梢「Distance」【SS】
梢「………………」
慈「ねぇ梢、もうちょっとそっち寄ってくれない?ベッドから落ちそうなんだけど」
梢「こっちも壁際ギリギリなのだけれど」
慈「やっぱり1つのベッドに2人で寝るのは厳しかったか……どうしてこんなことに」
梢「あなたがどうしても一緒に寝たいって言うからでしょう」
慈「でもなんだかんだ言いながらもオッケーしてくれるよね、そういうところも好きだよ」
梢「慈のことだし、駄目だと言っても強引に泊まらせようとするんでしょう?分かりきってるわよ」
慈「そんなことは……ある、かも?」
梢「……今からでも自分の部屋に戻ろうかしら」
梢「!?」
慈「これで私は落ちる心配もないし、梢は私と密着できて幸せ!Win-Winってやつだね」
梢「……勝手に私の胸の内を想像しないでほしいのだけれど」
慈「そう?あながち間違いでもないでしょ?」
梢「…………そんなわけ、ないじゃない」プイ
慈「ありゃ、梢?おーい、こーずーえー」
梢「………………」ツーン
梢「もう寝るわよ、電気消してちょうだい」
慈「いやいや、もっと話そうよー。まだまだ話したいこと、いっぱいあるんだから」
梢「………………」
慈「むー……」
慈(……ん?……ははぁ、そういうことね)
慈(この無防備な背中……これはフリってやつね。私のイタズラ待ちってことね?全く梢ってば、素直じゃないんだから)
慈(どうしてやろうかな……)ワクワク
梢「……!?」ビクッ
慈(背中をなぞって……)スーッ
梢「……っ」
慈(文字でも書いてみようかな?こ、ず、え……っと)スッスッ
梢「ふ……っ、……」
慈(め、ぐ、ち、ゃ、ん……)スッスッ
梢「…………っ、く……」ピクッ
慈(なぞってるだけなのに……そんなにくすぐったい?)
慈(あ、そういえば……こないだ一緒にお風呂入った時、かなりのくすぐったがりだって分かったんだっけ)
慈(…………)ニヤリ
梢「ひゃっ……!?」ビクッ
慈「梢……降参するなら今のうちだよ?素直に負けを認めてめぐちゃんとお話ししよ?」
梢「っ……ふ、ふふっ……嫌、よ」
慈(まだ脇腹に手を添えただけなのに、もう笑いそうになっちゃってるし……)
慈「ふーん……それじゃ、5秒あげるね。これが最後のチャンスだよ」
梢「…………」
慈「5…………4…………」
梢「…………っ!」
慈「3……ゼロっ!!」コチョコチョコチョコチョ
梢「っ!?ぅあっははははははは!!!?」
慈「ふっふっふ、油断したね梢~」コショコショ
梢「あははははっ、ほんとにっ、やめっ、あはははははっ!!」
慈「やめて欲しかったら、どうすればいいんだっけ?」
梢「はははははっ、こっ、こうさんっ、こうさんするからっ、きゃはははは!!」
慈「ん、じゃあやめたげる」パッ
慈(ちょっとやりすぎちゃったかな……)
梢「っ……このっ!!」ガバッ
慈「うわっ!?」ドサッ
梢「油断はお互い様ね……?め・ぐ・み……!!」
慈(あ、これ私、死んだ……)
梢「覚悟しなさいっ!!」コチョコチョコチョ
慈「いやぁああははははははははっ!!!」
────────
慈「ひひっ……あひっ……」ピクピク
梢「はぁ……全くもう、こんな子供みたいな……」
慈「ごめ……こず……」
梢「……それで、私とお話するんでしょう?付き合ってあげるわよ」
慈「……え?いいの……?」
梢「あんなに笑って、眠気もどこかへ行ってしまったもの。また眠くならないうちに、ほら」
慈「……ありがと、梢」
────────
慈「……でね、その時綴理が────」
梢(2人並んで寝転がったまま、会話に花を咲かせる)
梢(話題は尽きることなく、いつまでも話していられるくらい)
梢(そう思った矢先、彼女の言葉が急に止まった)
梢(不思議に思って隣に目を向けると、こちらをじっと見つめる慈と目が合った)
慈「…………」ジッ
梢「……?どうしたの、慈」
慈「………………」ジーッ
梢「…………っ」フイ
慈「ふふ、目逸らしたね。梢の負け」
梢「いつから勝負になったのよ、もう……」
梢(慈に引っ張られ、身体ごと彼女の方を向く。彼女もまた同じように、私の方を向いていた)
梢(15センチにも満たない距離で、私たちは見つめ合う)
梢(慈は、何も言わない。私も……何も、言わない)
梢(そのまましばらくの間、沈黙だけが私達の間を流れて)
梢(慈がぽつりと呟いた一言で、その沈黙も終わりを迎えた)
慈「あの、さ……梢」
慈「……キス、してもいい?」
梢(普段の私なら、呆れて突っぱねていたかもしれない)
梢(どうせまた、いつものようにからかっているだけなのだろうと)
梢(でも、今の私には、そんなことはできなかった)
梢(その言葉が、冗談ではないものだと分かったから)
梢(その言葉を、慈が……明るくお調子者な彼女が)
梢(とても悲しそうな、歪な笑顔で言うものだから)
梢(私は彼女に、どういった感情を抱いているのだろう?私の中で、彼女はどういった存在なのだろう?)
梢(騒がしい友人、尊敬できる仲間、負けたくないライバル、それとも……)
梢(……ただ、一つだけ、今の私に分かることは)
梢(今みたいな顔の彼女は、見たくないということ)
梢(そんな顔で笑うのはやめなさい、慈)
慈「……よく分かってるじゃん」
梢(どちらからともなく、私達は顔を近づける)
梢(私達の間の距離はどんどん縮まって)
梢(10センチ……5センチ……)
梢(3、2、1……)
梢(ゼロと同時に、目を閉じた)
梢(何か言おうとしたけれど、上手く言葉が出てこなくて)
梢(慈の笑顔は、いつもと変わらないものへと戻っていた)
慈「………………」
梢「………………」
慈「……もう寝よっか」
梢「……そうね」
慈「電気、消すね」
梢「……ええ」
梢(慈の方から何も言ってこないのは、つまりそういうことで)
梢(明日起きたら、きっと彼女はいつも通りで)
梢(私もきっと、いつもの私で)
梢(何も変わらず、同じような私達で……)
梢(────本当に?)
梢「……!」
梢(布団の中で、右手に何かが触れた)
梢(すぐに離れていくそれを掴んで、手繰り寄せて)
梢(一本一本、ゆっくりと指を絡ませた)
梢(繋ぐ手に少し力を込めると、少し遅れて向こうも強く握り返してきて)
梢(二度、三度、四度……そんなやりとりを繰り返した)
梢「………………ふ」
慈「……………っ、く」
梢「ふふ、ふふふっ……」
慈「ふふふ、あはははっ……」
梢(それがなんだか、無性におかしかった)
梢(しばらく二人で笑い合って、手を繋いだまま私達は眠りについた)
梢(意識が眠りに落ちる直前、もう少しだけ慈が私の方に、身体を寄せてくれた気がした)
引用元:https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/11177/1703943159/
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