【SS】海未「アネモネの花」/ことり「花言葉」【ラブライブ!】
昔から、庭の隅に咲く花があります。
母から教わったその花の名は、牡丹一華(ボタンイチゲ)。
色とりどりの花の中で、毒々しく真っ赤な花弁がどこか恐ろしく、今でもあまり好きな花ではありません。
春先になると毎年顔を出し、縁側から庭を見るとイヤでも目を引く赤の花。
風に揺れるその花弁を見ていると、いつか毒でも撒き散らすのではないかと、幼心にありもしない想像をしては身震いして、いつも目を反らしていました。
ことりが家に遊びに来た時、庭先であの花を指さしました。
牡丹一華、その花を。
ことり「ねぇ海未ちゃん、あの花ってアネモネだよね?」
そう言ってことりが指差した先にある花が、牡丹一華でした。
海未「いえ、あれは牡丹一華という名前ですよ」
ことり「くすくす。 海未ちゃん? 牡丹一華ってね、アネモネの和名なんだよ?」
海未「え、そうだったのですか……母からは、その名前しか教わっていなかったもので」
海未「物知りなのですね、ことりは」
ことり「ううん、あれがアネモネだから知ってただけだよ」
ことり「わたしが好きな花だから、たまたま知ってただけ」
海未「そうだったんですか? それなら、摘んでお渡ししましょうか」
ことりは牡丹一華が好き、と。
しかし牡丹一華よりは、アネモネという花の名の方が通用する、と。
私は、心の奥底にその言葉を刻み込みました。
そうだったんですね……。
ことりとは長い付き合いになりますが、花の好みまでは知りませんでした。
それなら、きっと。
貴女の好きな花ならば。
喜んでもらえるでしょうか?
ことり「……。 あ、素手で触っちゃダメだよ?」
海未「おや、そうなのですか?」
ことり「うん。茎を折る時に出る汁に触れると、かぶれるんだよ」
海未「それは……毒なのですか?」
ありもしないと思っていた想像が、現実になったかのような。
そんな錯覚を身に覚えて、わずかに身震いしてしまいます。
ことり「うーん、毒って言ったら毒、なのかなぁ?」
海未「知らなかったとは言え、ことりにそんなものを渡そうとしていたなんて……ごめんなさい、ことり」
ことり「ううん、いいの。 それに……そう言ってもらえて、嬉しかったし」
海未「ハサミなども見当たりませんね。 今度、ちゃんと包んでお渡ししますよ」
ことり「……いいの!?」
海未「庭の手入れはいつも庭師に依頼していますし、その方に頼めばやってくれないこともないでしょう」
海未「それに、ことりにはいつもお世話になっていますので、日頃のお礼です」
ことり「ありがとう、海未ちゃん! 待ってるね!」
こんな程度の、ほとんど何気ない……いつも通り、ことりとの会話でした。
それなのに。
私を気遣ってくれる、ことりのその優しさに憧れて。
私の心の内を言いたい、聞いて欲しい。
心の底から湧き上がってくる、この気持ちを持て余してしまいます。
こんなにも煮え切らない感情なんて……知りたく、ありませんでした。
昔から、海未ちゃんの家に行くのが楽しみだったの。
春先に見られる、真っ赤なアネモネの花。
風に揺れると、林檎のような香りが鼻をくすぐって、とっても大好きな花。
何よりも、色とりどりのアネモネの中でも真っ赤なアネモネにのみ込められた、大切な花言葉。
その言葉を持つ花が欲しくて、でも「欲しい」なんて言えなくて。
そんなことでモヤモヤしてた頃、海未ちゃんの家に遊びに行ったの。
毎年この時期に見かける、大好きな花。
思わず、それを海未ちゃんに言っちゃった。
ことり「ねぇ海未ちゃん、あの花ってアネモネだよね?」
海未「いえ、あれは牡丹一華という名前ですよ」
ことり「くすくす。 海未ちゃん? 牡丹一華ってね、アネモネの和名なんだよ?」
海未「え、そうだったのですか……母からは、その名前しか教わっていなかったもので」
海未「物知りなのですね、ことりは」
ことり「ううん、あれがアネモネだから知ってただけだよ」
ことり「わたしが好きな花だから、たまたま知ってただけ」
海未「それなら、摘んでお渡ししましょうか」
海未ちゃんは優しいから、こういう風に言ってくれるだろうなぁっていう打算がなかった、って言ったらウソになっちゃう。
きっと海未ちゃんは、花言葉なんて知らないんだよね。
だから無邪気に、そんなことが言えるんだよね。
その言葉の裏には意味なんてなくて、きっとわたしに気を遣っただけなんじゃないかな。
わたしが好きな花をもらったら、それはとっても嬉しいよ?
だけどね。
だけど、わたしが本当に欲しいのは……。
その花の持つ言葉、なんだよ。
ことり「あ、素手で触っちゃダメだよ?」
海未「それは……毒なのですか?」
ことり「毒って言ったら毒、なのかなぁ?」
海未「知らなかったとは言え、ことりにそんなものを渡そうとしていたなんて……ごめんなさい、ことり」
ことり「ううん、いいの。それに」
一瞬だけ、言葉が詰まっちゃう。
海未ちゃんからもらえるアネモネは『そんなもの』じゃ、ないんだよ。
なんて言う勇気がわたしにないことくらい、ことりは知っているから。
ほんのちょっぴり、言葉を考えるの。
ことり「そう言ってもらえて、嬉しかったし」
海未「ハサミなども見当たりませんね。今度、ちゃんと包んでお渡ししますよ」
ことり「……いいの!?」
海未「庭の手入れはいつも庭師に依頼していますし、その方に頼めばやってくれないこともないでしょう」
海未「それに、ことりにはいつもお世話になっていますので、日頃のお礼です」
ことり「ありがとう、海未ちゃん!待ってるね!」
その言葉に裏は、きっとないんじゃないかな。
だからこそ、胸がきゅぅっ、と締め付けられるの。
わたしを気遣ってくれる、海未ちゃんのその優しさに傷ついて。
わたしの心の内面を伝えたい、伝わって欲しい。
あまりにも愛おしいその気持ちを、持て余して。
こんなにももどかしい気持ちなんて……知りたくなかった。
その夜。
ベッドの上でゴロゴロしながらスマホをいじってて、不意に海未ちゃんを思い出しちゃった。
だからなんとなく、海未ちゃんに電話しちゃったの。
特に用事なんてない、ただ声が聞きたかったから。
あの優しい声色で「ことり」ってって呼んで欲しかったから。
今は遠い貴女のことを、もっと近くで感じたいから。
海未『はい、園田です』
ことり「はい、南です」
海未『……ことりですよね? 携帯電話なのですから、わかりますよ』
ことり「その言葉そっくりそのまま、海未ちゃんに返してあげたいな」
海未『それもそうですが……どうにも、慣れなくて』
海未『それより、どうかしましたか?』
どうかしましたか、だって。
何かないとわたしから電話しちゃいけないみたいな言い方だよね。
そんなことを海未ちゃんに言うと、きっとすっごく困惑するんだろうな。
慌てて言葉を取り繕って、また揚げ足取っちゃって。
それでも最後には、とっても困った声で「これ以上、からかわないでください」って言ってくるんだろうな。
そんなことが想像できちゃう。
だから。
わたしだから「どうかしましたか」って聞いてるわけじゃないんだと……思う。
というか、そう思いたい。
誰に対しても、同じようなことを言うんだよね?
でもその言葉で、海未ちゃんの心が遠いような気がして。
やっぱり私の一方通行な気がして。
それでももっと、近づきたくなるの。
ことり「ううん、何かあったわけじゃないけど、海未ちゃんの声が聴きたくなっちゃったから」
海未『そうですか、私の声なんて聴いてても面白い物ではないと思いますが……』
海未『そう言ってもらえると、嬉しいものですね』
ことり「海未ちゃんの声は可愛いし、お話してても楽しいんだよ」
海未『いえ、ことりのほうがずっと可愛いです!』
不意にそんなことを言われちゃって、ほっぺたが熱くなるのを感じるの。
もう、海未ちゃんってば天然タラシさんなのかなぁ……
ことり「ううん、海未ちゃんのほうがずっとずーっと可愛いもん!」
もちろん、わたしは狙って言っているの。
それでもこの狙いが、海未ちゃんに伝わるとは思わない。
鈍感でニブチンな海未ちゃんは、きっと私の気持ちを数ミリもわかってくれない。
胸をきつく締めあげる、行き場のない気持ちを。
初めての、恋を。
その晩、どのようにしてことりに牡丹一華……アネモネを渡そうかと考えていました。
花束として包んで渡すとしたら、あまりにも仰々しいような。
でも一輪だけポイッと渡すのも、あまりにも素っ気ないような。
この庭ごと、ことりの物ですよ! と渡すのは、きっと迷惑でしょうね。
まるで、ことりがこの家に嫁入りするようで……
そんな益のないことばかり考えているとき、電話がかかってきました。
画面が映し出す着信相手は、ことり。
ことりのことを考えている最中の出来事だったので、緊張のあまり携帯電話越しだというのに思わず「はい、園田です」なんて、固定電話のような出方をしてしまいました。
声が上ずらなかっただけ、僥倖でしょうか。
ことり『はい、南です』
海未「……ことりですよね? 携帯電話なのですから、わかりますよ」
ことり『その言葉そっくりそのまま、海未ちゃんに返してあげたいな』
電話越しに、クスクスとことりが笑っているのがわかります。
私のような朴念仁が一時でもことりを笑顔をすることができました。
それだけで私は満足なのです。
満足してしまえるほど、私はことりに首ったけなのです。
海未「それもそうですが……どうにも、慣れなくて」
海未「それより、どうかしましたか?」
ことり『ううん、何かあったわけじゃないけど、海未ちゃんの声が聴きたくなっちゃったから』
海未「そうですか、私の声なんて聴いてても面白い物ではないと思いますが……」
海未「そう言ってもらえると、嬉しいものですね」
ことり『海未ちゃんの声は可愛いし、お話してても楽しいんだよ』
海未「いえ、ことりのほうがずっと可愛いです!」
私の益体のない妄想と同じ程度には益体のない会話。
結局、アネモネの花をいつ渡すか、それすら伺うことができませんでした。
しかし、ことりとの会話では損益では測れない何かがあると、私は信じています。
いつかは、この想いを打ち明けることができる日がくると。
そう信じて、その日を待つと決めました。
だからそれまでは、この想いを大事に大事に育てます。
大輪の花を咲かせるか、固く閉じた蕾を枯らせるか。
私の育て方次第です。
この、初めての恋の行方は。
ことりとの会話で幾度か赤面させられてしまい、身体が火照ってしまいました。
夜風に吹かれようと、縁側に座り庭を見渡します。
やはりイヤでも目をひいてしまう、真っ赤なアネモネの花。
また目を反らしてしまいそうになってしまう。
……いえ、嫌いではないです。
ことりの好きな花。
それならば、私もこの花の良いところを見つけ、この花を好きになりたい。
そう思いアネモネを観察していると、雨も降っていないのに少し濡れていました。
……少し気の早い夜露、でしょうか。
夜露に濡れ、月に照らされる真っ赤な花弁は、まるで花が涙を浮かべているようにも思えます。
今まで嫌っていた花。
その花が、私をもっと見つめてほしい、と。
私はここにいるよ、と。
涙ながらに私に訴えかけているようで。
毒々しくも儚いその花弁に触れ、涙を拭ってあげます。
……いい花ですね。
風に吹かれて漂う香りは林檎のように爽やかな香りがします。
ふと気になって、アネモネという花を携帯電話で調べてみました。
『キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草』
と言われてもピンときませんね……
『和名はボタンイチゲ(牡丹一華)、ハナイチゲ(花一華)、ベニバナオキナグサ(紅花翁草)、など』
ほう、牡丹一華以外の呼び方もあったのですね。
しかし私としては、牡丹一華という和名が一番しっくりきますね。
『語源はギリシア語で「風」を意味するanemosから』
あ、これは聞いたことがあります。
ギリシア語で風を意味する言葉がアネモスというのは、歌詞を書く時のヒントとして調べものをしていた時に出くわしましたね。
未だに使う機会に恵まれませんが、いつかはカッコよくアクセントとして採用してみたいものです。
『アルメニアの国花』
アルメニア……? はて、どこの国でしょうか。
アネモネ全般としての花言葉は、「儚い夢」、「恋の苦しみ」、「見捨てられた」……等、あまり前向きではない言葉が連なっています。
ですが、花弁の色によってその花言葉も意味が変わってきます。
例えば、白なら「期待」、ピンクなら「期待」、青は「あなたを信じて待つ」……。
青の花言葉なんて、なんとも今の私にピッタリな言葉です。
そんな言葉に頬を綻ばせながら携帯電話の画面をスクロールしている指が、不意に止まりました。
いえ、意図して止めました。
なんならちょっと上に戻したくらいです。
色とりどりの牡丹一華、アネモネの花と色ごとの花言葉がつらつらと並んでいる、カラフルなウェブサイト。
その中で、特別に目を引く色。
赤。
赤のアネモネ。
その、花言葉。
「あなたを愛する」
「うん、それじゃあ、おやすみなさい」
お別れの言葉を告げて、通話終了のボタンをタップする。
海未ちゃんとの電話するのは、いつも楽しいの。
ちょっとからかうと、電話越しでも顔赤くしてるんだろうな、とか分かるし。
ちょっと拗ねたフリすると、すぐにあたふたし始めるし。
なんて、ちょっぴりいじわるなことしちゃう。
それもこれも全部、海未ちゃんに振り向いてほしいから。
電話越しだったとしても、わたしをもっと見てほしいから。
……はぁ。
少しだけ熱っぽいため息を一つ吐いて。
海未ちゃんの家からの帰り道に花屋さんで見つけた、白いアネモネ。
可愛らしく一輪挿しに入っているその花を、指でチョイっとつつく。
くるくると回るその姿もかわいくて、やっぱりアネモネの花って好きだなぁ、なんて改めて思っちゃう。
その花を見て、やっぱり海未ちゃんの家に咲いてたアネモネのほうが綺麗で、花弁も大きくて、香りも良かったような気がするな。
思い出だからちょっぴり美化されてるのかな?
…………。
それでもいいの。
白いアネモネの花に託された花言葉。
「期待」、「希望」。
わたしは、海未ちゃんから赤いアネモネをもらうことを期待してる……んだと、思う。
もらえたらいいな、っていう希望もあるよ。
青のアネモネみたいに、信じて待つなんてできないもん。
わたしは海未ちゃんに期待して、希望を持つだけ。
唇をかみしめて、何もできない自分をただ責める。
欲しい。
欲しいよ。
赤いアネモネの花が持つ言葉。
愛おしさが身体中を支配して、震えてきちゃう。
クッションをきつく抱きしめて、身体の震えを抑える。
そうじゃないと、きっと泣いちゃうから。
声が漏れちゃうから。
好きっていう気持ちが、愛おしいって気持ちが声になって出て行っちゃうから。
でも。
ここにはわたし一人しかいない。
くるくると回り続ける白いアネモネが視界に入って、そうだね、おまえもいたね、って思い出す。
ここには、アネモネの花と、わたしだけ。
声になったとしても、聞かれるのはアネモネの花だけ。
ちょっとだけ、少しだけ……
声になっても、いいよね?
「あなたを愛する」という花言葉。
花言葉にしてはメジャーであり、きっと薔薇やカーネーションでも、確かチューリップでも同じ花言葉を持っていたと記憶しています。
この赤のアネモネにのみ与えられた花言葉ではないでしょう。
ですが。
ことりが欲しいと言ったアネモネの花も、赤のアネモネでした。
もしかしてことりは。
この言葉を持つ赤のアネモネだから、欲しいと申し出たのでしょうか……?
あり得ない想像だと、都合のいい身勝手な解釈だとは、わかっています。
しかし一度頭をよぎった想像は勝手に膨らみ、暴走と膨張を続けます。
海未「ことり」
ぽつり、と。
頭の中で膨張していた言葉の一端が、口から漏れてしまいます。
海未「……こと、り」
一度漏れ出した言葉は、止まらず。
海未「……ことりぃ……」
身体中に愛おしさが駆け巡り、抑えきれません。
まだ春先だというのに、身体が熱い。
頬が紅潮して、熱を帯びているのが自分でもわかります。
心臓の鼓動がうるさく、身体中に響いています。
呼吸が乱れ、泣いているかのように息遣いが荒くなってしまいます。
次から次へと、ことりへの愛情だけが際限なく湧いてきます。
この感情の高ぶりをどうしたらいいか、皆目見当が付きません。
家族に見つからないよう自室に戻りましたが、戻ったところでどうしようもありません。
布団に寝ころび、天井を見つめたところで、今はまだ言葉にできません。
私の口から出てくるのは、微熱を帯びたため息と、意味不明なうめき声だけです。
ですがいつか、この熱が渦巻く感情を冷静に言葉にして、ことりに伝えられる日が来るのでしょうか。
いつかになるか、わかりませんが。
いつかの日までは、ありふれた単語しか出てきません。
それまでは。
「愛しています、ことり」
「愛してる、海未ちゃん」
アネモネハートがホノキチソングと聞いてカッとなってやった
今では後悔している
乙
この曲でことうみに目覚めた
乙ちゅんなぁ…
アネモネハートが穂乃果ちゃんを巡る泥沼と捉えるか、ことうみの苦しい恋模様なのか…
どっちの解釈も好き
引用元: https://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1518444973/
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