【SS】梢「俺。河童を探しに行くわよ」俺「んぁあ……?」【ラブライブ!蓮ノ空】

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【SS】梢「俺。河童を探しに行くわよ」俺「んぁあ……?」【ラブライブ!蓮ノ空】

1:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:17:26.63 ID:QUw4/DZr

俺「折角の夏休みなんだから昼まで寝かせてくれよ……」バサッ

梢「はぁ。夏休みだからと怠け放題なのは見過ごせないわね。同居人に恥を欠かせないでちょうだい」

俺「いいだろ、別に……ふわぁ……」

梢「大きい欠伸。私の拳が丸ごと入りそうね」

俺「……てか、なんだって? 河童?」

梢「えぇ。河童よ。きゅうりが好物で頭には皿を乗せ、地方では猿猴の呼び名を持つ妖怪ね」

俺「なんだって藪から棒に。てか、そういうことはクラブの連中と一緒に行けばいいだろう? 猫可愛がりしてる花帆さんとか、ペンギン好きな綴理とかでいいじゃん」

梢「綴理はともかく、花帆さんを危ない山中には行かせられないわ。行くとしても、安全性が完全に確保されてからよ」

梢「その点、あなたなら私が変に気遣うこともないし、体力だって問題いらないわ」

俺「……はぁ。ったく、仕方ねぇなぁ」ポリポリ

 

2:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:18:37.83 ID:QUw4/DZr

梢「ふふっ。その言葉を待っていたわ。荷物は準備したからさっさと行くわよ」ズシッ

俺「うわ……。なんだよこの大荷物」

梢「丈夫な釣り竿にトラバサミ。好物のキュウリに嫌いな瓢箪。その他諸々よ」

俺「……ちなみに、なんで花帆さんの写真が入ってるんだ?」

梢「愚問ね。花帆さんの可愛さにつられてのこのこ出てくるに違いないわ」

俺「ったく。この脳筋お嬢さまは……」

梢「何か言ったかしら? ほら、俺も少しは持ちなさいな」

俺「持てねぇよ」

梢「まあ、低く見積もっても成人男性十人ほどの重量だもの。山登りに加えていい筋トレができるわね」

俺「……妖怪ゴリラ女かよ」

 

3:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:19:49.02 ID:QUw4/DZr

──

梢「さて、まずはここらで釣りをしてみようかしら」ササッ

俺「おう。キュウリは……一本丸ごと括り付けていいのか?」

梢「俺なら輪切りにされたキュウリか、一本丸ごとのキュウリか、どちらに釣られたい?」

俺「そもそも釣られたかぁ、ねぇよ……」ヒョイッ、ポシャッ

梢「ふふっ。軽い冗談じゃない。よし、私も第一投目……それっ」ポシャッ

俺「お~、ナイスキャスト」

梢「もっと褒めてくれていいのよ?」

俺「もう言わん」

梢「恥ずかしがり屋さんなんだから……」

 

6:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:21:00.32 ID:QUw4/DZr

俺「……」

梢「……」

ザ~……

ミ~ンミンミンミン……

バササッ、ピィピィ~……

梢「……いい風ね。それに、日陰の川沿いだと涼しいわ」

俺「そうだな」

梢「部屋に引きこもってばかりじゃあ、こんな体験もできなかったでしょう?」

俺「まあ……確かに。ありがとな梢」

梢「あら。今日のあなたはなんだか殊勝ね」

俺「そうか……?」

梢「えぇ。というか、俺と最後に遊んだのなんていつだったかしら……。ずいぶん久々のように思えるわ」

俺「そりゃあしょうがない。だって、最近の梢はスクールアイドルクラブで忙しかったからな」

 

7:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:22:11.27 ID:QUw4/DZr

梢「あぁ、それはそうね。撫子祭以外のことなんて一切考えられなかったものの。今日の河童探しはちょうどいい小休止ね」

俺「やれやれ。小休止に付き合わされるこっちの身にもなってくれってんだ」

梢「そう言いながら楽しんでいる癖に。そういえば、俺は今年の夏は何をして過ごしているの?」

俺「俺か? 俺は──」

ググッ、ググッ

梢「!」

梢「俺! 見なさい! 引いてるわ!」

俺「んあ? おぉっと……」ボチャッ

俺「悪い梢……。竿、川に落としちまったみたいだ」

梢「あなたって人は……。鈍感にもほどがあるわよ。スズメバチに刺されても気が付かないんじゃなくて?」

俺「ごめんて。というか、キュウリでもかかる馬鹿な魚もいるんだな」

梢「それは……確かに。河童オンリーで狙っていたから想定外ね。折角だし、手法を変えましょうか」

俺「お。他に方法があるのか」

梢「えぇ。次に使うのはこれ。瓢箪よ」

俺「瓢箪……?」

 

9:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:23:22.49 ID:QUw4/DZr

──

梢「河童さ~ん? 河童さ~ん? いるかしら~?」カンカンカンカン!!(おたまでフライパンを叩く音)

俺「……」

梢「いるなら返事して欲しいのだけれど~~~???」カンカンカンカン!!

俺「……」

俺「……ふぅ。なあ梢」ピタッ

梢「河童さ──なに? 今がいいところじゃない」

俺「いいところか悪いところかはさておき。呼びかけにすんなり答えるわけないだろ?」

梢「分からないじゃない。従来の固定観念に囚われるのは愚者のすることよ」

俺「いや、だからと言って……。というか、瓢箪はどうしたんだよ」

梢「瓢箪はこれから使うのよ。黙ってみていなさい」

俺「……へいへい」

 

10:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:24:33.48 ID:QUw4/DZr

梢「河童さ~ん! 出てきてくれたらいいことがあるわよ~?」

梢「出てきてくれたら、私をお嫁に貰えるわよ~?」

梢「このチャンス、逃すべきじゃないと思うのだけれど~?」

俺「……は?」

俺「いやいや。なんだよそれ」

梢「なんだよもすったもんだもないわよ。言葉のままよ」

俺「いや、なんというか……なに? お前って河童と結婚したい願望でもあるのか?」

梢「あるわけないじゃない。河童と言えば古来より見目麗しい乙女を嫁に貰いたいものなのよ」

俺「自分で言うか。それで、本当に出てきたらどうするんだよ」

梢「そこでこれを使うのよ」スッ

俺「瓢箪……」

梢「昔の話にね、河童に何かお願いする代わりに、瓢箪を何とか沈めてみて、ってお話があるのよ。オチとしては、河童は瓢箪をどうやっても水中に沈められずに浮いてしまって、人間の言うことを聞くしかなくなった、ってものね」

梢「それ以来、河童の苦手とするのは瓢箪って言われているわ」

 

11:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:25:45.48 ID:QUw4/DZr

俺「へぇ~……色々考えてるんだなぁ。まあ、梢のそれは浅知恵と言わざるを得ないが」

梢「全く、文句ばかりね。少しくらい手伝ってくれてもいいのよ?」

俺「……しゃ~ない。俺もちっとは手伝うかぁ~。俺がやってもなしのつぶてだとは思うがな~」

俺「河童~っ! 今出てくれば、同じ妖怪のゴリラ女が嫁になるぞ~っ!!」

梢「そうそう。それでいいの……って、少し待ちなさい俺」

俺「山にいるし、山ゴリラだぞ~! ムキムキでバッキバキだぞ~!」

梢「バキバキ……っ!?」

俺「バキバキアイドルでぇ~す!」

梢「ちょ、ちょっと俺! いくら何でも売り込みの仕方に悪意しか感じられないわよ!」

俺「やれって言ったのは梢じゃねぇか。河童だって、ひ弱な女より山の中でも強く生きてくれそうな奴の方が嫁に貰いたいだろ?」

梢「た、確かに……。一理あるわね……」ブツブツ

 

12:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:26:56.74 ID:QUw4/DZr

俺「だろう? って、おい梢っ。下見ながら歩いてるとあぶねぇぞ!!」

梢「……んぇッ」ズコッ

梢「い、いたた……。木の根に躓いてしまうとは……私もまだまだね」パッパッ

俺「大丈夫か?」

梢「えぇ。少し手を借りるわね」スッ

俺「あ……」スルッ

梢「?」

梢「なぜかしら。今、手がすり抜けたような──」

ドサッ!!

梢「ん? 今後ろから何か……」クルッ

梢「これは……蜂の巣?」

スズメバチ<コンチハ

梢「……」

スズメバチ<サシテモイッスカ

俺「……」

スズメバチ<サスッスネ

梢「に、逃げるわよっ! 俺!!」ダッ

 

13:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:28:07.98 ID:QUw4/DZr

俺「あ、おいっ梢! 一人だけ逃げるなんて卑怯だと思わないのかよ!」

梢「こういうのは別々に逃げた方が生存率は上がるって、花帆さんから借りた漫画にあったのよ!!」

スズメバチ<ブゥ~ン

梢「って、どうして私ばかり狙われるのよ! ああもうっ!」

梢「こういう時でも逃げられるよう、私は鍛えてきたんじゃないっ!」

梢「スズメバチの皆さんっ! 山ゴリラの意地、とくとご覧あれ!」ダッダッダッ!!

俺「ヤケクソにもほどがある」

俺「……って! おい梢! あれを見ろよ!」ブンブンッ

梢「なによ! 今山ゴリラステップで忙し──」

 声を荒げながらも俺の指差す方向を見る。

 するとそこには、こちらに背を向けた緑色の生物がいて。

 遠くの方だったものの、頭には皿、大きな黄色い嘴を付けたそれは。

梢「──か、河童!!」

 説話、寓話に生きる伝説、そのものだった。

 

15:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:29:18.93 ID:QUw4/DZr

──

梢「はぁ、はぁ、はぁ……」ズルッ

梢「な、なんとか撒いた、かしら……?」ドサッ

俺「あぁ。洞窟の中にまでは追ってこないだろ」

俺「しかしまあ、荷物を全て捨てた梢の走りがあんなに凄まじいとはな。我ながら、驚きに開いた口が塞がらなかったよ」

梢「はぁ、はぁ、はぁ……」

梢「はぁ、はぁ……。ふっ、ふふっ」

俺「梢?」

梢「あはっ、あはははははっ……。も~、おかしいわっ。あははっ」

俺「くくっ。まあ、なんだ。確かに、梢のあんな慌てた顔は久々に見たよ」

梢「もう少しで死ぬかと思ったわ。でも、死ぬかと思った矢先にまさか……河童なんてね」

 

16:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:30:31.06 ID:QUw4/DZr

俺「あぁ。死ぬ前に見せてくれた、冥途の土産かと一瞬思っちまったよ」

梢「冥途の土産が河童? ふふっ。冗談にもならないわね」

俺「あぁ、全くだ」

梢「えぇ……ほんと……」

俺「……」

俺「……それでどうだ? もう、満足か?」

梢「えぇ……。後ろ姿をチラリと見ただけだったけれど、あれは河童に違いないわね」

梢「スズメバチがいるから花帆さん達は連れてこられないけれど……まあ、あなたと私だけの秘密というのも悪くないわね」

俺「そうか。あぁ、そうだな……。悪くない」

俺「最期の思い出が河童ってのも、乙かもな」

梢「……?」

梢「最期? どういうことかしら?」

 

18:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:31:41.86 ID:QUw4/DZr

俺「なあ。もういいだろ?」

梢「いいって……何がよ。今日のあなた、少し変よ?」

俺「変? 何がだ?」

梢「私の荷物を全然持ってくれないし、竿を川に落としてしまうし、蜂には全然狙われないし……」

俺「それの、何が変なんだ?」

梢「何がって……」

俺「──代替品」

梢「だい、たい……?」

俺「俺は、梢の作り出した代替品、マクガフィンだろう? なら、荷物も持てなければ竿だって支えられるはずがない。蜂だって実体のない奴を狙おうとはしないだろう」

梢「な、何を言っているの……? あなたは俺……しっかりと、ほら、こうして触れ──」

スルッ

梢「な……っ。触れ、ない……?」

俺「あぁ。つまりは、そういうこった」

梢「な、なんで……。じゃあ、どうして俺は……」

 

20:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:32:53.31 ID:QUw4/DZr

俺「梢が一年生の時だよ」

俺「一年生の時、順調に行っていると思っていたスクールアイドルクラブの活動。人間関係が上手くいかず、退部するメンバーもいれば、怪我で一時的に離れるメンバーもいた」

俺「そして綴理でさえ、お前の元から離れた。いや、梢。お前から離れたようなもんだよな」

梢「それは……っ」

俺「好きでたまらないのに。隣に置いておきたくて苦しいのに。離れるなんてもっての外なのに。お前はいつも、自分の感情とは真逆の選択をしてしまう」

俺「それを良かれと思ってるんだから尚更たちが悪い」

梢「わ、私は……」

俺「そうして、心と行動が真逆の行動を取ったことで、精神は分裂しかけた。それを阻止しようとして生まれたのが、『俺』だよ」

俺「『私』ではない、他者である『俺』は、こうして生まれた。まあ、なんだ。要は寂しんぼが作り出した、綴理や沙知先輩の代替品ってこったな」

梢「……あなたは、私が……。うっ、ぐぅっ! あ、頭が、割れ……っ」フラフラ

梢「はぁ、はぁ……。うぐぁっ……。あ、あぁっ!」

梢「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

22:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:34:05.05 ID:QUw4/DZr

俺「……落ち着いたか? ごめんな。急には辛かったよな」

梢「俺……。どうして、今さらそんなことを……」

俺「……簡単だよ。俺はもう、いらなくなったからさ」

梢「え……」

俺「ほら。朝言ってただろ? 俺と最後に遊んだ日が思い出せないって。なぜかって、簡単だよ」

俺「梢にはもう、俺なんて必要ないくらい、信頼できる仲間に囲まれてるってことさ」

俺「『本物』が手に入ったんだ。代替品は、偽物はいらなくなる。簡単な論理だろ?」

梢「そ、そんな……っ。私、俺を忘れかけていたって言うの……?」ワナワナ

俺「それでいいんだよ。俺なんて、いない方がいい。本当の絆を、お前は手に入れたんだから」

梢「……や」

梢「いや、いやよ……。何が代替品よ。偽物よ。私が辛い時、寂しい時、いつも隣にいてくれたのはあなたでしょう!?」

梢「『しょうがねぇなぁ』とか『やれやれ』とか言ってる癖に、私にいつも付き合ってくれた!」

梢「あなたは私の……大切な……大切な……親友じゃない……」ポロポロ

 

23:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:35:15.96 ID:QUw4/DZr

梢「どこかに行くなんて……許さないわ……っ」スッ

スルッ

俺「……ごめんな。俺は、本当はここにいちゃいけない……いや、そもそもいるはずのない存在なんだ」

俺「役目を終えたなら、消えなきゃならない。それが定めなんだよ」

梢「なによ……ふざけないでちょうだい……っ。どうして最後だけっ、そんな殊勝な態度を取るのよ!」

俺「いいだろ……? 別に、最後くらいカッコつけさせてくれよ」スゥ…

梢「あ……。体から光の粒子が……」

俺「あぁ、どうやら……お別れみたいだな……」キラキラ…

梢「いかせない……絶対にあなたを行かせないわっ!」ダッ

スルッ

梢「どうしてっ」

スルッ

梢「どうしてすり抜けるのよ……っ! なんで触れられないのよ……っ!」

スルッ

梢「こんなに近くにいて、お話だってできるのに……っ! どうしてっ!!」ダンッ

俺「……なあ。梢」

梢「なによ……ぐすっ」

俺「お前が河童探しに行ったのってさ、俺のためなんだろ?」

 

25:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:36:27.24 ID:QUw4/DZr

梢「え……」

俺「河童なんて、誰もが知っているが、誰もがいないって思ってる空想上の生き物」

俺「それを見て、発見して、捉えることで……」

俺「『俺』も河童同様に、どこかにいるって……そう、証明したかったんだろ?」

梢「わ、わた、くしは……」

俺「ありがとな、梢」ニカッ

梢「……っ」

俺「梢の真心、嬉しかったよ」

梢「ま、待って……。俺……」

俺「梢と過ごした一年間は……俺にとって最高の一年だった」

梢「いや、いやよ……。いかないでちょうだい……」

俺「じゃあな……。仲間を、大切に、な……」

キラキラ…キラキラ…

サァ~……

梢「あっ、あぁっ!」ダッ

梢「俺っ! 俺ェ!!」

梢「あぁっ、あぁああっ、ぁあああああああああああああああっ!!!!」

 

26:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:37:38.54 ID:QUw4/DZr

──

花帆「梢センパイ……最近元気ないよね。どうしたんだろう」

さやか「何か聞いても生返事ばかりですもんね。綴理先輩は何か知っていますか?」

綴理「もしかしたら」

さやか「お」

綴理「ボクの作ったどんぐりクッキーを食べたからかもしれない」

さやか「……えぇ」

綴理「ちなみに焼いてない」

さやか「えぇ!?」

瑠璃乃「やっぱりここは、花帆ちゃんの出番だよ!」

花帆「あ、あたし!?」

瑠璃乃「うんうん! やっぱり同じユニットじゃん!? それならきっと、色々あって、あの、その、えっと! ウィーンウィンだよ! ウィーンウィン!」

さやか「Win-Winでは……?」

花帆「……うんっ。あたし、行ってくる! セミの抜け殻みたいな梢センパイのままなんて嫌だもん!」ダッシュッ!!

瑠璃乃「ファイトいっぱ~~~っつ!!」グッ

綴理「次はセミの抜け殻入りクッキーかな」ジッ

さやか「いや。味見とか絶対しませんからね。いくらなんでも」

綴理「ずぅ~ん……」

さやか「口で言ってもだめです」

 

27:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:38:49.60 ID:QUw4/DZr

──

花帆「あ、あのあの。梢センパイ……?」ガララ

梢「……あぁ、花帆さん。何かしら……?」ボ~…

花帆「あ……」

梢「……?」

花帆「ふ~……。よし。日野下花帆。大丈夫だぞ。行けるぞ~。あたしなら行ける。やればできる」

花帆「あのっ! ズバリ一つ! 聞いてもよろしいですか!?」

梢「……えぇ。私にできることなら、何でも」

花帆「え、えぇとっ。最近、梢センパイ、元気ないですよね。それって、なんでなんだろうなぁ……って」

梢「そう……私、そう見えるのね。ごめんなさい。心配かけたわね……」

花帆「あ、いえ……」

梢「でもきっと……平気よ。全て、時間が解決してくれるもの。小川に流される小石のように。時間をかければゆっくりと……でも確実に、どこか別の場所へ運んでくれるわ……」

 

28:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:40:00.67 ID:QUw4/DZr

花帆「……? 一体、何があったんですか? あたしじゃあ力不足かもしれないけど、梢センパイの力になりたいんですっ!」

花帆「だって、あたし達はスリーズブーケで、スクールアイドルクラブの仲間じゃないですか!」

梢「……仲間」

梢「……花帆さん、じゃあ、一つ聞いてくれるかしら」

花帆「はいっ!」ストンッ

梢「私には……その、大切な親友がいたのよ。けれどね、最近遠いどこかに行ってしまって、もう二度と会えないのよ」

梢「でも、二度と会えないことよりも悔しいことがあるの……」

花帆「それは……何ですか?」

梢「私、そのお友達に散々迷惑をかけたの。いろんなところに引っ張りまわして、たくさん話を聞いて貰ったり」

梢「私は与えられてばかりで、そのお友達には何も与えられていないんじゃないかって。そうしたらあの子は……私のためだけに生きていたようなものじゃない……」

梢「私の傲慢で生み出して、その傲慢が故に消えてっ。そんなの、そんなの……っ。私自身が許せるわけないじゃない……っ!」ドンッ

梢「あ……ごめんなさい花帆さん……。ダメな先輩ね、私……。もう少し、強いつもりでいたのだけれどね……」

 

29:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:41:11.91 ID:QUw4/DZr

花帆「……いえ。平気です」

花帆「あの……詳しく知らないあたしが言うのはあれかもなんですが……」

梢「えぇ……。何でも言ってちょうだい」

花帆「そのお友達とは本当に、もう一生会えないんですか……?」

梢「えぇ。それだけは確実ね」

花帆「そうですか……」

花帆「……あの、梢センパイ。これはあたしが、スクールアイドルをやる理由とも重なるんですけど」

梢「……?」

花帆「小さい頃は病弱で、外になんて全然遊びに行けなくて、家にずっといて……。このまま狭い世界で生きて、そして死ぬのかなって思ってたんです」

花帆「たぶん、体は生きていたけど、心は棺桶に浸かっていたと思うんです。でも、あたしは思うんです。そんな人にだって、届くものはきっとあるって」

花帆「精一杯心を込めて歌って踊れば、言葉以上の物がきっと届くって、あたしはそう思うんです。だから、スクールアイドルをやって、少しでも多くの人に花を咲かせられたらって……そう思うんです」

梢「花帆さん……。あなた、そんなに大きな物を……」

 

30:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:42:23.10 ID:QUw4/DZr

花帆「いえ、それはただの理想です。あたしなんてまだまだですよ。でも、」ギュッ

梢「あ……」

花帆「ほら、こっちに来てください」グイッ

梢「……えぇと、何かしら」

花帆「あたしは未熟です。でも、それでも歌うんです。きっと、未熟で弱いあたしを歌えるのは、今だけですから」

花帆「だから梢センパイも、弱さを隠そうとしないで、それを歌いませんか?」

花帆「その弱さがきっと……そのお友達への真心だって、あたしは思います」

梢「……っ。私の、弱さが……」

花帆「……」ニコッ

花帆「私と~♪」

梢「……え?」

花帆「ほら、梢センパイ。私と~♪」

梢「き、君の~♪」

花帆「だめだめです。もっと感情を込めて。私と~♪」

梢「……っ。君の~♪」

花帆「今を♪」

梢「繋ぐ♪」

花帆・梢「これはそんなストーリー♪」

花帆「筆先を濡らした水が──」

 

31:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:43:34.10 ID:QUw4/DZr

──あぁ。

──俺……。私は……。

──『俺』には何も与えられてない。そんなの、全て後付けの理由だった。

──私があなたに伝えたかったのは、たった一つだけ。

──私と……一緒にいて欲しかったのよ。離れたく、なかったの。ただ、それだけなのよ。

──振り付けを見て貰って、怠そうにしながらも感想を述べてくれるあなたは、何よりも私の救いだった。

──私の歌を、踊りを。もっともっと、あなたに見せたかったのよ……?

──あなたが目を細めて、少し笑いながら見てくれている時が、どれだけ黄金だったか……。

──あぁ、なんだ……。私の中に、いるじゃない。俺は今も尚、私の心の奥深くに、しっかりと根を下ろしているじゃない。

──この世界は、水彩の絵具で描いたように儚い。どれだけ頑張っても、命はいつか失われてしまうし、豪華絢爛なお城だっていずれは風化して消えてしまう。

──でも、今確かに、私の心にあなたは……俺はいる。

──私の水彩世界に、あなたは確かにいる。伝説上の河童なんて目じゃないくらい確かに、ここにいるのよ。

──だから、そう……。どうか、どうか……。これからの私も一番近くで……。

 

32:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:44:03.33 ID:QUw4/DZr

「しゃあねぇなぁ。もう少しだけ、見守っといてやるよ」

 

33:(ささかまぼこ) 2023/08/09(水) 16:44:46.08 ID:QUw4/DZr

梢「──」

花帆「はぁ、はぁ。ど、どうですか? 梢センパイ。届きました、か……?」

梢「花帆さん……」

花帆「……はいっ」

梢「えぇ……きっと……。いえ間違いなく、届いたに違いないわ」ニコッ

梢「これから何度だって、届けて見せるわ。花帆さん、あなたと一緒にね」

花帆「はいっ。よろしくお願いしますっ。梢センパイ!」ダキッ

梢「えぇ……こちらこそ」ナデナデ

梢「……」フッ

 やっぱり、いるんじゃないの、あなた。

 まだまだ、付き合って貰うわよ。

 そしていつか……もう一度河童を探しに行きましょう?

 今度はきっと、間を置かずにすぐ、見つかりそうな気がするの──

おわり

 

引用元: https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1691565446/

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