きな子「どうもっす!鬼塚商店っす!いつもありがとうっす!」第5話
──
~それから一週間後~
千砂都「うぃっす~!かのんちゃん、おはよう~!」ニコッ
かのん「あっ!ちぃちゃんおはよう!!」
千砂都「あらためて、今日からお世話になるね」ニコッ
かのん「それはこっちのセリフだよ~、私の店なんかに来てホントに良かったの?」
千砂都「うん、自分の意思だからね」
かのん「ありがとね。ちぃちゃんがいれば、今まで以上に出来る事の幅が広がるから楽しみだな」
千砂都「かのんちゃんのお店がもっと繁盛するよう私も頑張るから」
かのん「よろしくね」
千砂都「・・・・・・さてと、開店準備は何から手をつけるといい??」
かのん「・・・あっ!うんっ、ど・・・どうしよっかな・・・・・・」アタフタ
千砂都「じゃあ、かのんちゃんは厨房の仕事してなよ。私は客席フロアの方やるから」
かのん「あはは・・・・・・ごめんね~。ていうか、いつもラーメンに手一杯で客席の方は酷い有様なんだよね」
千砂都「あ~あ・・・、確かに掃除も行き届いてないし、色々と酷いなぁ・・・・・・」ハアッ
かのん「でしょ??」アハハ
千砂都「まぁでも、私が来たからにはかのんちゃんの目が届かないところは私がやるから安心してよね」
かのん「うん、頼りにしてる!」
千砂都「よしっ!とりあえず、開店前の時間で出来る限り掃除するか!」
かのん「よろしく~」
──ガラガラッ
きな子「どうもっす!おはようございますっす~」
かのん「あ、きな子ちゃんおはよう~!」
きな子「発注頂いてた分の配達っす!」ドサッ
かのん「ありがとね」
きな子「あっ!千砂都先輩!!やっぱり今日からかのん先輩のお店なんすね」
千砂都「────あ、きな子ちゃん!」
きな子「あらためてよろしくお願いしますっす」
千砂都「昨日まではりんちゃんお台場店で会ってたのに変な感じだね」アハハ
きな子「そうっすね」アハハ
きな子「りんちゃんお台場店さんには朝一で行って来たっすが、千砂都先輩抜きでも混乱は起きてないみたいだったっす」
千砂都「それならよかった」ホッ
きな子「今日からりんちゃんお台場店さんに入った新しいバイトさんもなかなか優秀な方みたいで、中須店主は即戦力だって喜んでたっす」
千砂都「実は、辞めるに当たって少しだけ不安だったんだけどね・・・・・・、私がいなくてもちゃんと回りそうなら安心だよ」
きな子「世の中何とでもなるっす!」
千砂都「そうだね」
かのん「あ、そういえばきな子ちゃん!」
きな子「・・・ん?かのん先輩何っすか?」
かのん「前に貰った試供品の白醤油なんだけどさ、実際に何本か発注したいんだけど」
きな子「ありがとうございますっす!」
かのん「新メニューにする予定の塩ラーメンの目処がついて来たんだよね」
きな子「おお~っ!それは凄いっす!」
千砂都「ついに新メニュー追加かな??私も頑張らないと!!」
かのん「ちぃちゃんもいるし、メニュー増やしても店を回せるかなって思うんだよね」
きな子「千砂都先輩はりんちゃんラーメンお台場店の助手として超多忙な店内を回してたっすからね」
千砂都「まぁ、任せてよ!」
きな子「さて、かのん先輩。白醤油のご注文はFAXを鬼塚商店まで送っておいて欲しいっす」
かのん「うん!わかった」
かのん「あと、それと~・・・・・・きな子ちゃん・・・・・・に相談するのは違うか・・・・・・」ウーン
きな子「どうかしたっすか?」
かのん「もともとウチで使ってた中古の製麺機が壊れそうなんだよね、それでいっそのこと銀行からお金借りて新しい製麺機買おうかなって思ってて・・・・・・」
きな子「う~ん・・・・・・残念ながら鬼塚商店は機械屋ではないっす・・・・・・」
かのん「だよね~」
かのん「ちぃちゃん、どこかそういう会社知らない??」
千砂都「う~ん・・・・・・りんちゃんでも製麺機は使ってたけど、壊れたことはなかったからなぁ・・・・・・」
きな子「・・・・・・では、きな子は失礼するっす!」
かのん「は~い」
きな子「先輩方のご健闘を祈るっす」
千砂都「トラックの運転、気をつけてね~」
バタンッ
──
~鬼塚商店~
ブオオオオオオオオオオ・・・
キイッ
プスンッ
きな子(ふうっ、遥さんが配達の大半を受け持ってくれているおかげできな子は事務所の仕事にも集中出来るから助かるっす・・・・・・)
きな子「ん?」
きな子(あれ??・・・・・・倉庫のシャッターが開いてるっす!?)
きな子(・・・・・・あ、そうだったっす。前に修理して貰ったフォークリフトの部品交換に来てくれることになってたっす)
きな子「天王寺さん!どうもっす!お疲れっす!」
璃奈「・・・・・・あっ、こんにちは」
きな子「フォークリフトの部品交換は大丈夫っすか?」
璃奈「うん、一度修理したフォークリフトをより良く使えるように幾つか部品交換しておいたよ」
きな子「本来ならば廃車になるようなものを治してくれただけでなく、さらに手を加えてくれるなんて凄く助かるっす」
璃奈「フォークの上げ下げが前よりキビキビ動くようになったと思う」
きな子「ホントっすか!?ありがとうございますっす!」
璃奈「請求書は後日郵送するね」
きな子「はいっす」
璃奈「じゃあ、遥ちゃんにもよろしく」
きな子「はいっす、伝えておくっす」
バタンッ
キョカカッ
ブオオオオンッ・・・シュコオオ
きな子「!?」ビクッ
きな子「て、天王寺さん・・・・・・。そのハイエース、こないだより更に凄いことになってる気がするっすが・・・・・・」
璃奈「ん?・・・ああ、わかるかな?」
璃奈「こないだまでは、この車のエンジンの1TRをターボチューンして使ってたんだけど、もっと加速重視で走りたいから市販のスーパーチャージャーキットを少し私好みに改造して取り付けてみたんだ」
きな子「へ、へぇ~・・・・・・」ポカーン
きな子「よ、よく分からないけど凄いっす・・・・・・」ハハハ
璃奈「アクセルちょっと踏んだだけで後輪が空転しちゃうから、もう少し手を加えないとダメみたい」
きな子「気をつけて運転してくださいっす」
璃奈「私としては制御できる範囲内なんだけど、公道を走るにはピーキー過ぎるんだよね」
きな子「あはは・・・・・・」
璃奈「じゃ」
ガコッ
キュオオオオオオオ・・・・・・
ブオオオアアアア・・・・・・
きな子「タイヤが凄い勢いで空回りしてたっす・・・・・・」
──
~夕方・鬼塚商店~
バタンッ
遥「戻りました~」
きな子「あ、遥さんお疲れ様でしたっす」
遥「今日は新規取引先を開拓してきましたよ」ニコッ
きな子「ほんとっすか!ありがとうございますっす!」
遥「とはいっても、既存のお客さんからの紹介だから大したことはしてないんだけどね」アハハ
きな子「全然凄いことっす!それだけ遥さんの人望があるということっす!!」
遥「いえいえ、そんなに立派じゃないですから」アセアセ
遥「・・・・・・てなわけで、まずは少しずつ注文貰って、ゆくゆくは大口客になるといいですね」
きな子「よろしくお願いしますっす」
きな子「そういえば、天王寺さんが部品交換してフォークリフトに手を加えてくれたっす」
遥「ほんとですか?ウチのフォークリフト、治ったのはいいけど、古くて動きが悪いのが危なっかしかったんです」
きな子「遥さんが使い易く感じるならそれで良いと思うっす」
きな子「遥さん、天王寺さんってかなり技術もってるみたいっすが、何でも出来るんすかね?」
遥「う~ん・・・・・・大抵のことは出来るんじゃないかと・・・・・・」
きな子「製麺機とかも直したり出来るっすかね・・・・・・」
遥「車を改造したりフォークリフト修理したりするくらいだから出来そうな気がしますね」
きな子「なるほどっす・・・・・・」
遥「何かあったんですか??」
きな子「先輩の店の製麺機が調子悪いみたいなんす・・・・・・」
遥「なるほど。璃奈ちゃんに出来るか聞いてみましょうか??」
きな子「そうっすね、可能であればっすが」
きな子「・・・・・・ただ、かのん先輩も色々取引先があるかもしれないっすから、きな子が勝手なことしては余計なお世話になるかもしれないっす」
遥「とりあえず、帰ってからでも電話して聞いてみますよ」
きな子「ありがとうございますっす」
──
~翌日・かのんの店~
ガラガラッ
きな子「どうも~!おはようございますっす」
きな子「今日の配達分の一部は倉庫に運んでおいたっす・・・・・・」
きな子「・・・・・・って、あれ??」キョロキョロ
きな子「かのん先輩??・・・・・・千砂都先輩??」
きな子「おかしいっすね、この時間はいつも仕込みで大忙しのはずなんすが・・・・・・」ウーン
きな子「あっ!もしかして・・・・・・」
バタンッ
きな子「・・・・・・やっぱり、こっちに居たっす」
千砂都「あ、きな子ちゃん!おはよう」
きな子「千砂都先輩、おはようございますっす。どうかしたっすか??」
千砂都「実は・・・・・・」
かのん「・・・・・・う~ん、やっぱりダメだ」ハアッ
きな子「も、もしや??」
千砂都「うん・・・・・・昨日話してた製麺機がどうやら完全に故障しちゃったみたいで」
きな子「そ、そうなんすか・・・・・・」
かのん「困ったなぁ・・・・・・、製麺機のメンテナンス、業者に頼んでもっとちゃんとやっておけば良かったよ」ガクッ
千砂都「仕方ないよ、今までひとりでやってたんだから・・・・・・」
きな子「・・・・・・実は、鬼塚商店のフォークリフトの修理してくれた業者さんが製麺機も直せるみたいなんす」
千砂都「そうなの??」
きな子「なので先輩方がよろしければ、その方をご紹介しようかと思って今日は来たんすが、まさかもう壊れてしまったとはタイミングが悪かったっす」
かのん「お願いしてすぐ来てくれるわけじゃないだろうし、修理に日数掛かる可能性もあるし・・・・・・、今日はある分の麺を使い切ったら店じまいかな・・・・・・」
千砂都「そうだね・・・・・・」
きな子「鬼塚商店では生麺は扱ってないっすが、製麺会社なら紹介できるっす」
かのん「う~ん・・・・・・きな子ちゃんの気持ちはありがたいけど、私のラーメンは麺も私が打ったモノじゃないとダメなんだよね」
きな子「そうでしたか・・・・・・お役に立てず申し訳ないっす」
千砂都「かのんちゃん。とりあえず、きな子ちゃんからその業者さんにお願いしてもらおうよ」
かのん「そうだね。じゃないといつまでも営業出来ないし」
千砂都「きな子ちゃん、悪いけどその業者さんにお願いしてもらえるかな?」
きな子「喜んでお受けするっす!」
かのん「きな子ちゃんの仕事じゃないのにゴメンね?」
きな子「いえいえ、いつもお世話になってるかのん先輩の為ならこれくらいお安い御用っす!」ニコッ
かのん「ありがとう」ニコッ
──
~営業前・鐘嵐菜館~
ランジュ「ふうっ、今日の仕込みはこんなところかしら」
栞子「お疲れ様です、ランジュ」
ランジュ「やはり栞子が言った通りだったわ。提供するメニューを絞ってみて正解ね」
栞子「はい。たくさんメニューがあるということはお客様の選択肢が広くて良いように思えますが、逆にお客様が悩むだけなんです」
ランジュ「最初は私の自信作を省くなんてイヤだったんだけどね」
栞子「鐘嵐菜館のここ1年の売上が多いメニューの中から、ランジュが特に得意とするメニューだけを残すという選択が正解だったようです」
ランジュ「仕込みも必要最低限で済むから私も厨房スタッフも労力が減って楽になったし、その楽になった労力を残したメニューに情熱として注げるのはいい事だわ」
栞子「そうして、その情熱を注がれたメニューが更にに美味しくなってお客様から支持されるのですよ」
ランジュ「うふふっ!ランジュが天下を獲る日も近いわね」ニコッ
栞子「しばらくは、元々ランジュが得意な香港雲呑麺と、本格中華系で人気の高い担々麺の2つを主に売っていきましょう」
ランジュ「そうね、頑張るわ」
栞子「それと、ランジュ」
ランジュ「なにかしら?栞子」
栞子「厨房機器の一部を最新鋭の機器に新調するという件ですが、私が依頼した業者の方から完成した旨の連絡を頂きました」
ランジュ「きゃあ!もう完成したの!?凄いわ!」
栞子「次の定休日にお越し頂いて工事して頂きますね」
ランジュ「その工事、1日で終わるの??」
栞子「私も同じ質問を業者さんにしましたが、問題ないとのことです」
ランジュ「それなら良かったわ。調理が快適になるのは良い事ね」
栞子「はい、今後の為にも必要な投資かと思います」
ランジュ「楽しみだわ~♪」
ランジュ「・・・・・・さて、そろそろ開店時間ね。今日も美味しい拉麺を提供するわ」
栞子「はい、頑張りましょう」
──
~翌日・かのんの店~
ブウウウウン・・・
プスンッ
千砂都「かのんちゃん!遅くなってごめん!」
かのん「ちぃちゃんおはよう!何かあったの??」
千砂都「最近乗ってなかったからバッテリー上がっててさ」アハハ
かのん「そっか~、まぁ私は車のことはよくわからないや」
千砂都「だよね~」アハハ
かのん「それよりちぃちゃんのたこ焼きカー、久々に見た気がするよ」
千砂都「まぁ、りんちゃんラーメンで働くようになってからはほとんど乗ってないからね」
千砂都「それより早く乗って?」
かのん「あ、うん!」
ガチャッ・・・バタンッ
かのん「うわぁ~、高校の頃思いだすなぁ」シミジミ
千砂都「かのんちゃんにたこ焼き売り手伝って貰ったこともあったよね」
かのん「うん、そんなこともあったね」
千砂都「・・・・・・さて、出掛けようか」
カコッ
ブオンッ
フオオオオオッ・・・・・・
かのん「ちぃちゃん、行き先の場所大丈夫??」
千砂都「うん、さっきスマホで調べたから」
かのん「それにしても、ウチの製麺機が直るまで余ってる製麺機貸してくれるなんてありがたいよ。業者さんには感謝だね」
千砂都「そうだね、きな子ちゃんから業者さんにお願いして貰って助かったよ」
かのん「ところでちぃちゃん、このたこ焼きカーに製麺機積めるの?」
千砂都「うん、大丈夫。たこ焼き用の機材下ろして来たから」
かのん「そっか、わざわざありがとね」
千砂都「平気平気!」
かのん「とりあえず、製麺機貸して貰えば明日には営業再開できるね」
千砂都「うん。臨休は今日だけで済みそうだね」
千砂都「・・・・・・あっ!信号赤になる!急げっ!」
千砂都「・・・・・・・・・・・・」
クンッ
ブオオオオオオ・・・ウオオオオンン・・・
かのん「ちょっと!ちぃちゃん!?」フラッ
キョアアアアアアアア・・・
千砂都「あ、ごめんっ!つい癖でやっちゃった!」アハハ
かのん「危ないよ!事故起こしたらどうするの?」
千砂都「こんなの基本テクニックだよ」
かのん「警察に捕まるよ?」
千砂都「逃げるから平気!」
かのん「そういう問題じゃないと思うけどなぁ」
──
ブオオオオオオ・・・・・・
千砂都「もうすぐ着くよ」
かのん「うん」
千砂都「え~っと・・・・・・確か、この交差点を過ぎて・・・・・・」キョロキョロ
千砂都「・・・・・・あっ!ここだ!!」
キィィィィ・・・・・・
かのん「うわあっ!!」ゴンッ
千砂都「かのんちゃんごめん!急ブレーキ踏んじゃった!怪我ない??」
かのん「いてて・・・・・・うん、大丈夫」ヒリヒリ
千砂都「とりあえず、ここがきな子ちゃんから紹介して貰った業者さんの工場みたいだね」
かのん「さて、まずは車から降りて挨拶しようか」
千砂都「そうだね」
千砂都「えーっと、車はどこに停めるといいんだろう」キョロキョロ
璃奈「あれ?もしかして、鬼塚商店さんからの紹介の・・・・・・」
千砂都「あ、はい!」
璃奈「わざわざ来てくれたの?こっちから製麺機届けに行くつもりだったのに」
千砂都「そうだったんですか!?それは失礼しました」
璃奈「そうすれば、その帰り足で壊れた製麺機預かって来れたんだけどな」
千砂都「言われてみると確かにそうですね」アハハ
璃奈「とりあえず、この車あそこに停めていいよ」
千砂都「あ、はい」
璃奈「今、貸す予定の製麺機の最終点検してるから、事務所でお茶でも飲んでて」
千砂都「わかりました」
うまくいえないけどなんかいい
──
バタンッ
千砂都「失礼しまーす・・・・・・」
かのん「お邪魔しま~す」
千砂都「えーっと、事務所で待ってるよう言われたけど・・・・・・とりあえず、ここに座ってもいいのかな?」キョロキョロ
かのん「うん。多分これは来客スペースだね」
千砂都「じゃあ、失礼して・・・・・・かのんちゃん、そっち座りなよ」ガタッ
かのん「あ、うん」
千砂都「・・・・・・・・・・・・」
かのん「・・・・・・・・・・・・」
千砂都「・・・・・・な、なんか落ち着かないね」
かのん「あはは・・・・・・なんかよそ様の事務所でただ待ってるの、変な感じだね」ハハハ
────ブオオオオオオン・・・
千砂都「あ、何だろ?お客さんかな・・・・・・」
かのん「車が来たね」
「────おはよ~!よろしく~!」
璃奈「────あ、もう来たんだ。この仕事終わってから作業するから待ってて」
「────あいよ~!事務所で待ってるね~」
千砂都「かのんちゃん、やっぱりお客さんだ」
かのん「そうだね、私達、この席よけようか?」
千砂都「いや、多分大丈夫じゃないかな」
ガチャッ
「ちっす~!・・・・・・って、先客いたんだ!!ごめんごめん!」アハハ
かのん「す、すみません」
「いいっていいって!この事務所に客来る事なんて滅多にないからさ、多分アタシくらいかなぁ~」アハハ
かのん「お借りする製麺機を車に積んだら帰りますんで」
「まぁまぁ!ゆっくりしてきなよ~!2人とも、コーヒーでいい??」
かのん「え、あ・・・・・・はい!・・・ちぃちゃんは?」
千砂都「は、はい!だ、大丈夫です」
「このウォーターサーバー、水とお湯だけじゃなくてコーヒーも出るから便利なんだよ~」
かのん「へ~、便利ですね。ウチにもウォーターサーバーの営業よく来ますけど、いまいちメリット感じないから断ってるんです」
「まぁ、そんなもんだよね~」
「はい、コーヒーお待たせ!!砂糖とミルクはテーブルの上にあるからお好きに~!」コトッ
かのん「ありがとうございます」
千砂都「あ、ありがとうございます」
「・・・・・・そういえば外に止まってる車、なんか見たことあるんだけど」
千砂都「!?」ビクッ
「たこ焼き屋の・・・・・・」ジーッ
千砂都「あはは・・・・・・ご、ご無沙汰してます」アセアセ
「やっぱり~!あんな珍しい車、忘れるわけないよ!!なんたってこの愛さんを負かした車だからね~」
千砂都「その節は・・・・・・」アハハ
「ここしばらく市場にも来てないみたいだったし、何してたの??まさか、たこ焼き屋やめた??」
千砂都「は、はい・・・やめたというか、ラーメン屋で雇ってもらって修行してたんです」
「そっかー!!だから見かけなかったわけね!!」
千砂都「す、すみません・・・・・・」アハハ
千砂都「え~っと、宮下さんでしたよね?」
愛「うん!宮下愛さんだよっ!・・・・・・って、忘れてたのかい!!」
千砂都「いえいえ!!」ビクッ
千砂都「宮下さんは相変わらずもんじゃ屋されてるんですか?」
愛「もっちろんっ!家業だからね」ニコッ
かのん「ちぃちゃん、こちらの方とお知り合いだったんだ」
千砂都「うん、昔ちょっとね」
愛「りなりーがチューンナップしてくれた愛さんの仕入れ用ハイエースとバトルしてたんだよね」
かのん「ええっ!?バトル!??」
千砂都「あの頃は若かったですから~・・・・・・」アハハ
愛「もしかしてあのたこ焼き車、りなりーにイジってもらうの??だったらまた走ろうよ~!」
千砂都「い、いえ!今日は製麺機の修理のお願いと、製麺機が直るまでの間のレンタル品を借りに来たんです」
愛「なんだ~、愛さんちょっと残念だなぁ」シュン
かのん「もんじゃ屋されてるんでしたっけ?・・・・・・今日はお休みなんですか?」
愛「んーん!営業日だよ。ハイエースのタイヤがボウズになっちゃったから交換しに来たんだ~」
かのん「そうなんですか~」
愛「市場からの仕入れは朝一で済ませてあるから、仕事の合間みてタイヤ交換しに来たってわけ」
千砂都「宮下さん、相変わらず速そうですね」
愛「もちろんっ!愛さんの腕も上がってるし、りなりーのチューニングも更に良くなってるからね~」
ガチャッ
璃奈「お待たせ。レンタルの製麺機、持って行けるよ」
かのん「あ、ありがとうございます!」
千砂都「じゃあ、私の車に積みますか」
愛「愛さんも手伝おっか??」
千砂都「ありがとうございます。助かります」
璃奈「車に積みやすいように一部バラしてあるから、帰ったら組み付けしてね」
千砂都「はい、わかりました」
かのん「私の製麺機はどうしたら良いでしょう?」
璃奈「愛さんのタイヤ交換済ませたら引き取りに行く」
千砂都「すみませんね、なんか無駄なことしてしまって」アハハ
璃奈「いいよ、事前に段取り説明しておかなかった私が悪いから」
──
かのん「ふうっ、何とか積めたね」
千砂都「じゃあ、お借りしていきますね」
璃奈「うん、気をつけてね」
バンッ
愛「今度ウチにも食べにきなよ~!待ってるぞ~!」
千砂都「あ、はい!機会あれば行ってみますね」
キュルルッ
ブウウウウンッ・・・
千砂都「では、失礼します」
かのん「ありがとうございます!」
カコッ
ブウウウウオオオオ・・・
璃奈「あの車、昔愛さんが負けたたこ焼き屋さんだね」
愛「あ、りなりーもやっぱ覚えてた??」
璃奈「もちろん、高校時代の最高傑作と言えるもんじゃ宮下号が負けるなんてショックだったから」
愛「あれは愛さんのドラテクも未熟だったんだよ~」アハハ
璃奈「さて、タイヤ交換するよ・・・・・・」
愛「うんっ!りなりーお願い!」
璃奈「あーあ、またこんなに後輪ばかり減らして・・・・・・」
愛「ついついケツ振っちゃうんだよね~」ハハハ
愛「あ、そういえばりなりー」
璃奈「ん?」
愛「ランジュが自分の店の厨房設備をオーダーメイドで新調するって言ってたんだけど、りなりーがやるの??」
──Prrr・・・♬
璃奈「・・・・・・あ、ごめん電話・・・・・・」
──
~翌週・鐘嵐菜館 開店前~
ランジュ「きゃあ!厨房の機器が見違えたわね!」
栞子「はい、昨日の定休日に丸一日掛けて工事して頂きました」
ランジュ「凄いわ!これならランジュの店の効率がかなり改善するわね」
栞子「はい、それに私がアルバイトスタッフのマニュアルを作成し周知しておりますので、以前とは見違えるほど店が良くなるはずです」
ランジュ「栞子が言っていた通りのビジネスモデルに近づいてきたわ!ランジュの店は益々繁栄していくわね!」ニコッ
栞子「ですが、まずは名実共に東京の指折りの名店に数えられる存在にならなくてはいけません」
ランジュ「それなら今すぐにでもなれるわ。お客さんを納得させる全ての要素が揃っているもの」
栞子「甘いです、ランジュ」
ランジュ「えっ!?どうしてなの??」
栞子「たくさんの人に食べて貰い、美味しくて良い店だという印象を抱いて頂くだけでは足りません」
ランジュ「でもランジュは味で勝負しているのよ?その為に栞子が言うメニューの絞り込みもしたし、絞り込んだメニューも更に研究して改良したわ」
栞子「具体的な数字が必要なんです」
ランジュ「えっ?口コミサイトのことなら軒並み群を抜いた高得点を貰っているわ」
栞子「それはそれです。具体的な数字とはもっと強固なものです」
ランジュ「ええ??他に何があるというわけ??」
ピラッ
栞子「これを見てください」スッ
ランジュ「・・・・・・んん?何かしら??」
ランジュ「・・・・・・・・・・・・」ジーッ
ランジュ「えっ!?ワールドラーメンフェスティバル??」
栞子「このイベントに鐘嵐菜館も出店し、来場されたお客様の投票によって選ばれるグランプリを獲ります」
ランジュ「きゃあ!これはいいわ!!これなら純粋にナンバーワンになれるじゃない!!」
栞子「そうです。これでナンバーワンを獲りましょう。そして不動の地位を得て、多店舗展開はそれから着手します」
ランジュ「嬉しいわ!栞子!!」ガバッ
栞子「きゃっ!・・・・・・だ、抱きつかないでください!」
ランジュ「いいじゃない!嬉しいんだもの!」スリスリ
栞子「はあっ、まったく・・・・・・」ヤレヤレ
栞子「ただし、ワールドラーメンフェスティバルは手を挙げればどの店でも出店させて貰えるというわけではありません」
ランジュ「条件があるの??」
栞子「はい。フェスの運営委員会に審査して頂き、出店資格を得た店だけが出店できます」
ランジュ「なるほど・・・・・・まずはそれを突破する必要があるわけね・・・・・・」
栞子「しかし、ご安心ください。運営委員長と先日お会いし、審査項目を教えて貰いました」
ランジュ「そうなの??でもそれはカンニングみたいで気が乗らないわ。どうせなら正々堂々と審査を受けた方がいいと思うもの」
栞子「いえ、そうではありません。このまま申込しても、鐘嵐菜館は出店するための要件を全て満たしていることが分かったんです」
ランジュ「そうなの??だったらさっさと申込ましょう!!」
栞子「運営委員長もランジュが出店してくれたらフェスは盛り上がるだろうということで喜んでらっしゃいました」
ランジュ「当然よね。ランジュはグランプリを獲るに相応しい存在なんだから」
栞子「申込は私が近日中に済ませます」
ランジュ「よろしく頼むわね」
ランジュ「それにしても栞子、ワールドラーメンフェスティバル??だったかしら・・・それの運営委員長と面識があるなんて人脈広いじゃない」
栞子「ふふふっ、コンサルティング業をする上で広い人脈は必須ですからね」
ランジュ「頼もしいわ、栞子」ニコッ
栞子「ちょっと偉そうなことを言ってみましたが、委員長はただ単に以前から面識がある方なだけです」
ランジュ「そうなの!?誰かしら??ランジュの知らない人??」
栞子「ふふっ!それより仕込み作業の手が止まってますよ??アルバイトスタッフなんかいつでも開店できる用意が整っております」
ランジュ「あら!それは申し訳ないわね。店主が足を引っ張ったんじゃ本末転倒だわ」
ガラガラッ
遥「おはようございます!」
ランジュ「ん?遥じゃない??」
遥「すみません!事故渋滞にハマってしまって配達遅くなってしまいました」ペコッ
ランジュ「大丈夫よ。それより渋滞なんて大変だったわね」
遥「はい、全ての配達先にご迷惑お掛けすることになるので必死です」ハハハ
栞子「遥さん、伝票でしたら私がサイン致します」
遥「あ、はい!栞子さんお願いします」スッ
栞子「・・・・・・」カキカキ
栞子「はい、お返ししますね」スッ
遥「ありがとうございます」ニコッ
栞子「それと、遥さん」
遥「はい、なんでしょうか?」
栞子「先日ランジュが遥さんに相談させて頂いた担々麺用の材料の件なのですが、正式に鬼塚商店さんにお願いする事に致しました」
遥「えっ!?本当ですか!ありがとうございます!」
栞子「他の会社にも相見積もりを依頼していたのですが、ランジュが金額ではなく遥さんご自身のお人柄を買っているので、鬼塚商店さんに頼むと聞かないもので・・・・・・」
遥「うわぁ!それは凄く嬉しいです!!」
ランジュ「東雲物産の遥の後任なんだけど、なんだかイマイチなのよね、あの子」ハァッ
ランジュ「・・・・・・だから、今後は鬼塚商店から仕入れられるものは出来るだけ鬼塚商店にお願いすることにしたわ」
遥「ありがとうございます!!きな子さんも喜びますよ!!」ニコッ
ランジュ「きな子にもよろしくね」ニコッ
遥「はいっ!」
遥「それでは、次の配達先に急ぐので失礼しますね」
栞子「運転お気をつけて」
遥「では・・・・・・ん??これは??」チラッ
栞子「ああ、ワールドラーメンフェスティバルの案内ですね」
遥「これが例の・・・・・・」
栞子「そうです。鐘嵐菜館も出店申込致します」
ランジュ「グランプリ獲るから見てなさい?遥」ニコッ
遥「本当に開催することにしたんだ・・・・・・」
栞子「第1回グランプリほど名誉なことはありませんからね」
遥「頑張ってくださいね」
栞子「はい。ありがとうございます」
遥「では、また明日伺います」ペコッ
ランジュ「またね~!」
バタンッ
──
~近江弁当店~
侑「ありがとうございました~!」ペコッ
彼方「ふぅ~、これでランチタイムのピークは過ぎたかねぇ・・・・・・」
侑「テイクアウトは今のお客さんでひと通り終わりですよ」
彼方「そっかぁ、侑ちゃんお疲れさまぁ~」
彼方「彼方ちゃんは今のうちに夜の部の仕込み始めておくね」
侑「ですね、やれることは早めの方がいいと思います」
彼方「侑ちゃんは適度に休憩してていいからね?」
侑「いやいや、店主の彼方さんが働いてるのに私が休むわけにいかないですし」アハハ
彼方「気にしなくていいのに~、侑ちゃんだって大変なんだからさぁ」
侑「そんなことないですよ~」
彼方「・・・・・・んん~?それ何??」
侑「え??」
侑「ああ、このビラですね。お店に貼ってくれって頼まれたんです」
彼方「ふーん、・・・・・・ワールドラーメンフェスティバル??・・・・・・例のやつだね」
侑「そうです。入り口のところにでも貼っていいですか?」
彼方「うん、いいよ~」
侑「ありがとうございます!・・・・・・これでよしっ!」ペタペタ
侑「虹学の仲間だと、ランジュちゃんとかすみちゃんがラーメン屋やってますよね」
彼方「そうだねぇ、フェスティバルに出るのかなぁ」
侑「ランジュちゃんは・・・・・・出・・・そうな気がしますよね」
彼方「だね、ランジュちゃんはストイックだからそういうの大好きだろうし」
侑「かすみちゃんはどうかなぁ??出ると思います?」
彼方「う~ん・・・・・・昔のかすみちゃんなら我先に出場志願しそうだけど、かすみちゃんは自分で店を経営しているとはいえ、りんちゃんラーメンの傘下だから本部の意向次第なんじゃないかなぁ」
侑「そうですよね」
侑「なんか、こういうのってSIFを思い出しちゃいますね」
彼方「そうだねぇ」
──
~かのんの店~
璃奈「直した製麺機と私が貸した製麺機の入れ替え終わったよ」
かのん「ありがとうございます!おかげで店を休むことなくて本当に助かりました!」ペコッ
千砂都「なんか元のかのんちゃんの製麺機とかなり違くない?気のせいかな・・・・・・」
かのん「えっ?どういうこと??」
璃奈「それは今から説明しようと思ってたんだけど、色々と機能を改良してあるよ」
かのん「そうなんですか!?」
璃奈「今までの単純で手間の掛かる製麺機じゃなくて、ミキシングからカットまで一連の作業を簡単に出来るようにしてあるよ」
千砂都「そうなんですか!私、りんちゃんラーメンで製麺もしてましたけど、それならかなり楽に麺作りができますね」
璃奈「出来上がった麺もいかにも機械で打ったようなものではなく、かなり手打ちに近い質感の麺も打つことができるようにしてある」
かのん「あはは・・・使いこなせるかなぁ・・・・・・」
璃奈「大丈夫、素人でもすぐ使えるくらい簡単だから」
千砂都「凄いね!かのんちゃん!」
かのん「まぁ、とりあえず使ってみようか」
璃奈「もし使っていて分からないことがあれば、いつでも聞いてくれたら答えるよ」
千砂都「その時はよろしくお願いします」
璃奈「じゃあ私は帰るね」
かのん「ありがとうございました!請求書送って下さいね」
璃奈「うん」
千砂都「天王寺さんは何で製麺機運んで来たんですか?」
璃奈「裏に停めさせてもらったハイエースだよ」
千砂都「そうなんですか・・・・・・」チラッ
千砂都「・・・・・・って、もんじゃ宮下さんのハイエースじゃないですか!!」
璃奈「うん、愛さんのハイエースには私が開発したワンオフタービンキットを組んであるんだけど、最近はハイパワーにも慣れてしまって後輪ばかり回してタイヤ減らすから、使うのやめさせようと思って」
千砂都「そうなんですか~、相変わらず凄いですね」
璃奈「代わりに私が所有してるスーパーチャージャー積んでるハイエース預けてある」
千砂都「それもかなり凄いパワーでそうな気がしますけど・・・・・・」アハハ
璃奈「パワーの特性が違うからね。今の愛さんにはスーパーチャージャーの方が合うかも」
千砂都「あはは・・・・・・昔、勝てたのはやはりまぐれだったんですね・・・・・・」アセアセ
璃奈「いや、最後にモノを言うのは運転技術だからね」
璃奈「あの頃の愛さんは車のパワー頼りだったから、非力なたこ焼き車を絶妙なアクセルコントロールで走らせる千砂都ちゃんが勝つのは必然だったんだよ」
千砂都「あはは・・・・・・お褒め頂き恐縮です・・・・・・」
璃奈「じゃ、また何かあれば宜しくお願いします」
かのん「また困ったことが出来たら相談しますね」
璃奈「うん」
バタンッ
千砂都「良かったね、かのんちゃん」
かのん「うんっ!これでまたラーメン作りのやる気が出てきたよ」ニコッ
──キョカカッ
──ブオンッッ・・・シュコオオオオオオ・・・
千砂都「ん?天王寺さんが乗ってきたハイエースの音ヤバいね・・・・・・」
かのん「私はよくわからないけど」
────ゴアアアアオオォォォァォ・・・
千砂都「あはは・・・めちゃくちゃ飛ばして行ったけど大丈夫かなぁ・・・・・・」アハハ
──
~翌朝・かのんの店~
かのん「ちぃちゃんどう?直して貰った製麺機は・・・・・・」
千砂都「うん、これは使い易いし効率がかなりいいよ」
かのん「そっか、それなら製麺に掛かる時間を短縮することができるね」
千砂都「うん、そうだね」
千砂都「麺は私がやっておくから、かのんちゃんはスープの仕込みに専念してていいよ」
かのん「うん!ちぃちゃんありがとう。任せるね」
バタンッ
かのん「さてと・・・、私はスープの仕上げとトッピングの用意をしておこうか・・・・・・」
ガラガラッ
かのん「ん?」クルッ
栞子「おはようございます」ニコッ
かのん「えっ!?しょ・・・鐘嵐菜館の三船さん・・・・・・」
栞子「開店前のお忙しいところ申し訳ありません」
かのん「あの、何度お越し頂いても私は首を縦に振るつもりはありませんので」
栞子「悪い話ではないと思いますけどね」
栞子「何度も申し上げますが、鐘嵐菜館のFCに加盟できることは、近い将来必ずこの上ない名誉になるはずです」
栞子「そのFC加盟第一号をぜひ澁谷さんにお願いしたいんです」
かのん「私はまだこの商売を始めて年月が浅いですが、自分の店に誇りを持っています。鐘嵐菜館さんが都内でも名の知れた有名店なのは知っていますが、他人の看板を借りるつもりはありません」
栞子「これも何度も申し上げてますが、メニューはこちらが指定した2品目をレシピに忠実に提供してくだされば、他のメニューの追加はご自由になさって頂いて構わないんです」
栞子「我々がこれから構築するネットワークによる様々な恩恵は、必ず澁谷さんにとって大きなプラスになることでしょう」
かのん「断言されていますが、鐘嵐菜館さんはまだ1店舗しかないじゃないですか」
栞子「はい、そうですね」
かのん「まだ実現していない机上の空論を押し付けられても誰も納得しませんよ」
栞子「まったくおっしゃる通りです。しかし、私と店主の鐘嵐珠は必ず鐘嵐菜館のFC展開を成功させます」
かのん「それは成功させてから言ってください」
栞子「我々のプランでは、我々が認める実力のある既存の店舗にのみFC加盟を薦めて店舗を増やしていくつもりです」
栞子「ようするに、精鋭による精鋭のみの鐘嵐菜館グループを拡げて行くつもりです。その第一号に澁谷さんになって頂きたいというのは、我々からの最大級の賞賛でもあるのです」
かのん「お気持ちはありがとうございます。でも・・・・・・」
ピラッ
かのん「・・・ん?」
栞子「これをご覧ください」スッ
かのん「んん?・・・・・・ワールドラーメンフェスティバル??」
栞子「これから開催される予定の、実力店が集う大きなイベントです」
かのん「そうなんですか」
栞子「我々はこれに出店し、来場されるお客様から一番多くの投票を頂き、グランプリを獲ります」
かのん「目標の目線が高いことは良いことだと思いますが・・・・・・」
栞子「このフェスティバルは一般的なラーメンイベントとは違い、世界一のラーメン店を決める頂上決戦と言っても過言ではありません」
かのん「そ、それは凄いですね」アハハ
栞子「そのフェスティバルの第一回グランプリ獲得店となれば、それはもう大きな名誉になること間違いありません」
栞子「そして我々はグランプリ獲得後、我々はFC展開を推し進めて行きます」
かのん「・・・・・・夢が大きいんですね」
栞子「はい。共に夢を見ませんか?」ニコッ
かのん「お断り致します」
栞子「ふぅっ・・・」
栞子「・・・・・・澁谷さんが絶対に首を縦振らないのは分かっていました」
かのん「だったらもう諦めてください」
栞子「・・・・・・一つ提案があります」
かのん「なんでしょう?」
栞子「澁谷さんも、ワールドラーメンフェスティバルに出店して我々と競い合いませんか?」
かのん「わ、私が~!?」
栞子「はい、我々が勝てば澁谷さんは鐘嵐菜館のFCに加盟してください。澁谷さんが勝てば我々は諦めます」
かのん「なっ!私は出るなんて一言も言ってません!!」
栞子「楽しみにしていますよ?鐘嵐珠はあなたが最大のライバルになると見込んでいます」
栞子「では、お忙しいところ失礼しました」ペコッ
バタンッ
かのん「・・・・・・・・・・・・」
かのん「はあっ」
ガチャッ
千砂都「かのんちゃん、今の三船さんだね。また例の勧誘に来たの??」
かのん「うん、断っても断っても諦めてくれなくてさ、今度はイベントに出て勝負しろってさ!」バンッ
千砂都「ふ~ん・・・・・・何このビラ??ワールドラーメンフェスティバル??」ピラッ
かのん「もし鐘嵐菜館さんが勝ったら私にフランチャイズ加盟しろってことらしい。私が勝てば諦めるって・・・・・・」
千砂都「だったらかのんちゃんが勝てばいいんじゃない??」
かのん「ちぃちゃんまで・・・・・・」ハァッ
かのん「・・・・・・私は出るつもりないよ」
千砂都「私はかのんちゃんが作る美味しいラーメンなら勝てるような気がするけどね」
かのん「私のラーメンはたくさんのお客さんに認められて行列もできるお店になったけどさ、勝負する為にラーメン屋してる訳じゃないんだよね」
千砂都「でも、たまにはこういうイベントに出るのもいいんじゃない??ウチに来てくれるお客さん達も会場まで足運んでくれると思うよ?」
かのん「でもさ、出店するにも審査を受けて合格しないとダメだって応募要項に書いてあるし、必ず出られるわけじゃないんだよ」
千砂都「そっかぁ」
千砂都「まぁ、どうするかはかのんちゃんが決めなよ」
かのん「あ~、なんだか面倒なことに巻き込まれたなぁ・・・・・・」ハァッ
かのん「あの三船さんって人、苦手だよぉ・・・・・・」ガクッ
千砂都「あの人、私がお世話になった中須店主の同級生なんだけど、中須店主が言うには相当な真面目人間だけど悪い人ではないって」
かのん「そりゃ悪い人じゃないのは分かるけどさ・・・・・・」
ガラガラッ
きな子「どうもっす!鬼塚商店っす!!」ニコッ
千砂都「あっ、きな子ちゃんおはよう」
きな子「んん??今朝はどうしたっすか??かのん先輩が難しい顔されてますっす」
かのん「う、うん・・・・・・ちょっとね」アハハ
きな子「ん?このビラ・・・・・・あ~、これが遥さんが言っていた例のフェスティバルっすね」
きな子「ウチと取引がある鐘嵐菜館の店主さんがグランプリ獲るってかなり張り切ってるみたいっす」
かのん「その鐘嵐菜館さんがね~・・・・・・私は鐘嵐珠さんとはお会いしたことないけど・・・・・・色々とね・・・」ハハハ
きな子「鐘嵐菜館さんは今後FC展開して規模を大きくするのが夢らしいっす!鬼塚商店も鐘嵐菜館さんへの大口取引が決まったので、ゆくゆくは更に大きな取引ができると期待してるっす!!」
きな子「鬼塚商店も盤石な経営ができるよう頑張るっす!!」
千砂都「なるほどね~、当然取引がある業者さんにも恩恵があるわけだよね」
きな子「かのん先輩もフェスティバルに出店応募してみたらどうっすか?」
かのん「はあっ、実はその話してたんだけどさ~、私は絶対に出ないよ!」
きな子「そうっすか~、・・・・・・実は、そのフェスティバルに鬼塚商店も協賛させて貰うかもしれないっす」
千砂都「へぇ~!そうなんだ!?」
きな子「まだフェスティバルのルールは正式決定してないみたいっすが、使う食材の一部は出店する全店同じ物を使うのが条件の一つになるかもしれないらしいっす」
きな子「遥さんがそんな話聞いてきたみたいっす」
千砂都「なるほどね。競うにしても、みんなバラバラに好きなメニュー作ってたんじゃ比べる基準も何もないもんね」
きな子「そうっす。その共通食材の提供を鬼塚商店でさせて貰えないか交渉中っす!!」
千砂都「きな子ちゃん達にとっても大きなビジネスチャンスなわけだね」
きな子「そうっす!!頑張るっす!」ニコッ
千砂都「かのんちゃんもこれは考え時だね」
かのん「うーん・・・・・・」
きな子「では、また明日も配達で伺うっす!ありがとうございましたっす!」
バタンッ
──
~かのんの店・閉店後~
千砂都「じゃあ、かのんちゃんお疲れ!!」
かのん「ちぃちゃんもお疲れ!気をつけて帰ってね」
千砂都「・・・・・・そうだ、かのんちゃん最近疲れてるみたいだし、明日の定休日は大人しく休んでね?」
かのん「あはは・・・ありがと。さすがに私もそうしようかと思ってる」
千砂都「かのんちゃんが倒れたら私も困るんだから」
かのん「そうだよね、ちぃちゃんを困らせないようにするよ」ニコッ
かのん「ちぃちゃんは明日どうするの?」
千砂都「久々にたこ焼きカーでたこ焼き売りに行こうかと思ってるんだ」ニコッ
かのん「そっか、頑張ってね」
千砂都「うんっ!じゃあまた明後日!!」
バタンッ
かのん「ふうっ・・・」
かのん(ちぃちゃんが入ってくれて劇的に楽になったはずなんだけど・・・・・・鐘嵐菜館さんの件やらラーメンフェスティバルやら・・・・・・面倒なことばかりだ・・・・・・)ハァッ
かのん(・・・・・・たまに1人で飲みにでも行こうかな)
──
テク テク テク・・・
かのん(ラーメン屋始めてからは外を歩くなんてほとんどなかったな~・・・・・・)
テク テク テク・・・
かのん(こうしてみると知らない店ばかり・・・・・・どこの店に入ろうか・・・・・・)
かのん(あっ、このお店・・・・・・なんだか入り易そう・・・・・・ここにしようかな・・・・・・)
ガラガラッ
かのん「ごめんくださーい・・・・・・」
かのん「1人ですけど大丈夫ですか??」
────ガヤガヤガヤ
マスター「あら、いらっしゃい」ニコッ
かのん「こんばんは~」
マスター「見かけない子ね、ウチは初めて??」
かのん「はい、初めてです」
マスター「うふっ!歓迎するわ」ニコッ
マスター「今日はちょっと混んでるけど、空いてるカウンター席に座っていいわよ」
かのん「ありがとうございます」
ガタッ
マスター「何飲む??」ニコッ
かのん「あっ・・・・・・じゃあ、とりあえずビールで」
マスター「生ね、ありがとう」ニコッ
かのん(うわぁ・・・・・・お客さんの立場になるの久しぶりだなぁ・・・・・・)ソワソワ
マスター「はいっ!お待たせ!!」ドンッ
かのん「あっ、ありがとうございます」
マスター「食べたいもの決まったら声掛けてね」
かのん「は、はいっ!」
かのん(いただきまーす・・・・・・)
かのん「んっ・・・んっ・・・んっ・・・」グビグビ
かのん「・・・・・・くう~っ!!」プハァッ
マスター「うふふっ!いい飲みっぷりね!かわいい!」ニコッ
かのん「い、いえ!喉乾いてたもんで!!」アタフタ
マスター「もう一杯いるでしょ??」
かのん「あ、はい!お願いします!!」
かのん(お店で飲むビール、美味しいなぁ・・・・・・)
マスター「はい、おかわりね」ドンッ
かのん「あ、ありがとうございます」
かのん「あの~、注文してもいいですか??」
マスター「あ、うん!いいわよ??」
かのん「私、飲食業やってるんですけど、仕事ばかりでプライベートの時間なくて、最近はあまり外食しないからよく分からないんです。お任せで何か作ってくれませんか?」
マスター「あら、そうなの??私もいつも自分の店にばかりいるからなんとなく気持ち分かるわね」
かのん「あはは・・・ですよね」
マスター「私のおすすめで焼くわね」ニコッ
かのん「お願いします」
──
かのん「はむっ・・・んむっ・・・」モグモグ
かのん「うんっ!この焼き鳥おいしい!!」
マスター「うふふっ!嬉しい反応してくれるじゃない」ニコッ
かのん「随分といい鶏使ってるんですね。どこから買ってるんですか??」
マスター「ウチは主に静岡の沼津にある同級生のところから仕入れてるのよ」
かのん「そうなんですか~」
マスター「キミも鶏扱うの?」
かのん「はい、私ラーメン屋なんです」
マスター「なるほどね、それなら鶏が気になるわよね」
マスター「・・・・・・あ、そうだ!」
かのん「ん?どうかしましたか?」
マスター「前にウチの常連の子にも振る舞ったんだけど、私の賄い用に余った鶏肉や鶏ガラを煮込んだスープがあるのよね・・・・・・」
かのん「ん??」
マスター「はいっ!」コトッ
かのん「ありがとうございます。これはスープですか??」
マスター「うん、飲んでみてくれる??」ニコッ
かのん「美味しそうですね!頂きます!」
かのん「へぇ~、醤油味に仕上げてあって、まるでラーメンみたいなスープですね・・・・・・」
かのん「んっ・・・」クイッ
かのん「!?」ビクッ
マスター「あら?美味しくなかったかしら??」
かのん「凄く美味しい!!凄いです!!美味しいです!!」
マスター「うふふっ!そう言ってくれると嬉しいわね」ニコッ
マスター「実は私も本業の傍らラーメンのスープも研究しててね。実際に商売としてするつもりはないのだけれど」
かのん「これならすぐラーメンとして出せます!」
マスター「常連の子達もそんなこと言ってくれたわ」ニコッ
かのん「誰が食べても美味しいと思いますよ!」
マスター「ま、ラーメン屋の子にそう言われると
自信になるわね。ありがとう」ニコッ
かのん「・・・・・・実は、最近儲かるようにはなって来たんですが、色々と面倒なことも多くて」
マスター「あら?悩み??」
かのん「はい・・・・・・」
マスター「飲食業なんてそんなもんよ~。ラーメン屋ならまだいいわよ、私なんか酔っ払い相手だからストレス半端無いわよ??」
かのん「そうですか??凄く客の扱いに慣れてらしてるように見えます」
マスター「毎日やってればそりゃあね。慣れるけど、ストレスはなくならないわね」
かのん「そうですか・・・・・・あの、それでさっきの続きですが、外部の人にFC加盟しないかとか、イベント参加しないかとか執拗に誘われて困ってるんです・・・・・・」
マスター「そういうこともあるわよね。自分の好きなようにやりたくて始めた店なのに、邪魔されたり、思うようにいかなかったりするものよ」
かのん「・・・・・・そういう時、どうしたらいいでしょうか?」
マスター「相手も仕事だからなかなか引き下がれないんだろうけど、黙って何も言えなくなるようにしてやるしかないわね」ニコッ
かのん「・・・・・・・・・・・・」
かのん「・・・・・・そっか」
マスター「まぁ、私ならその相手をわからせちゃうんだけどね」ウフッ
かのん「わ、わからせる??」
マスター「私、そういうの得意なのよ」ニコニコ
かのん「わからせる・・・・・・か」
マスター「あなたも知りたい??良かったら私が店閉めたあとに2人きりで二次会にでもいく??」ニッコリ
かのん「いえ、何か掴めた気がしました!ありがとうございます!!」ニコッ
マスター「ええっ!?」
かのん「お会計お願いします!!」
マスター「か、帰るの!?私とマンツーマン二次会は??」
かのん「それはまた今度で!」
マスター「また今度というなら仕方ないわね・・・・・・」
マスター「(せっかく可愛い子捕まえたと思ったのに・・・・・・)」ブツブツ
マスター「はい、伝票ね」スッ
かのん「・・・・・・あ、丁度あります!ごちそうさまでした!」ニコッ
マスター「また来てね」ニコッ
バタンッ
マスター「忙しい子ね・・・・・・」
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