【SS】海未「ちっちゃいことりを守ります」【ラブライブ!】
ある日小さくなったことりがやってきました。
余りに小さかったので守ってあげることにしました。
※ 某所投下済みのものを小改編。
ある日学校へ向かう道を歩いていたら目の前からなにかが飛んできました。
ものではないみたいです。
つまり生き物です。
ですがあんな虫は見たことありません。
人に似ている気がしますがあんなにちっちゃな人は見たことがありません。
「んみちゃ~ん」
向かいからやってきた人みたいな虫は私の周りをくるくると飛びながら名前を呼んできます。
どこかで聞いたことのある声です。
どこで聞いたんだろうって思い出そうとしていたら、人みたいな虫は私の目の前の50cmくらいのところで浮かぶようにしながら止まりました。
海未「あれっ、ことりじゃないですか」
人みたいな虫の正体は、私のよく知ることりをきゅっと小さくしたような姿をしていました。
「そうだよ海未ちゃん、さっきから名前読んでたのにぃ」
海未「だってまさかことりがこんなにちっちゃくなっているなんて。なんでちっちゃくなってるんですか?」
浮かぶことりの周りを今度は私がくるくると回ります。
ことりは5cmくらいしかありませんでしたけど、姿かたちはそのまんまことりでした。
背中から鳥みたいな天使みたいな羽根が生えています。
でも頭に輪っかは見つからないから天使じゃないのかもしれません。
海未「ことりはいったいどうなってしまったんですか?」
「見た通りだよ。小っちゃくなっちゃったの」
海未「そうですね。とても小さいです」
「これで海未ちゃんといつでも一緒にいられるねっ」
小さなことりのことはよくわからないままでした。
けど、ずっと一緒っていう言葉はなんだか嬉しかったので、色々な不思議はどこかへ行ってしまいました。
海未「小さなことりはずっと私と一緒にいてくれるのですか?」
「うんっ! そのためにちっちゃくなって海未ちゃんのところにきたんだよ」
海未「そうだったんですか。じゃあ、今日はずっと一緒です」
ことりと一緒にいられるのはとても嬉しいです。
引っ込み思案であまり友達が多くはない私にとって、ことりは大切な友達ですから。
だから一緒にいられるっていうのなら、他のことはあまり気にしないで良い気がしました。
海未「それじゃあ学校に行きましょう。遅刻はいけません」
「そうだねっ」
私は学校へ向かう道を足を早めて急ぎましたが、小さなことりはフワフワ飛びながら真横についてきました。
足が疲れなさそうで羨ましいです。
学校が近づくと道行く生徒たちが増えてきます。
小さなことりを他の人には見られないほうがいい気がして、私はことりに耳打ちしました。
海未「ことり、学校のみんなが増えてきました。ことりのことを見られてしまうかもしれません」
「うーん、あまり他の人に見られたくないなぁ。どこかに隠れないといけないのかなぁ」
海未「どうでしょう」
「じゃあ一応隠れるね。海未ちゃん、首のところの襟元ちょっと引っ張って?」
言われた通りに襟元を引っ張って胸元との隙間を空けると、ことりはそこに脚からすっぽりと収まりました。
頭のとさか以外は完全に隠れちゃっています。
襟を引っ張りながら胸元を覗き込んだら、私の服の中に隠れたことりがニコニコしながら見上げてきていました。
「これで大丈夫だね」
ことりが自信満々に言うので、私も大丈夫な気がしてきました。
なんだか小さなことりを私が守ってあげているみたいです。
私はにっこりと微笑み返して、通学路を急ぎました。
教室に入ると、穂乃果とことりがいました。
海未「あれっ、ことり」
ことり「海未ちゃんおはよう~」
海未「あ、はい、えっ、はい、おはようございます、ことり」
穂乃果「海未ちゃん穂乃果はぁ~? ことりちゃんばっかり挨拶ずるいよう」
海未「あっそうですね、おはようございます穂乃果」
穂乃果「んへへーおはよー」
当たり前のように教室にことりがいることが不思議でした。
だってことりは小っちゃい姿で今私の服の内側に隠れているんです。
どういうことなのでしょう。
わからないことばかりでしたが、普通に一日は始まります。
授業が始まって、私は真剣に先生の話を聞きます。
でも合間合間に服の内側が少し擦れて、くすぐったくて声が出そうになります。
授業に集中したいのに、とても困ります。
一時間目が終わったら、私は急いで教室を出て、人気のないとこまでやってきてから服の襟元を開きました。
「ぷはっ」
私の服から勢いよく小さなことりが飛び出してきました。
出てくるときに羽根の先っぽが私の鼻を掠めて、くすぐったくなってくしゃみが出ました。
海未「くちっ」
「海未ちゃん風邪? 大丈夫?」
海未「いえ、平気です。それよりもことり、授業中に服の中で動かないでください」
「だって退屈なんだもん」
海未「勉強ですから、退屈を感じるときもあるかもしれませんけど、でもちゃんと授業は受けないといけないんです」
「ことりは海未ちゃんの服の中にいるからなにも見えないもん」
海未「ああ、そうでしたね。じゃあことりも一緒に授業を受けますか?」
「うんっ!」
私が誘うとことりはとても嬉しそうにしてくれたので、私も嬉しくなりました。
次の授業では、小さなことりは私の服から目から上だけ出して一緒に授業を受けました。
さっきみたいにことりが動いてくすぐったくなることはなくなりました。
ですが、今度は顔のすぐ下でぴょんこぴょんこ揺れるとさかが気になってきて、授業どころではありませんでした。
先生「じゃあここ園田さん答えてみてください」
ことりのとさかを意識していたら、不意のタイミングで問題を当てられてしまいました。
反射的に立ち上がりましたけど、今どこの問題をやっているのかさえわかりません。
海未「えっ、ええと、えとっ、」
私の心は急速に緊張で埋まってしまいます。
あがり症の私は、答えがわかる問題を答えるときは平気ですが、答えがわからないときはとても焦ってしまいます。
答えられないまま立ち続けていると、クラスメイトたちの視線が集まってくるのも余計に不安を感じてしまいます。
暑くもないのに嫌な汗が出てきました。
(んみちゃん、んみちゃん)
頭が真っ白なまま立ち続けていると、下の方からこっそりと呼びかけてくる声が聞こえてきました。
みんなから見て不思議に思われない程度に視線を下に落とすと、服の中にすっぽりと隠れたことりが小さな声で囁きかけてきます。
(答え、○○だよっ、○○っ)
真剣な表情でことりが教えてくれました。
人に答えを教えてもらうなんてことは正しいことじゃないかもしれません。
ですがこの時は頭が回らなくて、とにかくことりの教えてくれた答えを口にするので精一杯でした。
海未「えっと、○○ですっ!」
慌てていたせいでいつもより大きな声が出てしまいます。
普段だってこんな大声出しませんのに。
私の答えを聞いて、服の中のことりは力強い顔をしています。
ゴソゴソ動いたみたいでちょっとくすぐったいです。
私は答えを言えたことに安心して、力の抜けた顔のまま教壇に立つ先生を見返しました。
先生「園田さん、それは先程の問題の答えですね。正解は△△です」
安心も束の間、さっきより大きな緊張と不安に見舞われて、余りの恥ずかしさに顔が熱くなってしまいました。
周りの目が怖くて俯いたら、服の隙間から小さなことりと目が合います。
ことりも私と同じような顔をしていたので、私は色々と諦めました。
穂乃果「今日の授業の海未ちゃんおかしかったねー」
お昼の時間、机をくっ付けて一緒にご飯を食べていた穂乃果がからかってきます。
私は恥ずかしさで言い返すことができません。
黙り込む私の代わりにことりが仲裁してくれますが、今こうして等身大のことりが目の前にいることが不思議で仕方がありませんでした。
お昼も急いで食べ終えて、一緒に遊ぼうと誘う穂乃果とことりを残して、私は教室を出ました。
お昼休みなので出歩いている生徒たちの数は多かったですが、なんとか人気のない場所を見つけて、服の内側から小さなことりを外に出しました。
「海未ちゃんさっきはごめんねぇ」
出てきて一番に謝られてしまいます。
けど元々は私が授業に集中できなかったのがいけなかったので、小さなことりに責任はありません。
海未「ことりが悪いわけではないですよ」
「でも、私が海未ちゃんの服の中でもじもじしてたから……」
海未「今のことりは私のところに隠れるしかないんですから、気にしないでいいんです」
自分で言ってから、少し不思議に思いました。
どうして小さなことりは私のところにやってきたのでしょう。
どうして穂乃果や、自分自身であることりには姿を見せようとしないのでしょう。
海未「ことりは、穂乃果と、私と同じくらい大きなことりに挨拶はしないでいいのですか?」
「うん、大丈夫。私は海未ちゃんのところにきたから」
海未「はあ」
ことりの言葉も目的も理解はできませんけど、私はそこまで疑問に思わないままことりの言うことを受け入れることができました。
なんでかわかりませんが、この小さなことりは私と一緒にいることが普通だと思うんです。
「海未ちゃんは、私が海未ちゃんと一緒にいて、不思議に思う?」
まるで今考えていたことを言い当てられたような問われ方をされます。
けれどことりの言う通り、不思議ではないのです。
海未「ことりは私と一緒にいる。朝、そう言ってくれたではありませんか」
ことりの言うことですから、きっと正しいんです。
私はことりのことを信じています。
そういう気持ちを込めて、ことりに向かって微笑んであげます。
小さなことりは、少し心配性みたいです。
私と同じですね。
でもこんなに小さいんですから、私の服の中で守ってあげます。
心配しないでいいんです。
ことりは私の目の高さで左右に揺れていましたが、やがて納得したように頷くと、私の周りをくるくると元気に飛び回り始めました。
一日の授業が全て終わり、下校の時間になります。
いつもは穂乃果とことりと一緒に帰りますが、今日は学校の用事で私は一人教室に残っていました。
誰もいない教室で当番の日誌を書きながら、服の襟元から顔を出した小さなことりとお喋りします。
「海未ちゃん文字上手だねぇ」
海未「そうでしょうか。ことりはちょっと丸い文字を書きますよね」
「そうなの。ずっと直したかったんだけど、今でも結局直ってないんだぁ」
海未「これから一緒に練習していきましょう、きっと納得のいく文字になりますよ」
「そうだねぇ……」
書き終えた日誌を先生のところまで届けに行って、私は一人で帰宅します。
でも今日はことりが一緒なので寂しくはありません。
外は人が多いので、ことりは私の服の中にすっぽりと入り込みます。
服の中にいるのはことりだってことはわかっていますが、小さな動物を温めているようで、増々守ってあげたくなります。
「ねえ海未ちゃん」
周りの人を気にしているのでしょうか、少し小さな声で呼びかけてきました。
「海未ちゃんは、大切なものって守りたいって思う?」
海未「大切なものですか?」
急に難しそうなことを聞かれてどうしようと思いました。
今こうして私の胸の内にことりを隠していることが、まさしく答えになるのでしょうか。
海未「そうですね、思います。私の力で守れるのなら、守ってあげたいです」
「それで海未ちゃんが傷ついちゃっても?」
海未「傷つくようなことがあるんですか?」
「さっきの授業中、ことりのせいで海未ちゃんが恥ずかしい思いしちゃったみたいに、海未ちゃんが傷ついちゃうんだよ」
海未「ああ。でも大丈夫ですよ、少しくらい傷ついたってことりはちゃんと隠しきりましたから、平気です」
「でもね海未ちゃん、きっと少しじゃない傷だって、海未ちゃんは受け入れちゃうんだよ」
海未「どういうことですか?」
「大怪我をするってわかっていても、海未ちゃんが守れる相手だったら、海未ちゃんは守ってあげちゃうの。海未ちゃんはね、そういう人なんだ」
なんでしょう、まるで私のことを隅々まで知っているような言い方でした。
確かに私はそういうところがあるかもしれません。
でもことりの言葉は、まるで本当に見てきたような説得力がありました。
この小さなことりは、とても不思議です。
「ねえ海未ちゃん。今日は一日、小さなことりを隠して、守ってくれたね」
海未「ことりは小さいですから、守ってあげるのは当然です」
「ふふっ、そっか、小さい子を守るのは当然なんだ」
話しながら帰路を辿ります。
あと大通り一つ渡れば、私の家も近いです。
「海未ちゃん」
服の中から、篭っているけど、しっかりとした声が聞こえてきます。
「守れるものは守る、そうだよね」
海未「はい」
「それが小さい子なら尚更?」
海未「勿論です」
「そうだよね」
もぞりと、私の服の中で、ことりが身じろぎをしました。
会話を続けながら、大通りが見えてくる辺りまでやってきました。
人通りの少ない中、大通りへと目を向けると、車道上に人影を見つけました。
足元に別のなにかが寝転がっています。
道路というのは車が通るので危険なところです。
そんなところに出るなんてとても危ないです。
私は心配になって人影に目を凝らしました。
そして直後、叫びました。
海未「ことりっ!?」
車道に出ているのはことり、等身大のことりでした。
足元には大きめの犬が伏せています。
まるで動く様子がないので、怪我か病気でもあるのでしょうか。
ことりはなんとか犬を宥めながら、犬を車道から歩道へと引っ張ろうとしています。
ですが犬が大きくて、中々引っ張ることができないみたいでした。
私は大通りの車の有無を確認するため左右を見ます。
とても嫌なタイミングで、トラックがこっちに曲がってくるのが見えました。
車道を確認します。
このままではトラックは向かいの道を、ことりと犬のいるところを走ります。
海未「ことり! 車がきています!」
大通りに駆け寄りながら私は叫びました。
ことりは遠くから聞こえる私の声を耳にしたのか、一度顔を上げて、私の姿を認めました。
そしてすぐに自分の方へと近づいてくるトラックにも気付いて、慌てて犬を引っ張ろうとします。
けれど犬は中々持ち上がりません。
海未「ことりっ! 逃げてください!」
ことりは犬から離れません。
トラックは近づき、スピードを落とす様子がありません。
ことりと犬のことが見えていないのでしょうか。
私は車道に屈み込むことりを見て、大きな犬を見ました。
迫りくるトラックを見ました。
そして決めました。
重いランドセルを背中から降ろして走ります。
一直線にことりのところへと。
このままではトラックがことりにぶつかるタイミングにギリギリ間に合うくらいでしょう。
そんな一瞬では犬を引きずることはできません。
でも、ことりを車道から突き飛ばすことはできます。
私は、私の力で守れるのなら守ります。
たとえ傷を負ってでも。
「海未ちゃんはそうだよね」
ことりの声がしました。
大通りで犬を引っ張っていることりからではありません。
もっと近く、私の耳元から声は聞こえてきます。
「自分を犠牲にしても誰かの為に頑張る。それで傷ついても。海未ちゃんは、そういう人なんだ」
大通りに急ぎながら、ちらっと横を見ます。
いつの間にか服から外に出たことりが、私の目の高さで平行して飛んでいます。
「海未ちゃんのそういうところ、私、好きだよ」
走りながらでも、ことりの声はよく通りました。
真横で飛んでいることりの全身が光りました。
小さいながらも眩しい光に思わず目を覆います。
瞬間的な輝きが消えて、目を開くと、私の目の高さにはもう虫みたいに飛ぶことりはいませんでした。
代わりに、私と並走する女の人の腰がありました。
「海未ちゃん、待っててね」
走りながら、その女の人は私の頭に手を添えました。
軽く撫でるように。
そして、強くそこに押し留めるように。
大通りの前で足を止めた私を見て、その人は満足そうに目を細めました。
それからガードレールをひょいと飛び越えます。
私にはとても高すぎて、そんなことできません。
トラックは迫ってきています。
路上のことりは犬のそばで屈んだまま逃げる気配を見せません。
そこに女の人が駆けつけて、犬を抱え込みます。
ことりと、その人が、目を合わせました。
海未「ことりっ!」
私は叫びました。
同時にトラックが凄い勢いで走り抜けました。
トラックの後ろ姿を一瞬だけ目で追ってから、前を向き直ります。
ことりと、犬を抱えた女の人は、車道の向こうの歩道にいました。
無事でした。
体中の力が抜けていく気がして、道路脇のガードレールに両手をついて体を支えました。
放心したままで向かい側を見ると、ことりは泣いていました。
そのことりを、女の人は慰めていました。
さっき私に少しだけしてくれたように、頭を優しく撫でています。
女の人はことりになにか話しかけました。
そうしたらことりは泣くのをなんとか堪えます。
ぐずりながら、駆け足で向こうへと去っていきました。
大通りを渡って、女の人のところに追いつきました。
もうことりは遠くまで走っていってしまいました。
「ごめんね、海未ちゃん。怖かったと思うから、もう家に帰るように言ったの」
高いところから声が聞こえて、私は顔を上に向けました。
「犬のことは心配しないで私に任せていいからって。あまりに怖かったから、海未ちゃんのことも忘れちゃったみたい」
私よりずっと背の高い女の人は、まるで大人のようにしっかりしていました。
本当に大人なのかもしれません。
だけど私に向けてくれる笑顔には、小さな天使みたいな優しさがありました。
海未「……ことり、なんですか」
ことり「そうだよ、海未ちゃん」
私の問いに、大きなことりはそう答えました。
海未「とても大きいですね。それに不思議な服を着ています」
ことり「これね、制服って言うんだよ。そのうち海未ちゃんも私と一緒に着るようになるよ」
海未「そうなんですか。素敵な服ですね」
ことり「でしょ? だけどね、他にももっと素敵な服を、そのうち海未ちゃんに作ってあげるからね」
海未「ことりが作ってくれるんですか?」
ことり「うんっ」
元気に頷く様子は、まさにことりでした。
そうです、小さなことりも、ここにいる大きなことりも、ことりなのです。
私にはわかります。
ことりは私の視線の高さに合わせて膝を折りました。
胸元には大きな犬を抱えています。
今さっき、私と同い年のことりが頑張っても引っ張れなかったのに、大きなことりは抱えることができるのです。
ことり「この犬はね、このあとすぐに死んじゃうんだ」
海未「……怪我をしたのですか?」
ことり「ううん、病気なの。だから道路の真ん中で歩けなくなっちゃったんだね」
海未「ことりはその様子を見て、犬を助けようとして道路に出て……」
ことり「そう。そして本当だったら、私は海未ちゃんに助けられていたの」
海未「私にですか? でも助けたのは、えっと、大きなことりですよ」
ことり「海未ちゃんが私を助けてくれたんだよ。私が知っている海未ちゃんが」
ことり「海未ちゃんはあの日、私を突き飛ばして、そして代わりに車に轢かれたの」
海未「そんな……」
ことり「命は取り留めたけどそのまま起きなくなっちゃったの。ずっと寝たきりで、起きなくなっちゃった」
海未「私が……」
ことり「いつ起きるかわからない、でもいつ死んじゃうのかわからない。そんなあやふやなまま生きていた海未ちゃんだったけど、遂に死んじゃったの」
海未「……私が…………」
ことり「そんなの嫌だった。私の為に、私の代わりに事故に遭って、死んじゃうなんて、絶対に嫌だった」
大きなことりは私に話しかけながら、子供みたいにポロポロ涙をこぼしました。
ことり「私は死んじゃった海未ちゃんに縋り付いて嫌だ嫌だってずっと泣いてた」
ことり「最初は一緒に泣いてくれたみんながいなくなってからもずっと泣いてたの」
ことり「そうしたらね、私は天使になれたんだよ」
海未「天使?」
ことり「そっ。小っちゃな天使。今日一日、海未ちゃんが守ってくれた私だよ」
小さなことりは虫でも鳥でもなくて、本当に天使でした。
だけど、ことりが天使っていうのは納得できました。
だってことりは笑うととっても可愛くて、天使みたいだからです。
ことり「海未ちゃん言ってたよね、自分の力で守れるなら、傷ついても守るって」
海未「……はい」
ことり「だからね、私も守りにきたよ。なにをしてでも、天使になってでも、海未ちゃんを守るために」
抱えた犬と一緒に、ことりの体が透けていきます。
私はことりとお別れすることがわかりました。
海未「行ってしまうんですか」
ことり「うん。海未ちゃんを、ちゃんと守れたから」
海未「私、今日はことりのことを守ると言ったのに、逆に私が守られてしまって……」
ことり「いいの。だって、海未ちゃん言ったでしょ? 小さな子は守ってあげないとって」
透けていく手で私の頭を撫でてくれます。
掌の体温が薄らと消えていくのが悲しかったです。
ことり「だったら私だって、小さな海未ちゃんを守らないと。でしょう?」
私はなにも言い返せなくて、黙り込んだままでした。
ことりの後ろの景色が透けて見えてしまうようになって、慌ててことりに別れの言葉を言います。
けれど慌ててしまった私は上手く言葉になりません。
そんなしどろもどろな私でしたが、ことりは微笑んだまま、私の言葉を最後まで聞いてくれました。
海未「…………私っ! 大きくなったら、大きなことりを守ってみせますっ!」
最後になんとか言葉の形になったメッセージを伝えられました。
ことりは笑みを一層深めて、消えてしまいそうな声で、ありがとうと答えてくれました。
ことりは全部消えてしまいました。
ことりが消えた場所を私はずっと見ていました。
もうそこには誰もいませんでした。
私は自分の服の襟元を引っ張って、服の中を覗き込みました。
もうそこには誰もいませんでした。
代わりに、鳥なのか天使なのかよくわからない羽根が一つ、服の内側にくっついていました。
私は指先で摘まんで、顔の前に持ってきてじっと見つめます。
羽根はとても白くて、綺麗でした。
私はこの先大きくなって、いつか大きなことりくらいに大きくなれるでしょう。
そうある未来が当たり前のように用意されています。
けれどその当たり前は、本当なら今しがた消えてしまっていた未来だったのかもしれません。
小さな天使が、守ってくれました。
私は羽根を眺めます。
とても小さくて軽くて、手を離せば消えてしまいそうな羽根を、私は力を込めて、絶対に離さないように握りしめました。
そして決めました。
この羽根を、いつか大きくなったら、大きなことりに返そうと。
いつか、大きなことりのことを守れるようになった、その時に。
―――
ことり「…………よかった」
私は自分の世界に帰ってきました。
胸には犬を抱いていなくて、私の体は小さくなれなければ、羽も生えません。
小さなあの子の姿もいなくなりました。
これまでの人生でずっと後悔していた過去を、あの子を、私を、救うことができました。
胸に満ちた安心と喜びで、一筋の涙を流します。
「ことり」
呼びかけてくる声に振り向きます。
私と同じ制服を着たあの子が、私のそばにやってきました。
「泣いているのですか」
ことり「……うん。大丈夫」
成長した私と同じ高さの目線で話ができる。
それだけのことで、私は涙が止まらなくなってしまいました。
「泣いていることりに、渡したいものがあります」
差し出されたものを、私はそっと摘みます。
白く、柔らかい羽根を、私はギュっと胸に抱きしめました。
ことり「ありがとう……海未ちゃん」
海未「こちらこそ、本当にありがとうございました……ことり」
同じ背の高さに成長した私たち。
これからは二人で助け合っていこうね。
おわり
乙、よかった
おつ
これはいいことうみ
引用元: http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1436444011/
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