマーケット』。
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~12~
風の薫るその場所で、充足と平穏の下に、かすみたちは一つの歌を歌いました。
🍄cι˘σ ᴗ σ˘* ~13~
Love U my friends
おかえりなさい
東京お台場に現れた黒い建築物――コナプトの内部で彼女は歌う。
歩夢「諦めなければ夢は逃げない――♪」
歌詞に気持ちをのせて、メロディに思い出をのせて。
感情豊かに、彼女は歌う。
歩夢「逆境も不安も乗り越えていけるよ――♪」
歩夢「ありがとう――♪」
歩夢「……………」
歌は残響して、けれどどこにも届かず、やがて収束した。
コナプト内部にはまた静けさが戻り、コツコツと、彼女の足音だけが無機質に響く。
寝台をひとつひとつ見回って、彼女はつぶやく。
ちがう、ちがうと、誰かを探している。
毎日、毎日、誰かを求めている。
歩夢「どうして……」
薄暗がりに響いたその声に込められた感情は、あまりに高密度で読み取ることが難しい。
表情さえも、影が観察を妨げる。
ばっと、彼女が振り返る。
静まりかえったこの場所で、彼女の声は水面の波のように何度も何度も反響し、けれど誰をも掴まず黒い壁に溶けていった。
歩夢「気のせい……」
ぽつりとつぶやいてから、彼女はフロアを上がっていく。
そうしてまた、ひとつひとつの寝台を何度も確認するのだ。
いつかの記憶に囚われて。
「………………」
――私はそこで、じっと待っていた。
『マーケット』から出たときに、果林先輩とせつ菜先輩を失って、なにか糸がぷつりと切れたのは確かですけれど。
それ以前、引きこもり時代の定期的なネットアイドル活動にしても、どこか仕方ないという感情を常に抱いていたのではないかと、思わないでもありません。
例えば意識して楽しげに振る舞ったり。
カメラを切ってすぐ笑顔をやめたり。
どこかビジネスライクなその対応は、心の底から楽しんでやっているというよりも、割り切った行動のように映るのではないでしょうか。
部屋を出ると決めたときも。
明らかに怪しげな『マーケット』に入ると決めたときも。
かすみんなりの環境適応のようでいて、その実、自暴自棄な行動だったのでは? と。
『こうするしかない』という強迫観念と、『みんなのため』という犠牲精神の底に、間違った勇気があったのではないか? と。
正しい判断の難しいこの時代に、なにを今更という感じではありますけれど。
つい最近、愛先輩にエマ先輩、それからりな子という、前時代からの仲間三人の生き方を間近で見て、これまでの自分の歩みを、どうしても対照的に考えてしまうのでした。
間違った勇気は暗○進化の元だと、せつ菜先輩が語っていたのを今になって思い出します。
いや、たぶんこれは関係ないでしょうけども。
「異変以前のかすみんだったら」……なんて、そんな妄想、ショーケース越しのティアラに手をのばすような、無邪気で虚しい行為だったのですけどね。
さて。
この旅の始まりを、部屋を出たときからではなく、異変発生その日とするならば。
そして、あらゆる物語と同様に、この旅の終わりに得られるものがあるならば。
かすみの物語の終わりに得るものも、きっと『それ』なのでしょう。
璃奈『大丈夫?』
かすみ「いや、ぜんぜん……」
大丈夫じゃないのでした。
場所はレインボーブリッジ上層、首都高速の路上。
歩行者は本来入れない場所、なんて、異変以前のルールをいまさら持ち出すのもナンセンスではありますけれど。
入れないということは、安全策なんてのも甘いわけでして。
風のすさぶ不安定な場所で、低い塀からいまにも東京湾に飛び落ちてしまえる恐怖に、足がすくみます。
かすみ「うぅ……」
どうしてこんなことに……。
——————–
———–
—-
璃奈『不思議な歌。璃奈ちゃんドローン「ジ~ン」』
かすみの口から自然と奏でられた例の歌について、あのあとすぐわかったことがありました。
明らかに変異に作用すること。
ひとりではなく、みんなの歌だということ。
エマ「はぁ~気持ちよかったぁ」
隣のエマ先輩はすっきりした表情で、ほぅと一息ついています。
その身体には、けれど、変わらず緑の蔓が巻き付いていました。
四人だけでは、この歌には足りないのです。
エマ「――――ねぇ、歩夢ちゃんに会いに行こうよ」
それは当然の提案でした。
残る同好会メンバーでただ一人、居場所の判明している歩夢先輩。
一人で歌うよりも四人、四人で歌うよりも五人……その可能性が示されたいま、歩夢先輩と合流しない手はありません。
エマ先輩でなくとも、他の誰かが口にしたでしょう。そう思われるほど、みんなの胸にすっと受け入れられている提案だと、雰囲気で伝わります。
璃奈『コナプト突入作戦、私も賛成』
歩夢先輩のいる黒い建物。中がどうなっているのか、どころか、歩夢先輩がどんな状態なのかすら不明ではありますが。
望んだ未来の方向は、そちらにしかないのだと、この時代を生き抜いたみんなにはわかっているのでした。
エマ「ね、かすみちゃんは?」
にっこりと、優しくたずねてくれるエマ先輩。きっとここでかすみが拒否しても、エマ先輩は尊重してくれるのでしょう。愛先輩も、りな子だって。
安全な場所でひとり、引きこもることを許してくれる。
かすみがそれを望むならば。
でも。
かすみ「……行きます」
会わないといけない……そう思うのは、かすみだって同じで。
歌のくれた勇気が、かすみの気持ちを後押ししてくれているとは感じるけれど、どうしてそう思うのかは、自分にもまだわからなくて。
だとするならこの決意は、かすみのずっと奥深く……自分自身のアイデンティティみたいなものと、関わりがあるのかもしれません。
———–
——————–
そして現在、目の前にそびえ立つのは真っ黒いコナプト。この距離からだと、見上げても屋上の飛行船を見ることはできません。
橋の上で震えながら会話を思い返してみれば、たしかに自分で行くと決めたわけなのですが。
だからといって、まさか「空から突入する」ことになるとは思ってなかったのでした。
かすみ「いや、やっぱりおかしくない? ほら、地続きの道もあるじゃん。そっちにしようよりな子、ね?」
璃奈『それはダメ。わかりやすい一本道だし、正面突破になっちゃう。なにが待ってるかわからない以上、用心深くしないと』
かすみ「くぅ……」
このところ落ち込み気味だったことも忘れて素で抗議するのですが、なかなか認められません。いや、理屈はわかるのですけども。
それが整備され、公園として開放されていた……というのが前時代までのお話で、いまではいつの間にやら現れたコナプトが建っているわけです。
かつて侵略から守護するためにあった場所に、この時代では侵略の象徴のような建築物があるというのは、なんとなく皮肉めいた事態に思えます。
そんな第三台場はレインボーブリッジのすぐそばにあり、たしかにこうして橋の上に立っていると、コナプトのぬるりとした黒い壁面はすぐそこに見えなくもないのですけれど。
かすみ「いや、いやいや……」
橋の下をのぞき込んで震えます。ここから飛んで向こう側にいくなんて、ちょっとした自殺ですよ。
璃奈『大丈夫、ちょっとしたパラグライダーみたいな、アクティビティと同じ』
りな子からは一応、ムササビスーツ的なものをもらっています。ばっと手足を広げて、滑空するやつです。
ぶっちゃけこれで飛べるのは青き衣をまといし姫様くらいだと思うのですけど。
メ○ヴェですらないのですけど。
璃奈『侵入経路を3つに分けたかったからちょうど良かったけど』
かすみ「……陸海空みたいな?」
璃奈『ううん。愛さんエマさんが「海」、私が「空」、かすみちゃんは「滑」』
かすみ「『滑』ってなに!? なんか縁起わるくない!?」
璃奈『それにかすみちゃん、前にワイヤーアクションの動画見て、妖精みたいでいいなーって言ってたし』
かすみ「それは、たしかにいったけど……」
少なくともこういうのじゃないんだけど……。
璃奈『次にいい風がきたら教えるね。璃奈ちゃんドローン「覚悟完了」』
かすみ「かすみんの覚悟なんだけど!」
かすみ「ね、ねぇりな子、やっぱり考え直そうよ。あのスト○イツォだって橋から落ちちゃったんだよ?」
璃奈『かすみちゃんがなにを言っているのかわからない。璃奈ちゃんドローン「この天王寺容赦せん!」』
かすみ「わかってるじゃん! ってあわわ」
宣言するが早いか、りな子ドローンはじわじわと橋から追い詰めはじめました。
予想外のその動きに、かすみは簡単にバランスを崩してしまいます。
かすみ「――あ」
ふわりとした無重力感。心のどこかでは覚悟が決まっていたのか、かすみの身体はするりと低い塀を乗り越えて。
コナプトへと飛び立つ瞬間、鼓膜はたしかにりな子の励ましを捉えました。
璃奈『かすみちゃん、帰ってきたら――――また、笑って』
あっと思い出して身体を思い切り広げて、それでも形としては滑空になっていたのかどうか。
スーツを通して伝わる空気の抵抗と、頭の中でどぱどぱ流れるドーパミンかアドレナリンだかの奔流が、目の前の現実を薄く溶かして。
ぐんぐん近づく黒い壁が、これから自分にぶつかるものだとやっと認識できたとき……身体がぐいと背中から引っ張られました。
かすみ「!?」
カクンと身体がひっくり返って、何が起こったかわからないままに足元からコナプトにぶつかって。
けれど訪れるはずの衝撃はなく、代わりに一瞬遅れてやってきたのはゴロゴロと自分が転がっているゆるい痛み。
かすみ「あぅ、いったぁ……あれ?」
なにかにぶつかって止まったとき、かすみはすでにコナプト内部にいました。
かすみ「りな子?」
いくらか呪いを込めながらムササビスーツを脱いでいると、ポケットからりな子の声が届きました。出発前に渡された通信機です。
璃奈『無事でよかった。遠隔でスーツを操作して、きれいに壁につけるようにしたはずなのに、まさか壁をすり抜けるとは思わなかった』
かすみ「あの背中引っ張られたのりな子だったんだ……むち打ちになるかと思った」
というか、やっぱり壁をすり抜けたのは気のせいじゃなかったようです。
璃奈『もともと人を集めてた建物だし、拒まないようになってる……? とにかく、気をつけて』
璃奈『愛さんとエマさんもボートで下についたみたい。私もこれから上から入る。歩夢さんを見つけたら、すぐ撤退』
それだけいうと、りな子は通信を切りました。
これまで遠巻きに眺めるだけだったコナプト。壁をすり抜けるという、現象としてはすでに予想外なわけで、やっぱり一筋縄ではいかなそうです。
さて。
薄暗いコナプト内部。ワンフロアの広さは外からみた通り、第三台場の敷地から一回りせまい程度で、部屋の仕切りはまったくないぶち抜きになっているようです。
フロア中央には気取った螺旋階段。それ意外はまったくシンプルで、最低限の通路を残し、同じ間隔でなにか長方形のものが並んでいました。
かすみ「……これ、人?」
照明が足りないためと、あまりに想像の外にある光景だったためでしょう。
長方形のもの、それらすべてが寝台で、ひとつひとつに人間が横たわっていると気づくのに、いくらか時間が必要でした。
かすみがついさっきぶつかったのもその一つで、寝台の上では若い女性が目をつむっています。
まつ毛すらぴくりとも動かず、どこか吸い込まれるような白い相貌が背筋を凍らせます。
眠っているだけなのか、そもそも生きているのか、どちらにしても尋常な光景ではありません。
いたたまれず、足早にフロアをいくつか上がっても、目に映るのは同じ光景で。
物言わぬ人々が延々と、横になっていました。
例えば同じような風景のつづく山林で方向感覚を失うように、フロアを上がっても上がっても、ずらりと仰向けになった人々が変わることなく並んでいる様子を眺めていると、どこか現実感の喪失に襲われます。
くらくらと、平衡感覚すら損なわれるほど。
どれだけ階段を上ったでしょう。どれだけの人々を通り過ぎてきたでしょう。
生死の不明な彼らが何者であるのかは予想できます。ひと目見ただけでわかるほど、彼らはみんなかすみと同年代か、それより若いのです。
そしてこのコナプトの最上階にある飛行船を思えば、答えは一つ。
異変を生き残った後、例の「幸福への勧誘」に誘われて、コナプトを目指した人々です。
瞳を閉じて、現実も閉じている彼らはいま、幸せなのでしょうか?
一階から上がってきた愛先輩とエマ先輩では、もちろんなく。
優しく微笑むその人は、かすみ達の求めた人でした。
かすみ「歩夢先輩!」
歩夢「久しぶり、かすみちゃん」
場違いなほどあっさりしたあいさつに、気が抜けてしまいそうになります。
歩夢先輩です。特徴的なお団子ヘアに、虹ヶ咲学園の制服を着ている、記憶のとおりの姿をした歩夢先輩でした。
歩夢「ふふっ嬉しいなぁ。こんなところでかすみちゃんにまた会えるなんて」
にこにこと、いつかのように悪意の欠片もないその笑顔は、まさしく歩夢先輩のもので。
けれど――この状況にはあまりに合っていないのでした。
不安な気持ちは、どうしてか強まるばかりです。
かすみ「歩夢先輩……歩夢先輩、ですよね?」
歩夢「もちろん。ふふっ変なかすみちゃん」
にこにこ、にこにこと。
歩夢先輩らしく、毒気ひとつない笑顔を見せてくれます。たしかに疑うことすらおかしいほど、それは以前の歩夢先輩そのもので。
いまにも抱きつきたい気持ちすら沸き起こります……背景にずらりと並んだ眠る人々さえいなければ。
歩夢「かすみちゃんは憶えてる?」
かすみから試みた会話をあっさり無視して、歩夢先輩は歌うようにつづけました。
歩夢「なんだかね、おかしいの。私ずっと、誰かのことを忘れてる……」
かすみ「歩夢先輩……?」
この時点で、本来ならみんなに連絡するべきなのかもしれません。でも、その行動はためらわれました。
まるで、獲物を見つけたときの対応みたいだから。
それに。
歩夢「私だけじゃない、みんな憶えてないんだよ。大切なこと……」
寝台で眠る人々を眺める歩夢先輩の瞳は、決して曇ってはいませんでした。
かすみ「記憶?」
歩夢「そう」
歩夢先輩は寝台の端にたまったほこりを指先でなで上げて、それからふっと息を吹きかけました。
吐息に飛ばされたほこりは空中を舞って、きらきらと対流しながら落ちていく……と思われましたが。
わずかの間、たしかに輪郭を形作りました。それは人の輪郭でした。
歩夢「こうして、記憶から新しいみんなが生まれるの……今のは遊びだけど」
かすみ「あ……」
歩夢先輩が言い終わらないうちに、ほこりの輪郭はぐにゃりと崩れて霧散します。それはいつかの偽かすみと同じ消え方でした。
歩夢「記憶の足りない間の部分も浮かび上がらせてくれるんだよ、ちょうど暗礁に網が引っかかるみたいに。同好会のみんなの記憶も足りなかったけど、きれいに補完して、再現してたみたいだね」
でも、と。歩夢先輩はつづけます。
どこか悲壮な気持ちを喉に込めて。
歩夢「でも、おかしい……おかしいの。みんな憶えてない、私だって……」
歩夢「何度も何度も探したのに、どこからも浮かび上がってこない……でもいたはずなの、大切な……誰よりも大切な」
あの子……と歩夢先輩はすがるようにつぶやきます。
歩夢「ねぇ、かすみちゃんは、憶えてる?」
かすみ「それは……」
それは、かすみの内に潜む、あなたのことなのでしょうか?
かすみ「あ、歩夢先輩、落ち着いてっ」
取り乱し始めた歩夢先輩をなだめようとして――――けれど同時に、言いようのない違和感に包まれます。
歩夢先輩と話しているはずなのに、どこか膜を通しているかのような遠い感覚。
手を伸ばした先の震える肩が、触れずにすり抜けるのではという一瞬の予感。
しかし、それよりも早く、歩夢先輩の次の言葉にかすみは硬直しました。
歩夢「――――ねぇ、かすみちゃんは、どうしてスクールアイドルやってるの?」
かすみ「え」
どうしてスクールアイドルやってるの?
かすみ「な、なんでそんなこと……」
耳鳴りがしました。予想外の問いかけは、流れ弾にしてはあまりに鋭くかすみの胸に刺さりました。
【どうしてスクールアイドルやってるの?】
声は震えながら頭の中を反復し、何度も何度もかすみの記憶を覗きます。
隠した過去さえこじ開けるように。
【どうしてスクールアイドルやってるの?】
かすみ「うぅ……?」
鼓膜から侵入した声はまるで揮発性の液体のように、頭の中で桃色に充満し、たやすく意識をからめとりました。
かすみ「あ、歩夢先輩……」
歩夢「かすみちゃんのスクールアイドルとしての記憶、あの子と近い可能性のある記憶!」
それが飛行船からの例の声と同じか、それ以上に強力な催眠作用を持っていると気づくのに、少し遅すぎたかもしれません。
歩夢「いるはず、いるはずなの。かすみちゃんで足りないなら、他の三人……」
薄れゆく意識のなかで、けれど歩夢先輩に対して非難の気持ちはなく、思いはただ一つでした。
【どうしてスクールアイドルやってるの?】
どうして?
どうして、すぐに答えられないの?
かすみ「え?」
くずおれるかと思われた身体は、いつの間にか誰かに支えられていました。
歩夢「誰!? 邪魔しないで!」
「あなたもそこまでです。歩夢さんの名誉のためにも」
それは知らない人のはずでした。少なくとも、見た目だけなら。
匂いも、所作も、まるっきり知り合いで当てはまる人物はいないはずなのに、支えるために握られた手は、驚くほど心強く感じられます。
「あなたが大切な人をなくした悲しみは、私にはよくわかるけれど――本当の自分を見失った私には、よくわかるけれど」
「でも、だからこそ、あなたがみんなに手を出すのは許しません」
歩夢「私はただあの子に会いたいだけなのに、それだけなのに、どうして……」
「諦めてください。みんなに手を出すなら、認めるわけにはいきません」
歩夢先輩に毅然と言い放つ彼女は、やはり見覚えはないのですけれど。
繋がった手から伝わる熱は、どういうわけか懐かしく。
一人の人物を直感させるには十分なのでした。
かすみ「しず子?」
「…………」
ぴくりと、掴まれた手が一瞬反応します。
その意味を知る前に、歩夢先輩が動きました。
歩夢「あの子のいない世界なんて間違ってるんだから――――!」
ひときわ大きな叫び声に、コナプトが応えたのか。
ぎゅるぎゅる、ぎゅるぎゅると、空気中にうごめくなにかが、急速に形を成していきます。
かすみ「……!」
瞬きを数回した程度でした。たったそれだけの間に、目の前には幾体ものヒトが新しく生まれていました。
ついさっき見せてもらったほこりの輪郭とは違います。身体のある人間、この時代に再編された偽物のかすみ達と同じタイプのヒトが、ものの数秒で生まれています。
ただ、どういうわけか……彼らは皆、顔が削ぎ落ちたように失せていました。
顔のない彼らに、歩夢先輩は失望します。
頭を抱え、ぐにゃりと身をよじる……かと思えば、歩夢先輩は輪郭ごと砕けて、見る間に霧のように溶けていきました。
それもまた、偽かすみと同じ挙動でした。
かすみ「ど、どういうこと……?」
またたく間に起きたいくつもの現象に混乱します。
けれど、いつまでも混乱してはいられない状況にありました。
軍団と呼べるほどの人数になった顔のない彼らは、その無い顔を一様にかすみ達に向けています。
ないはずの視線に、明らかな敵意を感じ取ります。それは歩夢先輩が残したものでした。
かすみ「な、なんで笑ってるの!? というか、しず子? しず子だよね?」
「しず子……うん。かすみさんがそう呼んでくれるなら、そうかもしれない」
かすみ「いや言いまわしがよくわかんないだけど……というかもうなにがなんだかって感じで」
しず子がなにか知っているなら説明してほしいところでしたが、あまりゆっくりしてはいられないようです。
じわりじわりと、顔のない彼らはその包囲を狭めていました。
「かすみさん」
かすみ「へ? んっ」
不意に、しず子が抱きついてきました。
ぎゅっと、ぎゅっと。
言葉がでるたび、しず子の腕に力が入ります。そこに幾夜の思いを込めるように。
「つらくない人を演じて、ずっと耐えてた。きっとここにたどり着くと思って、ずっと待ってた」
かすみ「しず子……」
このしっかりものの同級生が弱みを見せるなんて、過去にいったいどれほどあったでしょう?
締め付けられる腕の強さに、思いを感じて共有したいのに。
迫りくる包囲は、多くの時間を与えてくれません。
抱擁の中、しず子は耳元でつぶやきます。
「さっき見たのは、歩夢さんの欠けた記憶から生まれた虚像。この時代が、人を集めるのに都合のいいようにつくった偽物なの」
「本当の歩夢さんは、この一番上でずっと苦しんでる」
背中に回されたしず子の腕は、なおも強くかすみの身体を寄せ付けます。この切迫した状況の中で、一秒でも長く、体温を分かち合えるように。
密着した胸から、しず子の孤独は痛いほど伝わるのに、それでも彼女は歩夢先輩を心配しているのでした。
「私にはできないの……本当の自分を見失ってしまったから。でも」
「かすみさん、あなたならできる」
どうしてしず子がそんなことを言うのか、かすみにはわかりませんでした。
垣間見た歩夢先輩の抱く問題とか、いまだって周りを取り囲む顔のない彼らとか、寝台で眠る人々で満たされたこの舞台とか。
なにもかもがかすみの手に負えそうになくて、しず子と出会えたことだって喜びたいのに、心が追いついてくれないのです。
かすみ「わかんないよしず子……」
どうしようもなく、弱音が漏れます。
行きますと、自分で決めたはずでした。コナプト内部ではなにが起こるかわからないと、理解した上での決意のはずでした。
でも、ほんとうにそれは自分で決めたことだったのでしょうか?
歌を見つけて、なにか変わったと思ったけれど。
【どうしてスクールアイドルやってるの?】
かすみ「うぅ……」
心の奥底をさらう問いかけのせいか。
自分のことなのに、自信がもてないんです。
そんなかすみの両肩に手を重ねて、しず子はなんでもないことのように言います。
まるで異変前の日常のように。もう失われてしまったあの頃のように。
「なんだか毒気のない顔をしてると思ったら、びっくりするくらい弱気になってて、ほんとにかすみさんじゃないみたい」
かすみ「ど、毒気のないって……いつもはあったみたいじゃん」
「うん、あったよ」
精いっぱいの反論に、当たり前でしょうと、しず子は言いました。
「毒気があって、イタズラ好きで……それなのに泣き虫で、可愛げがあって」
「スクールアイドルのことが誰よりも大好きな女の子、それが中須かすみ、でしょう?」
変化は目の前で起きていました。
しず子だと認識できているのに、しず子の姿をしていない彼女。その周りに、蛍火のような朧げな光がどこからともなくまとわりついて。
それがひらひらと、紙吹雪がひるがえるように消えたあとには……。
「にこっ♪ えへ♪」
かすみ「かすみん……?」
そこには自分が立っていました。ステージ衣装に身を包んだかすみが、過去になんどもチェックした満面の笑顔で、手を握ってくれていました。
まるで鏡のように――――理想を映す魔法の鏡のように。
「やっぱりぃ~可愛い可愛いかすみんは笑顔じゃないと!」
「もう~そこはかすみん♡って呼んでほしいな~」
目を疑う光景に、この時代でなければ正気を失っていたかもしれません。
それはしず子に生じた、誰かを演じるという変異なのでした。
「思い出した? かすみさん、自分自身のことを」
しず子の口調で、かすみの姿で、彼女は語ります。
「かすみさんはこんなにも、輝いているんだよ」
ステージ衣装の自分自身。パステルイエローを基調に、グリーンを差したふわふわなデザイン。
とことん可愛くしたくて、リボンとフリルをたくさんあしらって。きらきら輝きが欲しくて、月と星の意匠を加えて。
自分でも、もうずっと見ていなかった、大好きな衣装を着たかすみんに。
かすみ「…………っ」
どくんと、心臓が叩かれます。
かすみ「ひゃっ」
急に、しず子の腕に強引に包まれます。
ふわりと、懐かしい衣装のさわり心地に想いをはせる余裕もなく、抱かれた勢いそのままにぐるりと身体が回りました。
かすみ「し、しず子?」
「かすみさん、もう行かなきゃ」
自分の姿をした相手に抱かれるなんて体験に、驚いている状況ではありませんでした。
歩夢先輩の残した彼ら……顔のない彼らが、すでに届く範囲まで迫っていて。
もっとも近い距離にいた数人は、いまのしず子の「攻撃」で地面に転がっていました。
かすみ「それ……!」
しず子の手に握られているのは、身長をゆうに超える大きな旗。
先端に星を冠し、ばさりとなびくそれは、間違いなくかすみのライブ道具であるフラッグでした。
「ここは任せて。階段は後ろにあるから、かすみさんは歩夢さんを助けてあげて」
はためくフラッグを床と片手で支え、通行止めを示すように構えるその背中は、いつか思い描いた自分自身と重なって。
心の奥底で凝り固まっていたなにかが、心臓を打つたびに、砕けていくのを感じます。
ああそうかと、気づいたことがありました。
忘れていたのでした。あまりに当たり前のことだからか、もしくは、この時代ではあまりに難しいことだからか。
スクールアイドルは、ひとりで完結していないのです。
ソロのステージであっても、応援してくれるみんなと、見守ってくれるあなたが、ずっと繋がっていた。
みんなの分けてくれた熱い力が、思いが、血液にのって全身に巡る。
かすみのやるべきことを、外から、内から、仲間が教えてくれる。
だからもう、これ以上の逡巡は必要ありませんでした。
身を翻し階段へと走り出す瞬間、最後にしず子の声が届きます。
しずく「大丈夫――――自分を信じて」
強くなければならない。
だって、この時代を生きるには、弱音を吐いてはいられないから。
もう以前とは違うのだからと、もう元通りにはならないのだからと、一見前向きな決意の裏で……かすみは何を失っていたのでしょう。
自分では気づくことのできないその喪失に、けれど今なら、思いを巡らすことができます。
かすみが忘れたかすみ自身を、みんなが憶えていてくれるから。
この旅の中で出会い、別れ、失ったすべての経験がどれだけ重くのしかかろうとも、それ以前の感動がなかったことになんてならないから。
笑ってと、りな子が言ってくれた。自分を信じてと、しず子が言ってくれた。
仲間のくれた言葉が、方向性をもって自分を導いてくれる。
進む先の螺旋階段はとびきり長くて、ひどく手強そうだけど。
不安は晴れていました。らくしょーですよと、かつての自分の鼓舞が聞こえました。
ぐるぐるぐるぐると、フロアを次々に駆け上がります。
人形のように眠る人々をどんどん追い越して、なにもかもをふっ切るようにコナプトの屋上へと。
息が切れます。運動不足なんです、ずっと引きこもってたから。
多少冒険はしましたけれど、あまり身体は動かしてないのです。マイカー族だったから。
かすみ「ふっ……ふふっ」
そういえばと、またひとつ思い出して笑っちゃいそうになりました。
階段ダッシュなんて、スクールアイドルの特訓の定番だよね、と。
じゃあこれはリハビリかな、なんて思っちゃうのもまた、ひどく可笑しいのでした。
かすみ「りな子!?」
階段を駆け上がりながら、通信機を手に取ります。スピーカーの向こう側はひどく慌てていました。
璃奈『た、大変なの。いま屋上なんだけど、ドームが開きはじめてる!』
かすみ「ドームって、飛行船の? それって……」
璃奈『飛行船、また飛ぼうとしてるの!』
璃奈『歩夢さんを乗せて……あ、でも歩夢さんは歩夢さんだけじゃなくてなんだか変な感じで』
わちゃわちゃと、りな子の言葉は簡潔になりません。けれど、向こうでも似たような状況になったことは理解できました。
歩夢先輩の姿をした彼女が、もっと多くの人間を、記憶を集めようとしているのです。
失った誰かのために。
続き、ずっと待ってました。おかえりなさい🍄
見届けます🍄🍄🍄
璃奈『どうしよう、愛さんとエマさんも取り込み中みたいで、出てくれなくて……』
不安そうな声をりな子は漏らします。
こんなときに、かすみは異変前のりな子を思い出していました。
再会してからというもの、りな子が愛先輩と共に前を向いている姿は、かすみにはあまりに眩しく感じられたけれど。
りな子だって、ずっと自信をもっていたわけじゃないのです。
常識はずれで、突拍子もないところのある同級生だけれど……思い返せば、『あわあわ』しているボードをしょっちゅう使っていたように。
彼女もたくさん迷うし、困ることがあるのです。
そんな簡単なこと、どうして忘れてたんだろう。
璃奈『かすみちゃん……?』
足を止めないままりな子に答えます。屋上までの階数を想像しながら。
かすみ「りな子はエマ先輩と愛先輩を見てあげて」
璃奈『ど、どうするの? いったん外に出る?』
かすみ「ううん」
心は決まっていました。覚悟は決まっていました。
あとはもう、身体の動くままに。
かすみ「ここが最後なんだよ、りな子。次に帰るときは、みんな一緒に」
かすみ「歩夢先輩!? ……んっ」
突如鼓膜に響いたのは例の甘い声。
心の奥底をさらうような、記憶のすみずみまでのぞき込むようなあの声です。
【邪魔なんてさせない……今度こそ見つけてみせるんだから】
階段の途中、周りに歩夢先輩の姿がないことなんて関係なく。
コナプト自体から声が直接届いていました。
【ねぇかすみちゃん、もう一度きくね】
【――どうしてスクールアイドルやってるの?】
璃奈『かすみちゃん、気をつけ――――』
通信はそこで途切れました。それでも、声は止まりません。
【どうしてスクールアイドルやってるの?】
かすみ「んん~~っっ」
強力な催眠作用。対象の頭の中をのぞきやすくするために、意識を断とうとするその力に、足元がふらつきます。
でも、ここで負けるわけにはいかない。
負けるわけにはいかないんだから!
かすみ「ぐぬぬっ」
ダンダンと、足を踏みしめて階段を上りつづけます。引きこもり生活で運動不足の身体に、体力なんてほとんど残っていません。
プニってはないですけど!
ライブでだって、体力が限界になることもあります。
そんなとき頑張れるのは、気力でも、根性でもなく……応援してくれるファンのみんながいてくれるからです。
いまのかすみんには、見えないけれど、あなたがついてくれている。
だから絶対、足は止まりません。
かすみ「!!」
声の誘惑に耐えつづけた結果でしょうか。
掘り上げられた記憶が、意識をたもったままに幻聴となって、かすみの行く手に現れます。
『ふふふ、お姉ちゃんもスクールアイドルなんだよ。可愛いでしょう?』
それは中須かすみのスクールアイドルに関する記憶でした。
自分が聞いた、もしくは話したいつかの時間が、のべつ幕なしに浮かび上がっては消えていく。
『今日もかすみんの配信みてくれてありがと~~っ!またね~~♪………っと』
記憶はまたたく間に過去へ過去へとひるがえり――――大元に突き当たるまでにさほど時間はかかりませんでした。
遠い過去から届く声。すり切れて白く溶ける記憶の中で、唯一鮮明な優しい声音。
振り返ればそこが起点でした。
『かすみちゃんは可愛い』
可愛くないといけない。
かすみんは誰よりも可愛くないといけない。
愛の言葉は楔のように食い込んで、かすみの生き方を定めていきます。
だって、それがお母さんの望みだから。
『かすみちゃん』
でも。
ほんとうにそうでしょうか――――?
違うのです。そんなわけがない。
愛をおまじないに変えて、ほとんど呪いのようにして自分にかけ続けるほど、かすみんは子供ではありません。
かすみんが可愛くありたいのは。
かすみんがスクールアイドルをやっているのは。
もっとかんたんな、もっと純粋な気持ち。
掘り返す記憶がなくなって、かすみの胸にただその感情が残ったころ。
階段は終わっていました。
屋上にでると、日が差していました。
容積のほとんどは浮力を得るためのガスに満たされていて、人が入るのは船体下のわずかな空間……と、コナプトの飛行船も同じつくりにはなっていたのですが。
乗り込んでみれば、そんな先入観なんて用をなさないことがすぐわかりました。
ピンク色の壁紙に囲まれたその部屋には、平凡な学習机やよく整理された本棚、ベッドも置かれていて。
床に転がった可愛らしいクッションや、カラフルで女の子らしい収納は、あまりに生活感にあふれています。
この部屋をかすみは知っていました。
ここは歩夢先輩の部屋でした。
隙間からのぞく外の景色に、すでにコナプトの屋上は見えません。
目に映るのは海岸にほど近いお台場のビルや倉庫なんかで、そんな景色もすこしずつ流れています。
飛行船はかすみの侵入と同時に係留から放たれ、運航をはじめているのでした。
不可思議なほど揺れない部屋は、やはりこの時代由来でできているのでしょう。そもそも、どこからともなく現れたコナプトも飛行船も、この時代が生んだものでしょうから。
かすみ「歩夢先輩」
部屋の主はベッドの上にいました。ベッドの上で寝転がることなく、こじんまりと体育座りして顔を身体にうずめていた彼女は、声をかけるとちゃんと応えてくれました。
歩夢「かすみちゃん……?」
歩夢先輩の目は真っ赤に腫れていました。涙の乾いたあとがいくつもあるのに、いまだって涙にあふれています。
ずっと泣いていたのだと、すぐにわかりました。
あの日からずっと、誰かを思って、たったひとり。
歩夢先輩はなにかを謝って、また顔を隠してしまいます。
歩夢「ごめんなさい……私、止められなかった」
歩夢「私の中から飛び出していく自分自身が、みんなにひどいことをしているのに止められなかった……ううん、止めなかったの」
ごめんなさいと、歩夢先輩は声を震わせます。
懺悔室にしては、自室というのはあまりに日常に近い空間に思えます。それは歩夢先輩の優しい責任感の表れでした。
歩夢「あの子がいないことが信じられなくて、でも私だって憶えてなくて……それがおかしくて」
歩夢「もう……なにが正しいのかもわからなくて」
嗚咽を漏らしながら精いっぱいに紡ぐ歩夢先輩の言葉は、要領を得ません。けれど十分でした。
歩夢先輩の気持ちを共有するのに、それ以上の言葉は必要ありませんでした。
ベッドで小さく身体を丸める歩夢先輩の肩に、そっと触れます。
ぴくりと反応するその中に、拒絶の感情がないことに安堵して、あとは強く抱きしめました。
歩夢「……かすみ、ちゃん?」
ただの抱擁。異変前だって特別なことがなくてもやっていた、ありきたりな行為です。
けれどこの時代――大切な人と触れ合うことすら容易でないこの時代――において、これほど心強い行為はないことをかすみは知っています。
みんなが教えてくれたんです。この旅の中で、みんなの体温がかすみを助けてくれた。
だから今度は、かすみんの番です。
かすみ「……わかりますか? 歩夢先輩」
強く強く腕を背中に回して、身体を密着させます。歩夢先輩の身体はひどく冷えていて、だからこそ、水が高きから低きへ下るように、かすみの体温が移っていきます。
歩夢「ああ……っ」
伝わる確信がありました。人の体温という熱は、命そのものだから。
かすみの中の大切な人の存在も、きっと歩夢先輩は気づいてくれる。
かすみ「ひとりじゃないんです。ここにいますよ、歩夢先輩」
歩夢「うっうぅ……!」
小さく身体を丸めていた歩夢先輩の腕が、かすみの身体に回りました。弱々しく、恐る恐るかすみの背中をつかむその手は震えていて。
ちょうど耳元で、歩夢先輩は小さくつぶやきます。
よかった、と。
歩夢「――あなた」
風をはらんだカーテンが膨らんで、波を打つより先に、端から形が崩れて輝く粒子に変換されていきます。
さらさら、さらさらと、流れる粒子は開いた窓から外へとこぼれ落ちていく。
カーテンだけじゃありません。学習机も、ベッドも、窓や壁も、部屋自体が淡く輝いて、形の定まらない光となって浮き上がっていました。
それは誰かが菌と呼ぶものでした。それは誰かが不確定性の胞子と呼ぶものでした。
歩夢「かすみちゃん……」
淡い光の中で、歩夢先輩が不安そうな瞳を向けます。
形を失いつつある部屋はしだいに影が薄くなり、高層ビルより高い自分たちの位置をよりはっきりさせます。
薄く膜のようになった天井に目を向ければ、飛行船自体も崩れていくのがわかりました。
東京湾上空、足元がしだいにおぼつかなくなる中……それでも時間は十分あるでしょう。
やることはもう、ひとつだけ。
もとより……スクールアイドルのかすみんにできることは、たったひとつなのでした。
歩夢「きゃっ……あれ、立てる?」
ふわふわと光る粒子に埋もれておぼつかない足元は、不思議な力場でかすみ達を支えてくれます。
ここがステージでした。どんなスクールアイドルだって立ったことがないようなスペシャルステージです。
かすみ「すぅ……」
大きく息を吸い込みながら、風景を見渡します。雲のように薄く伸びていく粒子の向こう側に、お台場がありました。レインボーブリッジがありました。虹ヶ咲学園がありました。
世界中のみんなに届きますように。
かすみ「――――やっほー! みんなのアイドル! かすみんだよ~~!!」
声は風にのって、粒子と一緒に流れていきます。地上にいるすべての人に、世界中のすべてに向かって。
世界よ変われ、なんて大げさなこと、考えなくてよくて。
目指すのは、この時代にただ笑顔を届けること。それがアイドルの役目なのですから。
かすみ「今日は世界にひとつだけのスペシャルライブ! みんなきいてね~~!」
MCとしては、単純過ぎるでしょうか? でも、正直な気持ちを言葉にすると、そうなっちゃうのです。
聞いて! と。
どうしてスクールアイドルやってるの?
その質問の答えは、やっぱり一言ではいい表せません。
胸に残った純粋な感情は、糖蜜がぎゅっと詰まったような、きらきら輝く甘いイメージ。
そこから「可愛いものが大好きだから」とか「スクールアイドルが大好きだから」とか、言葉が無限にあふれてくる中で。
「大好きなみんなを笑顔にしたいから」っていう気持ちも、すっごく大きくて。
だから言葉にのせられない想いは歌詞に、歌詞にのせきれない気持ちはメロディに。
かすみ「今日こそは伝えたい!――――♪」
Dear my friends.
でもやっぱり、ひとりじゃ足りません。
だから……。
かすみ「ほら歩夢先輩、一緒に歌いますよ」
歩夢「え、でも、私……」
両手を小さく重ねて、怯えたように歩夢先輩は縮こまっています。瞳に満たされた不安げな感情は、繰り返しすぎた自責の念によるものかもしれません。
この時代に振り回された自身への戒めは、歩夢先輩だからこそ、ひどく重いのでしょうけれど。
不安げな仲間ひとり鼓舞できずに、スクールアイドルは務まりません。
みんなに笑顔を届ける、そこに例外はなくて――ううん、もっとシンプルに言葉にするなら。
歩夢先輩に笑ってほしい。歩夢先輩に一緒に歌ってほしい!
そのためにスクールアイドルは歌うのです。
こうしていれば、歌詞もメロディも、自然と湧いてくるはずだから。
だってこの歌を、かすみ達はもう知っているはずだから。いつかのステージの記憶を、きっとこの手が繋いでくれる。
あの虹色のステージを。
歩夢「……あったかい」
かすみ「聞かせてください、歩夢先輩の歌」
本心からのお願いに、歩夢先輩の手にきゅっと力が入りました。
歩夢「ほ――本当はね 本当はね」
恐る恐る絞り出した歩夢先輩の言葉は、ちゃんと歌になっていて。
音色にのった願いが世界に響いていく。
歩夢「ずっと言いたかった」
歩夢「いつだって ありがとう――――♪」
大切な My friends.
かすみ「……え?!」
エマ先輩でした。きらめく粒子の雲から、コナプトにいたはずのエマ先輩がぽふんと現れていました。
おっとっとと、不安定に見える淡い足場を確かめているその身体には、すでにあの痛々しい蔓はありません。
エマ「あ、かすみちゃん! 歩夢ちゃんも! びっくり~」
歩夢「エマさん……!」
びっくり~を超えているような気もしますけれど、そこはさすがエマ先輩の包容力なのかもしれません。
璃奈「あ、私……?」
愛「りなりー! 愛さんも戻ってる! というかここ空じゃんすっごー!」
りな子に愛先輩まで、元の姿でそこにいます。それは明らかな変異の逆行で。
かすみの大好きなみんなが、歌に呼ばれて、ステージに集まってきていました。
かすみ「しず子……」
隣にはいつの間にかしず子がいて、肩を支えてくれます。
久しぶりにみた同級生の微笑みは、嫉妬しちゃうくらいまぶしくて。
見とれていたから、気づくのに遅れてしまいました。
果林「――頑張るのが好きで」
せつ菜「『負けないよ! 負けないよ!♪』」
重ねて来たら ここにいたの――――♪
果林「ね、かすみちゃん」
せつ菜「はい、かすみさん!」
かすみ「うそ、ふたりとも……!」
幻ではありませんでした。ずっと望んでいた二人の先輩までもが、白く輝く空の上で、たしかに立っていました。
次々と驚くのも間に合わぬまま、最後に彼方先輩がゆるりと現れます。どういうわけか、それほど懐かしさを感じさせないのが不思議でした。
ずっと近くで応援してくれてたみたいに。
彼方「やっぱりかすみちゃんは、ちゃぁんと自分を見つけられたみたいだねぇ」
よしよしと、彼方先輩は頭をなでてくれます。満たされていました。前を向けば、かすみの大好きな仲間がそこにいる。
人智を超えた奇跡の現れに、この旅で得たひとつの言葉を思い出します。
あらゆる結果は、まず気持ちから生じる、と。
かすみ「うぅ……」
だめ、だめです。ステージの上では泣いちゃだめ。だってスクールアイドルなんだから。
9人そろって、ようやくスタートライン。
ここからが始まりで、ここからが本当のライブなんです。
私たちは誰からとなく、手を繋いでいました。
かすみ達の足元で、薄く世界に広がっていく粒子に太陽の光が差し込みます。
見下ろした先には、丸く円を描く鮮やかな虹。
手を繋いだ9人の影が薄い粒子の雲に伸びて、その周りに円状の虹がうまれていました。
歩夢「すごい……」
せつ菜「ああ、これはとっても私たちらしいです!」
璃奈「ブロッケン現象……こんなにきれいに見えたのはじめて」
それはあたかも、かすみ達を中心として、世界中に虹が架かっているように。
9人の虹。9色の虹。
この景色を、きっとあなたも見てくれているでしょうか?
虹色があふれる
出逢えた奇跡は 何より宝もの
大好きが咲いている
僕たちのドリームワールド
一緒に叶えよう
とびきりの明日へ行こう!
Love U my friends――――♪
みんなが望む、素敵な未来へ向かうハーモニー。
まばゆいほどに輝いて、虹色にあふれる景色の中。
目指す方向はわかりきっていました。
歩夢先輩が大切な人と一緒にいられる場所。
しず子が自分を見失わない場所。
果林先輩が本当になりたい自分になれる場所。
愛先輩がみんなと楽しく笑い合える場所。
彼方先輩が妹さんと共にある場所。
せつ菜先輩が両親とわかりあえる場所。
エマ先輩が大好きな歌を歌える場所。
りな子が自分の表情に自信をもてる場所。
虹色の帳の向こう側、手を伸ばした先の先。
みんなが幸せになれるその場所から、どういうわけか届いた自分の声がおかしくて、つい笑っちゃいました。
――――ワンダーフォーゲル部をですかぁ?
学園の部室で、かすみんは頭を悩ませていました。ノートを前にペンを持って悩めるその姿は文豪のように見えるかもしれません。
こんなに可愛い文豪がいたら大変ですけどね!
果林「あらかすみちゃん、お勉強?」
かすみ「おっと果林先輩、これは秘密ノートですよ」
ノートをのぞきにきた果林先輩に、みられないようにささっと隠します。
危ない危ない。
果林「もう、またイタズラでも考えてるのかしら?」
かすみ「それは後のお楽しみに……って違いますけど!」
かすみ「せつ菜先輩まで……」
ものすごくニコニコしています。こういうときのせつ菜先輩はだいたい間違ってるので問題ないのですけれど。
せつ菜「ちらと見えた『DDD』という文字……間違いなくきのこ関係ですね!」
かすみ「!?」
せつ菜「わかります、私もずっと待ってますから……DDDの三巻目!」
かすみ「は、はい??」
一瞬びっくりしちゃいましたが、やっぱり勘違いのようです。
かすみ「いや違いますけど!」
しずく「え? かすみさん、お話つくったの?」
かすみ「いや違うからぁ!」
彼方先輩の毛づくろいをしていたしず子がとことこと寄ってきます。
収拾つかなくなってるんですけど。
彼方「すやぁ……」
エマ「ふふっ彼方ちゃんはもふもふだねぇ~」
愛「りなりーもほら、気持ちいいよ!」
璃奈「もふもふ、ふわふわ」
——————–
———–
—-
あとのみんなはまったく憶えてなくて、逆にかすみんだけがタイムスリップしたかのようなヘンテコな感覚に囚われてしまいましたけど。
まあそれも、もう慣れましたね。
かすみ「ふぅ、危なかったぁ」
家に帰ってから、例のノートを取り出します。見られてものすごく困るわけじゃないですけれど、変に混乱を呼ぶのもあれですし、やっぱり家でこつこつ進めるのがいいかもしれません。
内容は、あの世界で起きたことの記録。思い出せる限りを書き込んでいるのでした。
どうしてそんなことをしているのかというと、ちゃんと理由があって……。
かすみ「? 電話――――先輩だ!」
スマホに表示された名前をみて、飛びつきました。
かすみ「えへへ……あれ、もしかして歩夢先輩もいます?」
かすみ「いやいいんですけど、なんとなーく思うところがあるというか……なんでもありません!」
かすみ「え、今度の休み?」
かすみ「行きます行きます! もちろんですとも」
かすみ「あ、歩夢先輩も一緒? え、せつ菜先輩も一緒? んん、みんな一緒?」
かすみ「そうですか……」
かすみ「いえ……ふふっ、楽しみです!」
かすみ「あ、そうだ、先輩にお願いしたいことがあって……」
かすみ「……いえ、やっぱりまた今度にします」
歩夢先輩もかなり入ってきましたけれども。
というか半分くらい割り込んできましたけれども。
まあ、楽しそうで何よりです。
かすみ「う~ん」
さてと、電話を切ったあと。
秘密ノートを手にして悩みます。このノートを書いている理由……先輩へのお願いごとにも関係するのですが、かすみは今回の体験から歌詞をつくろうと思っているのでした。
いろんな体験とか、自分自身の発見とか、いろいろありましたからねぇ。
その歌詞で先輩と一緒に曲をつくれたらなぁと考えていて、でもそれも、歌詞が完成してからですね。
曲ができたら……と、机の上のヘアアクセサリーを手に取ります。緑色の、リボンの形をした一対の髪飾り。
これもまた、体験とは別の、異変からのお土産です。
記憶を除けば、唯一の証とでも言えるかもしれません。
不思議な夢でした。ええ、そのままの意味で。
かすみ「う、うぅ~ん?」
寝付けないときに、ひつじを数える風習があります。それと同じと言っていいものやら。
夢の中には、扉が2つ開け放たれていて。
彼方先輩がひとり、彼方先輩がふたりと、右から左へと扉を移動しているという内容でした。
塀を飛ぶひつじが並ぶように、たくさんの彼方先輩が扉に並んでいます。
ぼーっと眺めている間にも、彼方先輩がさんにん、彼方先輩がよにん……
かすみ「いやなにやってるんですか!?」
夢の中にしてははっきりツッコめたと思いますよ?
かすみ「うわ、彼方先輩」
右の扉から左の扉へと移る彼方先輩の列からはみ出た彼方先輩がひとり、かすみんに話しかけてきました。
ちょっとびびります。
危うく彼方先輩がゲシュタルト崩壊するところです。
かすみ「なにやってるんですか? 彼方先輩。というかほんとの彼方先輩ですか?」
彼方「まあまあ落ち着いて」
かすみんと対照的にのんびりとした彼方先輩から、なんとなく危険なものではないことは伝わるのですが。
それにしたって謎な光景でした。
彼方「彼方ちゃんはね~、あの日『マーケット』でかすみちゃんの中に入った彼方ちゃんなのさ~」
かすみ「えぇ!?」
びくりと、つい注射針を刺された場所をおさえます。そこに注射痕はまったく残ってないですけれど、それでも良い記憶ではありません。
かすみ「はぁ」
元通りかはわかりませんが、ひとまず、この彼方先輩に悪気はないようです。
彼方「そのとき一緒に彼方ちゃんも戻るはずだったんだけどねぇ……うっかり寝過ごし申した」
かすみ「ほんとになにやってるんですか!?」
というか寝過ごすとかそういうシステムなんですか?
彼方「でもそのおかげで、かすみちゃんを経由して『マーケット』に残っちゃった彼方ちゃんも、みんなオリジナルの彼方ちゃんに還元できるというわけなんだ~」
かすみ「かんげん……」
かすみ「というか『マーケット』ってまだ残ってるんですか?」
彼方「そ~なんだよねぇ。起源が元の世界じゃなかったとか、確立しすぎちゃったとかで切り離されたとかなんとか、帽子のおねえさんがいってたけど」
彼方先輩は??と頭にはてなマークを浮かべながら話すので、もちろんかすみにも伝わりません。
伝言ゲームは失敗のようです。
彼方「ひとことでいえば摩訶不思議な世界が隣り合わせにあるってことで……つまり、いつも通りだねぇ」
これまたのんびりと話す彼方先輩のおかげか、まったく危機感が伝わってこないのですけれど。
実際のところ、そんな程度なのかもしれません。
だっていつの世の中にも、奇跡としか思えないくらい素晴らしいことがたくさんあるのですから。
かすみ「えぇ……」
さらりと、とんでもないことを言い残します。いまより愛が重くなるって、普通に心配なんですけど。
彼方「ん、かすみちゃん、いいの持ってるね」
かすみ「へ? あ、お守り」
扉を抜ける直前、彼方先輩の目が開きました。いままでどこにあったのか、いつかせつ菜先輩から受け取ったお守りが、かすみの手に握られています。
彼方「ふふふ、オリジナルの彼方ちゃんみたいに無から有は生み出せないけど、創り変えることならできるんだよ~」
え~いと、かつて彼方先輩がそうしたように、手のひらのお守りがまばゆく輝いて。
光が収まったあと、かすみの手のひらには一対の髪飾りがちょこんと乗っていました。
かすみ「あ……」
かわいい……と、素直に思ってしまいます。かすみんのパステルイエローにぴったりな、グリーンの小さなリボンの髪飾り。
お土産だぜ、と彼方先輩はドヤ顔です。
彼方「いつか、それをつけたステージを見せてね」
その言葉を最後に、ぱたりと扉は閉じて、夢は醒めました。
手のひらに緑の髪飾りを残して。
かすみの中であの体験のすべてが整理できて、歌となったとき、ようやく身につけることができるのでしょう。
それまでは、まだ。
歌詞つくりは進めないとですけれど、他にもやるべきことはあります。
かすみんファンクラブのホームページの更新。
応援してくれるみんなに、かすみんのかわいい姿をたくさん見せないとですからね。
かすみ「えいっ更新!」
カチリとマウスを押して、作業を完了します。
いつだってドキドキするこの時間、ページが切り替わるつかのまに……ふと、思い浮かぶことがありました。
かすみんの大好きな先輩は、異変発生時からかすみんの中に溶けていました。存在ごと溶けたといいますか、状態としては魂を持っていかれた果林先輩よりひどく、みんなの記憶から消えてしまうほどに。
どうして先輩がそんな目にあっていたのか、あるいは、他のみんなの変異と同じように、それが先輩の個性に由来するのか。
本人すら憶えていない出来事なので、結局はわからずじまいですけれど。
では、どうしてかすみだけが憶えているのか。
かすみんなりに、ひとつだけ考えがあります。
かすみの中の先輩を通して、さらに他の誰かに繋がっていたんじゃないか、と。
その誰かが憶えているから、意識のなかった先輩を例外として、かすみも憶えているんじゃないか、と。
ある種のきのこというのは、見方によっては世界最大の生物といえるようで……その長大な糸の先に、誰かがいたんじゃないか、なんて。
誰かって誰? と、液晶をみながらの他愛のない妄想ですけれど、ちょっとした娯楽にしては楽しいでしょう?
いけないいけない。お母さんからお風呂の催促をされてしまいました。
ホームページに載ったかすみんのかわいい写真を眺めていたら、もうそんな時間です。
お風呂の準備準備……。
かすみ「っと、その前に」
かすみ「昨日の閲覧数は――」
かすみ「――――えへへ♡」
長期連載とても楽しませてもらいました
最高のSSをありがとうございます………
とても良かったのでもう見れなくなるのが寂しい
そして完結おめでとうございます!
独特な世界観の中でも9人の絆は変わらないことが分かる、素晴らしい物語でした…
!
素敵なSSをありがとうございました!
素敵な物語をありがとうございました!
途中からだけど毎日楽しみにしてたよ
乙!
この独特の世界観と雰囲気好き
めちゃくちゃ面白かったです!
ちょっぴり寂しい気もします
長い間追いかけて良かった
読んでくれた方、長い間ありがとうございました。
こんな人を選ぶお話を読んでくれただけで嬉しいです。
裏話的なのを物語外で語るのは控えておきます。すみません。
ただこの世界のせつ菜先輩はネットで「まほよ2はよ」ってよく書き込んでるらしいですよ?
よくわかんないですけど。
(これも蛇足かしら)
それはそれとしてアニメかすみん回が楽しみです。それでは。
電撃組の友情がよく描かれてて世界観の表現も素晴らしかった
お疲れ様でした!
引き込まれる世界観
>>1 、こんなに素敵な物語を本当にありがとう。
色んな感想の言葉が出てきて自分の中で収集がつかないんだけど……とにかく、心が震えたよ。
そんでなにより>>1の虹ヶ咲愛、かすみん愛が伝わってきた!
過去作や次回作があるのか気になるところだけれど、とりあえずは令安かすみん物語、完走お疲れ様でした!
きのこ苦手だったけどこれからは食べるようにするわ(?)
前スレから更新を本当に楽しみにしていました。最高の作品をありがとう!
かすみんは頑張ってるなぁ!🍄🌈
コメント